元フロントスタッフ兼仲居頭のお宿備忘録

お宿の従業員とお客様両方の視点を得た自分の備忘として実際にうかがった【お宿の魅力】を書き残していきます。

【群馬県・嬬恋村・万座温泉】白鐵の湯 万座亭

2024-07-14 09:32:09 | 旅館

前回の投稿からはや半年…。

6月中には投稿ができそうだ、と、

あと少しのところまで書き上げたにもかかわらず、

その後、夏の大風邪を引きダウン…。

コロナやインフルエンザではなかったのが不幸中の幸いでしたが、

7月を迎えてしまいました…。

人生、思い通りにはいかないものですね。(苦笑)

本当に、本当に、細々になってしまっていますが、

これからも続けていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

 

久々のお宿ブログ、第7弾は、

ずっと行ってみたいと思いながら、

なぜかこれまで訪れる機会がなかった万座温泉のお宿。

 

群馬県の嬬恋村・万座温泉の「白鐵(はくてつ)の湯 万座亭」さん

(以下、「万座亭さん」と呼ばせていただきます。)

 

をご紹介します。

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、

万座温泉は、"日本一の硫黄濃度の良質泉"。

しかも、一日の湧出量は540万リットル!

そんな温泉がそれだけ湧き出していれば、

万座に近付いただけで、車の窓を開けていなくても、

車中いっぱいに硫黄の香りが広がるのも致し方ありません。(笑)

 

もう数十年前になりますが、

万座温泉を車で通りがかり、

その香りを体験した強烈な記憶がずっとありました。

当時は、「万座温泉って凄いな…」と、

どちらかと言えば、引き気味の印象でしたが、

温泉の仕事に携わるようになり、

「エリア一帯があれだけ硫黄臭に染まる温泉って、

一体、どんなものなのだろう…」

という興味に変わり、

「そのうち絶対にうかがってみたい!」

と思っていました。

 

万座温泉へのルートはいくつかあるようですが、

今回は最も安全に、できるだけ楽に辿り着けそうなルートを、と思い、

有料道路を使い、軽井沢から上がっていきました。

有料道路は安いとは言えない料金でしたが、

あれだけ長距離にわたり、ほぼ山頂と言えるところまで登る道を、

すべて中央線のあるゆとりの車線幅で整備してくれていれば、

むしろ、安いくらいなのかもしれません。

山道なので、もちろん急なカーブの多い道ではありますが、

標高約1,000メートルの軽井沢から、1,800メートルの万座温泉まで、

余計な恐怖心や疲労感なく、行き着くことができました。

 

ただ…雪がある季節は、話しは全く別です。

たとえ、冬タイヤの装備をしていたとしても、

よほど雪道に自信がある方でないと、

運転は非常に困難だと思います。

周辺道路は冬期通行止めの区間もあるようですし、

雪シーズンは自家用車以外の交通手段を選択したほうが

安心かもしれません。

電車で行き、お宿の送迎バスを利用することも可能だそうですので、

どうぞご無理のないご計画を。

冷たい空気のなかで、雪景色を見ながら満喫する万座温泉のお湯は、

格別であること間違いありませんので、

私もいつか冬の万座温泉を体験してみたいと思っています。

 

軽井沢から車で登り続けること約1時間半。

山頂にかなり近くなり、

「ずいぶん登ってきたなぁ…」

と思っていたら、硫黄の香りとともに、

万座温泉特有の風景「空吹(からぶき)」がお出迎え。

これは昔の噴火口跡で、地面にしみ込んだ雨水や地下水が水蒸気となって、

硫化水素ガスとともに勢いよく噴き出しているそうです。

空吹周辺はガスの影響で植物が生息できないので、

木々が生い茂る山の風景の中で、

そこだけ工事現場かのように山肌が露出しています。

違和感とともに、自然のエネルギーの大きさのようなものを感じ、

少し恐怖すら覚えました。

そして同時に、人間の力など到底及ばない大自然が作り出してくれる

絶品温泉への期待に胸が高鳴りました。(笑)

 

私がうかがった日は、東京の最高気温が27度ほどでしたが、

16時頃に万座温泉に到着すると15度ほど。

半袖の上にパーカーを1枚羽織ってちょうど良いくらいでした。

さすが、標高1,800メートル!

夏は避暑に最適です。

日中でも25度に届くことは少ないそうです。

その代わり、冬は-10度前後が普通とのこと。

夏も冬も、服装選びにはご留意を。

 

周辺情報が長くなってしまいましたが、

肝心の万座亭さんはというと、

外観の第一印象は山の立地に馴染む山小屋風。

「山に来たぁ!」という気分と、

でも、ちょっと懐かし場所に戻ってきたような別荘の趣もあり、

一方で、和風旅館のホッとする風情も醸し出していて。

「建物の中はいったい何風?」

と思いながら足を踏み入れると、

まさに外観同様、山小屋と和風旅館のいいとこ取りをしたような、

落ち着きがあり、気張らずにホッと寛げる内観と雰囲気。

山小屋過ぎず、

でも、静謐で重厚な木の温もりを感じる山小屋の良さはある。

その度合いが私にはちょうど良く、とても心地良い空間でした。

2022年秋頃から少しずつ館内を改装されたようで、

まだ新しい和モダンの内装が、

さらに気持ちの良い滞在を後押ししてくれました。

 

昨年、ライブラリや個室も併設されたカフェや

サウナも新設されたそうで、

もちろん、いずれも素敵でした!

それらについては、万座亭さんのHPに写真付きで紹介されているので、

ご興味のある方はそちらをご覧いただくとして…。

私が特筆すべきと感じたのは、館内の共用トイレ。(笑)

枠組みは明らかに年代ものであることを物語っているのですが、

新しく綺麗に、今時のデザイン・設備に改装されていて、

本当に気持ち良く利用させていただきました。

お宿は、どうしても客室の快適性向上を優先してしまい

(お宿である以上、それは当然のことではあります。)、

共用トイレの改装などは後回しになりがちなのですが、

日帰り入浴も受け入れていらっしゃるとは言え、

共用トイレの改装をきちんとされているということは、

お客様の立場に立って考え、お客様を大事にされている証だと、

深く感銘を受けました。

共用トイレは、恐らく客室のトイレ以上に多くのお客様が利用されます。

少し前から、飲食店なども、

「トイレを見れば、お客様を大事にしているお店かどうかがわかる。」

などと言われるようになりましたが、

トイレにこそ、清潔感と快適さがあって欲しいと思う方は

少なくないのではないだろうかと思うにつけ、

お宿も共用トイレの印象を大切に考えるべきだと勉強になりました。

 

今回、本館の半露天風呂付き特別室「山吹」を利用させていただきました。

こちらも山の別荘の雰囲気を取り込んだ落ち着きのある和風のお部屋で、

ご案内いただいた瞬間からスッと馴染み、

ゆったりと寛ぐことができました。

このお部屋は、万座亭さん唯一の喫煙可のお部屋でしたが、

タバコの匂いは特に気になりませんでした。

ただ、匂いの感度は人それぞれなので、

敏感な方は、もしかすると他のお部屋を選ばれたほうがいいかもしれません。

逆に、愛煙家の方にとっては、今のご時世、貴重なお部屋ですね。

 

予約をする際、HP等を見て、

「湯量豊富な万座温泉で、お部屋のお風呂が温泉ではないのはなぜだろう…」

と思っていたのですが、うかがってみて納得。

前述のとおり、硫黄濃度が高いあまり、

お部屋のお風呂にそれを注ぐのは、いろんな意味で不可能なのだと。

もしお部屋のお風呂に温泉を注いだ場合、

硫化水素が発生するので十分な換気が必要になりますが、

万一それがうまくいかなかったら、お客様の命に関わる事態が発生します。

また、お部屋のお風呂に温泉を入れていないにもかかわらず、

万座温泉一帯に流れる硫化水素の影響で、

お部屋の中の水道管や蛇口など金属類はどうしても錆びてしまいます。

従業員の方の自転車は2年、自動販売機は1年半、テレビは1年で、

金属部分が腐食して壊れてしまうそうです。

お宿が運営を続けていくには大変なご苦労があることだろうと、

頭の下がる思いでした。

ましてや、お部屋のお風呂に温泉を注ごうものなら、

いったい、お部屋自体、どれだけもつか…。

お宿側の立場で考えると…怖くて考えたくないです。(苦笑)

それと恐らく、お部屋のお風呂に万座温泉のお湯が流れていたら、

硫黄の香りが強すぎて、

なかなか、「お部屋でゆっくり」というわけにはいかないでしょうね…。

お客様の安全とできるだけお客様に快適に過ごしてもらうために、

あえて温泉を入れていないのだと理解しました。

でも、がっかりする必要はありません。

お部屋のお風呂に行くのと同じくらいの距離に大浴場があるので、

ある意味、「大浴場付き客室」と言っても過言ではないくらいです。(笑)

お部屋のお風呂に入るのと同様の気軽さで大浴場を利用でき、

「さすが、特別室!」

と大満足でした。

ゆったりとした10畳和室と独立したベッドルーム、

そして、後にご紹介するお料理の内容を考えると、

特別室とは言ってもリーズナブルな料金設定で、

これだけ快適に心地良く過ごせるのなら、

是非また利用したいと思えるお部屋でした。

 

そして、一番のお目当てだった温泉!

