百貨店の中には、美術品を鎮座させて数十万円や数百万円などで売っているコーナーがあったりする。少し気軽に近寄りがたい空気もあるが、こうした美術品販売はどれくらいの市場なのだろうか?
文化庁が2021年2月に公表したレポートによると、
・2019年の日本の美術品販売市場(アート市場と呼ばれる)は約2,600億円、美術館入場料等関連市場は約1,000億円。
・美術品販売のうち約800億円は画廊・ギャラリーでの販売(増加傾向)
・美術品販売のうち約600億円は百貨店を通じた販売(減少傾向)
・その他約1,200億円がオークション等様々なルートでの販売
となっている。なお美術品の定義は資料中に無いが、おそらく絵葉書や絵のプリントされたコップ、ブランドの洋服など大量生産品は含まず、数十万円以上の一点物だろう。
ここでは、この美術品販売ビジネスの将来を考えたい。
(検討アプローチ)
日本の美術品販売ビジネスの市場は、ほかの市場と同じく販売数×単価で表されるので、このどちらかが高まるかどうかを考える。
なお、文化庁のレポート趣旨は「世界のアート市場は7兆円を超えているから、富裕層数の割に小さい日本ではポテンシャルがある」という。
しかしこれは買いやすい仕組みの問題だけでなく文化の違い(アート作品を持つのがステータスなのか、という人々の感覚等)も多分にあると思われ、世界だと〜、という比較は行わない。
【販売数の推測】
販売数を決めるのは、ニーズとそれを喚起して取引につなぐ販路である。
ニーズは、作品を所有し観ることでの自己完結の満足感と、家族や訪問客・コレクター同士の間ですごいと思われる他者評価の満足感の2つある。
これまでの日本市場の大きさは、高価なアートへの自己完結型のニーズの小ささを物語っていると思う。高価なアートを欲しいと思ってグーグル検索する人は、今までもそこで見つけて買うだろう。
グーグルで世界中の美術品を相当なリアル感でみることのできる(Google Arts&Culture)時代でもあるし、美術品を鑑賞するニーズは無料で既に満たされ、所有までは考えないのではないかと思ってしまう。
高価なアートへの他者評価起因のニーズは日本では今は少ないが、政策でコミュニティをいくつか立ち上げるとなれば増えるかもしれない。SNSでコミュニティを築けるのは高齢者層に少なく且つ富裕層は高齢者層に多いと考えれば(これは日常感覚だが)、彼らのコミュニティを組織して他者評価起因のニーズを高めていく施策は当たるだろう。
販路はこれまで、画廊や百貨店がメインということから、ほとんど対面だったことが考えられる。お金持ちが銀座のギャラリーや百貨店に入り、丁重な接客を受けながら気に入ったものを買って帰るようなイメージだ。
インターネットでの購入も、Amazonで城が売られていた話などもあるようにあり得るのだがふるわないのは、富裕層に高齢者層が多く、高齢者層がインターネットでの買い物をそこまで行わないという日常観察からの推測が当たっているのではないかと思う。
とすると、政府機関・民間企業などの努力で何らかの集まりから富裕層のアートコミュニティを作り出したり、そのコミュニティと連携する販売業者が出れば、新たな販路が富裕層の(主に他者評価起因の)ニーズをくみ取り、市場拡大につながるだろう。
また、時が経てば「これから高齢者かつ富裕層になる人々」はインターネットを駆使する世代なので何もしなくとも販路の制約は減り、市場は増えるだろう。
以上から、美術品販売の日本市場はこれから「富裕層コミュニティ作り」の施策や民間業者取組み、そしてインターネット世代の高齢化・富裕化により、増加ひていくと考える。
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