レポートバンク

主に企業の財務や経営について分析するブログ。

建設機器レンタル業界

2021-05-23 21:52:00 | 企業分析
在宅している休日、窓を開けると住宅を建てている音が聞こえる。運動に散歩をすれば、街ではビルを建設している。工事は至る所で続き、街は参加を続けている。
こうした工事現場の中には、たまに「どこから来たのだろうか」と思うような建設機械が動いていたりして、僕はたまに信号待ちをしながら眺めたりする。

もし自分で手配するなら、現場によって活躍する機械も違うだろうしレンタルで調達したい。そう思ってネットで調べてみたところ、レンタル会社による手配は日本で1兆円を超える巨大市場であった。
(一般社団法人日本建設機械レンタル協会の2020年調査
直近数年の推移しか載っていない(10年以上さかのぼりたいが、過去分は探しても見当たらない)が、これを見ると横ばいのようである。
・2016年 1兆3,500億円
・2018年 1兆1,000億円
・2020年 1兆2,300億円

日本でのコマツの売上高が年間3,000億円ほどで推移していることを考えると(公式サイト)、もうレンタルが大半の世界であり、日本の建設需要の横ばいによって市場規模が固まっているというのが妥当な見方ではないかと思う。(深掘りすれば分野ごとの違いなどはあるかもしれないが)

※他サイトの情報として、3年ほど前の東洋経済の記事でも、レンタルが大半と報道されていた。

それでは業界内部はどのような構造になっていて、今後どのように変化しそうであろうか。

これについて、建設機械レンタルの大手企業であるアクティオ社創業者によるインタビュー記事があり、積極的なM&A戦略が語られている。(日経の記事
また、同じく大手のカナモト社の公開資料からは、業績を急速に拡大している様子がわかる。(2011年に売上約700億円→2020年に売上約1,800億円)

つまり、市場規模は変わらない中、おそらくM&Aも活用しつつ、大手による寡占が進められてきているのだ。
この寡占は、最近出されたForbesの記事を見る限りデジタル化に向けた投資が競争のカギになりつつあるので、今後さらに加速すると思われる。
コマツなどメーカーもレンタルビジネスを行なっているものの、これまでの経緯を見ると、(あたかもシステム導入の世界でIT大手と別にITコンサル会社が巨大化を成し遂げたように)おそらく建設機械選びはそれなりに知識が求められるポイントで、ベストな建設機械をメーカー横断で選びレンタル提供できる会社として建設機械レンタル会社が伸びていくように思われる。

今後大型の上場企業が出てきそうな、投資家にとって見ておく意味のある業界だと思う。

様々な業界について、A4にして10ページ超のレポートをしている作品




「のれん」会計と優良企業

2021-05-22 14:37:58 | 企業や市場の制度
証券会社が海外株式を扱うようになっている現代、日本企業と海外企業を比較して業績を調べようとする人も多いのではないか。

この時、(M&Aをよく行うような企業の比較なら特に)気をつけるべき点が、純利益にも影響してくるのれんの会計処理である。
のれんとは、企業が買収を行うとき、対象企業の収益力の伸びを評価すること等で正味の資産価値を上回る金額を払うことがあり、その差額を資産に計上したものを指す。
※下回る金額を出すこともあり得るが、この場合は負債として保存せず、会計基準により一括処理される。

こののれんは、日本の会計基準によれば20年以内の期間で毎年償却(償却する金額は特別損失として利益から減額)することになる(詳しくはマネーフォワードの解説)。
しかし米国会計基準や国際財務報告基準(IFRS)ではそのような償却をしない。買い取った企業の業況を毎年テストして調べ(ウェブ記事でその考え方がまとめられていた)、平たく言えば悪化が見られたときに一括償却する。

つまり、稼ぐ企業を多く買い集め、それらを上手く経営できる企業ならば、日本の会計基準でない方が純利益を多く見せられるのだ。
実際、ウォーレン・バフェットは優良企業ののれんについて、「増えこそすれ減ることはない」と述べる。(「バフェットからの手紙第4版」より)
ブランドの名声が高まり、いわゆるネーム・バリュー(具体的には、「性能よりもアップル社製だからという理由で顧客をひきつける力」など)が高まり続けるのであれば、のれんは確かに高まり続けていると言える。

それでは日本基準より海外基準が良いかというと、そうとも言えない。
まず、海外の償却テストは複雑で定性的なところもあり、投資家からは「償却されてないから良いのだろう」と言いきれないと思う。

さらに、そもそも成功させられる買い手企業がどれほどいるかについて、
・ウォーレン・バフェットは世の中のM&Aは失敗が多いと述べており、
・かつて日本のゴールドマン・サックスでM&A部長をしていた服部暢達著「日本のM&A」の中には、世界でのM&A買い手の成功率は50%程という記述があり、
総じて多数派ではないことが確実であるといえる。