実は、硫黄泉が私の肌とはあまり相性が良くないので、

「どうかな…」

と不安に思うところもあったのですが…。

源泉掛け流しだからなのか、

良質泉だからなのか、

塩化物・ナトリウム・メタけい酸・メタほう酸など

肌に良い成分も多く含んでいるからなのか、

予想外なまでに優しく柔らかなお湯!

その柔らかさに身体中の緊張が解きほぐされていき、

お湯のなかに身体が溶け込んでいくような開放感。

お湯に頬ずりしたくなる程でした。

(実際に頬ずりするのは厳禁ですが。笑)

そして、源泉掛け流しならではの軽いお湯。

これまで体験した種々の温泉の中でも

トップクラスの浸かり心地の良さでした。

 

万座温泉の源泉は約80度と超高温のため、

加水せずにはとても浸かれません。

でも、加水しているとは思えないほどの良質なお湯です。

万座亭さんの大浴場は、男女それぞれ内湯1つ、露天風呂1つでしたが、

恐らく、温度調整の兼ね合いで、

内湯のほうが加水している割合が多いと思います。

露天風呂は風が通り、

標高1,800メートルの涼しい(冷たい?笑)空気が

自然にお湯の温度を下げてくれますが、

内湯は湯気もこもり、温度が下がりづらいので、

どうしても加水を増やさないと浸かれる温度にはなりません。

それでも、内湯も十分万座温泉を堪能できる質の良さでしたが、

やはり露天風呂のお湯が絶品!

できるだけ加水を少なくするためなのか、

浅めの大きなお風呂が用意されていて、

それなのに、浸かれば自分の足が見えないほどの濃厚な白濁のお湯。

お風呂の底が全く見えないので、うかつに動くのが怖いほどです。(苦笑)

そんなお湯に半ば浮かびながら、真っ青な空と向かいの山を眺め、

澄み切った山の空気を感じていたら、

「あぁ~…幸せ…」

と心の声が漏れてしまいそうでした。

 

確かに、楽に訪れることのできる場所ではありません。

山奥の割りに相当道が整備されているとは言え、

軽井沢から1時間半、車で山道を登る疲労感はゼロではありません。

でも。

その労力をかけたからこそ出会えた温泉がそこにはありました。

その労力をかけた甲斐があったと思える温泉がそこにはありました。

いつか行こうと思いながら、延ばし延ばしになってしまっていましたが、

「まだ体力があり、動けるうちに、出会えて良かった…」

心底そう思える温泉でした。

 

ただ、お風呂に関してご留意点を一つだけ。

先にも何度か書かせていただいたように、

万座温泉は硫黄濃度日本一。

その温泉を流している浴室は、

硫化水素ガスを排出する必要があるため、

おっきな換気扇で換気を行っています。

私がうかがった初夏の気候の日でさえ、

洗い場では若干寒さを感じました。

気温の低い季節に訪れる場合は、洗い場はかなり寒いと思いますが、

これもお客様に安全に利用してもらうために、

どうしても欠かせない対応なので、

なんとか入り方を工夫していただき、

「これも硫黄濃度日本一の万座温泉ならでは!」

と楽しんでいただければと思います。(笑)

 

万座温泉のお湯の良さに衝撃を受けつつ、

お夕食の席にご案内いただいて、またびっくり。

普通なら、どう見ても4人席の大きさのテーブルに、

お料理がひしめき合っていて…。

「これ、本当に2人分のお料理…?」

と一瞬ひるむほどでした。(笑)

さらに、テーブルの一角には、

とても2人用とは思えない大きなお鍋が用意されていて…。

「もしや、これはプラン内容に入っていたすき焼きのお鍋…?

小さいお鍋の用意がなかったのかな…」

と横目に見つつ、ひとまず自分を納得させて。

 

係の方がテーブルに並んでいるお料理をご説明くださり、

「この後、温かいお料理の茶碗蒸しと天ぷらをお持ちします。」

と最後に言い残して立ち去られると…。

「これだけお料理が並んでいて、さらに茶碗蒸しと天ぷら!?

ひとまず、先付け、前菜からいただいて、

次のお料理を置くスペースを作らないと!!」

お食事、よーいドン!です。(笑)

大きなテーブルを2人用で利用させていただいていたので、

実際には、次のお料理を置く場所も十分にありました。

ご安心ください。

ちょっと誇張しました。すみません。(笑)

でも、そういう気分になるほど、

たくさんのお料理が並んでいたことは事実です。

みなさん、万座亭さんを訪れる際は、

どうぞ十分にお腹を空かせて行かれてください。

 

天ぷらは、時節柄もあったのか、

鱧と山菜の天ぷらをご用意くださいました。

会席料理では、天ぷらが最後のほうに提供されることが多いですが、

お腹がいっぱいになってしまい、

天ぷらを食べられなくなってしまいがちなので、

私はできれば早い段階で天ぷらをいただきたい質です。

食事開始から程なくして天ぷらをお持ちいただいたので、

ありがたい!と思いながら、

真っ先に鱧の天ぷらを一口。

ほふほふ、と思わず言ってしまうほど温かく、

ふわっふわの鱧の天ぷら。

「やっぱり、温かいお料理は温かいうちにいただくのが一番…!」

久々の鱧を楽しませていただきました。

 

そして、お鍋の大きさがどうしても気になっていたすきやき。

具材を先に用意しておいて良いかと聞かれ、

お願いします、と答えて、

お持ちいただいたその具材にまたびっくり!!

これまたどう見ても2人分とは思えない具材の量!!

お鍋ものの具材は、お野菜がかさばるから…

という問題ではない量!!

だって、一番上にはわらじどころではない大きさの上州牛が…

これ、何枚??

という感じに重なってしました。

しかも、見事なサシが入った上州牛。

「これ、すきやきだけでお腹いっぱいになるよね…(笑)」

と本当に笑ってしまうくらいの量でした。

でも、上州牛、見た目に違わず、

口の中でとろけるように柔らかく、甘みたっぷりで、

「う~~~ん…美味しいっ!!」

と口から幸せが身体にしみ込んでいきました。

すきやき付きのプランをご利用の方は、

必ず先に具材をご用意いただいて、その量を確認し、

お腹と相談しながら、

良い頃合いですきやきを召し上がられることをお勧めします。

他のお料理でお腹いっぱいになって、すきやきを楽しめなかった、

ということのないようにご注意ください。

 

もし、お天気の良い日に万座亭さんを訪れることがあれば、

お夕食をたらふくいただいた腹ごなしに、

ちょっと駐車場へ出てみるのもいいかもしれません。

標高1,800メートルの山の頂き、

見上げれば、澄んだ空気の向こうに広がる大きな夜空に、

降り注いできそうなほどの星たちが瞬いています。

数軒のお宿以外、民家もお店もほとんどなく、

光に邪魔されない万座温泉の夜空は、

目が慣れてくると、隙間がないくらいに見える星が増えていきます。

 

こういう壮大な自然を目にする度に思います。

「人間なんて、この壮大な自然に比べたらちっぽけだなぁ…。

そんなちっぽけな私の日々の悩みなんて、

地球規模の営みで考えたら、本当に取るに足らない小さなこと。

ちっちゃなことは気にせずに、また明日から頑張ろう!!」

私、単純なんです。すみません。(笑)

でも、旅で癒やされるってこういうことなのかな、と思います。

旅の醍醐味ってこういうことなんじゃないかな、とも思います。

万座温泉の大自然、ありがとう。

万座温泉を発見してくれた先人達に感謝です。

 

星空を見に外に出られる際は、

本当に暗いので、足元には十分ご注意ください。

チラッと見た気がするだけなので、

不確かな情報で申し訳ありませんが、

万座亭さんで懐中電灯や望遠鏡の貸し出しをされているとの貼り紙が

あったような、なかったような…。

ご興味がある方は、万座亭さんに確認されてみてください。

スマホのライトなどを活用されるのもいいかもしれませんね。

どうぞお怪我のないように、星空を堪能されてください。

 

硫黄濃度日本一の良質泉が豊富に湧き出しているがゆえ、

万座温泉エリア内には、ガソリンスタンドもコンビニもありません。

恐らく、設備の維持管理が困難なのだと思います。

そんな環境下で、もちろんお宿だって維持管理をしていくのは、

相当なご苦労がおありのことと推察しますが、

それでもそのご苦労を受け入れ、

万座温泉を堪能できる場をご提供くださっているお宿に、

心から感謝しつつ、家路につきました。

 

