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「薬すら作ったことがなかった」なぜモデルナはたった3日間でワクチンを作れたのか

2022-01-31 15:30:00 | 日記
下記の記事はプレジデントオンライン様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。

米製薬企業のモデルナは、新型コロナウイルスの遺伝子情報が公開されてからわずか3日間でワクチン候補を設計した。立教大学ビジネススクール教授の田中道昭さんは「モデルナの特徴は、mRNAという手法で製薬業界の常識を覆したことにある。まるで自動車業界を破壊したテスラのようだ」という――。
※本稿は、田中道昭『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。
写真=AFP/時事通信フォト
新型コロナウイルスのワクチン開発で先行する米バイオ医薬品企業モデルナの本社(アメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジ)
全ての画像を見る(6枚)
SARSで20カ月かかった時間を90%削減した
新型コロナウイルスの遺伝子情報が中国の科学者らによってインターネット掲示板に公開されたのが2020年1月10日でした。モデルナは、この遺伝子情報の開示を受けて、1月13日までに新型コロナウイルス・ワクチン候補の設計を完了、2月7日までにその臨床試験用ワクチンを製造し品質試験を実施、そして2月24日には臨床試験に向けてNIH(米国国立衛生研究所)へ送付したといいます。
遺伝子情報の開示からワクチン候補の設計完了まで、わずか3日。そしてワクチン候補の設計完了から臨床試験準備完了までの期間は、わずか42日。この42日は、これまで同じプロセスで最速であったのがSARSの時の20カ月ということですから、臨床試験の前工程にかかる時間が約90パーセント削減されたことになります。
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続いて、NIH主導で3月16日にはフェーズⅠ臨床試験、5月29日にはフェーズⅡ臨床試験が開始され、7月27日にはNIHとBARDA(米国生物医学先端研究開発局)との共同でフェーズⅢ臨床試験が始まりました。10月22日には、米国の18歳以上の約3万人を対象とした臨床試験が終了。その後12月18日にモデルナの新型コロナウイルス・ワクチン「mRNA-1273」はFDA(米国食品医薬品局)によってEUA(緊急使用許可)が出され、すでに広く使用されるに至っています。


臨床試験完了までわずか9カ月というスピード
通常、ワクチンや薬の開発には、研究開発や実験、前臨床、フェーズⅠ~Ⅲの臨床試験、認可申請、審査も含めて10~15年程度かかると言われています。それが、モデルナは、新型コロナウイルスの遺伝子情報が公開されてからわずか9カ月足らずで、NIHなどとともに臨床試験を完了させたのです(図表1)。
出典=『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』
臨床試験の段階においてはトランプ前政権が打ち出した新型コロナウイルス・ワクチンの開発・製造・流通を加速させる政策「ワープ・スピード作戦」が作用したということもありますが、驚くべきスピードであることに間違いはありません。
モデルナの『2020年アニュアルレポート』などによると、同社の新型コロナウイルス・ワクチンは、米国の他にも、EU、日本、カナダ、韓国、フィリピン、英国、スイス、コロンビア、イスラエル、台湾、カタール、シンガポールへの供給について契約を締結したとされています。日本では、モデルナのワクチンは、ファイザー製とアストラゼネカ製に加えて、2021年5月21日に厚生労働省によって特例承認されています。
初めて作った製品で「業界のエリート」入りを果たす
ナスダックに上場するモデルナの株価は2020年はじめから堅調に上昇を続け、最高値を付けた2021年8月9日には2018年12月の上場時と比べて26倍超まで上がりました。
モデルナは上場時にも75億ドルというバイオ・製薬企業としては史上最高の株式公開時の評価額をつけていましたが、今やその時価総額は1370億ドル(約15兆5000億円、2021年10月1日時点)を超え、すでにフランスのサノフィなどを抜き英国のアストラゼネカに迫るなど、世界有数の規模と業績をもつバイオ・製薬企業に肩を並べています(図表2参照)。
出典=『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』
まさに、モデルナが「バイオ業界のエリート入り」(Bloomberg 2021年7月14日)したわけです。
モデルナは、2020年期に新型コロナ・ワクチンを販売し売上高を立てるまでは、医薬品やワクチンなど製品販売による売上高はゼロ。新型コロナウイルス・ワクチン「mRNA-1273」はモデルナが初めて販売した製品です。2021年4月時点で先述の国・地域への13億回以上のワクチン供給について契約していることから、その売上高が2021年以降に計上されてくるでしょう。
2019年12月に中国の武漢で最初の新型コロナウイルス感染症の患者が報告されてから、まだ2年程度しか経っていません。それなのに設立からわずか10年余りのベンチャー企業モデルナは、地球規模で深刻な打撃を与えている新型コロナウイルスのワクチンを迅速に開発・製造し、ビッグファーマーと並んで世界へ販売・出荷。モデルナの株価の上昇は、こうしたことを市場が高く評価している証左です。
写真=iStock.com/Evgenia Parajanian
※写真はイメージです


