下記の記事は東洋経済オンラインからの借用(コピー)です。
日本で女性にとって最も厳しい場所は皇室である。
30年近く前、皇后美智子さま(当時)は明仁天皇(当時)の妻として至らないという世間からの批判を受け、話すことができなくなった。それから10年後、皇太子妃雅子さま(当時)は、跡継ぎとなる男子を生めないことをメディアに非難され、うつ病の治療に専念するために公務を休むことになった。
「自分は価値のない人間だと考えている」
今月初め、宮内庁は美智子上皇后の孫娘である眞子さんが、フォーダム大学ロースクール卒業生で26日に結婚した小室圭さんとの婚約について世間から厳しく反論されたことから、心的外傷後ストレス障害と診断されていたことを明らかにした。
会見で眞子さんを担当した精神科医は、「彼女は人としての尊厳が踏みにじられたと感じていた」とし、さらに「自分は価値のない人間だと考えている」と話した。
皇室に入った理由が結婚であれ出生であれ、日本の皇族の女性はメディアや世間だけでなく、彼らの日常生活を管理する宮内庁からも厳しいものさしで測られる。天皇と皇族が伝統的な日本の象徴であるなかで、今でも女性を型にはめるという保守的な風潮のある、日本国内に広がる男女格差を凝縮したものが皇族の女性にふりかかる。
皇族の女性は皇位につく資格を与えられないものの、彼女たちが受ける批判は、相続順位に近いことで守られている男性たちのそれよりも厳しいことがある。
「皇族としての任務を果たすだけでなく、美しさも保ち、結婚後は出産という目的を与えらえるのです」と立教大学の教授であり精神科医の香山リカ氏は話す。
また、「『いい母でいられていますか』とか、『義理のお母さまとの関係は良好ですか』『どのようにしてご主人を支えていますか』などと聞かれます。多くの仕事を抱え、それらを完璧にこなさなければならない。皇族の男性がこれほど見張られているとは思えません」と香山氏は付け加える。
直近の自民党総裁選で、2人の女性が首相の座を目指すなど、日本も少しずつ変わってきてはいる。また、一部の企業は女性の登用に会社全体で取り組んでいる。
だが、日本社会はまだ多くの意味で女性を二級市民として扱っている。夫婦別姓は法律で認められておらず、実際に多くの女性が夫の姓を名乗ることしかできない。そして企業の経営陣、国会、名門大学では、いまだに女性は少数派だ。
不平等な扱いに抵抗したり、男女平等の権利を訴える女性は、出しゃばり過ぎだと非難されることも多い。ソーシャルメディアで眞子さんが浴びた批判は、性的暴力や、職場でハイヒールを履かなくてはいけないという職場の決まりについて声を上げた女性たちに対するメディアの扱いを彷彿させる。
皇族は「時代を超越した存在」との見方
皇室の中で、女性は昔の価値観に従うことを期待される。
「皇族は時代を超越した存在であり、現代社会に属さないというような考えがあります」と話すのは、マイアミ大学の人文科学センター創始者兼ディレクターであり、君主制における女性に関する本を執筆してきた鈴木美穂子氏だ。伝統主義者というのは、「古くて馴染みのある、長く続く男女の役割を皇族に映したがるものだ」と彼女は指摘する。
第二次世界大戦後、アメリカに押し付けられた新憲法の下、天皇は神のような地位を失った。そして多くの意味で3代にわたる皇族の女性がそれから何十年における日本の進化を反映している。
戦争の歴史から日本が解き放たれ、美智子さまが過去何世紀のなかで初めて一般人として皇族と結婚した。子どもたちを皇室の侍従に預けず、自ら育てた。夫である明仁天皇とともに国内外を回り、災害の被害者や障害を持った人々には膝をついて話すなど、それまで遠い存在だった皇族に人間らしさをもたらした。
だが、皇居を改築したり、色々な洋服を着ると、メディアは批判した。宮内庁や美智子さまの義理の母親は、彼女には敬意が足りないと考えていたという噂も広がった。
1963年、結婚して4年目に胞状奇胎で人口流産をし、御用邸で2カ月以上過ごした美智子さまがノイローゼになったという憶測が広まった。それから30年後、極度のストレスにより声を失い、回復には数カ月を要した。
