レポートバンク

主に企業の財務や経営について分析するブログ。

蚊取り線香のビジネス

2021-07-01 13:30:00 | 企業分析
今年も蚊取り線香の季節になった。とても良い香りである。この香りには懐かしさ、夏の思い出がふんわり溶け込んでいるようだ。

蚊取り線香そのものについての説明は不要とは思うが、創業のルーツまで辿った秀逸なまとめ記事が産経新聞から出ていたので興味のある方はそちらをご覧頂きたい。概要は、和歌山県で、1900年頃に「金鳥」で知られる大日本除虫菊社の創業者が作り出したというものだ。

蚊取り線香ビジネスは、「蚊を取る」というニーズで市場を定義した場合、いくつかの競合と競争が起こっている。この競合商品は、その狙いによって大きく高価格帯製品(数千円程度)とそれ以外に分類することができる。

【高価格帯製品】
蚊を取るだけでなく他の機能を加えることで、差別化戦略をとるもの。

・蚊を取るだけでなく、除菌や消臭など空気清浄機として利用できるもの(例えば、チコロンという製品)
・蚊を取るだけでなく、ランタンとして屋外の照明に利用できるもの(例えば、QZT社という会社の商品

いずれの家電も、蚊を取る以外の用途に応える強みを持ち、しかも価格帯は数千円程度と安い。

【それ以外】
蚊を取るという機能を安く達成すべく、コストリーダーシップ戦略をとるもの。

・120日使えて1000円以下の蚊取り電化製品(例えばどこでもベープ
・金鳥と同じ蚊取り線香ながら、さらに価格を安く(Amazonだけでみるなら、半額近くに)おさえたアース渦巻香


このように整理してみると、「金鳥」の競争力は機能面でもコスト面でもなく、専ら感情面によって保たれていると思われる。
それが競争力として弱いと言っているわけではなく、
「味の違いは分からないけどペプシコーラよりコカコーラ」
「チョコレートは他のがセールになっていてもアルフォートを買う」
など、日常を見渡すと感情による選択をしている人は多く、根強い力を感じる。

それでは、今後蚊取り線香ビジネスはどのような変化を辿るのだろうか。
蚊取り線香そのもので公表資料は少ないので虫よけで調べると、その多様化がうかがわれる。
まず、アース製薬の決算資料によれば、虫よけ製品の市場は拡大傾向にあるという。つまり参入を検討する企業にとって魅力があり、既存製品にない強みを備えた製品がますます増えてくるだろう。市場が伸びるのだから、既存企業もニーズに応える競争へ資金を投じる可能性が高い。

どちらの価格帯の多様化が起こるか?
これは高価格帯だと思う。虫よけ製品は低価格帯においてすでに多様である。大日本除虫菊でも製品ラインナップは多様だし、コストリーダーシップ戦略をとるのであれば、1年間1000円未満に収まっている(蚊取り線香を少しずつ使えば500円以下かもしれない)ところに戦いを挑むことになり利益を出すには苦しい。

よって、今後は空調関連の家電製品に虫よけ機能がつくなどして、蚊取り線香ビジネスとの競争が激化するだろう。大日本除虫菊社にとっては単独で戦いづらく、拡大を目指すなら他社連携が必要なのではないかと考えられる。
今後、より便利で趣のある蚊取り線香ビジネスが出てくるのは楽しみと思う。

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カフェ市場の直近トレンド

2021-06-17 18:47:00 | 企業分析
COVID19は未だに警戒すべき状況だが、世界に目を向けると、人の動きは全体では、もとの状態へと回復しつつあるようだ。
人の動きの傾向を掴むのに指標となるビジネスの一つはカフェビジネスの動向だと考えているが(外に出なければ使われないから)、そこでは海外の回復が見られるのだ。

スターバックスの2021年1ー3月の財務内容が公式サイトで公開されているが、
これによると下記の回復が見られる。

・2020年1-3月には、北米大陸での売上が約43億ドルだったのが、2021年1-3月には売上約46億ドル
・2020年1-3月には、北米大陸以外での売上が約11億ドル且つわずかに営業赤字であったのが、2021年1-3月には同地域で売上約16億ドル且つ約2.5億ドルの営業黒字と大幅な回復
・この1年間で新たに北米以外で1,044店舗オープンしており、増収増益に貢献
(ここには出ていないが、アメリカの有価証券報告書にあたる10-Kで、2020年9月末に世界全体で32,000店経営していることが明らかにされている)

COVID19が終わって既存店の業績が戻っただけでなく、新たな店舗も世界で増やすようになっているのだ。

日本ではどうか?
まず国内カフェ会社として最大のドトール・日レスホールディングスをみると、ドトールコーヒーについて6/17現在で月次開示が2021年2月分まで出ており、その開示資料をみると

・2021年2月も前年比で月間で売上・顧客数とも約3割のマイナス
・さらに遡ると、2020年1月から全ての月間業績が前年比でマイナス

と全く回復出来ていないように見える。
しかし続いてコメダホールディングスの公式サイトに行くと、6/17現在で2021年5月分まで月次資料が開示されており、コメダ珈琲店の業績は