テスラが仕掛けた「業界の破壊と刷新」と重なる
モデルナは「バイオテク界のテスラ」(Bloomberg 2021年月7月17日)とも呼ばれています。
設立から20年も経たないEV(電気自動車)メーカーのテスラは、自動運転など最先端テクノロジーや既存の自動車メーカーにはない開発思想を採用して、次世代自動車産業をリードしています。テスラの株価は2019年終わり頃から上昇を続け、2021日11月2日時点で2020年年初と比べて13倍以上にまで膨れ上がっています。時価総額も同10月25日には1兆ドル(約113兆円)を超えました。
11月2日時点のテスラ時価総額は、トヨタ、VW、GW、フォード、ステランティスなどの世界の名だたる自動車の合計時価総額を大きく上回っています。これは、市場がテスラを、既存自動車業界をディスラプト(破壊・刷新)して自動車産業に新たな領域を切り開くテクノロジー企業として捉えていることを示唆しています。
「劇的な革新を起こす50社」のトップに
モデルナもまた、既存の製薬企業が採用してこなかったテクノロジーや発想で、製薬業界の新しい領域を切り開いてきています。そのことが一般に知られることになったのが、モデルナが新型コロナウイルス・ワクチン「mRNA-1273」を販売・出荷した2020年から遡ること5年前の2015年でした。
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2015年5月、経済ニュース専門放送局のCNBCが「ディスラプター50企業」を発表しました。「ディスラプター50企業」とは、16の事業領域から既存ビジネスをディスラプトして劇的な革新を起こす企業50社を選定したものです。
テスラのイーロン・マスクCEOが創業した宇宙開発企業「スペースX」、ライドシェア・プラットフォーム「ウーバー」、民泊プラットフォーム「Airbnb(エアビーアンドビー)」、音楽やポッドキャストのストリーミングサービス「Spotify(スポティファイ)」など、今や広く知れ渡った多くのベンチャー企業が名を連ねていました。そして、ディスラプター50社のトップに立ったのが、その前年にも8位につけていたモデルナ(旧名モデルナ・セラピューティクス)でした。
写真=iStock.com/carmengabriela
※写真はイメージです


疾患ごとに作るのではなく、一度で複数の疾患とたたかえる
その際、CNBCはモデルナについての評として次のコメントを残しています。
「想像してみてください。人体そのものが病気を治すのに必要とされる薬を作ることを。これが、モデルナがやろうとしていることです。(中略)モデルナの手法は、mRNAを使用して人体の細胞に指示またはコードを与え、糖尿病や心臓病からがんに至るまですべての種類の病気とたたかうために、タンパク質と抗体を作製するというものです。
モデルナが創業間もない他のバイオテクノロジー企業に勝る主なアドバンテージの一つは、そのmRNAが、疾患ごとに一つひとつ薬物療法を定義して作成するという典型的で時間のかかる道程をたどるのではなく、一度に複数の疾患とたたかうことに集中することができる点です」(CNBC 2015年5月12日、2016年3月1日更新、筆者訳)
このCNBCのコメントで言及された「mRNA」を使用した手法こそ、モデルナが採用するテクノロジーや発想です。mRNAというバイオテクノロジーの専門用語は、モデルナの戦略を語る上で絶対に外すことのできないとても重要な単語です。mRNAとは「自分の細胞が自らタンパク質を作るための設計図」と覚えていただければと思います。
これまでの常識を覆したmRNAのすごさ
CNBCが「人体そのものが病気を治すのに必要とされる薬を作る」「mRNAを使用して人体の細胞に指示またはコードを与え、糖尿病や心臓病からがんに至るまですべての種類の病気とたたかうために、タンパク質と抗体を作製する」とコメントしたように、製薬企業が製造した薬を口から飲むのではなく、人体の細胞に病気を治すためのタンパク質、つまり薬を作ってもらう。そのための設計図がmRNAというわけです。
また、「mRNAが、疾患ごとに一つひとつ薬物療法を定義して作成するという典型的で時間のかかる道程をたどるのではなく、一度に複数の疾患とたたかうことに集中することができる」とCNBCは述べました。意味はこうです。簡単な例で言えば、風邪にかかった時は風邪薬を飲むでしょう。一般的に、その風邪薬は、風邪という病気に対して効果を発揮する薬物療法として、製薬企業によって開発・製造されたものです。
しかし、mRNAの手法を使用すれば、風邪という一つの病状に対する薬物療法ではなく、風邪やその他の疾患へも対処するような「一度に複数の疾患とたたかう」薬物療法を開発することができる。mRNAはそういった「一度に複数の疾患とたたかう」ための設計図を細胞に届けることができる、ということです。


