もう四十数年も前のことになるが、私はある人の死の様を観察する機会があった。山蔭神道の神職をされていた高知の内田守彦先生という人の信者で、楠瀬さんという老夫人が大腸癌で臨終の床についていた。もう末期で、腹水がパンパンにたまっている状態だった。内田先生と私は、「お互いに霊視して、どのようにお国替えになるか観察しよう」ということになった。内田先生は毎日楠瀬夫人を見舞うことになっていた。私は当時大阪にいたので、そこから霊視することになった。
その二日後のこと、霊視していると、フロックコートのような長い上着をつけた中年の男が、彼女の足もとに来て、あたりの人々に挨拶しているのが霊視された。後で尋ねると、アメリカ航路の船員でコックをされていたご主人の霊であることが判明した。若くして亡くなり、楠瀬さんは後家を通して子供を育てた「はちきん」(土佐弁で「気丈夫な女性」)さんであった。
さらに霊視を頭の方へ移すと、白い装束の神主さんのような人がすわっている。どうやら産土神社の神霊であることが判明した。「お迎え」である。内田先生は「それならば仕方ない、あらかじめお祓いをしておきましょう」と病気平癒を装ってお浄めの祈祷をした。祈祷しながら観察していると、病人は時々手を上げるようにして「あっ、あっ」と声をあげ、目玉をぐるぐると回している。「きっと多くの知人の霊と話しているのだろう」と内田先生は思ったという。
親族の霊が迎えに未る人は、家系上、清らかな人が多い。また、早々と産土の神霊が来られるというのは、本人が信仰深い人だということを証している。やがて臨終の時が訪れた。私は霊視して、幽体が抜けているのを見た。内田先生は「体全体から何かが抜け始め、完全に抜けて天上近くまで上昇した後、縦になり、病人の足もとに立ち、周到にお辞儀をして挨拶しているのが霊視された」という。その時、立ち会っていた医師が臨終を宣言したのであった。
■『神道の神秘 古神道の思想と行法』 山蔭基央(やまかげもとひさ)著
「第6章 古神道の他界観」より抜粋掲載
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