・2021年2月では卸売売上(コメダホールディングスからコメダ珈琲店への食材等販売額)が前年比96.4%とマイナス
・しかし2021年5月には前年比138.7%、前々年比101.9%と回復
・2021年4月について言えば、前年比194.8%と大幅回復

であり、人の動きは日本でも2021年春あたりから回復しつつあることが推定される。

カフェ利用者の回復のトリガーが何かと考えると、他国のワクチン普及のニュースから、「ワクチン接種で安心して外出できる人が増えること」ではないかと思う。
日本の回復がやや遅れているのもワクチン接種が遅れているからだと考えると筋が通る。つまり外出者増加・飲食業回復のカギは業績をみてもワクチン普及と考えられるのだ。
このままワクチン接種が速やかに進んでほしいと思う。

より本格的に様々な市場・企業を分析したレポートの一覧


コーヒー飲料ビジネス

2021-06-16 20:51:14 | 企業分析
今年の4月から、コスタコーヒー(Costa Coffee)ブランドのボトルがコカ・コーラ社から販売されている。
大々的にCMも展開され、また1つ有力なコーヒー飲料が増えたと感じる。

マーケット調査会社である富士経済社のリサーチによれば、清涼飲料の市場は微妙な上下はありつつも10年程の期間でみれば明確に伸びており、2020年の予測は
・約5兆2,000億円の販売額
・約2,700万klの販売量(=500mlのペットボトルで540億本)
となっている。ペットボトルを買う日本の人口(大体中学生〜80代前半あたり)を約1億人として、1人が1日1.5本、500ミリリットルのペットボトルを買っているような統計だ。
周りを見ていて、確かにこれくらいだと思える。

そしてこの清涼飲料市場において、特に成長している分野の一つがリキッドコーヒー(缶コーヒーを除くコーヒー飲料)だとされている。
ここのシェアを拡大するべく、コカ・コーラ社は既にジョージアがある中コスタコーヒーで追加参入しているのだ。

それでは、このような活発な動きのあるコーヒー飲料ビジネスは今後どのような変化をするのだろうか?
主な企業の戦略を探り検討したい。
まず直近の大きな動きをもたらした「コスタコーヒー」が何で、コカ・コーラ社がどのような考えを持っているかを明らかにする必要がある。

コスタコーヒーは元々イギリスで2,400店ほどを展開する有力カフェチェーン(日本のドトールコーヒーが約1,000店であることから規模がわかる)であり(BBC報道)、2018年8月にコカ・コーラ社により買収が発表され、2019年1月に買収完了がプレスリリースされた。

これらのプレスリリース・報道では、
①この買収の為に5,000億円ちょっとの金額をコカ・コーラ社が払ったこと
②コーヒー飲料市場は全世界でも年間6%の成長をしており、その「成長を取り込むため」の買収であること
③コスタコーヒーはヨーロッパではスターバックス以上に店舗をもつブランドであり世界2位のブランドであること

が述べられている。
つまり、日本でのコスタコーヒー販売は2018年から計画されていたコーヒー飲料市場でのシェア獲得戦略の表出であり、またコーヒー市場の競争激化は日本だけでなく世界で数年続いてきたトレンドであって、
ついに「カフェとして成功したコーヒーが国境を超えて持ってこられる時代」という新たなステージへ突入したのだと見ることができる。

※ちなみにカフェとして成功したコーヒーがコーヒー飲料として市場に登場する例はコンビニに行けば他にも見受けられる。スターバックス、ドトールコーヒー、上島珈琲(UCC)といった日本の有力カフェの商品は既に並んでいる。
今回のコスタコーヒー登場は、その商品ラインナップに日本にカフェを本格展開しない海外勢が入り込んでくる第一歩だと考えられる。

世界各国でコーヒー飲料の消費が増えているとなれば、大企業は(コカ・コーラ社のように)世界を舞台に売れるコーヒーの探索・商品化・グローバル展開を進めるだろう。

今後のコーヒー飲料市場は、大企業の参入戦略を受けて世界の美味しいコーヒーがますます投入され、消費者にとって多様で面白い市場に変化していく、
ということが予測される。

国内外のカフェ市場など、様々な市場・企業を分析した長めのレポートを置いている





建設機器レンタル業界

2021-05-23 21:52:00 | 企業分析
在宅している休日、窓を開けると住宅を建てている音が聞こえる。運動に散歩をすれば、街ではビルを建設している。工事は至る所で続き、街は参加を続けている。
こうした工事現場の中には、たまに「どこから来たのだろうか」と思うような建設機械が動いていたりして、僕はたまに信号待ちをしながら眺めたりする。

もし自分で手配するなら、現場によって活躍する機械も違うだろうしレンタルで調達したい。そう思ってネットで調べてみたところ、レンタル会社による手配は日本で1兆円を超える巨大市場であった。
(一般社団法人日本建設機械レンタル協会の2020年調査
直近数年の推移しか載っていない(10年以上さかのぼりたいが、過去分は探しても見当たらない)が、これを見ると横ばいのようである。
・2016年 1兆3,500億円
・2018年 1兆1,000億円
・2020年 1兆2,300億円

