time goes on 物語 第14話 (最終話) 笑顔へ歩む、リアライズ

2024-08-03 20:12:41 | 小説

 僕は、意識を取り戻すと、先生と部員達の姿は、なかった……。

 ここは、どこだ? 辺りを見ると、枯れ葉が舞う秋の公園だった。公園の木製ベンチの上だ。

「ん?」

 ベンチの下に、本が落ちているぞ。僕は、その本を手に取った。本は、time goes on 物語と書かれてあった。開いて、読んでみる。
 僕は、理解した。本から飛び出したんだと!

「目的は、笑顔だ!」

 僕は、本を手に持つと、この世界を歩き始めた。
 あてもなく、はてしない未来へと。
 笑顔をもとめて……。
                                     完
 

 

 蓮輔は、夢の世界から目覚めて成長し、現実の道を歩み始めた!


time goes on 物語 第13話 さよなら先輩

2024-08-03 20:00:06 | 小説

 顧問教師は、ポテトチップスを頬張りながら、僕を凝視する。
 
 先生の、蛙を睨む蛇のような眼を見ていると、忘れていた人物の事を、僕の頭の中に思い出させた。

「そ、そうだ! 部長だ、先輩は!」

 思わず大声を出してしまった。桃尻先輩は、どうなったのだろう?

「桃尻君なら、もう学校に来ないわよ」

「えーっ!」

 先生の冷静な言葉とは反対に僕達部員は、揃って大声を上げた。部長と言っても、忘れるくらいの存在であるが、学校を辞めるとなると話しは別だ。

「喧嘩で退学かよ? まさか、死んだとか……」

 猿田の奴、縁起でもないことを呟くなよ。責任を感じるじゃないか。

「桃尻君は、転校よ。なんでも、唐揚げ健太郎《けんたろう》の白髭の親仁《おやじ》似の禅虎高校バスケ部顧問教師にスカウトされたらしいわよ。はぁああん、テイクアウトー!」

 ポテトチップスの細かな欠片《かけら》を口から飛ばしながら叫び、のけぞる教師。もはや、しらふの所業とは、思えないな……。


「桃尻君は、バスケでインターハイを目指すそうよ。あなた達も何かないの? 青春時代は、短いわよ」

 神楽耶さんの席に置いてあるチョコポッキーを右手に取り、それで、部員達を順になぞって指した。教師らしい発言だげど、その格好で、お菓子を食べながらは、気に入らんな!

「あら、まさか?」

 先生は、呟くや否や神楽耶さんの足元にしゃがんで、立ち上がった。その左手には、緑色の小さな石を持っている。綺麗な石だな。翡翠《ひすい》という物だろうか?

「しまった!」

 神楽耶さんの叫び声が部室に響き渡る。部員は、ざわわ! となった。

「あんた、持ってたの?」

「えへへ」

 先生と神楽耶さんは、あんなに親しかったのか? あの石が何かあるのか?

「じゃあ、行くわよ」

「えっ? まだ、嫌」

 嫌がる様子の神楽耶さんを無視して、先生は、緑の石を頭上に翳《かざ》していた。

「はぁぁぁぁん! GOー!」

 先生の叫び声と共に石は輝き、部室全体は、緑色の光に包まれた。

「うわー!」

「きゃー!」

 部室に各々の叫び声が上がる。
 そして、僕の右手を握ってくれた美樹の手の温もりを感じながら、意識は、遠くなっていった……。


time goes on 物語 第12話 追及教室

2024-08-03 19:58:26 | 小説

 部の 顧問教師の祈りの儀式で部室は、神聖な空気? になっていた。
 僕がただ呆然と、その姿を見ていると先生は、閉じていた目を開けるや否や、僕の方を睨んだのだ。

「先生の私が独り身なのに、どうして雉山君は、うらやましくも、通学路で野花さんと、いちゃついてるのかな?」

 登校中の由利との、あのやり取りを見ていたのか……。

「質問内容と格好が全くあってないな」

 犬養が苦笑した様子で呟く。僕は、美樹と由利の様子を窺《うかが》う。

 由利は、そっぽを向いているが、美樹は、興味津々なのか? 僕を見つめていた。説明するのは、ややこしいな。まぁ、由利とは何もなかったんだからな。

「してませんよ」

「Liar!」

 軽くごまかそうと答えた僕を先生の怒号が僕の心をへこませ、身体を硬直させる。
 なんなんだよもう……。

「昨日の晩から今朝まで、乳繰《ちちく》り合って、二人で鎮魂しあってたんじゃないのかな?」

 この先生は、何を言っているんだ。そのような行為は、あなたの願望では?