そうしてみると、会計の原則の1つ「保守主義の原則」からすれば、損する可能性が半分あるとすればグレーゾーンを作らずに償却義務化という考えが安全で妥当というのもわかる。もちろん、海外の制度における償却実施判定のテストが明瞭かつ厳格なら導入も良いのではないかと思うが、テストの手間もかかりグレーな判定が出てくるようでは企業にも投資家にも負担である。
日本と海外の会計基準は異なるが、いずれも論拠があり、統合は当分無いのではないかと思える。

結論として、投資家で、買った企業を上手く経営して利益を出せる優良企業なのかどうか考え、
・優良企業と思うならのれん償却費用を除いた利益を、
・そうでないと思うならしっかりと償却したあとの利益を、
その企業の妥当な利益額として算定しなければいけないと思う。

財務諸表は分析のスタート地点と言われる。(「バフェットからの手紙」)
より正確な企業分析を心がけたい。

レポートバンクの作品一覧:
様々な企業や業界についての分析レポートをまとめたページ。



経営とリスク管理

2021-03-30 14:21:00 | 企業や市場の制度
企業の経営は、設備など固定資産を持ち、正社員を多く雇い安定的に給与を出すという体制をもっているので、急激な利益の下落を起こさないようリスク管理できていることが望ましい。(資源ビジネスなど外部要因が大きい業種の変動はある程度制御できないと思われる。)

何かを成し遂げようとするのにリスクは不可避だが、その程度は企業ごとに吸収可能な範囲に収めることが安定の基礎である。
経済社会全体でみれば、「今は転職が一般的なので企業が一つ潰れようと他のより優れた企業に人材が移動するだけだから良いのだ」という見方もあるかもしれないが、少なくとも経営層や株主はリスク管理に本気で取り組んでいるべきだ。

そのようなわけで、巨額損失のニュースが報道されるとき第一に気になるのは
・経営陣によってリスクを査定出来ていたのか、
次に気になるのが
・リスク管理体制が作られる為に経営陣や株主は何をすべきか
である。
巨額損失が出たとしても、それは巨額利益を得るためにあえて行なった投資の結果なのだと経営層も株主も納得済みなのであれば、外からとやかく言うものでもないのだと思う。(例えばソフトバンクグループなどはこのパターンに見受けられる。ここについて言えばトータルで勝っていてベンチャー投資の実力を感じさせる)

リスク査定が出来ていたかどうかは、公表されるニュースの中で「〜のせい」と指名されるのが明確に経営トップであるかどうかで判断可能だ。
リスク管理の責任者は、ウォーレン・バフェットの考えによれば経営トップであり、複雑すぎて出来ないなら事業撤退するのがあるべき姿と考え、バフェット自身買収した会社の抱えていた多くのデリバティブを解消したという。(「バフェットからの手紙第4版」)

こうしたリスク管理や、必要ならば撤退まで出来る経営トップを探して投資したり、経営層のこうした対応を株主総会での投票で支持することが株主にとって良い結果をもたらすのは分かりやすいと思う。

そうした経営トップが見当たらない企業の場合、リスク管理体制が作られるために、株主は外部から登用する取締役等の働きかけでトップ交代に期待するか、投資をやめるべきだろう。
会社法の規定からすれば、リスク管理体制の構築は取締役会の責任であり(会社法362条)、有識者として外部からやってきて「リスク管理出来ていない」と気づいた社外取締役は声をあげるべきだ。
バフェットによれば、取締役会が声をあげづらい空気だというのであれば、辞めるのが意見表明になる。

リスクをとって何かを成し遂げようとすることは素晴らしいが、そのリスクを把握して適切に行動することも、両方大事なのだと思う。

レポートバンクの作品一覧:
様々な業界について国内外の調査をしたレポート作品の一覧

トマトのビジネス

2021-03-30 13:29:00 | 企業分析
トマト料理が好きで、家でも外でもトマト料理を食べている。ジュースもトマト好きで、トマトが豊かに手に入る社会で良かったと思う。
今後も豊かにトマトが手に入る社会であるか考える時、トマト関連の大企業カゴメについて、経営環境をみていくのが分かりやすい。
【基本情報】
カゴメはトマトの生産からトマトジュース、トマトケチャップ等への加工・販売も行う従業員2,600名超の企業だ。
2020年12月期で売上約1800億円、営業利益約100億円を誇ることからもインフラとしての活躍ぶりがうかがわれ、東証一部に上場していて、時価総額は2020年末でおよそ3400億円程となっている。
海外展開もしていて、売上のうち約400億円(つまり20%以上)はアメリカなど海外で得ている。

