レポートバンク

主に企業の財務や経営について分析するブログ。

街歩きと開発会社

2021-02-28 12:11:00 | 企業分析
土日のカフェ歩きが好きだ。最近は自宅でコーヒーを飲む日も多くなってきたが、それでも心地よい日差しの中を歩いてカフェに行き、快適な空間で美味しいコーヒーを飲みながら、より良い次の1週間を検討する昼下がりは最高の時間だと思う。

こうした快適なカフェは嬉しいことに年々増えていて、日常感覚からすると、それらは都市再開発に伴って作り出されているようだ。
都心部の再開発はコロナで影響を受けているかと思うが全体的に見れば着々と進められていて、ウェブ記事をみても新たなエリアが作られているのを感じる。(ウェブの一例

写真はそうしたカフェの一枚。エスプレッソに砂糖と水が付いていて、濃さや甘さを調節しながら楽しめる。

素晴らしい都心再開発であるが、運営会社の経営状態は健全だろうか、まだ再開発を続けてもらえるのだろうか?

これについて、2020年の虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーの開業など虎ノ門〜六本木エリアの開発を担う森ビルの公式サイトで情報を見たところ、「健全で再開発は続く」という感触を得た。以下はその概要だ。

【全体】
・2020年4月〜9月にかけて、営業収益はほぼ前年同期並の約1200億円、営業利益もほぼ前年同期並みの約300億円であった。
・財務基盤は安定しており借入も特段増えたりしていない。
【事業詳細】
・もともと虎ノ門ヒルズなどのオフィス等の賃貸がメインの事業構造であり(2020年3月期の営業収益約2500億円のうち、約1600億円は賃貸収入)、貸し出している物件の空室率は2020年9月でも1.0%と不動の大人気!ちなみに同時期の都心部では3.4%である。ここが安定的に営業利益を出している。
・元麻布ヒルズなどの分譲事業が約2500億円のうち約400億円を占めるが、ここも安定的に利益を出した。高価格帯のマンションは売れているというが、森ビルはこの層に当てはまるようだ。
・約2500億円のうちアンダース東京など高級ホテルの営業による収益は約300億円でここはダメージを受けた。しかし他が上記のように安定しているため、トータルで黒字確保。
・その他海外等も影響を受けたが、元々全体に占める割合は限定的。

三菱地所を見た記事でも感じたが、都心部の大規模最新オフィスには経済的なダメージはあまりなく、今後も開発を続けていける印象を受ける。
今後も週末のカフェ歩きがどんどん快適になるのではないだろうか。

長めのレポートをkindle形式にまとめていくつも出しているページ。興味のある業界があれば読んでみて下さい。


オフィスビルのビジネス

2021-02-27 10:25:00 | 企業分析
東京都心部のオフィスビルの空室率は、昨年末でだいたい4.5%ほどらしい。(日経記事
オフィスは賃貸しているけれど在宅勤務で空席だらけのオフィスも沢山あると思う。これらについては、リモートで上手く運営できると分かれば経費削減の解約も出てくるかもしれない。
或いはその交渉は始まっており、オフィスビルのビジネスは「売り手、貸し手が販売価格や賃料引き下げなど弱い立場になっている」のではないか…

と思ったら、丸の内など一流オフィス街ではそうでもないらしい。
三菱地所の2020年12月分四半期決算をみると、商業施設で減収は見られるが、オフィスビルのビジネスではむしろ増収しているのだ。(公式サイト

まず前提として、三菱地所のオフィスビルはほとんどが東京都で、特に千代田区が多いことが有価証券報告書から分かる。
いわゆる「丸の内の大家」という世間のイメージ通りの事業構造である。
(経団連ビルなどを含め、丸の内〜大手町エリアに30棟を超えるビルを持っている)

そしてそれらのオフィスビルでは、空室率は確かに昨年増えたが2%未満と東京都心5区の平均の半分以下に抑えられているのである。しかも賃料は増額改定をやりきったという。空室が出て困っているどころではない好景気だ。
つまりオフィスビルのビジネスは、
「全体は厳しくなっているが高級オフィスについてはダメージが無い」のだ。

