「神楽耶《かぐや》さん、おはよう」
部室のドアを開ける音に反応して、こちらを見た女子に僕は、挨拶をした。その女子、神楽耶さんは、うざそうな表情をしたように感じた。
「どうも」
おいおい、お嬢さん。朝の挨拶で、その返しですかい? そう言いたいところだが、普段からあの調子だから良しとしよう。
「おっすー!」
猿田が走りこんで神楽耶さんに向かって、右手を上げて叫んだ。
「……どうも」
驚きと嫌悪感の混じった表情のような顔になりながらも、神楽耶さんは小さな声で呟いた。猿田が右掌を耳に添えて、聞き耳ポーズ。まさか?
「なんだって? 声が小さいぞ! もう一回、おっすー!」
「何なの?」
長い髪をかき上げながらの強い口調が、怒りを感じさせる。まぁ、神楽耶さんの気持ちは、わからんでもない。
「おはよう、姫乃《ひめの》」
由利が宥めるかの如く、絶妙なタイミングで神楽耶さんに声を掛けた。
「おはよう由利」
普通のテンションの普通の挨拶。できるじゃないか!
*****
「さぁ、やるか」
学ランのポケットからポータブルゲームを取り出す。そして、既に漫画を読んでいる犬養の隣の席に座った。猿田は、スマートフォンで動画を見ているようだな。
この部活は、名目は、文芸部となっている。しかし、実際は自由なクラブになっている。というか、僕達が勝手に好きな事をしていた。
僕は、何か大事な事を忘れている気がしたが、指先が無意識にゲームのスイッチをオンにする。スタートの音がすると、ゲームに全神経集中するのであった。