日本でのコマツの売上高が年間3,000億円ほどで推移していることを考えると(公式サイト)、もうレンタルが大半の世界であり、日本の建設需要の横ばいによって市場規模が固まっているというのが妥当な見方ではないかと思う。(深掘りすれば分野ごとの違いなどはあるかもしれないが)

※他サイトの情報として、3年ほど前の東洋経済の記事でも、レンタルが大半と報道されていた。

それでは業界内部はどのような構造になっていて、今後どのように変化しそうであろうか。

これについて、建設機械レンタルの大手企業であるアクティオ社創業者によるインタビュー記事があり、積極的なM&A戦略が語られている。(日経の記事
また、同じく大手のカナモト社の公開資料からは、業績を急速に拡大している様子がわかる。(2011年に売上約700億円→2020年に売上約1,800億円)

つまり、市場規模は変わらない中、おそらくM&Aも活用しつつ、大手による寡占が進められてきているのだ。
この寡占は、最近出されたForbesの記事を見る限りデジタル化に向けた投資が競争のカギになりつつあるので、今後さらに加速すると思われる。
コマツなどメーカーもレンタルビジネスを行なっているものの、これまでの経緯を見ると、(あたかもシステム導入の世界でIT大手と別にITコンサル会社が巨大化を成し遂げたように)おそらく建設機械選びはそれなりに知識が求められるポイントで、ベストな建設機械をメーカー横断で選びレンタル提供できる会社として建設機械レンタル会社が伸びていくように思われる。

今後大型の上場企業が出てきそうな、投資家にとって見ておく意味のある業界だと思う。

様々な業界について、A4にして10ページ超のレポートをしている作品




トマトのビジネス

2021-03-30 13:29:00 | 企業分析
トマト料理が好きで、家でも外でもトマト料理を食べている。ジュースもトマト好きで、トマトが豊かに手に入る社会で良かったと思う。
今後も豊かにトマトが手に入る社会であるか考える時、トマト関連の大企業カゴメについて、経営環境をみていくのが分かりやすい。
【基本情報】
カゴメはトマトの生産からトマトジュース、トマトケチャップ等への加工・販売も行う従業員2,600名超の企業だ。
2020年12月期で売上約1800億円、営業利益約100億円を誇ることからもインフラとしての活躍ぶりがうかがわれ、東証一部に上場していて、時価総額は2020年末でおよそ3400億円程となっている。
海外展開もしていて、売上のうち約400億円(つまり20%以上)はアメリカなど海外で得ている。

事業の様子は農水省のサイトにも取り上げられており、農業〜食品加工までを順調に運営している様子がうかがわれる。

【これまでの経営実績からみて、これからもトマト製品を提供してくれそうか】
企業なので、利益が出ていれば今後もトマトビジネスを続けるし、出ていなければ他の事業を考えるだろう。つまり、これまで通りのトマト製品提供の可能性を考えるには、それぞれの事業で効率良く利益を出せているか確認することが有効だ。

2020年12月期(コロナ禍で環境に大きな変化のある、経営の難しかったはずの年)をみると、当社の指標である事業利益(定義を見ると営業収支+投資収支である)について、
・飲料…約80億円黒字
・加工食品…約50億円黒字
・農業…約3億円黒字
・海外…約2億円黒字
と、いずれも黒字を確保している。前年比をみても成長軌道にある。

利益率はどうだろうか。
カゴメ全体として資本約1100億円、純利益約60億円なのでROEはざっくり6%ほど。
これだけ見るとかつて伊藤レポートに言われた経営効率性の基準「8%」を下回るので不安になるが2019年度は超えており、やめるようには思われない。

利益の中身はどうだろうか。
先ほど飲料・加工食品・農業・海外の比率は見たが、トマトかどうかは見ていない。カゴメはトマト事業以外も行っていて、そちらがもっと順調だからそこに移動する…という可能性は無いだろうか。
(念のため調べたが、企業理念にトマトという言葉は出てこない。たまたま今はトマトを扱っているだけの可能性もある)

これについては、トマトとその他の事業の比率が不明だった。
しかし比率は分からないものの現時点では日常感覚からほとんどトマト事業だと思うので、経営効率の観点から見てトマトインフラは保ってもらえそうだと考える。

【これからの経営計画からみて、これからもトマト製品を提供してくれそうか】
カゴメの経営計画をみると、長期計画として「野菜の会社になる」そうなのでトマト以外についても社会のインフラになる方針である。キャベツなのか白菜なのか、どんな野菜かまだ分からない。

消費者目線だとトマトの生産〜加工を世界に広げても勝てそうに思うのだが、世界の人々が日本ほどトマト好きではないのか、トマトに対する好みが違うのか、気候の問題でトマト生産にコストがかかるのか…何かトマト一本ではいけない理由があったのだろう。

今後も美味しいトマトを届けてほしいし、他の野菜でも生活が豊かになるようなら嬉しい。


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