レポートバンク

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美術品販売の日本市場

2021-07-30 20:29:41 | その他
百貨店の中には、美術品を鎮座させて数十万円や数百万円などで売っているコーナーがあったりする。少し気軽に近寄りがたい空気もあるが、こうした美術品販売はどれくらいの市場なのだろうか?

文化庁が2021年2月に公表したレポートによると、

・2019年の日本の美術品販売市場(アート市場と呼ばれる)は約2,600億円、美術館入場料等関連市場は約1,000億円。
・美術品販売のうち約800億円は画廊・ギャラリーでの販売(増加傾向)
・美術品販売のうち約600億円は百貨店を通じた販売(減少傾向)
・その他約1,200億円がオークション等様々なルートでの販売

となっている。なお美術品の定義は資料中に無いが、おそらく絵葉書や絵のプリントされたコップ、ブランドの洋服など大量生産品は含まず、数十万円以上の一点物だろう。
ここでは、この美術品販売ビジネスの将来を考えたい。

(検討アプローチ)
日本の美術品販売ビジネスの市場は、ほかの市場と同じく販売数×単価で表されるので、このどちらかが高まるかどうかを考える。
なお、文化庁のレポート趣旨は「世界のアート市場は7兆円を超えているから、富裕層数の割に小さい日本ではポテンシャルがある」という。
しかしこれは買いやすい仕組みの問題だけでなく文化の違い(アート作品を持つのがステータスなのか、という人々の感覚等)も多分にあると思われ、世界だと〜、という比較は行わない。

【販売数の推測】
販売数を決めるのは、ニーズとそれを喚起して取引につなぐ販路である。

ニーズは、作品を所有し観ることでの自己完結の満足感と、家族や訪問客・コレクター同士の間ですごいと思われる他者評価の満足感の2つある。

これまでの日本市場の大きさは、高価なアートへの自己完結型のニーズの小ささを物語っていると思う。高価なアートを欲しいと思ってグーグル検索する人は、今までもそこで見つけて買うだろう。
グーグルで世界中の美術品を相当なリアル感でみることのできる(Google Arts&Culture)時代でもあるし、美術品を鑑賞するニーズは無料で既に満たされ、所有までは考えないのではないかと思ってしまう。
高価なアートへの他者評価起因のニーズは日本では今は少ないが、政策でコミュニティをいくつか立ち上げるとなれば増えるかもしれない。SNSでコミュニティを築けるのは高齢者層に少なく且つ富裕層は高齢者層に多いと考えれば(これは日常感覚だが)、彼らのコミュニティを組織して他者評価起因のニーズを高めていく施策は当たるだろう。

販路はこれまで、画廊や百貨店がメインということから、ほとんど対面だったことが考えられる。お金持ちが銀座のギャラリーや百貨店に入り、丁重な接客を受けながら気に入ったものを買って帰るようなイメージだ。
インターネットでの購入も、Amazonで城が売られていた話などもあるようにあり得るのだがふるわないのは、富裕層に高齢者層が多く、高齢者層がインターネットでの買い物をそこまで行わないという日常観察からの推測が当たっているのではないかと思う。

とすると、政府機関・民間企業などの努力で何らかの集まりから富裕層のアートコミュニティを作り出したり、そのコミュニティと連携する販売業者が出れば、新たな販路が富裕層の(主に他者評価起因の)ニーズをくみ取り、市場拡大につながるだろう。
また、時が経てば「これから高齢者かつ富裕層になる人々」はインターネットを駆使する世代なので何もしなくとも販路の制約は減り、市場は増えるだろう。

以上から、美術品販売の日本市場はこれから「富裕層コミュニティ作り」の施策や民間業者取組み、そしてインターネット世代の高齢化・富裕化により、増加ひていくと考える。

様々な市場や企業をより深く分析したレポートの一覧


いじめ問題へのガバナンス観点からの提言

2021-07-09 13:28:00 | その他
学校及び教育行政にとって、「心身ともに健康な国民の育成」(教育基本法)という目的達成を阻むいじめ問題は明確に対策すべき課題である。
いじめ件数把握の曖昧さから問題のレベル感を数字で示すのは困難だが、正確なデータが無いにしても日々のニュースをみていれば問題だということは分かる。しかも何年も問題とされてきた一方で事件報道は絶えず、この問題による社会へのダメージが減っている実感がわかない深刻な問題だ。

