顧問教師は、ポテトチップスを頬張りながら、僕を凝視する。
先生の、蛙を睨む蛇のような眼を見ていると、忘れていた人物の事を、僕の頭の中に思い出させた。
「そ、そうだ! 部長だ、先輩は!」
思わず大声を出してしまった。桃尻先輩は、どうなったのだろう?
「桃尻君なら、もう学校に来ないわよ」
「えーっ!」
先生の冷静な言葉とは反対に僕達部員は、揃って大声を上げた。部長と言っても、忘れるくらいの存在であるが、学校を辞めるとなると話しは別だ。
「喧嘩で退学かよ? まさか、死んだとか……」
猿田の奴、縁起でもないことを呟くなよ。責任を感じるじゃないか。
「桃尻君は、転校よ。なんでも、唐揚げ健太郎《けんたろう》の白髭の親仁《おやじ》似の禅虎高校バスケ部顧問教師にスカウトされたらしいわよ。はぁああん、テイクアウトー!」
ポテトチップスの細かな欠片《かけら》を口から飛ばしながら叫び、のけぞる教師。もはや、しらふの所業とは、思えないな……。
「桃尻君は、バスケでインターハイを目指すそうよ。あなた達も何かないの? 青春時代は、短いわよ」
神楽耶さんの席に置いてあるチョコポッキーを右手に取り、それで、部員達を順になぞって指した。教師らしい発言だげど、その格好で、お菓子を食べながらは、気に入らんな!
「あら、まさか?」
先生は、呟くや否や神楽耶さんの足元にしゃがんで、立ち上がった。その左手には、緑色の小さな石を持っている。綺麗な石だな。翡翠《ひすい》という物だろうか?
「しまった!」
神楽耶さんの叫び声が部室に響き渡る。部員は、ざわわ! となった。
「あんた、持ってたの?」
「えへへ」
先生と神楽耶さんは、あんなに親しかったのか? あの石が何かあるのか?
「じゃあ、行くわよ」
「えっ? まだ、嫌」
嫌がる様子の神楽耶さんを無視して、先生は、緑の石を頭上に翳《かざ》していた。
「はぁぁぁぁん! GOー!」
先生の叫び声と共に石は輝き、部室全体は、緑色の光に包まれた。
「うわー!」
「きゃー!」
部室に各々の叫び声が上がる。
そして、僕の右手を握ってくれた美樹の手の温もりを感じながら、意識は、遠くなっていった……。