ある晴れた3月。下宿に帰ると、ポストに手紙が一枚入っていた。
「督促状」。
税金の滞納分を払えと言う。
国民保険、市民税、ざっと5、6年分。下手すると車一台程度の金額だ。
しかし、こっちはしがない日雇い警備員だ。
週払いだから、まとまった金なんかあるわけがない。
月収18~20万円。週払いだとせいぜい4~5万円。
その日暮らしの身には、納税する時間すらない。
大体、税金払うためにわざわざ日雇いの仕事を休まなきゃならない。
とはいえ、私にも一片の小市民的良心があるとでも言おうか。
私はかすかな罪悪感となけなしの1万円を手に、久々に支払いへと出頭したのであった。
…平日の昼間から、子連れの主婦やじいさんばあさんに囲まれ、30分も待たされた。
よれよれの福澤諭吉に別れを告げ、そそくさと窓口を後にした、そのときだった。
「お話があります。」
振り返ると、窓口の向こうで中年男性が私を見つめている。
どうやら私のことらしい。眺めていると、彼は強気の口調で続けた。
「もう少し払って頂けませんか。」
…何言ってんのこの人は。
「今年度中の請求分を払ってもらいたいんです。」
それだけで軽く8万円以上になりますが…。
「はあ、そうですか。」
「あと、これまでの滞納分も分納していただきたいんで。」
…。さすがに頭に来た。
「払えっていうのはわかりますけど、ぼく不安定雇用なんですよ。
正社員じゃないから、一定の収入も確保できないし、明日どうなるかどうかもわかんないし。
払いたくても、こんだけたまると払えないんですよ。わかりますか?」
社会的弱者・フリーターからの不意を突く反撃。
おっさんは見るからに当惑している。
沈黙が流れた。かわいらしい子供の笑い声が後ろでむなしく響く。
20秒ほどが経過した頃、記憶の中から対応マニュアルを引っ張り出したらしく、
彼は息を小さく吸い込むと、落ち着いて淡々と切り出した。
「いや、義務なんで。みなさんに公平に負担していただいて…」
「そう思うんなら、行政の側でもなんとかフリーター対策してくださいよ。」
「いや」
「同じ役所の中で横の部署とのつながりとかないんですか?
市営住宅に入居させてくださいよ。それでいまの家賃との差額を税金にまわしますから。」
「いや…」
「あとハローワークとか紹介してくださいよ。
スキルのない僕にも、安定した仕事が得られるような具体的な処方箋はないんですか?
紹介さえして頂ければ、すぐにでもお支払いしますよ。」
「義務なん…」
「行政とかの側で派遣法を変えたりとかして、不安定雇用層を意図的に作っておきながら、納税がどうのとかよく言えますよね。全部払ったら生活が困窮しきるのわかってるのに、どうやって納税するんですか? ぼくに死ねってことですか。具体的な納税の方法を教えてくださいよ。なんだったら、通報して僕を逮捕させてください。刑務所にぶち込んでもらえれば、食事も確保されるし。僕はそっちの方がいいです。」
「……市民相談課とか…」
「じゃあこれで」
私は立ち去っていった。
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