蓮月銀也

小説、呟き等々……。

time goes on 物語 第9話 文芸部

2024-08-03 19:45:00 | 小説

「神楽耶《かぐや》さん、おはよう」

 部室のドアを開ける音に反応して、こちらを見た女子に僕は、挨拶をした。その女子、神楽耶さんは、うざそうな表情をしたように感じた。

「どうも」

 おいおい、お嬢さん。朝の挨拶で、その返しですかい? そう言いたいところだが、普段からあの調子だから良しとしよう。

「おっすー!」

 猿田が走りこんで神楽耶さんに向かって、右手を上げて叫んだ。

「……どうも」

 驚きと嫌悪感の混じった表情のような顔になりながらも、神楽耶さんは小さな声で呟いた。猿田が右掌を耳に添えて、聞き耳ポーズ。まさか?

「なんだって? 声が小さいぞ! もう一回、おっすー!」

「何なの?」

 長い髪をかき上げながらの強い口調が、怒りを感じさせる。まぁ、神楽耶さんの気持ちは、わからんでもない。

「おはよう、姫乃《ひめの》」

 由利が宥めるかの如く、絶妙なタイミングで神楽耶さんに声を掛けた。

「おはよう由利」

 普通のテンションの普通の挨拶。できるじゃないか!
  

 *****

「さぁ、やるか」

 学ランのポケットからポータブルゲームを取り出す。そして、既に漫画を読んでいる犬養の隣の席に座った。猿田は、スマートフォンで動画を見ているようだな。
 この部活は、名目は、文芸部となっている。しかし、実際は自由なクラブになっている。というか、僕達が勝手に好きな事をしていた。
 僕は、何か大事な事を忘れている気がしたが、指先が無意識にゲームのスイッチをオンにする。スタートの音がすると、ゲームに全神経集中するのであった。


time goes on 物語 第8話 壁の内側へ

2024-08-03 19:38:25 | 小説

「みんな、頑張れ! もう少しで学校だ! 学校の壁の中に逃げ込めば、巨人は入れないからな!」

 走りながら犬養が後ろの僕達を気にしてくれて叫ぶ。もう体力の限界だったけど、気合が入ったよ。

「巨人って何? あの、男達の事なの? 背は高かったけど……。あんた達って、病気ね」

「はぁ、はぁ。うるせぇー! 二人が接吻《キス》すれば良かったんだよ」

「何よ。何で、あんた達の為に接吻《キス》しなきゃならないのよ!」

「ははは」

 猿田と由利が言い合いをしだした。余裕の現れだな。僕は、愛想《あいそ》笑いするだけだよ。


 *****

 校門前に到着した僕達は、門の横にある警備室の守衛に学生手帳を見せた。すると、門が開き、中に入った。結局、僕達は領土の大部分である通学路地区を失う事となった。

「ふぅー。もう、安心だな」

「ああ、門も閉まっただろう」

 僕と犬養は、顔を見合わせて、微笑んでいた。

「お、おい。あれ」

 何だ? 猿田のやつ、校門の方を指さして、怯えてるけど?
 
「ああっ!」

 僕は、叫んでいた。目を疑った。校門の外側だ。門から数メートル先の仁王立ちの長身の男を見て! 今朝の奴らとは、姿が違う。

「犬養、あれは?」

 僕の声は、少し震えていた。

「そうだ雉山。あれは、あの姿は……」

「進学の巨人のアメフト部! ヘルメット、鎧《プロテクター》装備!」

 門は、閉まっているんだ。そう自分に言い聞かした。

「構えたぞ! 走りこんで、体当たりの構えだぁー!」

「きゃあー!」

 犬養の叫び声と由利の悲鳴が校庭を木霊《こだま》する。

「こらー! 君ー!」

 それは、一瞬の出来事だった。守衛が叫び、警備室から飛び出して、アメフト男の行動を阻止した。そして、アメフト鎧《プロテクター》男が、警備室へ連れて行かれるのを見た。恐らく、警備隊の葉居《はい》隊長、通称、葉居爺《はいじい》に質問を受けるだろう。
 僕達は、安堵《あんど》して校舎へ向かった。


time goes on 物語 第7話 先輩

2024-08-03 19:11:24 | 小説

「ぐはっ!」

 佐戸の叫び声が耳に入った。いきなり、何かが飛んできて、顔面に直撃したようだ。奴らの動揺が感じられる。

「こーら! 雉山! 同じ部の女と密着同伴登校か? ウイッ」

「先輩!」

 よろよろと歩きながら、近づいて来る制服姿。先輩だ。先輩を見て、僕は、笑顔になり声を上げた。

「だが、その肉食獣の雄的積極行為は、いいぞ! 男子は、そうじゃないとな。ヒック」

「先輩、まさか酒に酔ってます?」

「馬鹿野郎! 酒饅頭《さけまんじゅう》が怖くて、祝日登校ができるかよ! ヒック」

 酒饅頭で、あんなに酔う人間いるのかなぁ? アルコールは熱で飛んでると思うげど……。先輩は、いつも朝食は吉備団子なのに。

「何者だ!」

 その叫び、ゴリラの威嚇《いかく》。もはや敵大将となった、後利主将は標的《ターゲット》を先輩へと変えている。

「ったく。いきなり、叫ぶなよ。酔いが醒めちまうぜ。俺は、こいつらと同じ部の部長だ。姓は桃尻《ももじり》、名は呂伊弥《ろいや》だ!」

「そうか、部長か。なら、お前に俺の怒りをぶつけてやろう」

 あの主将は、もう本気だな。喧嘩になるのかな。桃尻先輩も身長では、負けていないけど。

「飲んだ吉備団子! 吐かんとけよ!」

「俺は、牛か!」

 先輩の啖呵《たんか》を切るのと、ゴリラ似の男のつっこみ。僕は、こけそうになる。奴らもガクッと体が傾いた気がした。

「部長! 後は、よろしくね」

 あらら、由利め、素早いな。駆け出しながら、舌なんか出しちゃって。逃げペロ?