万座温泉を訪れる際は、確かに硫黄臭には覚悟が必要です。

帰宅してからも、2日ほどは自分自身から硫黄の香りが立ち込め、

持参した衣類なども2回洗濯してもなお硫黄臭が取り切れないような

気がしたり…(笑)。

温泉に浸かる際は、アクセサリーなどの金属腐食に注意が必要です。

(必ずアクセサリー類は外されてください。)

お宿以外の施設がほとんどなく、ちょっと不便を感じるかもしれません。

いわゆる"温泉街"を期待して行かれると

少々寂しささえ覚えるかもしれません。

でも、その代わりに雄大な自然のなかで、

希少な良質泉を心ゆくまで味わうことができます。

日々の便利な生活を離れ、

心底ゆったりと大自然の恵みに浸るのも

時には良いのではないでしょうか。

 

少なくとも私は、

必ずまたうかがいたい温泉として心に刻み、

必ず再訪したいお宿リストに万座亭さんを追加させていただきました。


【島根県安来市・さぎの湯温泉】さぎの湯荘

2024-01-08 19:18:38 | 旅館

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今年は年明けから、能登半島地震、羽田空港での航空機衝突事故と、

胸の痛むことが続きました。

亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、

ご関係の皆様が一日も早く平穏な日常に戻れることを願いながら、

小さな小さな力しかありませんが、

私にできることをしていきたいと思っています。

*********************************

 

年々、一年があっという間に過ぎるようになる、

とよく言われますが、

本当に昨年も一年が早かった…。

気が付けば、前回の投稿から4ヶ月近くが経ってしまい、

2024年が明けてしまいました。

今年も細々とこのブログを続けていこうと思っています。

どうぞよろしくお願いします。

 

2024年初投稿の第6弾は、

 島根県安来市のさぎの湯温泉「さぎの湯荘」さん

をご紹介します。

 

島根県の「足立美術館」と言えば、

訪れたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、

さぎの湯荘さんは、まさに足立美術館のすぐ横!です。

足立美術館をじっくりと楽しみたい方は、

是非さぎの湯荘さんへ、

というフレーズが成り立ってしまうくらい、

もっと言えば、足立美術館と一体!?と思ってしまうくらい、

本当にすぐ隣、でした。

 

少し話しがそれますが、

足立美術館は、

美術展示と併せて日本庭園を愛でることができることで有名で、

アメリカの日本庭園専門誌が選ぶ日本庭園ランキングで

21年連続日本一に選ばれています。

このランキングは、歴史的価値、規模、知名度ではなく、

庭園の質、庭園と建物との調和、

利用者への対応といったホスピタリティ等、

「いま現在鑑賞できる日本庭園としていかに優れているか」を基準に

調査・選考されているそうです。

2023年の発表が12月7日に行われたようで、

私が訪れた際は、20年連続日本一の時でしたが、

普段、美術館には縁遠い私でさえも、

「20年連続日本一なら、その庭園は一度は拝見しておかないといけないか…」

と、思わず足を踏み入れた次第でした。(苦笑)

でも確かに、奥に臨む自然の山を借景として、

それと調和し、一体となった日本庭園を見ていると、

心が落ち着き、清められる思いがしました。

「庭園もまた一幅の絵画である」

というのが、当該美術館創設者の信念だったそうですが、

私は、この庭園という絵画が一番気に入りました。

(ただ単純に、芸術・美術に疎いだけ、という話しもありますが…。)

平日にもかかわらず、朝一から閉館時間間際まで

広大な駐車場に多数の車と大型観光バスが出入りしているのも

うなずけました。

 

そして、その隣に、

これまた落ち着ける和の雰囲気を醸し出すさぎの湯荘さんがあります。

さぎの湯荘さんも広大な敷地を有していらっしゃいましたが、

その1/3を庭園が占めているそうで、

館内を歩いていても、お部屋にいても、

温泉に浸かっていても、お食事をいただいていても、

常に日本庭園を眺めることができました。

私は今回、お部屋の2方向に窓があり、

露天風呂が付いている客室を利用させていただいたのですが、

やはり、いずれの場所から外を眺めても、

日本庭園や和のオブジェを望むことができ、

一貫したコンセプト、ぬかりない配慮が伝わってきました。

 

さらには、人里離れた場所で(笑)、

閉塞感のある小さな個室に閉じ込められがちの喫煙室でさえ、

一面窓の向こうに箱庭のような日本庭園を眺めることができ、

ゆったりとした椅子に腰掛け、

ちょっと贅沢な気分でゆっくりと寛ぐことができます。

喫煙室というよりは、

シガールームという言葉のほうがしっくりときそうな空間。

肩身の狭いご時世の愛煙家にも忘れない心遣いが、

旅館のゆとりを感じさせてくれました。

 

ここまで徹底した理想の眺め、空間をご用意したいと思ってはいても、

現実には様々な制約に阻まれて、

思い通りには成しえないお宿も多いと思うのですが、

それを成し遂げたさぎの湯荘さんのご努力に感服しました。

 

朝食後には、メインの日本庭園の中庭を眺められるラウンジで、

コーヒーをサービスしていただけます。

朝から日本庭園を眺め、ゆったりとコーヒーをいただく優雅な時間は、

まさしく“非日常”を味わえる、旅の醍醐味です。

 

そして、私が楽しみにしていた初めての山陰のお湯も、

ゆっくりと、じっくりと堪能させていただきました。

大浴場と2つの貸切風呂がありますが、

いずれも翌朝9時まで一晩中利用可能。

貸切風呂は、15時~21時までは予約制ですが、

22時以降は空いていれば、ご自由にどうぞ、のスタイル。

さらに、予約制の時間帯も含め、利用料無料!!

もう、温泉好きの方にはたまりませんね。(笑)

 

含放射能ナトリウム・カルシウム・塩化物・硫酸塩泉と、

聞いただけでもいいとこ取りの温泉ですが、

薬用高いラジウム泉とのことで、

肌がすべすべするのはもちろん、

私のがんこな手荒れも気付いたら綺麗になっていました。

一晩中源泉掛け流しで、お湯も軽く、柔らかく、

浸かり心地の良さに、

なかなかあがる踏ん切りがつきませんでした。(苦笑)

 

前述のとおり、大浴場でも、貸切風呂でも、露天風呂付き客室でも、

日本庭園を目の前に、時間を忘れてお湯に浸れる温泉ですが、

源泉温度が45~54度と少し高め、

そして、温泉というのは、

自分が思っている以上に身体が温まっているものですので、

くれぐれも温まり過ぎにはご注意ください。

 

建物の内装は、

恐らく改装されてからそれほど経っていないご様子でしたが、

今風のしっとりした和風の館内に、

老舗の面影を思わせる卓球台を発見しました!

若い方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、

昭和の温泉旅館の楽しみの一つと言えば、

“温泉卓球”でした。(笑)

最近は、卓球台を置いている旅館もかなり少なくなりましたが、

私が以前勤めていた旅館に常備していたミニ卓球台も、

意外と、お子様から大人の方にまで親しまれ、

深夜まで熱中しているお客様もいらっしゃいました。

なぜ、温泉に行くと卓球をやりたくなってしまうのかは謎ですが…。(苦笑)

 

私も、卓球台の傍に置かれていたオセロを、

数十年振りくらいに楽しませていただきました。

シンプルが故にムキになってしまって、

真剣に頭を使いすぎ、終わった後少しクラクラしました。

 

オセロなどやることすら思い付かないほど

目まぐるしく過ぎていく日常を離れ、

どこか懐かしい日本家屋の雰囲気を味わいながら、

浴衣姿で久々のオセロに勤しむ。

「あぁ~、旅館に来たなぁ~…。」

と、一番実感した瞬間だったかもしれません。(笑)

 

そして、楽しみにしていた日本海育ちの山陰の魚介料理も、

存分にいただきました。

欲張って、島根の魚介もお肉もいただけるプランでお願いしたのですが、

お造りは、舟盛りならぬ、まさに“山盛り”!!(笑)

スタッフの方のご説明を真面目に聞いていたのに、

覚えきれないくらいたくさんの種類の旬魚が盛られていました。

改めて、日本海の幸の種類の豊富さに感嘆するとともに、

どれも脂がのり、それぞれの魚介の味がしっかりとしていて、

そんな魚介達をいつも召し上がっている山陰の方々に、

軽く嫉妬すら覚えました。(笑)

 

名物ののど黒、しまね牛、大山鶏ももちろん美味しくいただきましたが、

たくさんお出しいただいたお料理一品一品、丁寧な優しい味がして、

いただくこちらも心がほっこり優しくなるようでした。

私の一番のお気に入りは炊き合わせ。

濃すぎず、薄すぎず、

しっかりと味は染み込んでいるけど、さらっと平らげてしまい、

最後に出汁の効いた煮汁を飲み干し、

「(あ)はぁ~…。」

と満足感に浸りました。

 

翌朝には、

“これ、あさり!?”

