貫之集 586
のべみれば おふるすすきの くさわかみ まだほにいでぬ こひもするかな野辺みれば おふる薄の 草わかみ まだほに出でぬ 恋もするかな 野辺を見ると、生えている薄の草がまだ若くて穂
貫之集 585
せをはやみ そでよりもるる なみだがは ものおもひもなき ひともぬれけり瀬をはやみ 袖よりもるる 涙川 もの思ひもなき 人もぬれけり...
貫之集 584
あきはぎを みつつけふこそ くらしつれ したばはこひの つまにざりける秋萩を 見つつ今日こそ 暮らしつれ 下葉は恋の つまにざりける...
貫之集 583
つまこふる しかのしがらむ あきはぎに おけるしらつゆ われもけぬべし妻恋ふる 鹿のしがらむ 秋萩に おける白露 われも消ぬべし...
貫之集 582
あはれてふ ことにあかねば よのなかを なみだにうかぶ わがみなりけりあはれてふ ことにあかねば 世の中を 涙に浮かぶ わが身なりけり...
貫之集 581
あはれてふ ことにしるしは なけれども いはではえこそ あらぬものなれあはれてふ ことにしるしは なけれども いはではえこそ あらぬものなれ...
貫之集 580
あはれとも こひしともおもふ いろなれや おつるなみだに そでのそむらむあはれとも 恋しとも思ふ 色なれや 落つる涙に 袖のそむらむ...
貫之集 579
さつきやま こずゑをたかみ ほととぎす なくねそらなる こひもするかな五月山 木ずゑを高み 時鳥 鳴く音そらなる 恋もするかな...
貫之集 578
こひにのみ としはすぐせと ほととぎす なくかひもなく なりぬべらなり恋にのみ 年はすぐせと 時鳥 鳴くかひもなく なりぬべらなり...
貫之集 577
としつきは むかしにあらぬ けふなれど こひしきことは かはらざりけり年月は むかしにあらぬ 今日なれど 恋しきことは かはらざりけり...
貫之集 576
いにしへに なほたちかへる こころかな こひしきことに ものわすれせでいにしへに なほたちかへる 心かな 恋しきことに もの忘れせで...