そして私にも、残された私の人生があるという内なる声に賛同し、ひとりで行くことにした。
決まったなら、楽しく行かないとと髙橋明也の「美術館の舞台裏」を送料分ぐらいの金額で購入し読み始めた。
この本を書いた当時の明也氏は三菱一号館の館長であり、現在は東京都美術館の館長である。
オルセー美術館に居たこともあり、なかなか経験豊富なキュレーターなのでおもしろく読ませてもらっている。
かつて名だたる世界の美術館に足を運んだ、「貧乏旅行の美術館巡り」を趣味にした私の10年間は今となっては貴重な経験である。
あの時、あの時代だからこそ出来たこと、今では夢物語である。
さて福島と東京との温度差は2度、午前中は雨の予報はない。
予定した服装から急遽お天気に合わせ、リネンのキュロットに薄手のカーディガン。
自宅仕様である。
小さなポシェット1つ、軽装備で行くと決めたので折りたたみの傘は右ポケットに。w
ポケットのたくさんついた服やパンツに物が入ってポケットが膨らんでいる殿方のような自分に笑ってしまう。
それでいて誰に会うわけでもないひとり旅だからといって、なりふり構わずという自分にはなれない。
上野に着く頃に娘からLINE。
「私もチケット取れたから行きます」
というサプライズ。
日時指定予約券を購入していた私。
長いこと東京の美術館に行かない間に入場券が予約制になっていた。
初めての経験である。
購入時に送られてきたQRコードをかざして入場可である。
日時指定予約のチケットであっても長蛇までとはいかずともクネクネと係員の指示に従った。
娘と待ち合わせるでもなく、それぞれに自由に入場し鑑賞した。
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1階での作品群は撮影OKであったので気になる絵を撮影していると娘に声をかけられた。
久しぶりの再会であってもニコリと所在を確認しただけで互いに作品に没頭。
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1階の作品を2度ほど周り2階へと進む。
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2階はマティス晩年の作品であり、主に切り絵と最晩年に集大成として手がけた「ロザリオ礼拝堂」を、4K映像で鑑賞してフィナーレとなる。
礼拝堂の映像を見た。
「究極の美」である。
自然 光 色 空気感 そしてマティス
再びニースに行きたくなる。(若かったなら)
ニースに行き、シャガール美術館やマティス美術館は訪ねた。
しかし、ニースから北西20キロ地点にあるというマティス最晩年作の「ヴァンスロザリオ礼拝堂」は、当時の私の頭を素通りしていた。
途中、2階で娘にあった。
今度は私が「遅いんじゃない」というと1階をもう一度見てきたという。
1階は私の好きな年代のマティス作品群である。
しばらくして娘がショップに現れた。
美術館の舞台裏を読んでいた私は、マティス展ショプだけを見ても日本の美術展、大きな仕事をしているな〜と。
「美術館ショップは私、爆買いなんだよね〜」と呟く娘に若い頃の自分が重なる。
美しいものがたくさんある美術館ショップを眺め、眺めるだけに留まらず購入したのは1枚160円もするポストカードをたくさん手にしているわたし。
好きなんだよね〜マティスの絵。w
退場した時、多分2時近くになっていたと思う。
ランチを美術館2階でとることにした。
1人なら食べないで帰ろうとしていた私だったが娘と一緒というサプライズで、何年ぶりかでフランス料理にありつけた。
マティスにちなんだニースを意識した料理である。
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ニースに行っても朝市で数種のオリーブを口にしたぐらいで、豪華なフランス料理など食べたことがない。w
高級品バックとかフランス料理とか食べたり買ったりしたことがない。
貧乏旅行だからというより、その時代の私の価値観が全く違っていたのだと感じる。
フランスパンをかじりながら歩いたり、スーパーで食べ物を調達し、硬くて美味しくない野菜サラダがパッキングされたものを安ホテルに戻って食べたりしていた。
白ワインを飲み、充実したランチ。
ここは卓上だけでもニース、しかも美術好きの娘と一緒のニースである。
娘が「最近ビガンの勉強をしてるんだ」
?美顔?十分美しいのに?整形でもするのかなと思い聞き返すと
「美学」の聞き違い。w
娘は難しい美について書かれた文庫本を大きなバックから取り出した。
その本もタダ同然で手に入れたという。
DNAだな〜。
しばらく美について聞いたり話したりした。
「美」を十分感じるフランス料理に、たっぷりの時間をかけて美味を堪能した。
午後には雨の予報の東京も外に出ても傘の出番は無し。
母と夫のお土産を娘に買ってもらい4時台の電車に乗車した。
一度もポケットから傘を出すことはなく福島に戻る。
福島は行きと同じく帰りも雨が降っていた。
夫の迎えに、今日の出来事は本当に今日だけのことだったのかと一瞬疑うほどに時間の不思議さを感じた。
梅雨どきの、美しい木曜の一日に感謝した。
私の頭には「美学」の言葉がずっと残っていて……
うまくレポートを書くには、などと、まるで私がレポート提出でも課されたような錯覚に陥っている。
うれしい1日であった。