と思うほど、大きなしじみの入ったお味噌汁をいただき、

再び、

「(あ)はぁ~…、しあわせ…。」

本当に、舌や味覚だけでなく、心も満たされるお食事でした。

 

客室や館内も、私にとってはとても居心地が良く、

「どうして、こんなに居心地が良いのだろう…。」

と、キョロキョロ観察してしまうくらいでした。

古の日本家屋の雰囲気は残しながら、

今時の和モダンのデザインを取り入れ、

そのバランスが絶妙でちょうど良い。

現代の居心地良い居住性を兼ね備えながらも、

和の落ち着きに包まれる心地良さ。

 

さらには、高級旅館の佇まい、贅沢な造りではありながら、

なんだか心がすっと馴染み、

気取り・気張りの必要を感じず、

臆することもなく、ゆったりと身を置ける雰囲気。

これは恐らく、ハードのみならず、

スタッフの皆さんのお人柄も関係しているのだろうと思います。

私がお会いしたスタッフの方々は、

皆さん、明るく気さくで、

程よい距離感の心配りができる親切な方々でした。

「高級旅館なら、もっとビシッとかしこまってないと!」

という方もいらっしゃるかもしれませんが、

私には、スタッフの方々の

”ちゃんとしているけど、肩肘張らない自然体度合い”

がとても心地良く、心の底から寛がせていただきました。

 

「やはり、お宿というのは、

そこに働く人たちの雰囲気を否が応でも反映するものなのだなぁ…。」

と、改めて実感しつつ、

さぎの湯荘さんと、

さぎの湯荘さんを作り上げているスタッフの皆さんと出会えたご縁に

感謝した次第です。

 

気に入ったお宿が見つかると、

帰りたくなくなってしまうのが私の悪い癖。

本当に、「もうここに住みたい!!」と、

かなり帰り難かったですが、

「いつかまたお邪魔しよう!」

と強く心に誓い、やっとの思いでお宿を後にしました。

 

さぎの湯荘の皆さん、必ずまたうかがいます!

再びお目にかかれるその日まで、お互い、頑張りましょう♪


【東京都・奥多摩町】奥多摩の風 はとのす荘

2023-09-24 18:28:47 | ホテル

前回の投稿から、思いがけず3ヶ月半が経ってしまいましたが、

ようやくの第5弾は、

 

東京都・奥多摩町「奥多摩の風 はとのす荘」さん

(以下、「はとのす荘さん」と呼ばせていただきます。)

 

をご紹介します。

 

キャンプやバーベキュー、登山などが得意でない私は、

西東京方面に何かとご縁がありながら、

奥多摩に行ったことは、あるような、ないような…、

といった具合で、記憶の中では今回がほぼ初めてでした。

 

奥多摩=深い山の中

という個人的なイメージがあったので、

若い頃のように怖いもの知らずで運転できなくなってきた私としては、

道中が少し不安でしたが、

高速のインターチェンジからホテルまで、

中央線がないような狭い箇所もなく、

物凄い山道というほど蛇行しているわけでもなく、

時々対向車とのすれ違いに気を遣う箇所はあったものの、

安心して運転していくことができました。

 

はとのす荘さんは、

1960年に国民宿舎「鳩ノ巣荘」さんとして建てられたものを、

2015年に完全建て替えリニューアルして、現在の姿となったそうです。

恐らく、国民宿舎時代のファンの方も多くいらっしゃったことと思います。

 

宿側としては、

ほんの些細なサービスを変更する時や新たに始める時ですら、

それにより逆にがっかりされるお客様がいらっしゃるのではないかと

頭を悩ませます。

ましてや、完全建て替えリニューアルともなれば、

様々な反応やご意見が多数出てくることは、

容易に想像できたことと思います。

 

ただ、それでも、時代の変化や環境・状況の変化に応じて、

宿側も変わらなければならない時があります。

それまでのファンの皆様には不満が生じる可能性があることを覚悟の上で、

それでも、これからも宿を長く続けていくため、

さらに一人でも多くのお客様にご利用いただき、

少しでもより高い満足感を提供できるようにするために、

今後、自分達は何を大切にし、何をどのように提供していくのか。

真剣に考え、悩み、

時には社内でも意見が対立することもありますが、

議論を尽くして自分達の方向性を定め、

それに向かって設備やサービスを作り上げていきます。

 

番外編「はじめに」の記事にも書かせていただいたとおり、

できることなら、お客様に喜んでいただける全てのものを揃えたいと、

もちろん宿側も望みます。

しかし、現実には様々な制約があり、

その望みを叶えることは難しく、

取捨選択をしなければならないことがほとんどです。

 

また、一つのサービスを取ってみても、

それを喜んでくださるお客様もいらっしゃれば、

不満・不快に感じるお客様もいらっしゃる。

全てのお客様に100%ご満足いただけるサービスというものは、

現実的には存在しないのだと、

多くのお客様に接しているとつくづく思います。

残念なことではありますが、

お客様それぞれに感じ方、考え方が異なるので、

それがどうしようもない現実なのです。

 

それでも自分達が自信を持ってお客様に接していくために必要になるのが、

お客様のことを十分に考えたうえでの確固たるポリシーです。

「お客様の望みに届かない部分があることを重々承知のうえで、

それでも、お客様にご満足いただき、喜んでいただくために、

自分達はこういうモットーで、こんなサービスを提供していこう!」

というポリシー。

それがあることで、

お客様の不満を素直に受け入れ、心からお詫びをすることができ、

代わりに、自分達ができるサービスなどを提案し、

自分達らしく、自分達ならではのサービスで

お客様に少しでも喜んでいただく、

ということが可能になります。

 

きっと、はとのす荘さんの完全リニューアルの際にも、

お客様のことを考えながら、

相当な検討が様々なされたことと思います。

変化による結果の責任を負うことになるのは当然宿側なので、

入念な検討をしないはずがないのです。

安易な考えやお客様のことを置き去りにした考えで

大きな変化を敢行してしまえば、

宿の存続すら危うくなるリスクが大きくなります。

特に最近は、お客様の目も洗練されていて、

まやかしはすぐに見抜かれてしまう時代であることは、

誰の目にも明らかです。

 

以前の鳩ノ巣荘さんのファンの方々が、

現在のはとのす荘さんを残念に思う部分もあるかとは思いますが、

もしかしたら、以前より魅力的になったところもあるかもしれない、

という視点で改めて見てみてくださるといいな…、と、

勝手ながら、個人的に思っています。

(私ははとのす荘さんとは何の関わりもないですが、

元同業者の一人として、

関係者の皆さんの努力が報われることを祈りつつ…。)

 

私は、申し訳ないことに国民宿舎時代の鳩ノ巣荘さんを存じ上げないので、

あくまでもビギナーとして、

現在のはとのす荘さんだけを利用させていただいた備忘となります。

”鳩ノ巣荘さん”のファンだった方には、

ご満足いただける内容にはならないかと思いますが、

なにとぞご容赦ください。

 

奥多摩湖から流れる多摩川に面し、

四方八方を山に抱かれた渓谷に佇むはとのす荘さんは、

東京都でありながら、山のリゾートのいで立ち。

都心から車で2時間前後でありながら、

山深い奥多摩湖まで20分、山梨県までは30分の距離とのこと。

それなら、この山の風景も納得、とも思いましたが、

やはり、長野の山の中と同様の景色が東京にも広がっているというのは、

なんだかちょっと嬉しい違和感でした。

 

玄関から山荘を感じる、

優雅でありながら、柔らかい、ほっとする雰囲気のデザイン。

そして、入口のドアを抜けると、

正面の全面窓一面に青々とした山の木立が迎えてくれます。

ロビーの中にもかかわらず、思わず深呼吸をしたくなりました。

華美ではなく、清潔感のある白を基調として、

木目調やブラウン系でまとめられたロビーは、

窓の外の緑に馴染み、落ち着きと寛ぎが優しく演出されていました。

 

3階の洋室を使わせていただきましたが、

客室内も、山の景色を邪魔しない木目・ブラウン系・淡い緑。

清潔感ももちろんですが、

完成から8年、客室を綺麗に保たれている努力に感服しました。

気持ち良く、ゆったりとリラックスして、滞在することができました。

 

もし、最近同じ客室を利用された方がいらっしゃったら、

HPの写真と実際が異なっていた点に気付かれたでしょうか?

HPの写真ではお部屋の奥にあるソファーが壁に沿って置かれているのですが、

現在、実際は窓に向けて置かれていませんでしたか?