「われわれのワクチンは製薬業界を破壊する可能性がある」
実際、モデルナは新型コロナウイルス・ワクチンの追加接種と季節性インフルエンザ・ワクチンの接種が一回で済むワクチンの開発に着手していることを明らかにしました(ロイター 2021年9月10日)。モデルナは呼吸器感染症の原因となるウイルスや呼吸器系の疾患に対する「混合ワクチン」の開発を目指すとのことで、まさにmRNAが「一度に複数の疾患とたたかう」のです。
こうしたmRNAを使用した手法は、私たちが一般的に使っている薬とは本質的に異なっています。もしモデルナがmRNAを使用した手法を広く浸透させることができるなら、テスラが既存の自動車業界を破壊しているように、既存の製薬業界の破壊につながるかもしれません。実際、モデルナのCEOステファン・バンセル氏は「われわれはワクチン市場を完全に破壊することになる」(Bloomberg 2021年7月16日)、「われわれのワクチンは製薬業界を破壊する可能性がある」(UBP NEWSROOM 2021年4月14日)と言い切っているのです。
「mRNAサイエンスでベストになる」ための“10倍思考”とは
モデルナは、立ち上げからの「20年ジャーニー」で「mRNAサイエンスでベストになる」とコミットしています。現在その折り返し地点にいるわけですが、新型コロナウイルス・ワクチン「mRNA-1273」の販売・出荷や供給契約締結によって飛躍を遂げた段階です。そして、ベストになるためのドライバーとして、スケーラビリティを想定した「10倍思考」、データ分析、機械学習、AI、ロボティクスなどデジタルテクノロジーを活用した「プロセスの最適化」、デジタル・インフラの活用による「競争優位性」、および「mRNA業界において最大規模であること」を挙げています。
田中道昭『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』(インターナショナル新書)
最後に、バンセルCEOの「10倍思考」に関するインタビュー記事を引用して結びにしたいと思います。
「私は当社が、今後10年間で10倍の規模になると予想しています。この『10倍思考』は、私が経営してきた中でも最も重要な考え方です。私は毎朝オフィスに来るたびに、この事を意識します。人の心の不思議なところは、時間的な制約が厳し過ぎると創造性が失われてしまうことです。10年という時間枠があれば、大きな事を考える余裕が生まれます。
私たちがよく使うもうひとつの考え方は、『もしも魔法の杖を持っていたら』というものです。このようにしてビジョンが合意されると、私たちはこのビジョンとそれを達成するために必要な段階的なステップに向かって、ペダルを逆に踏みます。私たちはこの10年間、毎日この作業を行ってきました」


経営陣がいかにAIを使いこなせるようにするか
「私たちの最大の課題は、文化の希薄化にあります。私たちは素晴らしい技術を持っており、技術力が劣後するリスクはもはや過去のものとなりました。財務的なリスクも今では緩和されています。計算されたリスクを取り、迅速に行動し、データに適応するという、当社をここまで成長させた文化を維持するように努力しなければなりません。私たちの判断は全てデータに基づいて行われるのです」(Pictetのコーポレートサイト、バンセルCEOとピクテ・グループ シニアパートナーのルノー・デ・プランタ氏との対談、2021年7月2日)
「AIの場合、最大の課題は経営層の意識改革です。当社では、10年以上にわたって何千もの実験を行ってきましたが、これらのインプットから得られたmRNAのインサイトをコンピュータが提供するようになりました。コンピュータは人間には見つけることができない相関関係を、大量のデータから見つけ出すことができます。AIを会社のDNAの一部にするために、社内のトップ200人がいかにAIを使いこなせるようにするかが課題です」(同)

  • 田中 道昭(たなか・みちあき)
  • 立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
  • シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。

「フレイル」「ロコモ」を放置すれば要介護に 中高年が知るべき対策方法とは

2022-01-31 13:30:00 | 日記
下記の記事はデイリー新潮オンライン様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。

寒い寒い、コロナもまだ怖い。やっぱり家に閉じこもりがちになりそうな今年の冬。が、「ステイホーム」の裏には、隠された危険もある。加齢に伴って身体の機能が低下する「フレイル」「ロコモ」。以下は、介護生活に陥りたくない中高年が知るべき、その防御術である。
***
まずは、掲載の図にある「立ち上がりテスト」を試みていただきたい。40センチほどの高さの椅子から、片脚で立ち上がって3秒間姿勢を保持する。これができなければ、あなたは「フレイル」「ロコモ」の一歩手前、つまり、将来の「要介護」予備軍かもしれない……。
コロナ感染者数が急減したのも束の間、オミクロン株が登場し、第6波到来の可能性も取り沙汰される。加えて日に日に寒さは増し、再び巣ごもり生活に舞い戻りそうなこの冬。
「感染予防も重要ですが、それと同じように、フレイル対策にも十分留意してほしいと思います」
と語るのは、東大名誉教授の大内尉義(やすよし)氏である。
フレイルとは「虚弱」との意味で、加齢に伴い、筋力や食べる力、認知機能、社会とのつながりなどを含む、心身の活力が低下した状態を指す言葉だ。
また、ロコモという言葉もある。ロコモティブシンドロームの略で、運動器(身体を動かす器官)の障害により、歩行・立ち座りなどの移動機能に低下をきたした状態と定義されている。
「要介護の一歩手前という点では同じですが……」
と述べるのは、整形外科医で大阪・宮田医院院長の宮田重樹氏。
「フレイルが身体だけでなく、精神的、社会的な側面での『衰弱』が含まれる一方、ロコモはそのうち身体、運動機能の障害を表します。いずれにせよ、両者とも、そのままにしておけば要介護状態、そして寝たきりへと進んでいきますが、逆に言えば、フレイルやロコモの段階、あるいはその前段階で手を打てば、そこに至らずに済むのです」
フレイル状態の患者は約270万人
日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳まで延びているが、平均で男性は9年、女性は12年余りを介護などが必要な状態のままで最後を迎えるという。単に長生きするだけでなく、自立した生活ができる生存期間=健康寿命を延ばすことも重要で、そのためにも、フレイル・ロコモ対策は重要なのだ。
「フレイル状態の“患者”は、全国で男性100万人、女性170万人いるとの調査結果が出ています」
と前出・大内教授が言う。
「健康長寿を達成するために、フレイル対策は国民的課題となっていますが、コロナの流行によってさまざまな活動が制限され、高齢者は外出や運動の機会が減り、食も細くなっている。コロナによって、高齢者のフレイルが進んでいるのは間違いないと思います」
横断歩道が渡れない
問題の深刻さがわかる。
大内教授によれば、フレイルの診断で一般的なのは、国立長寿医療研究センターによる以下の基準だという。
〇半年で2~3キロ以上の(意図しない)体重減少
〇握力の低下(利き手で男性28キロ未満、女性18キロ未満)
〇ここ2週間、わけもなく疲れたような感じがする
〇歩行速度が1メートル/秒未満
〇定期的に運動・スポーツをしていない
この5項目のうち、3項目以上が該当すればフレイル、1~2項目が該当すれば、プレフレイルだとか。
大内教授が言う。
「歩行速度が1メートル/秒というのは、信号が青になってから点滅し始めるまでの間に横断歩道を渡れるかどうかの一つの目安。横断歩道を急がずに渡れなくなれば、フレイルを疑った方がいいかもしれません」
また、ロコモに陥っているかどうかを見分けるには、掲載の図の、二つのテストがわかりやすい。
まず、立ち上がりテスト。40センチの高さの椅子や台から片脚で立ち上がって3秒以上静止してみる。続いて2ステップテスト。図のように大股で2歩歩き、その長さと身長から「2ステップ値」を計測してみる。立ち上がりや静止ができず、2ステップ値も1.3未満であれば「ロコモ度1」と判定される。また、20センチの高さから両脚で立ち上がることができず、2ステップ値が1.1未満であれば「ロコモ度2」、30センチの高さから両脚で立ち上がれず、2ステップ値が0.9未満であれば「ロコモ度3」に該当するわけだ。
宮田院長が言う。
「これらのテストによって、足腰がどれくらい弱っているかが測れます。これに25項目の質問への回答を合わせてロコモ度は判定される。ロコモ度3ならフレイル状態、1~2もプレフレイル状態と判定されます」

