貫之集 553
もゆれども しるしだになき ふじのねに おもふなかをば たとへざらなむ燃ゆれども しるしだになき 富士の嶺に 思ふなかをば たとへざらなむ いくら思いを燃やしても叶う気配さえもな
貫之集 552
やまかけに つくるやまだの こがくれて ほにいでぬこひぞ わびしかりける山蔭に つくる山田の 木がくれて ほに出でぬ恋ぞ わびしかりける...
貫之集 551
なげきこる やまぢはひとも しらなくに わがこころのみ つねにゆくらむなげきこる 山路は人も 知らなくに わが心のみ つねに行くらむ...
貫之集 550
しらたまと みえしなみだも としふれば からくれなゐに なりぬべらなり白玉と 見えし涙も 年ふれば 唐紅に なりぬべらなり...
貫之集 549
ゆくすゑは つひにすぎつつ あふことの としつきなきぞ わびしかりける行く末は つひにすぎつつ あふことの 年月なきぞ わびしかりける...
貫之集 548
なみだがは おつるみなかみ はやければ せきぞかねつる そでのしがらみ涙川 落つる水上 はやければ せきぞかねつる 袖のしがらみ...
貫之集 547
かぜふけば みねにわかるる しらくもの たえてつれなき ひとのこころか風吹けば 峰に別るる 白雲の たえてつれなき 人の心か...
貫之集 546
こひしきや いろにはあるらむ なみだがは ながるるおとの みづぞうつろふ恋しきや 色にはあるらむ 涙川 ながるる音の 水ぞうつろふ...
貫之集 545
かぜふけば たえずなみこす いそなれや わがころもでの かわくときなき風吹けば たえず波越す 磯なれや わが衣手の かわくときなき...
貫之集 544
くれなゐの ふりでつつなく なみだには たもとのみこそ いろまさりけれ紅の ふり出つつ泣く 涙には 袂のみこそ 色まさりけれ...
貫之集 543
もえもあへぬ こなたかなたの おもひかな なみだのかはの なかにゆけばか燃えもあへぬ こなたかなたの 思ひかな 涙の川の なかに行けばか...