「鎮魂をエロく思わす人を初めて見たぜ」

 犬養が呆《あき》れた感じで呟いた。
 楽しかった部室の雰囲気は、神聖を通り越した。完全に、お通夜状態になってしまったのだった。


time goes on 物語 第11話 乱入の修道女? 

2024-08-03 19:54:47 | 小説

 部室 は、パーティー会場としていた。僕達は、教育する場所とは、かけ離れた自由を謳歌《おうか》していた。

 しかし、突然の部室のドアの開く音が、一瞬にして興醒めさせた。
 部室に入ってくる修道女の格好をした一人の若い女性に皆の視線が集中していた。

「せ、先生!」

 美樹が驚いたように叫んだ。僕も同じ気持ちだ。うちの学校は、普通の学校だぞ。

「先生、なんなんですか? その格好」

「これは、勿論コスプレよ。でも、この格好なら許されるはずよ」

 僕の質問に先生は、ドヤ顔で答えた。ほんとに許されるのかよ? 僕は、呆れたが、同時に感謝した。この先生だから僕達の自由が許されるのだろう。

「校長に呼び出されたりして?」

 猿田が、からかうように半笑いで言う。

「Liar!」

  先生が狂気の表情で叫んだ。猿田は、しょんぼりとした。怖いな。

「先生、素敵」

「ありがとう」

 空気を和《なご》まそうとするためだろうな。美樹の誉め言葉に先生は、満面の笑みを浮かべていた。気を良くしたのだろう。単純な性格だ。

「ねぇ、皆。あそこにトーテムポールが見えるでしょう? あそこの下の土は、カブトムシのお墓にしたの。そう、ミンミンゼミのなく頃に……」

 先生は、校庭の隅に立てられたトーテムポールを指さした。それから、祈りをささげるように自分の両手を握ったのだ。

「カブトムシの魂よ、安らかに眠れ。トーテム」

 先生は、目を閉じて、カブトムシの魂の鎮魂を願ったようだった。


time goes on 物語 第10話 学年のアイドル

2024-08-03 19:50:35 | 小説

 僕は、格闘ゲームに熱中していた。しかし、ガラガラと部室のドアが開く音が僕の気をそちらにそらさせた。あっ、来たのかな?

「みんな、おはよう」

「おはよう!」

 みんなと同時に元気よく挨拶をする。まず、短いスカートが僕の目に飛び込んだ。相変わらず可愛い声だな。いや、声だけじゃなく、そのセミロングの髪と顔も可愛い。やはり、学年のアイドル的存在は違うな……河井美樹《かわいみき》さん。

「お菓子と飲み物を買ってきたよ」

 手提げ袋を胸のあたりまで掲げて、微笑んだ。流石《さすが》、河井さんだ。気が利くなぁ。ちゃんと、エコバッグだよ。君の愛は地球を救うよ!


  *****


 由利と河井さんが紙コップを配ってくれた。そして、エコバッグからファミリーサイズの容器に入った飲み物を取り出すのが見えた。コーラか。ZEROではないみたいだ……。

 コーラのキャップを開けようとする河井さんを眺めていた。

「うっ、うーん。固いよ。この、黒くて、太くて、固いよ!」

 キャップが回せなくて、思わず叫んだのだろうな。僕は、笑いそうになるのを堪えた。そうして見つめていたら、視線を感じたのかな? こっちを向いたので、目が合った。

「あっ、僕が開けようか?」

 小さく頷くのを見ると、駆け寄りコーラを受け取る。そして、難なくキャップを開けた。

「ありがとう。やっぱり男子だね。じゃあ、いっきに飲むやつ、やっちゃう?」

「えっ? やりません」

「うふふ。冗談よ。コーラ入れてあげる」

 び、びっくりしながら僕が紙コップを持つと、微笑みながらコーラを注いでくれた。

「河井さん、ありがとう」

「呼び方だけど、美樹でいいよ。れ、蓮輔」

 少し俯きながら、そう言う彼女の頬は、赤いように見えた。そして、僕の心は、炭酸の泡のように弾《はじ》けていた。