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☆つる姫の星の燈火☆

しっぽ

ある秋の日。私はしっぽのある男をみた。

休日の遅い午前。

前方を歩く男に違和感を覚える。

サンダル履きでぼさぼさの黒髪。古びたジャージを履いたその男の後ろ姿に、あってはならないものがある。

真っ白なそれは、ちょうど男の腰の下あたりから伸びて、歩くたび左右にゆらゆら揺れている。

 

そういえば、最近3階のベランダに、獣の糞のようなものを発見した。

裏の空き地は、ジャングルのように木や草が茂っている。もしかしたら、ハクビシンとかタヌキが生息しているのかも知れないと、怖れていた。

以前ジブリの映画にあったような気がする。姿を変えて都会に住むタヌキ。

山を追われて住むところをなくした獣たちが生き延びるために、あるいは人間どもにお仕置きをするためだったか。

 

しかし、いや、前方のあれは違う。

 

オー マイ ゴッド・・・あれはきっと神だ。

いや、ちがう。あれは紙だ。

 

私は男の後方3メートルの所まで近づいた。

ああ・・・・知らん顔して通り過ぎるか。それとも教えてあげるのが優しさなのか。

歩くのが早い私は、彼の後ろ2メートルまで迫った。

 

ふと、男の左手が尻尾に触れた。

男は前を向いたまま、その尻尾を左手て丸めとり、見えぬ表情を変えぬまま、丸まった白い尻尾をジャージの左のポケットに押し込んだ。

ああ・・・よかった。

後ろを振り向きもせず、なぜに男はその尻尾に気づいたのだろう。

もしや私の念力が通じたのか。

追い越す寸前で、男は左側の路地に入って行った。

横目で見た男は、歩く速度も態度も何も変わらなかったのだが、内心の状態は察して余りある。

しかし、私は口角を上げた。

つまり、男には申し訳ないが、内緒で笑みを浮かべていた。

 

そして、何十年も前の記憶が甦る。

うら若き、ちょっとぽっちゃりな友人が、貯めたお金で憧れていたミニスカートのワンピースを買った。

足が太いけど、どうしても着たかったと、言っていた。

ある日、会社帰りに、彼女はそのおニューなワンピースを着て飲み会に参加した。

ほろ酔いで帰宅中、何故か周りの目が自分に向かってくる。

このワンピはそんなにかわいいのだろうか、とほくそ笑みながら、帰宅したそうだ。

しかし。

ワンピースを脱ごうとした彼女の見たものは。

何十センチもぶら下がった白いしっぽ。

尾尾 舞 鹿  (オー マイ ディアー)*同音異義語 

彼女は居酒屋から自宅まで、可愛い花柄のワンピースの裾から、白いしっぽを靡かせて歩いていたのだ。

電車にも乗った。

A型の潔癖症があだとなったのだ。

彼女は居酒屋のトイレの便座に直に座るのが嫌だった。

大量のトイレットペーパーを巻き取り、それを便座に敷いてから座り、用を足した。

夏場だった。

彼女の肌は汗ばんでいた。

敷いたペーパーは彼女の臀部に貼りついた。

おニューなミニスカワンピもあだとなった。

不幸というものは重なるものなのだ。

気の毒な事に彼女は、やっと手にした可愛い花柄のワンピースを二度と着る事はなかった。

それはあまりにも目立つ素敵なワンピースだったので、人々の記憶に残っているに違いないと思ったからだ。

よって、私も彼女がそのワンピースを着た姿を見せてもらう事はなかった。

一回しか着てもらえなかったあのワンピースは、その後どんな運命をたどったのだろう。

 

 

 

急激に気温の下がったとある午前、しっぽを丸めた男は、都会の路地の角を曲がって消えて行った。

 

 

おしまい。

 

感謝をこめて

つる姫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



私の好きなものは笑顔。笑顔は世界を救うと信じるつる姫のブログです。

コメント一覧

つる姫
SEIROさま
いやいや、おこがましい。
即席でかいたので、書き直したいくらいです。
SEIRO-NAKAI
writerだね。
つる姫さま、もはや、writerの域ですね。エッセイストになれるかも、です。
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