宮田院長が勧める四つのトレーニング(他の写真を見る)
効果的なトレーニングは?
もしこれらのテストで、フレイルあるいはプレフレイルに該当するならば、今すぐにでも対策を始めた方がよいのは、先に述べた通り。
そのためには、
「何より、しっかりと運動することが重要です」
と、宮田院長。
「高齢者の皆さんに運動を勧めると、ウオーキングに取り組む方が多い。しかし、歩くのは持久力が付くとしても、それだけでは筋力の強化には繋がりません。筋力を向上させるためには、最大筋力の40%以上の負荷をかけないと駄目なのです。保持するのにも20%以上の負荷が必要。でもウオーキングの場合、使う筋力は最大筋力の5~15%なのです」
そこで、宮田院長が勧めるのが、掲載の図の四つのトレーニングだ。
「片脚立ち」は、テーブルに片手をついて片脚を1分間上げたままにする。それを右脚、左脚それぞれ1日3セット。
「フロントランジ」は、テーブルの横に立ち、膝とつま先が同じ向きでグラつかないように片脚を前に出して重心を移動させる。手はテーブルにつき、腰の横になるように滑らせる。これを左右交互に5~10回を1日3セット行う。
「スクワット」は椅子に座って、テーブルに手をついて背すじを伸ばし、膝がつま先より前に出ないように立ち上がり、ゆっくりと座る。5~10回を1日3セット。
最後の「ヒールレイズ」は、踵同士を付けて立った状態で、つま先立ちを10~20回繰り返し、これを1日3セット行うという。
「いずれも安全に考慮してテーブルに手をついて行ってください。ポイントは“ちょっと頑張っているな”と感じるくらいは行うこと。楽にできる運動ではトレーニングになりません。『毎食後』など、時間を決めて行うとリズムが生れてよいかもしれません」(同)

指輪っかテスト
更には、
「筋力減少を確かめるために、『指輪っかテスト』を試してほしいと思います」
と述べるのは、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏。
「両手の親指と人差し指で輪っかを作り、ふくらはぎの一番太い部分を囲んでみてください。隙間ができている場合は、すなわち筋量が低下している。フレイルの可能性があります」
その克服のために鎌田氏が近著『60代からの鎌田式ズボラ筋トレ』で提唱するのは、掲載の図のトレーニング。
「『スロー・スクワット』は肩幅よりもやや広く足を開いて立ち、7秒ほどかけて、太ももが床と平行になる深さまで腰を下ろす。そして7秒ほどかけてもとの体勢に戻します。これを1セット5回で1日2セット」
「かかと落とし」は、かかとを床につけたままつま先を上げ、3秒キープ。続けてつま先立ちになり、やはり3秒キープし、1セット10回を1日3セット行う。
「壁立てふせ」は、
「壁から70センチほどのところに立ち、腕立てふせの要領で手をつき、腕の曲げ伸ばしをする。これを1セット10回で1日2セット行ってください。これらはどれも家の中でできるものです」
必要なタンパク質を補うために
コロナ禍でも可能なトレーニングというわけである。
「こうした運動に加えて、食生活の見直しもフレイルには効果的です」
と、鎌田氏が続ける。
「筋肉を衰えさせないためには、何よりタンパク質をたくさん摂ることが大事。厚労省によれば、成人に必要なタンパク質は1日50グラム。これが高齢者になると60グラムを推奨される。高齢者は筋力が減っていくわけですから、それを補うべくより多くのタンパク質が必要なのです。また、フレイル対策のために日頃から筋力を維持しておく『貯筋』をするためには、さらに多く、1日に体重×1.2グラムのタンパク質を摂るのが理想。70キロの人であれば84グラムになります」
肉や魚100グラムに含まれるタンパク質の量は20グラムほど。卵1個は6グラム、納豆1パック8グラム、牛乳1杯7グラム。なるほど意識して食事をしなければ満たせない量である。
「日本ではメタボ対策が行き過ぎたのか、高齢者は食事を減らしがち。しかし、高齢者であれば、痩せている人よりもちょっと太っている人の方が元気ですし、寿命も長いのです。まずはきちんと3食食べること。フレイルにはこうしたことからも対策できるのです」
運動と栄養。やはり基本の基が重要というわけだ。
「外来診療をしていると、ステイホームをしっかり守っている“真面目な高齢者”の方ほど、フレイルに陥っているように感じる」
コロナに罹らずとも、介護生活に陥っては本末転倒。
この冬は、老いにもコロナにも共に打ち勝つ生活を心がけたいものである。