事業の様子は農水省のサイトにも取り上げられており、農業〜食品加工までを順調に運営している様子がうかがわれる。

【これまでの経営実績からみて、これからもトマト製品を提供してくれそうか】
企業なので、利益が出ていれば今後もトマトビジネスを続けるし、出ていなければ他の事業を考えるだろう。つまり、これまで通りのトマト製品提供の可能性を考えるには、それぞれの事業で効率良く利益を出せているか確認することが有効だ。

2020年12月期(コロナ禍で環境に大きな変化のある、経営の難しかったはずの年)をみると、当社の指標である事業利益(定義を見ると営業収支+投資収支である)について、
・飲料…約80億円黒字
・加工食品…約50億円黒字
・農業…約3億円黒字
・海外…約2億円黒字
と、いずれも黒字を確保している。前年比をみても成長軌道にある。

利益率はどうだろうか。
カゴメ全体として資本約1100億円、純利益約60億円なのでROEはざっくり6%ほど。
これだけ見るとかつて伊藤レポートに言われた経営効率性の基準「8%」を下回るので不安になるが2019年度は超えており、やめるようには思われない。

利益の中身はどうだろうか。
先ほど飲料・加工食品・農業・海外の比率は見たが、トマトかどうかは見ていない。カゴメはトマト事業以外も行っていて、そちらがもっと順調だからそこに移動する…という可能性は無いだろうか。
(念のため調べたが、企業理念にトマトという言葉は出てこない。たまたま今はトマトを扱っているだけの可能性もある)

これについては、トマトとその他の事業の比率が不明だった。
しかし比率は分からないものの現時点では日常感覚からほとんどトマト事業だと思うので、経営効率の観点から見てトマトインフラは保ってもらえそうだと考える。

【これからの経営計画からみて、これからもトマト製品を提供してくれそうか】
カゴメの経営計画をみると、長期計画として「野菜の会社になる」そうなのでトマト以外についても社会のインフラになる方針である。キャベツなのか白菜なのか、どんな野菜かまだ分からない。

消費者目線だとトマトの生産〜加工を世界に広げても勝てそうに思うのだが、世界の人々が日本ほどトマト好きではないのか、トマトに対する好みが違うのか、気候の問題でトマト生産にコストがかかるのか…何かトマト一本ではいけない理由があったのだろう。

今後も美味しいトマトを届けてほしいし、他の野菜でも生活が豊かになるようなら嬉しい。


レポートバンクの作品一覧:
様々な業界について国内外企業を分析した長めのレポート

住宅街と金融市場

2021-03-18 23:49:55 | その他
家にいる時間が長くなり、運動を意識して街をゆっくり散歩するようになった方は多いのではないかと思う。
住宅街や大通りを歩いていると、デザイナーが快適さをしっかり追求して作ったのかと思うようなステキなマンション・アパートを見かけたり、古くて保守の回っていない建物を見かけたりする。

きれいで手入れの行き届いた建物をみると嬉しくなるし、そうでない建物をみると悲しくなる。特に違いを感じるのは都市部ということもあって集合住宅の違いだ。
建替えは、法令で耐震基準の観点から求められたり、安全性の観点から大まかに30年など経っていると求められるようだ。(ヘーベルメゾンの記事

このサイクルについて、「古い空き家を建て替えてステキなアパートを作り、賃貸で儲けよう」と考える人が多くなれば、このサイクルはもう少し早まるのではないだろうかと思う。
例えば古くて人が住んでいない建物が取り壊して建て替えられるのを待っている場合、こうした考えの人がいるかどうかが建替えのポイントになるはずだ。
空き家の増加が国土交通省で取り上げられ対策ページが設けられているほどなので、これは確度の高い仮説と思える。

調べてみると、国土交通省の住宅着工統計によれば、全国の貸家について、着工戸数が2010年代について増加傾向にあった。

・2010年度 約29万戸
・2013年度 約37万戸
・2016年度 約43万戸
・2019年度 約33万戸

この2010年代は、日本の経済も総じて好調であり、お金を借りやすかった時期である。借りやすさは銀行の貸出で参照されるプライムレート(日本銀行が統計を公表している)の高さをみると分かるのだが、ほとんど1%台前半と低いレートであった。
そのため銀行の貸出利益が減って、貸出利益に大きく依存する地銀の財務安全性が金融庁から疑問を呈されているほどである。(ウェブで検索すると関連記事が多く出てくる)

また、好調な経済にあって、これは資産分布も詳しくみなければ本当の姿は分からないが、おそらく住む側の消費者も引越しを検討できるほどの豊かさは得られていたのだろうと思う。

今後も、きれいな建物が都市部に増えてほしい。その為に、多くの人々が豊かになれる経済(中産階級の安定・拡大が保てる社会というのだろうか)がうまく成り立ち、良い不動産を追求する投資も継続してほしいと思う。

長めのレポートを置いているページ