「行け、雉山! 由利を守るんだ!」

「で、でも?」

「いいから行け!」

 僕は先輩に頷き、由利の後を追って駆け出した。先輩、どうか御無事で……。


time goes on 物語 第6話 雉の空

2024-08-03 19:06:21 | 小説

 由利の顔を見ると、頬がほんのりと赤くなっているようだった。そんな感じの由利を見るのは、初めてだな。もう長い知り合い、小学校からの幼馴染《おさななじみ》なのに。

「ね、ねぇ。どうするの? するの? 接吻《キス》」

 由利が断ると思っていたけど、僕に判断を委ねるなんて。ドキドキする気持ちで由利の唇を見つめた。ああ、柔らかそうな唇だ。

「まかせるよ」

 そう答えて僕は、空を見上げた。心を落ち着かせるために。そうしたのは、身体の主砲が発射のための変形《トランスフォーム》を始める事を恐れたからだ。接吻《キス》する問題なのに、突入攻撃《ダイエロスアタック》を妄想する自分が恥ずかしい。

「まかせるって何? 男でしょう。なんか白けたよ」

「え?」

 急に冷めた感じの由利の豹変に驚いてしまった。安心した気持ちと、少し残念な気持ちが入り乱れて、声を出して呆然《ぼうぜん》となってしまった。
 

「どうやら恋人同士と言うのは、嘘だったようだな!」

 業を煮やして、後利主将が叫んだ声が、僕を我に返さす。や、やばいな。犬養と猿田を目で探す。いつの間にか遠くの方に立っているじゃないか? もしかして、接吻《キス》すると思って、気を使ったのかよ……。

「蓮輔、どうしよう」

 再び由利が僕に寄り添ったが、もう甘い雰囲気なんかならないよ。

 そして、僕と由利は、後利主将と禅虎高校バスケ部の巨人達に取り囲まれてしまったのであった。


time goes on 物語 第5話 でかいちやー!

2024-08-03 19:04:02 | 小説

「嫌だね。なんで私が、あんたらとお茶しなきゃならないの?」

「おいおい、そう冷たくするなよ。うちの主将《キャプテン》が是非にと言っているんだからさ」

 なるほど、由利は。進学の巨人達にナンパをされていたのか。五人組の目の前に来たのは、いいけど……や、やっぱ、でかいちやー! 何故か土佐弁で思う。

「まぁまぁ、お兄さん方。この娘《こ》は、嫌がっているじゃないですか。」

 猿田は、行動が素早いな。物怖じしないのは、親譲りかな? とにかく偉いぞ。

「ん? なんだお前は?」

 不機嫌そうな巨人の一人の言葉に猿田が微笑んだように感じた。

「今、なんだ君《ちみ》は、って言った? そうです! 私《わたす》が」

「んぐぐ」

「ゆ、友人です」

 犬養が咄嗟に猿田の口を手で塞いで、代わりに返答した。話が拗れるのを恐れたのだろう。

「お、誰かと思えば、犬養じゃないか。」

「久しぶりだな、佐戸《さど》」

 にやけた顔の相手に対して、犬養の顔は曇り、佐戸と呼んだ男と目を合わせようとはしなかった。

「お前、バスケを止めたのか? こんな低身長《マイクロ》とつるんでよ」

「……別に、お前に関係ないだろ」

 顔は、冷静だが拳を握りしめているな。悔しいんだな犬養。

「私、彼氏いるから! これが私の男だから!」

 硬直《フリーズ》した場を動かす言葉を叫んで、由利が僕の右傍に寄り、腕を組んだのだ。僕は、生き延びる事が出来るか?

「お前らいつの間に! んぐぐ」

 空気を読めない男の猿田は、犬養によって再び口を塞《ふさ》がれた。

「なんだと?  彼氏だと?」

「あ、後利《ごり》主将」

 低い声で話しながら、奴らの中の一番背の高い男が佐戸の横に現れた。僕を睨んでるよ。まさか、決闘とか言わないよね?

「彼氏と言うのは、本当なんだな?」

「本当よ♡ ね、蓮輔」

 由利は、躊躇《ちゅうちょ》せずに答えて、体を密着させてきた。ああ、いい匂いがする。いや、それよりもだ。この柔らかい二つの感触が……。でかいちやー!

「証拠をみせろ」

 後利主将が、まだ疑いの目で僕を見ている。慣れてない雰囲気を感じたのかな?
 
「接吻《きす》だ! 接吻を見せろ! 俺を騙したら、分かっているだろうな?」

「ええっ!」

 僕は、思わず驚きの声を上げた。