以前、ついていないと感じる時期があった。何をやってもうまくいかないのである。家の神棚や神社で度々祈願すれど一向に運気は好転しなかった。運気の低迷期に入っているのは自覚していても、あまりに長く続くといい加減嫌気がさすものである。
ある日の事、抜群のご利益があるとされる稲荷系の神様に、いっそ宗旨替えをしてみようかという不埒な考えが頭をよぎった。新しく神様を迎えるには、今お祀りしている神様はどうすればよいのか、リビングで寝転びながらそんな思案をしていた。その時、神棚がある和室でドサッという物音がした。部屋を覗いてみると神棚の注連縄(牛蒡締め)が落ちていた。注連縄が落ちるなど初めての出来事である。縁起が良くないなぁと思いつつ、神棚に注連縄を念入りに取り付けた。
リビングに戻って本を読んでいたら、和室の方から再び複数の物が落ちる音がした。さっき取り付けたばかりの注連縄がまた落ちたのだ。しかも今度は注連縄が落ちるときに仏壇の蝋燭立てに当たったようであった。私は畳の上に転がる蝋燭立てを見て愕然とした。太い蝋燭が刃物で切ったかのように芯ごと真二つに折れていたのである。「しまった。眷属さんが怒っていらっしゃる」私は即座に注連縄が落ちた理由を理解した。
『家に神様を祀ると、眷属さんが度々その様子を見にくる。神様を粗末に扱ったり、毎日きちんと拝まないとバチがあたるよ。神様がバチを当てるんじゃない、バチを当てるのは眷属さん』子供の頃に母から聞いた言葉が頭の中に浮かびあがっていた。
落ちた注連縄の取り付けを終えると、和室と台所の両方の神棚にお灯明をあげた。私は神棚の前に正座すると一心不乱に祓いの祝詞を何度も奏上した。そして日頃のご加護を忘れ、宗旨替えをしようなどと考えた非礼を、神様と眷属神達に心からお詫びしたのである。
すると不思議な事が起こった。神棚のお灯明が不思議な燃え方を始めたのだ。風もまったくない室内なのに蝋燭の炎がはげしく揺れ動いた。右側の蝋燭の燃焼が左側より早くなり、みるみるうちに左の蝋燭の長さの半分位になった。さらに左の蝋燭には、溶けた蝋が蝋燭本体からアーチ状に蝋燭立ての淵に繋がっていたのである。溶けた蝋が波打つ様はまさに天に昇らんとする龍のようにも見えた。さらに驚いたことには、台所の神棚のお灯明が和室の神棚のお灯明とまったく同じ燃え方をしていたのである。しかも登り竜のアーチまでもがそっくりであった・・・
神に祈願するとき、その願いが聞きいれられたかどうかという判断方法を、拝み屋さんから聞いた事がある。ひとつは神棚から大きな物音がするというもの。もうひとつはお灯明の燃え方がいつもと違ったり、溶けた蠟が動物のような形を作るというものであった。どうやら私のお詫びの気持ちは神々(眷族神)に通じたようであった。
次回に続く
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かかし
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