ひろゆき氏を論破した言語学者 在仏50年超の“F爺”小島剛一氏が語る日本人差別
ひろゆき氏を論破したのは、言語学者の小島剛一氏。1946年秋田県生まれ、68年からフランス在住。78年ストラスブール大学で博士号取得。
ひろゆき氏と小島氏が行った論争のテーマは人種差別の問題。フランス人サッカー選手2人による日本人を侮蔑する動画が流出した。
1人はアントワーヌ・グリズマン(30)。ドイツ系の父とポルトガル系の母の間に生まれた白人。もう1人はウスマン・デンベレ(24)。
すぐに差別と認識
小島剛一氏(以下、小島):7月4日に10人以上のフランス人の友人からメールが届いていることを把握しました。全て同じ内容で、「この動画を見てほしい。君と議論がしたい」とありました。
内容はすぐに理解しました。サッカー界のスーパースターです。フランス国内だけでなく、フランス語圏で大きなニュースになっていました。
リンクをクリックすると、様々なメディアの記事サイトに飛びました。とはいっても結局、動画は1つだけです。再生してみると、すぐに「あ、これは人種差別的発言だ」と察知しました。録音状態は悪く、聞き取れないところがたくさんあります。
侮蔑的な声
《2人はFCバルセロナに所属しフランス代表にも選ばれた。そんな一流選手が、なぜ日本人を差別したのか。
共同通信が7月6日に配信した「仏サッカー選手、日本差別か 映像流出、批判浴び謝罪」を中心に、箇条書きにしてご紹介する。
・動画は2選手が2019年7月に来日した際、宿泊したホテルの部屋で、デンベレ選手が撮影
・撮影されたのは、ホテルの日本人従業員。2人が遊んでいたゲームの不具合を直すため、部屋を訪れていた
・選手がSNSで私的に共有していたと見られ、身元不明の人物が動画をTwitterに掲載して大きな問題となった
差別発言について、共同通信はデンベレ選手が「このひどい顔」とフランス語で発言。日本語のやりとりを聞き「なんて言葉だ」とからかったと伝えた》
小島:外国人を差別する時に特有の、侮蔑的な声のトーンというものは歴然として存在します。私はフランスに住むようになってから、「極東人」として何千回も差別の被害に遭ってきました。その時の口調と全く同じでした。
友人も「差別」と断言
小島:動画では日本人スタッフの顔を、無遠慮にアップで撮った場面もあり「撮影者は、被写体である日本人を嘲笑しようとしているな」とピンと来ます。フランス人の作成した動画だったため、日本人の大多数は差別のニュアンスを読み取れなかったかもしれません。しかし日本人が日本語を使いながら同じ内容の動画を撮影したとすれば、たとえ録音の状態が悪くとも、差別だと判断した日本人は多かったはずです。それほど人種差別言動であることの明白な動画でした。
フランス人の友人たちも、基本認識は全く同じで私を含めて全員「悪質な人種差別だ」という点では意見が一致。そのため「2人は何と喋っていたのか」についての議論が大半でした。ある友人が「こう言ったんじゃないか」と推測すれば、別の友人が「いや、ああ喋ったんじゃないか」と反論。そのうちフランスのメディアが、発言内容を報じだしました。
今でも不思議なのですが、報道各社がすり合わせを行ったのかと思うほど、2選手の発言内容は統一してありました。それを踏まえ「F爺・小島剛一のブログ」に7月4日、「Ousmane Dembéléウスマン・デンベレとAntoine Griezmannアントワーヌ・グリズマンの日本人差別動画」を投稿しました。
擁護の発言
《ちなみに「F爺」の意味は、「F国(=フランス)に住む日本人の爺さん」とのこと。小島氏は、フランスメディアの報道を踏まえ、日本人スタッフの顔に対する嘲笑を「醜い顔の奴ら」、日本語に対する悪罵を「ひでえ言語」、「聞くに堪えん」、ゲーム機を作動させるのに手間取っているスタッフを「お前らの国は、技術先進国なのか。そうじゃないのか」と揶揄したと翻訳。極東人や他国の言語に対する差別感情は明白で、『「冗談」「ユーモア」という言い訳の通用しないこと』を指摘》
小島:2選手は弁明を発表しましたが、これも酷い文面でした。開き直りとしか読み取れない内容だったため、7月6日に「動画で日本人を差別する発言をしたサッカー選手Ousmane Dembéléウスマン・デンベレとAntoine Griezmannアントワーヌ・グリズマンの卑劣な『謝罪した振り』」の記事をアップしました。
すると、普段は見たこともないような読者数になりました。思わず私が「炎上した」と発言すると、年下の友人が「炎上は小島さんの発言に問題がある時です。内容に共感した人が大多数なので、そういう時は『バズった』って言うんですよ」と教えてくれました(笑)。
《フローラン・ダバディ氏(46)や、フランス人ユーチューバーなど、「日本語ができるフランス人」は「悪質な人種差別だ」と口を揃えた。