この事実から考えられることは、オフィスビルに求められる価値の選別である。
オフィスビルの価値として
【機能】事務作業や会議に便利な場
【感情】ステータスや心理的な快適さを感じさせる場(結果、会社へのロイヤリティや成果がレベルアップする)

という2つに分けた時、機能面の価値だけのオフィスビルはMicrosoft Teamsなどでウェブ会議が自在に出来る環境において価値を失っており、感情面の価値も提供できるオフィスビルが残っているのではないかと思う。

この通りであれば、今後自粛期間が過ぎてもオフィスビルの快適さがますます向上するか、経営状態の厳しい局面なら在宅勤務が増えるだろう。
オフィスビルの契約動向をより詳しく見たらますます確信が深まるのではないかと思うが、オフィスビルのビジネスに携わっている場合、感情面の価値開発により一層注力し、他社との差別化を図るのが良い経営判断ではないかと感じる。

不動産会社の努力による今後のオフィスビルの開発は楽しみである。素晴らしいビルが増える未来に期待したいと思う。

様々な業界や企業について、A4で10〜20ページくらいの分析を行ったレポート一覧



証券取引所のビジネス

2021-02-21 11:27:00 | 企業分析
日頃僕らが上場企業の業績を眺めることが出来ている背景には、企業を取り巻く法律によるルールが存在する。
このルールのそのまた背景には、投資家に正しい情報が与えられ、それに基づいて導き出される賢い投資がより優れた資源の活用方法を実現し、金融市場ならびに経済を活性化させる世界観が存在する。
そして投資家に与えられる「正しい情報」の確からしさを企業・会計士関連の制度によりどこまで追究するか、(内部統制システムまで公表することを追加するなど)制度の改版が続けられ模索されているのが現代だ。

現在1200億円ほどの売上を誇る日本証券取引所のビジネスは、この制度に深く関わっている。売上の全ては制度の下で取引に参加する企業から得られており、これを抜きにして読み解くことはできない。
また、直接金融の仲介に関して現在独占状態となっているが、国内の競合取引所が設立される動きもある。

【制度の現在地】
金融商品取引法という法律によって、上場している企業は1年間ごとに事業の成果と財務状態を振り返り、有価証券報告書という書類を内閣総理大臣(金融庁がその配下にあり、EDINETというサイトに取りまとめてくれる)に提出することが決められている。

有価証券報告書は企業の公式ホームページからも閲覧可能であるが、これを読むと、もれなく会計士による「監査報告書」が付いているのがわかる。

日本の会社法の規定で、上場するなどして全ての株式を譲渡制限なく一般に売買可能としている公開会社は適正に情報を伝達するべく会計監査人(これになれるのは会計士のみ)を置くことになっているのだが、この会計監査人による有価証券報告書の財務諸表への意見がこの監査報告書である(監査基準によれば、2022年3月期からは財務諸表に加えてその他の内容についてコメントする)。

監査基準によると、監査報告書には「会計基準に準拠して作られていて、内容が適正であるか」について意見が述べられる。
(準拠だけでなく内容の適正までみるのは、会計基準に準拠するにも数通りの選択肢が解釈としてあるところ、最も妥当な数字を出す解釈をしているかまで見るという意味である。)

つまり、業績の情報整理から投資判断に至るまでの役割分担は以下だ。
①会社が財務諸表やその他事業に関する考えなどを有価証券報告書にまとめる
②会計監査人が外部からその適正性を調査してコメントする
③投資家は結果として仕上がった有価証券報告書をもとに分析を行い投資判断する

(投資家は資本主義の前提からすれば、「投資すればリターンが期待できる」と思えば株式を購入することになる。
巨額の資金を動かす資産運用会社などが利益を最重要視して運用しているので、実際大方このように動くことになるだろう。
今話題のESGも、年金基金などは「長期にわたって安定的な収益を獲得するため」という経済合理性から採用している。)

