グッドウィル、フルキャスト、日研総業・・・・今、多くの新聞で、それら人材派遣会社の名前を見ない日はない。85年の派遣法成立以降、度重なる規制緩和によって、派遣社員がいない職場の方が少ないというほど多くの職場で派遣社員は働き、不安定な雇用のもとでこの社会の末端を支えている。
ただ、社会の彼らをみる視線は、とても冷ややかだ。「仕事ができない」、「正社員のように会社のために熱心に働かない」、「自分勝手に生きている」。しかし、そうした社会から一方的にイメージされている派遣社員の働き方、生き方とその現実は大きく異なっている。そこで、今回はそうした派遣社員の実情を知ってもらうために一冊の本を紹介する。それは『偽装雇用』(旬報社,2007.8)である。この本には、昨年製造業の派遣労働者を中心に組織された「ガテン系連帯」(http://www.gatenkeirentai.net/)に集まり、派遣元・派遣先会社と労働条件の向上のためにたたかった派遣社員の様子が描かれている。
ちょっとした労働条件に関する疑問や社員から言われた言葉をきっかけに、彼らは自らの働き方を見つめなおし、「なにかおかしい」と感じていく。偽装出向、誇大広告、偽装直接雇用といった日本の製造現場で起きている企業の脱法行為が彼らの前に立ちはだかってきたのだ。そして、彼らはそうした企業とたたかうために組合を結成し、同じ職場、派遣の仲間のために動き出すのである。
実は、この書評を書いているわたし自身、かれらの団体交渉に何度か参加させていただいた経験をもつ。その中で、最も印象深いのは、フルキャストと交渉するために本社を訪れた時。フルキャストは、野球ファンなら誰もが知っているパリーグの楽天球団の本拠地である宮城球場の命名権を買い取り、フルキャストスタジアムに名前をかえた人材派遣会社だ。この会社もいわゆる派遣業を通して急成長した会社の一つだ。この会社で問題となったのは「誇大広告」の問題である。派遣会社というのは、沖縄や東北地方といった失業率が高い地域で人をかき集める。その時に大抵の会社は人材募集の広告を出すが、そこには「月収30万以上」や「~プラン」といったインパクトの強い言葉が並び見る人の心を誘う。しかし、実はこうした広告内容というのは大半がデタラメに書かれており、この本で紹介されている大沢さん、小谷さん、そして沖縄の若者達もこうした広告に騙されて東京に働きに来たのである。
フルキャストの本社は、渋谷駅近くのビルにあり、そうしたビルには他の派遣会社も入っている。ちょうどお昼すぎ、体格のいい男達が、スーツに身を飾った人たちでいっぱいのビルのオフィスにどかどかと入っていく。わたしはその後ろからコソコソとついていく。「すいません。A(責任者)さんいますか?わたしはフルキャストで雇われている派遣社員のものですが。」と受付の女性に自分達が今日何をしに来たのかを丁寧に説明する小谷さんの姿があった。受付の女性は、慌てて電話を取り上司に電話するが、なかなかことが進まないよう。そして、2~3人の社員が出てきて「今日は責任者がいない」という。「後日、日を改めて来い」という口調で組合員を追い出そうとする社員。その時、ある組合員が大声を出す。「Aさん今廊下を歩いていたよ」。どういうことだと皆困惑する。実はフルキャストの待合室には、ご丁寧にも幹部役員の写真付きパンフレットが置かれており、それを組合員が発見し、さっき廊下でこちらをジロジロ見ていた怪しい社員の顔を思い出したのだ。まさに、その怪しい男がAさんだった。「俺たちにウソついていたのか!」と怒りをあらわにする組合に、社員はひたすら「いない」の一点張り。警察まで来てガヤガヤもめた後、結局、後日もう一度団交をするという話でこの日は収まった。この後、フルキャストは誇大広告や職業安定法違反などの脱法行為が次々に摘発され、事業停止処分をくらうことになる。
「地方の不況を悪用して派遣会社は儲けているんだ。」「俺たちと同じように騙されて泣き寝入りする人をふやさないようにしよう。」これはよくフルキャストユニオンの方がいう言葉だ。彼らは、組合活動を通じて、なぜ自分達がこんなに働いても給料が上がらないのか、労働条件がよくならないのか、一体派遣事業を通して誰が一番得をしているのかを知るようになっていく。そうした姿もこの本では紹介されている。
派遣事業は、今や日本の労働市場の大半を占める。そして、そこで働く派遣社員の数も働く職場の数もますます増えている。そして、それに比例するかたちで次々に派遣の組合が結成されている。「たんに可哀相な人って同情されるのはイヤだ。」とよくガテンの方はいう。それはそうだ、戦後、正社員中心で企業別の労組が衰退する一方で、派遣の組合は若い人を中心に企業に関係なく組織され、その勢いは凄まじい。彼らはこれまでは同情を寄せるべき対象とされてきたかもしれない、しかし今、彼らはこの社会を変えていく力強い主人公の一人なのである。彼らの今後の活動はどこまで広がっていくのだろうか。
ぜひぜひ、一度はこの本を手にとって読んでもらいたい。
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