元々はHPの写真のように壁を背にし、

反対の壁に向けて置かれていたそうですが、

お客様にもっと山の滞在を楽しんで欲しいとの思いから、

現在の山を望める窓へ向きを変えられたようです。

 

本当にちょっとしたことではありますが、

そこにはお客様への大切な思いが込められています。

そのちょっとした気付き、気遣いが、

お客様の満足を高められる可能性がある。

接客業の冥利、醍醐味です。

そして、常にそういう思いで自分達の業務や宿を見ていくことが、

いつかお客様の大きな満足につながっていく。

「もっとお客様のためにできることはないだろうか。」と、

日頃から自分に問い続け、

小さな努力を積み重ねていくことの大切さを、

改めて勉強させていただきました。

日々の業務に追われていると、

どうしても忘れがちになってしまったりするのですが、

そういう努力を怠らないはとのす荘さんには脱帽でした。

 

客室内の浴室も正面の山を眺められるビューバス。

しかもゆったりとした作りで、

のんびりとバスタイムを楽しめるようになっていました。

客室のバルコニーからは、

山間を流れくる多摩川を見下ろすことができます。

用意されているチェアに座り、

朝にはコーヒーなどをいただきながら、

大自然の澄んだ空気に包まれている間は、

そこが東京だということを忘れていました。

多摩川も、

川面からせり立った山の斜面に建つはとのす荘さんの3階からでも

川底が透けて見えるほど澄んでいます。

車でたった2時間の距離なのに、

都心とはこんなにも川の表情が違うのか、

と不思議なくらいでした。

 

東京にいながらにして、この大自然を満喫できることは、

はとのす荘さんの最大の魅力であり、

それをお客様に存分に楽しんでもらうために、

多くの工夫と準備をしているはとのす荘さん。

奥多摩に豊かに残る自然にも、

はとのす荘さんにも感謝です。

 

そして、スタッフの方々にも感謝。

フロントでは、的確でありながら、

親切、丁寧、かつ穏やかで、かしこまり過ぎず親近感もあり、

リゾートホテルのフロントに相応しい方々にご対応いただきました。

レストランでも、

恐らく地元の主婦の方々もお仕事をされていたと思うのですが、

皆さん、お料理や飲み物のことはもちろん、

配膳の仕方、接客など、よく勉強されている様子が垣間見えました。

そして、忙しい最中でも、優しい笑顔を絶やさずに、

何よりも、お客様に楽しんでもらおうと

一生懸命対応してくださる姿に好感が持てました。

建物はリニューアルにより近代的で新しいものでしたが、

恐らく、いつの時代も変わらないのであろう

地元の方たちの穏やかで優しい人間性に触れた気がしました。

 

お食事は、ホテルらしく洋食、

夕食は”お箸で食べるイタリアンのコース料理”。

失礼ながら、想像以上に本格的なイタリアンでした。

近所にあったら、

「今日はちょっと優雅なイタリアンを食べに行こうか?

という時に行きたくなるような。

でも、あまり気張らず、

気軽にうかがえる心地良いコース料理レストラン。

最初から最後まで一皿一皿丁寧に作り上げられたお料理を、

温かいお料理は温かい器で、

大切に一皿ずつ運んでくださいました。

旬の地元食材を美しいイタリア料理に仕立てておられ、

どのお料理も目にも口にも美味しいものばかりでした。

お箸でいただけるせいか、

変な緊張感もなく、普段どおりリラックスして食事を楽しみ、

純粋にお料理を味わうことができました。

 

朝食も色鮮やかに盛り付けられた華やかな洋食。

その彩りに寝ぼけた目も覚め、

朝からいただける美味しいお料理に刺激を受けて、

頭も身体も快調に一日の活動を始めました。

ビュッフェではありませんが、

身体にしみ込む野菜やフルーツのジュース数種や、

牛乳・お水は、お願いすると何度でも席へ運んでくださいます。

朝食にはなるべく手間をかけなくなったお宿も多いなかで、

はとのす荘さんの献身的なポリシーが見えた気がしました。

 

私が何より嬉しかったのは、夕食も朝食も、パンが美味しい!!

食べること自体大好きなのですが、

特に、美味しいパンに出会うと、この上ない幸せを感じ、

フランス料理やイタリアンではパンのロケットスタートが勢い良すぎ、

メイン料理の頃にはおなか一杯になってしまって、

メインのお料理なのに楽しめない…という失敗を何度繰り返したことか…。

そういえば最近、パンを楽しむ機会にあまり恵まれていなかったのですが、

久々に、好みの食感、好みの味わいの感動的に美味しいパンをいただけて、

久々の幸福感に浸りました。

パンは人によって好みがかなり異なるので、

軽々しく、”皆さんにおススメ!”とは言えませんが、

今回5名で利用させていただいて、

5名全員が、「パンが美味しい」という意見で一致しました。

 

はとのす荘さんには、日帰り入浴もできる大浴場があります。

面積が広大というわけではありませんが、

ゆったりとした作りになっています。

私が利用した日も恐らく満室だったと思うのですが、

お夕食を召し上がっている方もいた時間帯だったせいもあるのか、

同じタイミングで入っていた方は3~4人ほどで、

窮屈な印象はありませんでした。

内風呂も浴槽から天井まで一枚窓で山の風景が広がり、開放感があるのも、

ゆったりとした雰囲気に一役買っているのかもしれません。

 

その内風呂は、2017年から自家源泉の「鳩ノ巣温泉」を

かけ流しされているそうです。

湯量が多くないとのことなので、

こじんまりに見える浴槽も温泉のためには良いかもしれません。

温泉は限りある貴重な資源なので、

長い期間、できるだけ多くの方に楽しんでもらうためには、

一気に使い過ぎないことも大切です。

場所柄、本当に貴重な温泉だと思うので、

東京の貴重な大自然のなかで、

貴重な温泉に浸かれる贅沢を、

ありがたく堪能させていただきました。

 

そして、眼前に迫りくるように山が広がる露天風呂。

こちらは運び湯の温泉だそうです。

極上の癒しを追求するために、

手間を惜しまず運んでくださったお湯に浸かり、

濁りのない空気に包まれていたら、

自分の中の日頃の淀みも、ふわ~っと抜けていくようでした。

 

はとのす荘さんの駐車場から多摩川へ降りる小道があり、

多摩川沿いをハイキング・散策できる道につながっています。

はとのす荘さんのお客様に限らず、

早朝から多くの方が気持ち良さそうに歩いていらっしゃいました。

そんなふうに、実際に自分の足で歩いて、

奥多摩の大自然に触れるも良し、

私のようにアウトドアが得意でない方は、

ただひたすらのんびりと大自然の空気を感じるも良し。

それぞれの楽しみ方で東京の貴重な自然を満喫できるお宿でした。

遠出して、日常の喧騒から離れたかのようなリフレッシュぶりで、

はとのす荘さんの玄関を出発しました。

 

日本って、東京って、

狭いようで、

なかなか広いです。

ほんの少し足を延ばすだけで、

まったく異なる景色が広がっていたりします。

侮れません、日本。

 

それを教えてくださり、

ありがとうございます、

はとのす荘さん。


【長野県・軽井沢町】軽井沢プリンスホテル イースト

2023-06-11 00:34:42 | ホテル

これまで3つの旅館をご紹介してきたので、

この辺でホテルについても書き残しておこうと思います。

 

これまでお仕事をさせていただいたのはいずれも旅館でしたが、

振り返れば、私のお宿好きはホテルから始まりました。

元々、建物の間取りとか内装を見るのが好きだったのと、

(専門的知識は全くありません。ただ、興味として好きなだけです。)

素敵なホテルへの憧れが相まってお宿に興味を持ち、

まだ全く畑違いの仕事をしていた若い頃、一週間休暇を使って、

都内のホテルを日替わりであちこち泊まり歩いたことがありました。

今考えると、ちょっと変わってましたね。(苦笑)

一時は、海外のホテルの優雅さに取り憑かれ、

ホテルを体験してみたいがために1人で海外に泊まりに行き、

たいして観光もせずに帰ってくる、なんていう旅行も度々していました。

やっぱり、ちょっと変わってますね。(笑)

 

私が、旅行に行っても、

観光よりお宿自体をゆっくり楽しみたいと思うようになったのも、

海外のホテルで見た外国の方達の時間の過ごし方に衝撃を受けたからでした。

それまでは、

「旅行とは、観光するもの。」となんとなく思っていたのですが、

特にリゾートホテルに来ている外国の方達は、

どこにも出かけずに、プールサイドやプライベートビーチ、

ライブラリーやお部屋などでほんとにただただゆっくりされる方も多く…。

それが私には何とも優雅に、贅沢に見えたんですよね…。

リゾートという立地柄もあるでしょうし、

外国にはバケーションと称する長期休暇を取る文化があったりもするし、

そういう人達だって、

他の日はめっちゃ観光したりしているのかもしれませんが、

日常の雑事から解放されて、ひたすら寛ぐ時間、

それが一番贅沢な時間の使い方なのかも!