オミクロン株は軽症でも隔離が厄介…コロナ不活化「CPC商品」を取り入れる

2022-01-31 12:00:00 | 日記
下記の記事は日刊ゲンダイデジタル様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。

自分の身は自分で守るしかない。そう思わせるのが、新型コロナのオミクロン株を巡る対策だろう。世界的に後手後手だが、日本は3回目のワクチン接種も遅れている。では、厄介な変異株を自力でブロックするには、どうするか。実は、身近に入手できるものをうまく使えば可能だという。

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◇ ◇ ◇

東京で初めてオミクロン株の市中感染が確認されたのは先月24日。それから1カ月ほどで、9割を超える感染者がオミクロン株に置き換わった。オミクロン株が感染者の9割に達した日数は、アルファ株からデルタ株に置き換わったスピードの3.5倍に上る。

感染スピードの速さとは逆に、症状は比較的軽いとされる。オミクロン株が先行する沖縄では、今月8日までにオミクロン株に感染した105人のうち、9割に症状があるものの、半数以上が発熱や咳、全身倦怠感などと軽症だ。これまで特徴的だった味覚や嗅覚の障害は1%でしかない。

東京の調査も同様だ。今月7日までに感染した115人のうち2割は無症状。症状のある8割も発熱や咳、喉の痛みなどで軽症。中等症や重症はいなかった。

これらの調査に含まれる感染者は、そもそもコロナが重症化しにくい若者が多い。これから感染拡大にともない、感染者が高齢者や持病のある人に広がると、重症化率が高まる。それが専門家が恐れるシナリオだが、少なくともウイルスの姿が変わったのは事実。新型の登場前、従来のコロナウイルスは、風邪の原因ウイルスのひとつで、新型もそこに近づいているのかもしれない。

風邪のウイルスに近づいているとはいえ、風邪とは一線を画す要素がある。隔離期間の長さだ。当初の14日間からの短縮が検討されているとはいえ、インフルエンザの発症から5日より長い隔離が必要だ。仮に軽症だとしてこの隔離期間の長さはつらい。そこで重要なのが、予防だ。

「新型コロナウイルスが登場した当初、気管から肺までの下気道での感染でしたが、オミクロン株は鼻から喉までの上気道に移っています。一般に上気道での感染は、風邪が典型ですから、オミクロン株対策は、丁寧な風邪予防が大切です」

こう言うのは、赤坂山王クリニック院長で、耳鼻咽喉科専門医の梅田悦生氏だ。米ハーバード大や英インペリアル・カレッジ・ロンドンなどの研究で、オミクロン株は肺よりも鼻などの上気道で感染したり、増殖したりすることが報告されている。それだけに、風邪対策がオミクロン対策でもカギを握るのだ。
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飴で喉の保湿と唾液の分泌をアップ
喉飴、洗口液、スプレーと関連商品がズラリ(C)日刊ゲンダイ
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その第一が、喉の保湿だ。空気が乾燥するこの時季は喉が渇きやすく、マスクは保湿のためにも一理ある。それに加えて一工夫したい。

「唾液には、ウイルスや細菌の感染を防ぐ免疫物質が含まれています。口の中の乾燥で感染しやすくなるのは、その効果が得られないため。ですから、感染症が広がる今はより唾液の分泌をうながすため、マスクをしながら喉飴をなめるとベターです。もし喉飴をなめるなら、殺菌や抗ウイルス作用のあるものをなめる方がより効果的でしょう」(梅田氏)

たとえば、喉飴としておなじみの「浅田飴ガードドロップ」「ヴィックス」「ガム・メディカルドロップ」などには、CPCと呼ばれる殺菌成分が含まれる。商品の成分表には「セチルピリジニウム塩化物水和物」と表示されるもので、実は新型コロナウイルスについても感染性を失わせることが分かっている。