その一方で、ひろゆき氏は「putain」は強調の意味でも普通に使われるとし、日本語翻訳時に本来の意味と離れた可能性を指摘。辻仁成氏(61)も差別発言の報道は誤訳を元にした可能性があると警鐘を鳴らし、侮蔑的な発言についても「クソガキならこのくらい言う」と感想を綴った》
フランス語のレベル
小島:日本の友人から、ひろゆき氏と辻氏の発言内容を教えてもらい誤りを指摘する記事を掲載しました。7月7日に配信した「日本人・極東人差別者デンベレとグリズマンを擁護する不可解な日本人」です。
ひろゆき氏の「putain」に関する発言は完全に間違っています。強度の侮蔑語・罵倒用語・悪罵用語であり、普通に強調の意味で使う人がいたとしたら、「無教養」とか「無頼漢」と烙印を押されます。
辻氏のブログも拝見しました。氏が記述した動画の聞き取りは、フランスのメディアが報じたものとは違いました。フランス語の文法が身についていれば、犯さないはずの誤りも散見しました。
率直に申し上げて、お二人のフランス語のレベルは、かなりひどいものです。フランス語が話せず、書けない人が、フランス人が差別したかどうかを判断できるはずもありません。ご自身のフランス語能力を過信し、必死に選手を擁護しました。一体、そんな虚報を伝えて、どんな利益を見込んでいるのか──こんなことを記事に執筆しました。
差別に気づかない場面
小島:フランス語は、私にとっては第一言語です。第一言語とは「母言語同様に、文法を意識することなく自由に思考の手段として用いることのできる言語」という意味です。私は英語やトルコ語、トルコ語の方言、少数民族の諸言語など、様々な異言語を習得してきました。フランス語が第一言語となるのに、フランスに到着してから約1年かかりました。日本で生まれ育って大人になってからフランスに移住した日本人としては、私の知っている範囲では、もっとも早い記録です。
フランス語とフランスの風習が分からない人は、フランス語で差別されても分かりません。フランスで半年が過ぎた頃街を歩いていると、6〜7歳の男の子が2人走り寄ってきて、両手を自分の目に当てて左右に引く動作を繰り返しました。
その動作が極東人差別を意味するという知識はありませんでした。一緒にいたフランス人の女性が怒りだし理由を教えてもらって驚きました。「切れ長の目」を真似することがアジア人差別につながるということを、初めて私は学んだのです。
私はフランスで働き、生活の糧を得てきました。極貧だった時期もあり、野菜を買うのにも、捨て値でもいいから売ってしまいたい様子の店で値切らなければなりませんでした。ありとあらゆる場面で、フランス語で意思疎通を行ってきました。差別されたことは何千回もありその経験から、今回の差別動画について発言しています。
若者言葉の嘘
小島:翻って、ひろゆき氏はどうでしょうか。氏はフランスに住んでいるのかもしれませんが、フランスで働いているわけではなさそうです。日々、どれくらいの頻度でフランス人と会話をしているのでしょうか。
買い物でも、スーパーなら店員と話をする必要はありません。タクシーでも紙に書いたり、スマホに表示させたりすれば行ってくれます。お金さえあれば、フランス語が全くできなくとも生活は可能です。
ひろゆき氏は相当に裕福な方だと聞いています。どこの国の人でも、金持ちには優しいでしょう。私は八百屋以外でも、値切ろうとしたわけでもないのに、店員に人種差別的な嫌味を言われた経験がたくさんあります。一方のひろゆき氏は「この国が気に入らないんだったら、さっさと自分の国に帰れ」など、外国人差別・人種差別の痛罵を浴びせかけられた経験はお持ちなのでしょうか。
氏がパリに建つアパートの一室に住んでいるのは事実なのかもしれません。しかし、それはフランス語を使ってフランスで働き、フランスで生計を立てているのとは違います。北海道や沖縄で暮らしているのと大差はないのです。
《ひろゆき氏は更に反論を続け「putain」について、若者言葉では強調の意味に使うと主張。「若者言葉を知らない高齢者の方が『聞いたことが無いからフランス人は使わない』というのは勉強不足なだけ」と投稿。動画などで反論を繰り返した》
フランスかぶれ
小島:私は「聞いたことが無いからフランス人は使わない」などと発言したことはありません。完全な捏造ですし、「若者言葉」だという主張は間違いでもあり、典型的な論点ずらしです。「putain」は、本来は名詞ですが、感歎詞としての用法がありますから、それを「強調」と呼ぶことはできます。しかし、昔からあらゆる年齢の人が使いますから、決して若者言葉ではありません。ひろゆき氏は、私がブログで、
「F爺がフランス語の「若者言葉を知らない」ということはあり得ますが・・・仮にそれが事実だったとして、」