ここで、財務諸表以外の「その他の部分まで監査人が通読する」という監査基準のルールが出来ていることは、企業の投資有望性を判断するにあたり、①②と③の役割分担を複雑にするように思える。
監査人がその他の部分について意見を言わないとされているものの、通読して経営者と相違については話し合っているのだとなれば、一定の正しさは確保されていると期待されるだろう。

つまり、①②の役割が増えていると思えるのだ。
もちろんウォーレン・バフェットのような投資家によれば、公開される財務諸表は分析のスタート地点であり、そこから本当の収益性を読み解いていくことになる。(「バフェットからの手紙」)
しかし初心者はどうしても有価証券報告書の正しさを読み解くのは難しい。

【制度の今後】
今後考えられる制度の更新は2通りある。
・それでも投資家は賢い、ないしは今後さらに賢くなると考えて③の役割を重視していく。①②については財務諸表の嘘が無ければ、その他の経営者コメントなどは放っておく。
・投資家は保護すべき弱者と考え、①②について、例えば経営者の売上や収益の目標や見込みについてもより正確なものにすべく圧力をかけていく。

投資家強者論に立てば、制度は現在地でも過剰なくらいで、むしろ会計士の働き方改革を考えれば、「その他」の通読義務も廃止すべきだろう。
決済手続き等経理の業務が急速にデジタル化されていくなかで、新たな会計システムの操作方法や日々現れる新たな収益モデルを学ぶことに会計士の時間は使われるようになり、作業の必要時間は減るだろう。

投資家弱者論に立てば、制度は不足だ。
会計士にはより厳しく経営者と対峙する姿勢や事業構造への深い理解、今後イノベーションで破壊されるリスクの査定など経営学の知見が求められる。
この対策は、緩やかなものと激しいものが考えられ、
・緩やか…
姿勢だけを仕組み的に問うべく会計監査人のお金の出し手を証券取引所にする。今だと日本証券取引所が強くなりすぎるが、今後アメリカのように複数の取引所が競うようになればガバナンスも効くだろう。
・激しい…
会計監査人の経営者牽制の実効性を引き上げるべく、例えば大手監査法人のトップに経営を何度も成功させた稲盛和夫氏級のスターを据え、監査報酬も高めて今の外資戦略コンサル人材が集うような仕組みを目指す。

実現可能性を考えれば、今後の制度改革は投資家強者論での改革か、投資家弱者論での緩やかな改革であろう。

どちらかと言えば、最近のアメリカの個人投資家の動きを見ても投資家の多くが強者というのは困難で、
且つ「貧富の差は問題視すべきレベル」と考える世論からして、
投資家弱者論での緩やかな改革が落とし所ではないかと思う。
この場合、取引所はガバナンス強化の為というこの改革に従い「会計監査人の振り分け」という新たな業務を獲得し、売上をますます伸ばせることになる(半分公的なビジネスなので利益率はあまり変わらないと思われる)。

国内の競合取引所の設立については、既にSBIと三井住友FGが来年の設立を発表していて(日経記事)、上場会社を巡り各種手数料引き下げなど利益率に関わる競争は避けられない。
この影響を緩和するためにも取引所は今後制度改革をめぐって監査関連の新たな事業を作り出そうとするだろうし、それによって規模と利益率をある程度保つのではないかと思う。

様々な業界や企業の分析レポート。


チョコレートのビジネス

2021-02-14 19:59:53 | 企業分析
チョコレート業界の一大売上イベント「バレンタイン」は、今年は外出自粛の影響もあり例年ほど熱いイベントではないだろうとウェブ記事のいくつかでも言われているが、コンビニを歩けばバレンタインコーナーがあり、Amazonにはバレンタインチョコが大量に出品され、ここgooブログでもバレンタイン特集があり、やはり特別な1日なのだと感じる。

こうした日本におけるチョコレート事業はどのような推移をしており今後どう推移するのだろうか。
まず、この市場に製品を供給する最大手企業は、明治である。
同社の2020年統合報告書によれば、

