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四魂の働き

■『神道の神秘 古神道の思想と行法』 山蔭基央(やまかげもとひさ)著
第5章 古神道の霊学より抜粋掲載


●四魂の働き

それぞれの人間に働いている四魂が、過剰になったり虚弱になったりしてバランスを失ってしまうと、さまざまな性格の歪みや病気の原因となる。以下それぞれに見ていこう。もちろん、これは現代用語を加えて解説したものである。ただし、純粋な医学知識を活用したものではないことをおことわりしておく。


【奇魂】

旺盛であれば、霊的能力、直観力、英知力、統制力に優れるようになり、思考力と霊性に富んだ人格になる。肉体を統制し、神秘力を発揮し、統覚に入って顕幽の世界を自在に駆けめぐることもできるようになる。

働きが過剰になると、神経過敏、精神異常などが起こる。肝臓、牌臓の働きが過敏となって興奮しやすくなったり、高血圧や糖尿病を招くこともある。これを鎮静するには、肉体労働が必要である。

虚弱になると、意志力、思考力、統制力、統覚力を失い、神経衰弱や健忘症などの原因になる。人相は貧相となり、情操・精気のない老衰したような状態になる。これを癒やすには精神統一や感謝の祈りなどが必要である。


【幸魂】

旺盛になると、感情・感覚が鋭敏になり、情操や芸術的感情が豊かになる。人に好感を与え、品性の高いものを好むようになる。

働きが過剰になると、感情高進のヒステリック状態になったり、刹那的・衝動的感情家になったりする。愛欲に耽溺することもある。

虚弱になると、感受性を失い、何にも感動しなくなり、鈍感・怠惰・無気力・憂鬱・不安に支配される。幸魂は「生魂(さきみたま)」とも言われ、生命表現の重要な要素であり、生命の熱源である。これを正常に保つには、慈愛をもって人と交わる豊かな社会生活が必要である。


【和魂】

旺盛になると、内分泌系が豊かになり、ふくよかでみずみずしい身体となる。感情はおおらかで落ち着き、包容力のある人物となる。

過剰になると、働き過ぎや不節制の生活に落ち込んだり、感覚過敏となり人の邪念・邪気を受けたりするようになる。

虚弱になると、精神に栄養を与えることができなくなり、無気力になったり、身体のみずみずしさを失って若いのに老化したような状態になる。


【荒魂】

旺盛になると、新陳代謝が活発となり、筋骨隆々となる。運動力や活動力、意志の強さが増すが、粗暴殺伐となり美しさを失うこともある。

過剰は、理性や情操を失わせ、粗野、自己中心、破壊嗜好、性欲異常などを引き起こす。

衰弱すると、病弱、筋骨の弱体化、意志力・行動力の喪失をもたらす。頭と心ばかりが勝って行動力がなく、面倒がりになり、不平不満ばかり言い、嘘を平気でつくような人間になる。

これら四魂のバランスの乱れについては、それぞれのかかりやすい具体的な病気のリストがあり、またそれを直すにはどのような処方が必要かという具体策もある。山蔭神道は医方の伝も含まれているので、生薬処方の教えもあるが、ここでは省略する。


●人間の霊的構造

人間はもちろん単なる物質ではなく、このように"一霊四魂を備えた霊的存在"である。ただし、この四魂は、単一なものかというとそうではない。山蔭神道の教えでは、この宇宙(大環宇)は、大元霊から発した渦巻く霊の潮流である。その霊潮の中に一個の個性を備えた凝固体が発生する。ただしこの凝固体もまた回転する渦である。この凝固体のうち、無意識体である荒魂・和魂が物を発生させ、意識体である奇魂・幸魂がこれに加わって生命を発現させる。

しかも人間はこの凝固体が350から500ほど集合凝固したものであり、さらにそこに直日霊が降臨して、初めて人間となるというのである。(ちなみにこの凝固体が100から300集合したものが高等動物、50から100までが下等動物、50以下が植物であり、30以下が鉱物であるともされている。) 人間が時に分霊を離れた所に送ることができるのは、このように人間自体が多数の「魂」の集合体であるからである。

では、このような霊魂構造を持った人間は、死ぬとどうなるのであろうか。もちろん、人間は死をもって消減するのではない。といって人間は肉体のままどこかへ行ったり、復活を待ったりするのでもない。この問題も四魂の哲理に従うとわかりやすい。

人間は死すと、その幸魂・奇魂と直日霊が他界に赴く。和魂・荒魂は地上に残り、やがて消滅する。または浄化して奇魂や幸魂と結合する。これは中国神仙道で、人間の「魂」は天に昇り、「魄」は地に還るとする考えと符合する。この神道の死後についての説は、次章で見ていくことにする。


続く

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