教育が不安定であると経済にも当然悪影響を及ぼすということから、今回はいじめ問題をレポートバンクのスコープと捉え、いつも企業分析の際に用いるガバナンスの視点を用いて解決案を考えたい。

・解決の責任と権限
まず直接にいじめを防ぐことに責任を負うのは学校経営陣である。義務教育なら市民から、私立なら保護者から資金を集めて学校を営む経営陣は、その目標達成についての責任と、目標達成のための権限をもっている。
彼らの権限は学校内の人事権だ。教師の配置や昇進だけでなく、クラス内で生徒を何かの委員に据えて活動させる権利もある。

いじめた生徒を叱責する権利もある。生徒は未熟で指導すべき存在(なので選挙権もない)だから、直接に責任を問うのは無理というものだ。
また、保護者の関与は間接的だ。いじめる側・いじめられる側双方を理解する、いわば「現場」にいるのは学校側なので、その経営陣に直接の責任および解決への施策を打つ権限があるとみるのが妥当だ。

・解決に用いる権限
学校経営陣は、まず問題解決に向けて適切な教師を選び、担当クラスにおける学校運営の権限を委任するという解決策を持っている。しかし長年問題が絶えないことは、個人の能力に依存しても解決不可、この策は問題解決には不足であることを示唆している。

次に、委任された教師は、クラスを管理する為の権限を持っている。すなわち
①生徒を様々な係に任命したり、
②叱責したり、
③評価(担任だと、内申点や道徳だろうか)する
という権限を持つ。①に追加説明すると、係のうちで、いじめ問題の解決に関わるのは学級委員ないしクラス委員と呼ばれるものだろう。この係は、クラス会のファシリテーションや号令をする係になってしまうことが多いが、役割をきちんと定義するなら「クラスに規律をもたらす」係であるはずだ。

もし様々な報道にあるように教師が多忙で一人一人きちんと管理するには時間が足らず、権限のうち②叱責だけで解決できないということだ。
その場合、①か③で解決策を探る他ない。

まず①の線で考えると、クラス委員の働きを「いじめ問題解決」レベルまで強化することが解決策となる。
これは具体的には、いじめを始めたり収めたりする生徒を皆任命してしまうというものだ。大体40-50人のクラスで3-5人になるのではないだろうか。そして教師はこの委員たちにクラスの規律維持の権限を委任するのだ。(責任は委任できない。会社の上司と部下、取締役と従業員のような関係性である)

権限は、いじめを叱責してやめさせたり、関係者の話し合いを設定したり、保護者に直接連絡してやめるよう依頼することが考えられるが、一部は教師の承認を必要とするプロセスに設計することも考えられる。

委任している以上、いじめの防止はクラス委員の役目であり、防止できず起きた際にはクラス委員が一義的には解決する。教師は適宜介入しつつも、基本的にはクラス委員だけを見ておけばよい。
この委員のモチベーションは、③の評価を組み合わせることによって保てる。学校生活をうまくサポートしてくれたら内申は満点、問題が起きてしまえば連帯責任で減点だ。学期ごとに平和を保った委員たちをクラスで教師が表彰するなど、点数以外の評価も効くはずだ。(企業に勤めている人は社内広報でそんな場面を見るだろう。大人も子どもも同じだ。)

委員の働きを評価するインプットは、教師の教室観察は人手不足といっている以上望めないので、
・生徒への匿名アンケート
・企業がよく導入しているような相談窓口(メール等で24時間365日受付)の設置
を実施することが必要だ。
相談窓口について、企業だと通常の体制と独立して外部弁護士で相談を吟味したりする。可能ならば学校も地域の弁護士等に委託するのが良いだろう。特に授業料の高い私立については早々に必須施策になるではないかと思う。