・チョコレート事業は1926年から続けている
・日本のチョコレート市場におけるシェアは2019年の調査で24%で首位
・過去3年以上にわたり売上は900億円台後半から1000億円台前半で安定推移

ということが分かる。さらにさかのぼると、
・2013年3月期に約850億円
・2016年3月期に約950億円
・2020年3月期に約970億円
という推移だったので、この10年をみると15%程の微増と言えそうだ。
日本のチョコレート市場規模について、チョコレート・ココア協会の統計によると、
・2014年に約4900億円
・2019年に約5600億円
なので市場全体も15%程の微増だ。

つまり過去10年をみればシェアが高いレベルのままで保たれているのだ。
・顧客について、
高齢化が進んでおそらく食の好みは移り変わっただろうし、パンケーキやタピオカやパクチーなどのブームが起こっては去るなど若年層の食の好みも日々変化があった
・競合について、
ゴディバの躍進やその他海外高級チョコの進出がニュースになるほど起きていた

ことが明らかであるにも関わらず、この期間も「チョコレートは明治」という消費者からの安定的な支持を得てシェアを保っていたことがうかがわれるのだ。抜群の安定感である。
※明治ホールディングス全体の売上は1兆円を超えており、チョコレートは数ある事業の1つである(ヨーグルトの売上が約2000億円であるなど)。チョコレート事業からの収益を製薬事業等成長領域に向けているのだろうと推定される。

次に大きいチョコレート企業と思われるのが日経の取りまとめた製品ごと売上データから言ってロッテだが、ここはチョコレート事業の売上がみた限り分からない。明治に及ばないが大体同額とみてよいだろう。
ロッテについて公式サイトから分かることは、
・チョコレート事業は1964年に開始
くらいである。

※ロッテの売上も年間約9000億円ほどと大きいので、ここもチョコレート事業は数ある事業の1つという位置付けである。

以上から、日本でのチョコレート事業に関して少なくとも明治のチョコレートブランドが安定的に強く、ここまで消費者の心をつかんでいるとすると、例えばコカ・コーラのように今後も安定推移するのではないかと思う。
新商品の方向性という意味では、明治は統合報告書から製薬事業などヘルスケアの方向に成長をしていることが分かるので、手頃価格で美味しい商品ラインナップを守りつつ、「健康で美味しい」「食べるだけで各種の予防効果」といった物が出せるようになるかもしれない。

今後もチョコレート市場の変化は楽しみである。

様々な業界や企業を分析したレポートの一覧

外出自粛と物流倉庫と不動産会社

2021-02-13 14:20:12 | 企業分析
外出自粛が長引き、自分は在宅勤務もあってネットで買い物をする量が増えた。
ユニクロでEC(ネット販売)金額比率が高まっているなど、これは日本全体の動きだと思う。コロナが無くとも利便性からか日本のネット売上の金額は経産省サイトをみると年々増えており、

・2010年には約7兆8千億円
・2015年には約13兆8千億円
・2019年には約19兆4千億円
とペースを落とすことなく急上昇していることが分かる。

この変化により需要が増えているのが物流倉庫であり、ここに不動産会社が大きく参入するようになっている。

※物流倉庫ビジネスにおける不動産会社の業務は土地を取得し、ゼネコンに声掛けして物流倉庫を製作してもらい、それをREIT(不動産を投資対象とする投資信託)に販売することである。

株式投資に興味がある方なら、物流だけを専門にしたREITを見たこともあると思う。そうしたところに売却するのだ。(この投資信託に不動産会社も出資して、自社も利益を一部得ることもありえる)

不動産会社のこのビジネスの拡大を示す一つの例が大和ハウス工業の投資拡大リリースで、物流施設をメインとする事業領域での投資額を
「3,500億円→6,500億円」
に積み増したのだ。
今後、物流施設に使えそうな土地を持っている人や会社はより良い価格で買ってもらえるだろうし、関連する倉庫内機械の売れ行きも伸びるだろう。
今後の成長が期待される事業領域であると思う。

様々な業界や企業について10ページを超える分量で分析したレポートの一覧