雅子さまは、ハーバード大学を卒業し、外交官として将来を期待されていた1993年に、徳仁皇太子(当時)と結婚。多くの論評者は、彼女が古臭い皇室の近代化を手助けし、日本の若いキャリアウーマンにとっての手本となることを期待した。
ところが、雅子さまの行動はすべて、子どもを授かることができるかどうかという視点で分析された。流産を経験した後、愛子さまを生んだが、男子の後継者を望む者たちはがっかりした。彼女の子宮を守りたい宮内庁は旅行に制限をかけ、結局公務も休むことになった。雅子さまは、「積み重なった心身の疲労」に苦しんでいるという声明を発表した。
誰もが結婚について発言したがる奇妙さ
眞子さんに関する直近のケースでは、眞子さんが結婚とともに家族から離れることを余儀なくされるにもかかわらず、皇室の期待に応えて欲しいという世論の一部が見える。
世間は小室さんとの結婚という彼女の選択を残酷に非難し、小室さんの母親の経済状況を攻め(さらに彼に逆玉狙いというレッテルを貼り)、皇族の娘の結婚相手として相応しくないとした。それなのに、法律の下で眞子さんは入籍と同時に皇族の地位を失うことになるのだ。
眞子さんのほかにこれまで8人の女性皇族が結婚をして、皇室を離れているが、その中の誰も眞子さんほど攻撃は受けていない。
「日本人が、眞子さんが誰と結婚すべきかということについてどんな形であれ発言すべきだと信じていることは非常に奇妙だ」日本の皇族が専門分野の歴史家であるケネス・ルオフ氏は話す。
眞子さんの父である秋篠宮さまは、2017年に2人が婚約を発表した当初、自分よりも前に世間に2人を認めて欲しいとして、承諾を控えた。
秋篠宮さまの言葉を真に受けた人もいたようだ。
(秋篠宮さまは)「2人が人々の祝福を受けるべきだとおっしゃっています。つまり、私たちが意見を言ってもいいということです」と皇居の庭園で散歩していた西村ようこさん(55)は話す。「皇族はある意味日本人の象徴ですから、私たちも意見を言う権利があると考えています」と。
秋篠宮さまは結局許したが、マスコミやソーシャルメディアからの絶え間ない批判は犠牲を生んだ。
2人は皇室の華やかさなしで、ひっそりと私人として婚姻届けを準備していたが、攻撃は止まなかった。ここ数週間は銀座で「呪われた結婚で皇室家を汚すな」「結婚前に責任を果たせ」と書かれたプラカードを掲げた抗議者たちが行進している。
週刊誌『現代ビジネス』に執筆するある作家は、眞子さんは「日本をさらし者にして国際的に恥かしめた」と主張し、その選択を激しく非難した。
ツイッターでは、約1.4億円の皇室持参金を放棄する旨決定したにもかかわらず、眞子さんを「税金泥棒」と呼ぶ者もいる。心的外傷後ストレスは偽りだと非難する者もいる。「数カ月後によくなったと発表すれば、大衆はあなたを疑う」とあるツイッターユーザーは書き込んでいる。
王族や皇族がメンタル問題を話す意味
イギリス王室との比較は必然と言えるだろう。ハリー王子との結婚前、メーガン妃は自身の素性を理由に何か月も攻撃の的となった。メーガン妃とハリー王子同様、眞子さん、そしてフォーダム大学のロースクールを卒業した小室さんも、彼がニューヨークの法律事務所で働くためアメリカに逃げるのだ。
ハリー王子もメーガン妃も、自身らのメンタルヘルスの代償について率直に話している。うつ病と摂食障害に苦しんだ母、ダイアナ妃の死で経験したうつ病について話すハリー王子の正直さは、イギリスにおけるメンタルヘルスに関する話し合いを広げるのに役立った。
日本の皇室の女性たちも同じく、いまだにメンタルヘルスがデリケートなトピックである日本において、議論を始めるきっかけになるかもしれない。
「皇族の女性たちは、メンタルヘルスの問題について公言し、対話を始めようとしてきたとは思えない」と、兵庫県立大学国際商経学部の田中キャサリン准教授は話す。「もっとも問題があると認めただけでも勇気のあることだ」。
(執筆:Motoko Rich記者、Makiko Inoue記者)
The New York Times Company
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