と、その時の私にとっては目からうろこでした。

そこから、何よりも快適に寛げるお宿に興味を持つようになった次第です。

そして、さらに、そういうお宿を作ってみたいな…と思うようになり、

今に至る。

(もう少し詳しい経緯は、

番外編「はじめに」に書かせていただいております。)

 

若かったから、そういうゆったりとした嗜みが大人に見えて憧れた、

ということもあったかもしれません。

今は逆に、やはりせっかく出かけたのなら、

その土地ならではのものを見たり、体験したりするのは楽しいな、

と思ったりしています。

 

また、前置きが長くなりましたが、そういうわけで今回は、

 

長野県・軽井沢町「軽井沢プリンスホテル イースト」さん

(ちょっと混乱を招くかもしれませんが、

「軽井沢プリンスさん」と呼ばせていただきます。

「軽井沢プリンスホテル ウエスト」さんもあるので、

こちらについては、「ウエスト」さんと明記するようにします。)

 

をご紹介します。

あまりに有名過ぎて、

ご存知の方、ご利用になられた方も多いと思いますが。(笑)

 

特に、「プリンスホテル」さん贔屓なわけではないのですが、

お宿の仕事を始める以前の仕事でお世話になったり、

プライベートでもなんだかんだ各地で結局お世話になることが多く、

それは、プリンスホテルさんが様々なお客様のニーズを

しっかりと掴んでいるということなのだろうなぁ、と思うと、

さすが、プリンスさん!といつも感心してしまいます。

 

ご記憶にある方も多いと思いますが、

プリンスホテルグループさんもいろんないろんなことがありました。

鉄道事業から始まった西武グループさんが、

「プリンスホテル」さんを生み出し、

宿泊事業を展開し始めてからの歴史も長くなってきたので、

当然と言えば当然のことかもしれません。

全国各地に拡大していた数々の「プリンスホテル」さんのうち、

不採算施設は閉業したり、切り売りされたり、ということもありましたが、

勢いがあっただけに時流にも乗り、

放漫になってしまいがちだった経営を見直し、立て直し、

逆に厳選された「プリンスホテル」さんが、

今もなお数多く存続しています。

 

特に、ホテルだけでなく、その周辺を一体として開発する上手さは、

目を見張るものがあります。

下手の横好きでウィンタースポーツを続けているのですが、

苗場、志賀、妙高杉ノ原など西武グループさんのゲレンデは、

アクセスが良かったり、ホテル直結で便利だったり、

楽しめるコースが多かったりで、大変お世話になっています。

私たち世代には、プリンスホテルの象徴のような存在だった苗場を

売却すると聞いたときは、さすがに衝撃でしたが、

西武グループさんの問題というよりも、

ウィンタースポーツ人口が減少の一途を辿る現在、

やむを得ないのかな、と思います。

 

また、今回ご紹介する軽井沢も、

周辺一帯を開発して成功している事業の一つですね。

多彩なホテルだけでなく、広大なアウトレットモール、

なかにはプロツアーも行われるものも含む多くのゴルフ場、

ファミリーゲレンデなど、

物凄い敷地面積で事業を行っています。

休日には必ず多くの人が集まり、車で行ったら、必ず渋滞にはまります。

 

スムーズであれば、軽井沢から車で1時間ほどの旅館で仕事をしていた際、

ご到着前に休日の軽井沢アウトレットを楽しまれたお客様が渋滞にはまり、

お夕食時間内にご到着になれない、という事態が頻繁にありました。

私が働いていた旅館は、

旅館にしては比較的遅めの時間までお夕食を提供していましたが、

旅館によっては18時や18時半がお夕食開始の最終時間というお宿も

結構ありますので、

休日に軽井沢周辺のお宿をご利用の場合は、

お夕食時間を予めご確認のうえ、

十分に余裕を持って計画を立てられるか、

できれば軽井沢観光はチェックアウト後にご予定されると、

時間に追われることもなく、安心して楽しめるかと思います。

予定していたお夕食をお客様に提供できないというのは、

旅館としても大変切ないことなので、

お互いの幸せのために是非ご検討いただければと…。

 

確か15年程前だったと思いますが、

プリンスホテルさんは、3つのブランド「ザ・プリンス」、

「グランドプリンスホテル」、「プリンスホテル」を立ち上げ、

各施設をブランド分けしました。

現在は「プリンス スマート イン」を加え、

4ブランドで展開されています。

お客様も用途などのニーズに応じて、

カテゴライズされた施設のなかから選びやすくなったと思いますが、

プリンスホテルさんはその土地その土地のニーズに合わせた施設作りが

上手いなぁ、と利用する度に思います。

品川プリンスホテルさんのアネックスタワーは、

基本、ビジネスホテルスタイルですが、

勤務先の自席よりも広々としたデスクが設えてあり、

「ここで仕事したい!!」と本気で思いました。(笑)

 

軽井沢プリンスさんも、

軽井沢の自然豊かで別荘地としても有名な風景にマッチした造り、

ゆったりと山のリゾートで寛げる雰囲気を演出しています。

木目やレンガを基調にした内装・インテリア、

ラウンジには大きな暖炉があり、

フロントに入った瞬間に、

「山のリゾートに来たぁ~」という気分にさせてくれます。

利用させていただいたのはフォレストツインルームだったと思うのですが、

大きなピクチャーウィンドウから外の木立なども見えるせいか、

32㎡とは思えないほど、のびのびとゆっくりさせていただきました。

さらにバスルームもホテルにしては贅沢な広さ。

バスタブ、洗面、トイレが一緒になっているユニットバススタイルとは言え、

シングルベッド2台くらいは十分に置けそうなスペース。

スタイリッシュなデザインも相まって、

バスルームとして使うだけではもったいないような…、

売りの温泉大浴場があるけど、

ここでもお風呂に浸かってゆっくりしないと損のような…、

そんな気がしてくるバスルームでした。

 

客室ももちろんですが、

私の場合、トイレ・洗面などのバスルームが素敵で充実していると、

とても贅沢な気分になります。

自宅だとバスルーム関係って、機能性重視だったり、

居室を広く取ろうとすればするほど小さくなりがちだからですかね。

これも一つの非日常感なのかもしれません。

自分でもあまり気付いていませんでしたが、

私にとってはバスルームが最重要チェックポイントかも。(笑)

 

軽井沢での優雅な休日にぴったりの解放感、快適さで、

客室滞在を満喫させていただきました。

 

軽井沢という土地柄でもありますし、

また、SEIBU PRINCE CLUBの優待価格で

利用したせいもあるかもしれませんが、

コストパフォーマンスは良いほうだと思いました。

これまた、全くプリンスさんの回し者ではないのですが、

プリンスホテルさんや西武グループさんのレジャー施設、

ショッピング施設などをちょくちょく利用される方は、

SEIBU PRINCE CLUBさんに入会されるとお得だと思います。

プリンスホテルさんを優待価格で利用できることに加え、

今は、獲得したポイント分をそのまま宿泊料金に充当もできます。

西武グループさんのレジャー施設利用時にも割引を受けられたり、

その他、様々な特典もあったりするので、

お得に利用しつつ、気付いたら、いつの間にか結構ポイント貯まってた!

ということが、私も何度もありました。

もちろん、これはみなさんのご希望次第なので、ご参考までに。

 

そして、プリンスホテルさんは、

ホテルでありながら大浴場を備えている施設も多いですが、

軽井沢プリンスさんもその一つであり、

しかもホテル敷地内から汲み上げているという天然温泉です。

イースト本館とザ・プリンス軽井沢さんの宿泊者専用とのことで、

利用制限がいくつかあるので、

ご利用希望の場合は予めホームページを確認されることをお勧めします。

私が利用した際は、和風温泉の雰囲気のエリアと、

その奥のSPAといった雰囲気のエリアを女性が利用可能となっていました。

ナトリウム-塩化物温泉の温泉成分も

肌をつるつるしっとりさせてくれますし、

軽井沢は雪解け水で水もつるつるしているので、

肌の調子も快調でした。

 

実は私が一番楽しみにしていたのは、

「ホテル」とは少し路線がずれてしまいますが、

「鉄板焼 森」さんでのお食事です!

私は、最後の晩餐は絶対に鉄板焼き!と決めています。

かと言って、

気軽にしょっちゅう鉄板焼きを食べられるほど裕福ではないので、

イベント事や自分へのご褒美などで利用するくらいですが、

「焼く」というシンプルな調理法だけで素材のおいしさを引き立たせ、

視覚で料理人さんの技を、

嗅覚と聴覚で調理中の何とも食欲をそそる香りと音を堪能できる

鉄板焼きというお料理を初めて知ったときの感動がいまだに消えず、

自分に口実を与えられる時は鉄板焼きをチョイスしています。(笑)

 

そして、この軽井沢プリンスさんの中にある「鉄板焼 森」さんは、

前述の軽井沢周辺に住んでいた頃に何度か利用させていただいたのですが、

お席が3方向全面ガラス張りになっていて、

まさに「森」の中でお食事をしている気分を味わえます。

鉄板焼きというと、ゴージャスなお部屋の中や

正面の眺望が素敵なお席は多い気がしますが、

この3方向を自然に囲まれているというお席は、

軽井沢らしくもあり、

また、私はなかなか出会ったことがありませんでした。

春は桜、夏は清々しい森の風景、

秋は紅葉、冬は雪景色と、

四季折々の自然の風景に囲まれて、

気持ち良く、心地良く、ゆったりとお食事をいただけます。

ただ、基本的には”森の中”にあるので、

陽が落ちてしまうと、当然ながら真っ暗で何も見えません。

ご利用される場合は、ランチもしくは早めのお夕食で、

是非景色が見える時間帯をお勧めします。

 