③の線で考えるのは困難だ。まず、評価は事後的な施策なので、本件の場合いじめが起きてから対策すると言ってしまっているようなものだからだ。
刑罰があっても犯罪が減らないのと同じ構造で、評価だけでの解決は不足である。(それに、おそらく今までも、悪い生徒を悪く評価することはある程度為されていると思う)

・結論
学校による教師の選定では解決できず、教師の時間も不足している現在、いじめ問題解決の有効な施策は教師から生徒への規律維持権限の委任であって、具体的にはクラス委員の拡充・評価制度の創設が望ましい

(おわりに)
この実現は、学校により、教師への保護者の理解や学校経営陣の理解が必要かと思われる。それについて言うと、私の周りの教師をやっている人は中々忙しそうである。また、もし施策が実現する場合、クラス委員となる生徒たちにとっても人のことを観察したり考えたりする貴重な経験になると思う。



蚊取り線香のビジネス

2021-07-01 13:30:00 | 企業分析
今年も蚊取り線香の季節になった。とても良い香りである。この香りには懐かしさ、夏の思い出がふんわり溶け込んでいるようだ。

蚊取り線香そのものについての説明は不要とは思うが、創業のルーツまで辿った秀逸なまとめ記事が産経新聞から出ていたので興味のある方はそちらをご覧頂きたい。概要は、和歌山県で、1900年頃に「金鳥」で知られる大日本除虫菊社の創業者が作り出したというものだ。

蚊取り線香ビジネスは、「蚊を取る」というニーズで市場を定義した場合、いくつかの競合と競争が起こっている。この競合商品は、その狙いによって大きく高価格帯製品(数千円程度)とそれ以外に分類することができる。

【高価格帯製品】
蚊を取るだけでなく他の機能を加えることで、差別化戦略をとるもの。

・蚊を取るだけでなく、除菌や消臭など空気清浄機として利用できるもの(例えば、チコロンという製品)
・蚊を取るだけでなく、ランタンとして屋外の照明に利用できるもの(例えば、QZT社という会社の商品

いずれの家電も、蚊を取る以外の用途に応える強みを持ち、しかも価格帯は数千円程度と安い。

【それ以外】
蚊を取るという機能を安く達成すべく、コストリーダーシップ戦略をとるもの。

・120日使えて1000円以下の蚊取り電化製品(例えばどこでもベープ
・金鳥と同じ蚊取り線香ながら、さらに価格を安く(Amazonだけでみるなら、半額近くに)おさえたアース渦巻香


このように整理してみると、「金鳥」の競争力は機能面でもコスト面でもなく、専ら感情面によって保たれていると思われる。
それが競争力として弱いと言っているわけではなく、
「味の違いは分からないけどペプシコーラよりコカコーラ」
「チョコレートは他のがセールになっていてもアルフォートを買う」
など、日常を見渡すと感情による選択をしている人は多く、根強い力を感じる。

それでは、今後蚊取り線香ビジネスはどのような変化を辿るのだろうか。
蚊取り線香そのもので公表資料は少ないので虫よけで調べると、その多様化がうかがわれる。
まず、アース製薬の決算資料によれば、虫よけ製品の市場は拡大傾向にあるという。つまり参入を検討する企業にとって魅力があり、既存製品にない強みを備えた製品がますます増えてくるだろう。市場が伸びるのだから、既存企業もニーズに応える競争へ資金を投じる可能性が高い。

どちらの価格帯の多様化が起こるか?
これは高価格帯だと思う。虫よけ製品は低価格帯においてすでに多様である。大日本除虫菊でも製品ラインナップは多様だし、コストリーダーシップ戦略をとるのであれば、1年間1000円未満に収まっている(蚊取り線香を少しずつ使えば500円以下かもしれない)ところに戦いを挑むことになり利益を出すには苦しい。

よって、今後は空調関連の家電製品に虫よけ機能がつくなどして、蚊取り線香ビジネスとの競争が激化するだろう。大日本除虫菊社にとっては単独で戦いづらく、拡大を目指すなら他社連携が必要なのではないかと考えられる。
今後、より便利で趣のある蚊取り線香ビジネスが出てくるのは楽しみと思う。

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