熊本大学と共同で研究を行った大正製薬の広報担当者が言う。

「試験管内で、CPC溶液と新型コロナウイルス溶液を1対1の割合で混ぜて5分間作用させ、感染性がどう変化するかを調べました。その結果、CPC濃度が0.0125%以上だと、新型コロナウイルスが99%以上不活化することが確認できたのです。あくまでも試験管内の実験ですから、商品の有効性を担保するものではありません」

CPCは、細菌やウイルスの膜を破壊することで不活化する。コロナの変異株も、膜の構造は同様だから有望だろう。梅田氏が補足する。

「コロナ禍の前から、風邪やインフルエンザのシーズンにマスクをして診察する医師の中には、適当なタイミングで喉飴をなめたり、うがい薬でうがいをしたりする人がいます。そういう医師が、風邪やインフルエンザで困ったという話をほとんど聞いたことがありません。この手の話に根拠はありませんが、唾液と感染防御の関係においては理にかなっています」
会議後にスプレー、帰宅したらうがいを
あせらずマイペースで(C)日刊ゲンダイ
拡大する
CPCはほかにも、洗口液の「モンダミン PREMIUM CARE」やうがい薬の「キレイキレイ」、口の消毒スプレーの「チョコラBB 口内炎リペアショット」「ヴィックス メディケイテッドスプレー」などにも含まれる。これらをうまく組み合わせて使うと、より上気道の感染対策になり、ひいてはオミクロン対策になりうるかもしれない。

「たとえば、同僚との会話や会議の後、電車やバスなど公共交通機関から降りたときに消毒スプレーを使ったり、帰宅時にうがいしたり。ふだんは喉飴とマスクで保湿をしながら、何かの動作の後にうがい薬などを使うのがコツでしょう」(梅田氏)

なるほど、そうすれば試験管ベースながら、抗新型コロナウイルス作用を持つCPCの力を絶え間なく借りることができる。

喉飴をなめる目的が唾液の分泌だった。その唾液に含まれる免疫細胞として重要なのが、IgA抗体だ。唾液のほか、母乳や腸、鼻水、涙にも含まれ、さまざまな病原体から身を守る。こと上気道感染においては、IgA抗体が唾液中に多い人は感染しにくく、少ない人は感染しやすいことが分かっている。

■運動は軽く、食事は発酵食品とビタミンACE

そんなIgA抗体の特性に着目すると、なるべく量を増やしたい。IgA抗体を増やすのに効果的なのは、一つは運動でストレッチや軽い有酸素運動だ。ハードな有酸素運動は逆に量を減らす。もう一つは食事だ。

「腸の免疫と唾液の免疫には相関関係があり、腸の免疫を改善する発酵食品を取ることで、唾液中の免疫物質が増えることが知られています。ヨーグルトや納豆、キムチなどの発酵食品はおすすめです」(横浜創英大名誉教授・則岡孝子氏=栄養学)

唾液を分泌する唾液腺や耳下腺は、活性酸素に弱く、耳下腺はビタミンCを大量に必要とする。唾液の分泌をしっかりキープするには、唾液腺や耳下腺を守る食事も必要だ。

「野菜や果物に含まれるビタミンA、C、Eは、抗酸化成分の代表。抗酸化成分はビタミンエース(ACE)と覚えるといいでしょう」(則岡氏)

難しいことは一つもない。できることから始めて、オミクロン株を寄せつけないようにしよう。


身体活動が脳の健康維持に役立つ理由の一端が明らかに

2022-01-31 08:30:00 | 日記
下記の記事はビヨンドヘルス様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。

健康を維持して元気に過ごすには、身体活動を行うのが良いことは広く知られている。また専門家の間では、身体活動がアルツハイマー病などの認知症予防にも役立つ可能性も指摘されている。
こうした中、身体活動が脳にもたらすベネフィットについて理解するための手がかりとなり得る研究結果が報告された。高齢期に身体活動レベルが高かった人では、脳の神経細胞間での情報伝達の役割を担うシナプスのマーカーとなるタンパク質(以下、シナプスのタンパク質)の量が多いことが示されたという。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)神経学分野のKaitlin Casaletto氏らによるこの研究結果は、「Alzheimer's & Dementia」に1月7日発表された。
この研究は、脳の加齢による変化と認知機能との関連について検討する米ラッシュ大学のプロジェクト(Rush Memory and Aging Project)の参加者から抽出した404人(死亡時の平均年齢90歳)を対象に実施された。対象者はモニターを装着して、毎日の身体活動量を最長で10日間にわたって毎年計測していた。なお、同プロジェクトでは、身体活動レベルの高い高齢者は認知機能が高く、認知症リスクが低いことが既に明らかにされていた。Casaletto氏らは、その理由を明らかにするために、同プロジェクトで凍結保存されていた脳組織を入手して剖検を行い、シナプスのタンパク質量を評価した。
その結果、シナプスのタンパク質量が多い人は、生前、毎日の身体活動レベルが高い傾向にあったことが明らかになった。この関連は、脳の病態とは無関係に認められ、アミロイドやタウの蓄積といったアルツハイマー病に関連する脳所見が確認された高齢者でも、身体活動レベルが高い人ではシナプスのタンパク質量は上昇していた。その一方で、シナプスのタンパク質量と身体活動との関連は、活動量計での身体活動量を測定してから脳の剖検でタンパク質量を評価するまでの期間が2年以内の人で最も強く、身体活動を行った時期が影響を及ぼすことも判明した。さらに、身体活動によるシナプスのタンパク質量の増加は、記憶を司る領域だけでなく、思考や推理に関連する領域など計6カ所の脳領域で認められ、脳全体の現象であることが示唆された。
こうした結果を受けてCasaletto氏は、「身体活動量が多くなるほどシナプスのマーカーとなるタンパク質の量は増えるという線形関係が認められた。これは、わずかな身体活動でも何もしないよりは良いことを示す結果だと私は受け止めている」と話す。また同氏は、「身体活動によりもたらされるこの健康に有益な反応は、加齢に伴う脳の変化を和らげ、認知機能の向上を促す可能性がある」との見方を示している。
Casaletto氏によると、シナプスのタンパク質は、神経細胞間での情報伝達を担う神経伝達物質の産生に関わっている。「これらのタンパク質が多いと、シナプスも多く、またシナプスの働きも良くなるのではないかとわれわれは考えている」と同氏は言う。
アルツハイマー病協会のメディカル・サイエンティフィック・リレーション部門バイスプレジデントのHeather Snyder氏は、「この研究から、身体活動が脳のレジリエンス(回復力)を高める可能性が示唆された」と話す。同氏は、「脳細胞の健康を維持し、情報伝達の機能を保ち続けられれば、疾患による変化を遅らせたり、損傷に対する脳の脆弱性を抑えたりすることができるかもしれない」と述べている。その上で、脳の健康増進のために、社交ダンスやウォーキングなど自分が楽しめる身体活動を取り入れることを勧めている。
[HealthDay News 2022年1月10日]