鉄板焼きは、ご存知のとおり、

料理人さんが目の前で最初から最後までお料理を作り上げてくださいますが、

料理人さんはお料理をしつつ、接客もしてくださいますので、

お客様側の様子も実に良く見ていらっしゃいます。

様々なお客様の前でお料理をされるので、

接客のスキルも見習いたいところがたくさんあったりします。

基本的には、お料理の職人さんなので、

寡黙な印象の方、もしくはそう見える方が多いですが、

私は結構、料理人さんの手元をじっと見つめ、

発見や驚きを連れと正直に言葉にし合ってしまうタイプなので、

それを耳にした料理人さんがいろいろ説明をしてくれたり、

新たな知識を教えてくださったりすることが多いです。

その話しにまた質問を返したり、感動や感謝を示していると、

時には、予定外の味付けをサービスしてくれたりすることもあります。

要するにそこはもう、商売とか、料理人さんとお客という関係とかを超えて、

人と人としてのコミュニケーションになり、

お客である私たちは純粋に一人の人間として

料理人さんの技や知識を賞賛し、

料理人さんは純粋に一人の人間として

自分の持てるものを提供しようとしてくれる。

これこそ真の接客の姿だと思うとともに、

これが楽しくて、嬉しくて、

私は鉄板焼きが好きなのだといつも改めて実感します。

昨今はお寿司屋さんなども対面のカウンターは敬遠されがちで、

回転寿司のほうが気楽でいいと思う方も多いと聞きます。

確かに、そういう面もあると思いますし、

TPOに合わせて選択肢があることはいいことだと思いますが、

対面ならではの良さ、楽しさがあり、

それは何よりも人と人とのコミュニケーションであることを

忘れたくないな、と私は思っています。

 

ステーキは何でもミディアムレアが美味しいと思い込んでいましたが、

ある時うかがった鉄板焼き屋さんで、

料理人さんが、

「サーロインやロースなど脂の多い部分は、

ミディアムウェル(=ミディアムウェルダン)がお勧めです。」

と教えてくださり、

それならば、といただいたミディアムウェルのお肉が

びっくりするほど美味しかったことがありました。

ミディアムウェルなんていう頼み方があることすら知らなかったのですが、

それ以来、脂の多い部分のお肉をいただくときは、

決まってミディアムウェルでお願いしています。

 

今回、久しぶりにうかがった「鉄板焼 森」さんの料理人さんとも、

存分に人としてのコミュニケーションを楽しみ、

もちろん、お料理も堪能させていただき、

大満足の時間を過ごさせていただきました。

具体的詳細を書いてしまうと、

いろいろとご迷惑をおかけしてしまう可能性があるので差し控えますが、

次回うかがうときは是非指名させていただきたい料理人さんだと

初めて思ったくらいでした。

 

今回、朝食付きプランで予約をしたので、

ホテル内のレストラン「Karuizawa Grill」さんで朝食をいただきました。

洋食か和食を選べるようになっていましたが、

どちらも栄養バランス、彩りも良く、

ホテルらしい見た目も華やかなお料理で、

もちろんボリュームも満点。

朝からお腹いっぱいいただいてしまい、その日は昼食を抜きました。

 

前日、「鉄板焼 森」さんでサーブしてくださったスタッフの方が、

偶然、朝食のアテンドもしてくださり、覚えてくださっていたようで、

「昨日はありがとうございました。」

とご挨拶くださいました。

ホテルマンらしくスマートな印象の男性の方でしたが、

きりっとしたなかに物腰の柔らかさや親近感もあり、

お食事の場にふさわしい清潔感、爽やかさもあり、

気持ち良く、かつリラックスして朝食をいただくことができました。

 

フロントスタッフの方々も、

軽井沢のホテルにふさわしいスマートな印象でした。

手続きや処理もてきぱきとしているのですが、

バタバタとはしておらず、

サッ、サッ、スッ、と終わる感じで。

かと言って、機械的な印象ではなく、紳士的。

物静かで、

ベタベタした感じではないけど

歓迎してくれているのが伝わってくるというか。

 

忙しいなかで、迅速に対応しつつも、

お客様にバタバタした印象を与えないというのは、

寛ぎを提供すべきお宿としてとても大切なことである一方で、

実際はとても難しいことです。

人間、忙しいと、やはりどうしてもバタバタしてしまうものなので…。

さすが、プリンスホテルさん、と感心すると同時に、

見習いたいな、と激しく自分を反省しました。(笑)

 

フロントスタッフなどの接客も、

お宿のコンセプトや方針、土地柄や客層などによって、

お宿ごとに色が違います。

私の個人的な印象では、京都はどちらかというと、

凜とした感じの接客文化が強い気がします。

もちろん、笑うところではきちんと笑いますが、

笑顔至上主義ではないという感じですかね。

まさに土地柄もあると思いますが、

プライドと気品を軸にした接客という感じで。

だから、お客様によっては、それを冷たいと感じる方もおられ、

時々トラブルが起きたりもします。

京都の人からすると、何の悪気もなく、

本当に普通の対応をしているだけなのですが、

常に笑顔で接客されることが当然のなかで生活をしている人から見ると、

確かに、愛想がない、冷たいと感じられることもあるかもしれません。

日本は小さいと言っても、その土地その土地で風土や文化が違います。

そして、お宿ごとに大切にしているもの、売りにしているものも違います。

その結果として、時には自分の好みでない接客を受けることもありますが、

それもまた、自分好みのお宿を探す楽しみの一つ、と私は思っています。

 

日本のホテルの先駆けでありながら、

時代やニーズに合わせて工夫と進化を続けているプリンスホテルさん。

これからもいろんな場面で、

気付けばプリンスホテルさんを選んでいた、

ということがあるのだろうと思います。

プリンスホテルさん、これからもお世話になります。

よろしくお願いします。


【静岡県伊豆市・修善寺温泉】新井旅館

2023-05-29 17:21:13 | 旅館

お宿好きな自分の備忘のために書き始め、

お客様の立場に立てば、

「宿側の勝手な都合」

と思われても致し方ないことも書かせていただき、

果たして誰かのお役に立つものなのか、

今時、写真の1枚もないような記事を読んでくださる方がいるのだろうか、

と半信半疑で始めてみましたが、

「いいね」や「役立った」を押してくださる方がいらっしゃると

とてもありがたく思います。

「応援」や「続き希望」を押してくださる方がいらっしゃると

書く勇気が湧いてきます。

リアクションをいただいた皆様、ありがとうございました。

高齢の親と寄り添いながらの生活のため、

投稿ペースがかなりゆっくりになってしまっていますが、

細々と続けていきたいと思いますので、

よろしければ、気の向く際にお立ち寄りいただければ幸いです。

 

また、お時間の許す際に、私のお宿の見方のベースを書かせていただいた

番外編「はじめに」

も併せてご覧いただけると、

誤解が生じる可能性も低くなるのではないかと思っています。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

前置きが長くなってしまいましたが、

第三弾は、「源泉掛け流しのお宿でのんびりしたい!」と思い、うかがった

 

静岡県伊豆市・修善寺温泉「新井旅館」さん

 

をご紹介します。

 

新井旅館さんは、数々の映画・ドラマ・CM等々のロケ地になってきたので、

ご存知の方も多いかもしれません。

創業は明治5年、150年余りの歴史を持ち、

横山大観や芥川龍之介をはじめとする著名な文人・墨客に愛され、

15棟の建物が国の登録有形文化財になっているという、

聞いただけで日本文化の香りに包まれそうなお宿です。

(新井旅館さんの公式HPに詳しい情報がたくさん掲載されています。)

梨園ともご関係が深いそうで、

2代目松本白鸚さん(9代目幸四郎さん)と一緒に作られたという

新井旅館さん謹製の「幸四郎」というお茶菓子が

客室に用意されていました。

 

門に立ち、お宿を目の前にした瞬間に、

「ザ・日本のお屋敷」という印象の建物、

垣間見える癒やしのお庭の雰囲気、

ロケ地に選ばれるのもうなずける出で立ちです。

ロビーに一歩入ると、歴史を重ね、貫禄が備わった空間に、

ちょっと気後れするくらいでした。

でも、スタッフのみなさんがにこやかに、気さくにご案内くださるので、

そんな緊張もすぐにほぐれます。

 

15年ほど前にも一度うかがったことがあるのですが、

その際も感動した見事なお庭は健在で、

今回は前回よりもじっくりとお庭を堪能してきました。

山間の立地でありながら、新井旅館さんは広大な敷地を所有しておられ、

鯉が泳ぐ大きな池を囲むように客室が並んでいたり、

山の斜面を登る渡り廊下の途中に離れがあったり、

館内通路からは大きな窓越しに川が流れる庭園が見えたり…。

どこもかしこも本当に古き良き日本家屋のたたずまいです。

 