と書いたのを歪曲引用しています。「仮にそれが事実だったとして」を意図的に隠蔽して、「若者言葉を知らないとF爺自身が認めている」と主張しています。
言葉は使い方で含蓄が異なります。「女」という言葉に差別的なニュアンスはありません。ある人は親しみを込めて「あの女はね」と言うかもしれません。しかし、女性差別主義者が「お前は女のくせに」と口にすれば差別発言です。
あの動画における「putain」は明白に日本語を罵倒する差別発言です。フランス人も私も、それをはっきりと感じ取りました。フランス語の知識が乏しいひろゆき氏は、「差別ではない」と主張したい一心で、わざと曲げて解釈したのです。
にもかかわらず、ひろゆき氏は、私のしていない発言を組織的に捏造して反論もどきをしてきました。ブログのコメント欄などで匿名の人物に常軌を逸した攻撃を受けたことはありますが、素性を隠していない人物にここまで悪質なことをされたのは初めてです。教養が完全に欠如した、嘘を平気でつく人間と言わざるを得ません。
色んな「フランスかぶれ」と接してきましたが、ここまでひどいのも見たことがありません。ひょっとすると、ひろゆき氏は愛するフランスのため、何がなんでも2選手を擁護する必要を感じたのかもしれません。
虚を突かれた日本人
小島:しかし肝心のフランス語の知識がないのですから、守れるはずがないのです。氏はこれまで「フランス在住で、フランスについて精通」というイメージがあったそうです。動画問題が発生し、何か気の利いたことを言わなければと考えたのでしょう。しかし、文字通り馬脚を現して終わりました。私のことを「ひろゆきを論破した」と紹介してくださっていますが、論破したつもりはありません。理不尽な侮辱に対する自衛のために単に間違いを指摘し訂正しただけで、論争にもなっていないと思います。
大多数の日本人には、差別された経験がありません。被差別問題や在日朝鮮人、アイヌ人差別問題は存在するとはいえ、欧米のように日常的に様々な人種差別が行われている社会とは異なります。
今回の動画で、日本人は虚を突かれたのではないでしょうか。特にデンベレといったアフリカ系黒人が本気で、心の底から極東人を醜いと思っているとは信じられなかったのだと思います。
異文化であるものを醜いと感じることは、実はよくあることです。ところが日本人は、そうした知識や経験に乏しかった。「日本人は立派であり、まさか人種差別の対象にはならないだろう」と思い込んでいる人も多かったのではないでしょうか。動画の報道に戸惑っていたところ、「人種差別ではないんですよ」と言われて安心した。そんな人は相当数にのぼったのではないかと考えています。
玉石混淆
小島:「あれは差別であり、これは差別ではない」と自動的に判断できるような物差しは存在しません。私はアメリカの先住民を「インディアン」と呼ぶことは差別だと考えます。しかしポリティカル・コレクトネスや、差別用語の使用を禁止する“言葉狩り”には断固として反対します。
自分の経験や教養といった「智」を通じ、「何が差別で、何が差別でないか」を考えに考え抜くしか方法はありません。表層で騙されて「これは差別じゃないよ」と間違えてしまうか、真相をしっかり把握して「これは差別だ」と看破するか、その重要性を今回の騒動は教えてくれたと思います。
ネットの世界では匿名の陰に隠れ、コメント欄などに悪質な書き込みをする輩の存在は、もちろん知っていました。とはいえ、今回の件で私のブログに押し寄せた「馬鹿者」や「無礼者」の数に改めて驚かされました。私にとってもネットは、なくなると生活ができなくなるほど大切なものです。研究や学習、娯楽にも役立つことは言うまでもありません。ネットの世界は“玉石混淆”なのだなと再認識しました。そしてできるだけ、ネット界の“玉”に触れていきたいと思います。
デイリー新潮取材班
2021年8月6日 掲載
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/dailyshincho/nation/dailyshincho-762516
一番納得できる記事でした。
フランスかぶれの人間がおフランスを擁護したいのはわかりますが、、ひろゆきさん辻さんお二人のフランス語のお粗末さが露呈しただけでした。辻さんの料理は素晴らしいので参考にしますがこの件ではがっかりです。
数カ国旅しただけでの感想ですがフランスは日本人東洋人差別ナンバーワン。毎回何かしらあり。からかう程度から深刻なものまで。初めは「お前には売りたくないんだよ!!」という扱いにもアラ20ではたまたまかな?で終わり。徐々に慣れてきて今では意地悪なしではフランスじゃないと思うように(親切な人との出会いももちろんあります)
フランスかぶれは親世代に多いのですが(母もロンドンパリツアーのパンフ見ていた)テロの多さとコロナ後の東洋人差別悪化が問題。。