詐欺にだまされるのはなぜ? 脳の仕組みと対策について専門家が解説

2022-01-30 15:30:00 | 日記
下記の記事は日経グッディ様のホームページからお借りして紹介します。

誰でも年齢を重ねると記憶力が低下したり、素早い判断ができなくなってきたりするもの。脳の活動が低下しているのではないかと不安になっているときに、ちまたで横行するオレオレ詐欺や還付金詐欺などの「特殊詐欺」の話を聞くと、なぜそんなことになるの? どうしてだまされるのか信じられないと思う人も少なくないだろう。年を取って脳が老化すると、本当にだまされやすくなるのだろうか。公立諏訪東京理科大学工学部教授で脳科学者の篠原菊紀さんに聞いた。
イメージイラスト=123RF
年齢は関係ない? だまされるときの脳の仕組みとは
今回は「だまされやすさ」について教えてください。ニュースなどで特殊詐欺の被害に遭った人のエピソードに接すると「ええっ、どうして疑わなかったの?」と思う一方、「いや、自分だってその場になればどうなるかわからない」と不安になったりもします。
年齢とともに脳の判断力も衰えてくるわけですから、やはりだまされやすくなってしまうものなのでしょうか。

篠原さん まず、脳の特性から考えると、高齢者であることを抜きにしても、「そもそも人の脳は、複数のことを同時並行処理できない」ということが前提となります。
人を人たらしめているのは脳の「前頭前野」という部分。知覚・言語・思考など知性をつかさどる部分です。
前頭前野は、脳の別の場所に格納されている記憶や情報を意識に上げてきて、何かのミッションがあるとそのたびあれこれ検討します。この機能があるからこそ、人類はどんな状況に置かれても柔軟に適応し、あらゆる環境下で生き抜いてきました。
このように優れた働きをする前頭前野ですが、ここはコンピューターのキャッシュメモリのように必要な情報を一時的に保存して情報処理をするところ。実は、その性能には限界があるのです。
前頭前野のメモリのことを「ワーキングメモリ」と言います。訳すると、作業記憶。ちょっと前にしていた作業を記憶し、再び必要になったときに取り出すというもの。私はこれを「脳のメモ帳」と呼んでいます。このメモ帳の枚数は、年齢とは関係なく、誰もが3~4枚しか持っていません。私たちは、「あれ」「これ」「それ」くらいしか同時に処理できないのです。
ですから、いくつもの情報をどんどん入れられ、その全部が重要だ、と言われてしまうと脳のメモ帳では処理が追いつかなくなるのが当たり前です。
ああ、特殊詐欺の加害者はその脳の仕組みをまさに利用しているわけですね。
篠原さん そう。ある人がこう言い、次に違う人から電話がかかってきてこう言い、指示される…と、情報過多にして、脳のメモ帳を使い切らせる状態を意図的に作っているのです。
詐欺の手口を考えてみてください。どれも、「大変な一大事」というインパクトの強い情報をぎゅっと詰め込みます。
  • 孫や息子が事故や事件を起こした。だから、示談金が大至急必要(オレオレ詐欺)
  • あなたの口座が犯罪に利用されている。だからすぐにキャッシュカードを交換しないと危ない(預貯金詐欺)
  • 未払いの料金があるという架空の事実を口実にし、金銭を脅し取る、だまし取る(架空料金請求詐欺)
失恋をしたときだって、仕事が手につかなくなります。悲しみや後悔、その人と思い描いていた未来が失われるという喪失感。脳のメモ帳はあっという間に4枚のうち3枚が使い切られてしまう。脳の余裕がなくなってしまいます。
だから、特殊詐欺の加害者は「ストレスフルな情報や人をたくさん入れる」ことで一気に圧をかけてくる。高齢であろうとなかろうと、このテクニックのもとでやられると、人は普段通りに思考できなくなり、稚拙な判断しかできなくなります。
不安をあおられても、うれしいときも、だまされやすくなる
なるほど、だます側の巧妙な手口は、脳のメモ帳の余裕をなくす手口なのですね。
一方で、脳の前頭前野は年齢とともにその働きが低下する、と前回(「変化する職場環境も、異動でさえも…『脳のアップグレード』のチャンス」)伺いました。高齢だからこそのだまされやすさ、というのもあるのでしょうか。
篠原さん ワーキングメモリの力は、18歳から25歳をピークに低下する傾向があります。だから高齢になるほど狙われやすい、引っかかりやすいと言えるでしょう。だます側からすると「落としやすい」ターゲットです。
ただ、高齢者一般というよりも、だます側は無数の対象に電話をかけています。おそらく、その大多数の中でも、急にストレスをかけられることに脆弱な人、ワーキングメモリの力が落ちている人が引っかかりやすいということです。
メディアなどでは、「相手と話してしまうとだまされてしまうから、留守電にしておくことが一番」と言われています。やはり、受け答えしてしまうなかで、怪しいぞ、と我に返るのは難しいのでしょうか。
篠原さん 怪しい、と思う人のほうが多いはずですよ。でないと詐欺被害はもっと爆発的に増えているでしょう。だます側からしたら、無数の電話をかけ続けるなかで相手は、たまたま引っかかってくれた希少な人。だから、同じ人が繰り返し狙われたりするのです。
詐欺の話で言うと、「過払い金があったのでお金が戻ります」といった還付金詐欺や、ネット上で疑似恋愛の関係を作ってお金を要求する「ロマンス詐欺」など、一見するとうれしいことと組み合わせるようなだまし方もありますよね。
篠原さん ストレスフルなことだけでなく、うれしいことも脳のメモ帳を食うのです。例えば、うつ的になりやすいイベントとして、つらい出来事だけではなく仕事の昇進などプラスの出来事でもプレッシャーになる、ということは心理学でも知られています。
ワーキングメモリはいろんな要因で食われやすいのですね。
篠原さん その場限りのキャッシュメモリですからね。ちなみに、だまされるときだけではありません。日常的にこんなことがありませんか。人との約束が3つ、4つ重なると最初の1つがきれいに頭から飛ぶ。2階に上がったのに、「なぜ自分はここに来たんだっけ」と用事が抜ける。会話中にいいことを思いついたのに、話し出すと内容が飛んでしまう、とか…。
ありますあります。私は料理中に調味料のメモを見ているときに横から話しかけられるとその分量をすっかり忘れてしまいます。
だまされにくい判断力=ワーキングメモリを鍛えるには?
だまされにくくするためにも、また、日々の判断力の低下に歯止めをかけるためにも、何らかの工夫をしたいのですが、おすすめの脳のトレーニング法はありますか。
篠原さん 認知症の疑いがある方の認知機能を調べる際に、ワーキングメモリの働きをテストする項目があります。そのテストを紹介しましょう。
脳のメモ帳を何枚か使う感覚を感じてもらうためなのですが、これを脳科学では「ワーキングメモリの多重使用」と呼びます。
これから言葉を1つずつ出します。そのあとちょっとした知的作業をしてもらいます。
机 ユリ 氷
この3つの言葉を覚えてください。
富士の山
この言葉も覚えてください。
では、富士の山を逆から言葉にして呼んでください。
はい、では最初の3つの言葉を思い出してください。
どうですか? 意外と出てこないでしょう? これが、脳のメモ帳を複数使う、ということです。何かを覚えて、余計なことをやって、また思い出す、というもの。このような、ちょっと「面倒くさいな」という作業を脳に課している最中に前頭前野が活性化します。
まさに記憶と作業の組み合わせ、ワーキングメモリなのですね。
篠原さん もう一つ、人と話をする、というのも脳のネットワークを広げやすくする大切な行為です。脳には「出力依存性」という特性があります。
入力しよう、覚えよう、と思ってもさほど新しい情報ネットワークは作られないのですが、出力しようとしたときに、記憶の引き出しである「海馬」がその情報を「必要なもの」と判断し、情報ネットワークを構築しやすい状況にするのです。
面白い、と思ったこと、今日あった出来事を人にしゃべってみる。伝えてみましょう。話すのはもちろんですが、文字で起こす、というのもいいですよ。
インプットも大事だけれど、アウトプットをすれば、よりいっそう脳が活性化するのですね。今回のお話も、読者のみなさんに「こんな面白いことが書いてあった」とSNSで広めてもらいたいですね!
◇ ◇ ◇
次回は、話題になった「スマホ脳」。生活に欠かせなくなったスマホは果たして脳の老化につながるのか、篠原さんの意見を聞く。
篠原菊紀(しのはら きくのり)さん
公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授。医療介護・健康工学研究部門長
専門は脳科学、応用健康科学。遊ぶ、運動する、学習するといった日常の場面における脳活動を調べている。ドーパミン神経系の特徴を利用し遊技機のもたらす快感を量的に計測したり、ギャンブル障害・ゲーム障害の実態調査や予防・ケア、脳トレーニング、AI(人工知能)研究など、ヒトの脳のメカニズムを探求する。