私が一番気に入っているのは、ロビーから出てすぐの池の脇の渡り廊下です。

お庭の川が流れ込むこの池にもたくさんの鯉が泳いでおり、

右手にはそのお庭の川にかかる太鼓橋が視界に入ります。

そんな絵画のような風景の渡り廊下で

コーヒーやジュースをいただくことができます。

晴れた春の朝、心地良いそよ風を受けて、

日本庭園の木漏れ日を眺めながらいただくコーヒーは最高でした。

修善寺温泉は、”伊豆の小京都”とも言われているそうですが、

まさに京都の別荘にお邪魔したような、ゆったりとした優雅な気分でした。

 

お恥ずかしながら、修善寺温泉が”伊豆の小京都”と言われていることを

全く知らずに今回もうかがったのですが、

実は一時、京都の旅館でお仕事をいただき、住んでいたことがあり、

修善寺はずいぶん京都に似ているなぁ~…

とずっと思いながら滞在していました。

帰宅後に調べてみて納得。

それは京都に似ているはずですよね。

”小京都”と言われているくらいですから。(笑)

 

修善寺温泉を流れている川の正式名称は修善寺川だそうなのですが、

桂川という通称のほうが今はメジャーになっているようで、

京都の嵐山を流れるあの桂川と同じです。

修善寺の桂川にも渡月橋がかかっていて、竹林もあります。

”小京都”なので、規模は京都に比べるとすべてコンパクトで、

きっと観光のために後付けされたものもあると思いますが、

源氏や北条家ゆかりの地でもあるので、

昔から京都をイメージして施されてきたものもあるのかもしれません。

 

私が一番嬉しかったのは、

京都同様、修善寺の青紅葉も素晴らしかったことでした。

京都の桜、紅葉はもちろん見事で、

その時期の京都が大混雑してしまう理由は良く分かります。

ただ、実際に京都に住んでみたら、

静まりかえった広大な寺社仏閣で、

半端なく蒸し暑い京都の夏に涼を運んでくれ、

青い空に活き活きと映えて生命力を感じる

鮮やかな緑の青紅葉が一番好きになりました。

クーラーがない場所では屋内外問わず、

じっとしていても汗が噴き出し、流れてきて、

何事にも気力が失せる京都の夏ですが、

青紅葉を見ていると清々しさを感じ、少し気力が湧いてきます。

 

今回、新井旅館さんでご案内いただいたお部屋が桂川に面していて、

川に覆い被さるように美しく生い繁る青紅葉を窓から眺めたとき、

京都で感じたのと同じ清涼感と力強さに、

癒やされ、元気をもらい、嬉しくなりました。

 

以前うかがった際は、

和のアンティークといった雰囲気のお部屋だったと記憶していますが、

新井旅館さんも残すべきところは残しつつ、

少しずつ改装をされているようで、

館内通路の壁なども綺麗にされてからそれほど経っていないようでしたし、

ご案内いただいたお部屋も古さを感じず、

居心地の良い、綺麗な和室でした。

洗面やお手洗いなども和でありながら、現代風で新しく、

気持ち良く使わせていただきました。

 

今回、内風呂温泉付きのお部屋を予約したのですが、

そのお風呂も恐らく改装されたようで、

内風呂というには贅沢な広さのスタイリッシュな和風浴室でした。

木桶を大きくした形の浴槽で、窓は太い格子を2枚組み合わせてあり、

1枚をずらして開けると格子越しにお庭が見えて半露天のようになります。

(建築に詳しくなく、うまく説明ができずにすみません。)

雰囲気だけでも十分贅沢な浴室でしたが、

お部屋のお風呂もすべて源泉掛け流しとうかがい、

その贅沢さに驚きました。

ネットをよく見れば、あちらこちらに記載されていたのですが、

細かいところまでは見ていませんでした。

ただ”源泉掛け流しのお宿”をピックアップして予約したので、

大浴場は源泉掛け流しだろうと思っていたのですが、

お部屋の浴室まで源泉掛け流しだとは思っていませんでした。

大浴場と貸切風呂だけでも館内に6ヶ所、

さらにお風呂付きのお部屋もすべて源泉掛け流しとのことで、

思わず、お忙しい仲居さんを引き留めて、

「修善寺はそんなに湯量が豊富なんですか!?」

と詰め寄ってしまいました。(笑)

 

修善寺温泉は湯量が豊富なことに加え、

山間という立地もあり、

大規模旅館・ホテルが建ち並ぶ、というわけでもないため、

一軒一軒のお宿が十分な源泉を提供できているということのようです。

お部屋のお風呂は、浴槽の蛇口をひねると源泉が出てくるという、

温泉好きにとってはなんともワクワクする造りになっていました。

源泉温度が60度~70度ほどあるそうで、

加水により、ちょうど入りやすい41度に調整しているとのことでした。

 

源泉は大概、そのままでは浸かれない高温か低温か、の場合が多く、

源泉のままちょうど良い温度という温泉には、

私はあまりお目にかかったことがありません。

低温の場合は加温をすれば良いですが、高温の場合は悩ましいです。

源泉から浴槽に注ぐまでの間に、

ちょうど良い温度になってくれるような湯温、工程であれば良いですが、

それでも日本には四季があるので、自然任せでは、

冬は必要以上に温度が下がってしまい、逆に夏はほとんど温度が下がらず、

通年でちょうど良い湯温に保つというのは至難の業です。

もっと言うと、源泉そのままでは、

その”日”の気温、湿度、風の強弱、天気によって日々湯温が異なり、

さらにもっと言うと、朝・晩と日中でも湯温が変わってしまいます。

以前、仕事をしていた源泉掛け流しの旅館では、

高性能な文明の利器に頼らず、

湯守りの経験知に基づく職人技で湯温を調整していましたが、

湯守りは、毎日、毎時、”今日の気候、今の気候”と格闘していました。(笑)

湯守りに言わせると、「温泉は生き物」だそうです。

また、人によっても、「ちょうど良い」と感じる湯温は異なるので、

すべてのお客様に大満足していただけるように調整するというのは、

本当に難しいです。

 

源泉を生かそうとすればするほど、湯温を一定に保つのは難しくなります。

浸かるたびに湯温が異なるお風呂のお宿にご宿泊の際は、

時に浸かり心地が良くないこともあるかもしれませんが、

源泉を生かそうと努力しているお宿なのだな~

と、大きな心で受け止めていただけると幸いです。

 

高温の源泉をお客様が心地良く楽しめるようにするには、

浴槽に注ぐ湯量を調整する方法や加水をする方法が代表的だと思いますが、

どちらのほうが温泉として良いかというと、

正直、どちらも一長一短ではないかと思います。

温泉は地中から湧き出したその瞬間から、空気に触れることによって、

既に刻一刻と泉質が変化していくと言われており、

本当に繊細なものなので、

完全にフレッシュな源泉に触れるというのは

そもそも難しいものなのだと思います。

でも、例え、源泉からは多少変化していたとしても、

それでもなお様々な効能をもたらしてくれるのが温泉なのだろうと

私は思っています。

 

少し話しがずれてしまいました。(汗)

湯温の調整方法は、それぞれお宿のやり方によりますが、

中伊豆はワサビが名産になるくらいお水も良いそうですので、

加水方式の新井旅館さんのお湯は、

源泉と名水で相乗効果があるかもしれませんね。

柔らかくて軽く、つるつるとした肌触りの入り心地の良いお湯でした。

 

そして、新井旅館さんの大浴場と言えば、

なんと言っても「天平大浴場」が有名です。

昭和9年に建築されたものをそのまま使用しているとのことで、

これからもその姿を維持していくために、

あえて新たにシャワーを設置することもせず、

頭や身体を洗いたい方は

蛇口からのお湯をかけ湯で浴びることになっています。

他の大浴場などにはシャワーもちゃんとあり、

頭や身体も洗いやすいので、

私は天平大浴場ではお湯に浸かるだけにして、

貴重な建造物の保存・維持に微力ながら協力させていただきました。(笑)

 

天平大浴場は脱衣所に足を踏み入れた瞬間、

厳かとも言えるような歴史ある雰囲気に少し圧倒されました。

天井がはるばる高い総檜の木造で、

パーティション程度にも感じる脱衣所の壁の向こうに

広々とした空間の気配がし、

お寺の本堂や道場に身を置いた時のような神聖な気持ちになりました。

実際、内風呂でありながら、

浴槽の縁は、そこに元々存在していたという巨大な伊豆石を削ったもので、

屋根を支える柱や梁も迫力すら感じる立派な太さ。

静まり返った広い空間で、それらに囲まれながら、

湯口から落ちるお湯の音だけが響くのを聴いていると、

秘境の河原でお湯に浸かっているかのような気分になりました。

しかも、隣接するロビー脇の池よりも浴室が低くなっており、

浴室の窓から水中を泳ぐ鯉と同じ目線で水中を見ることができます。

人が来ると餌をもらえると思っている鯉たちが窓際に集まってきて、

超過密状態。(笑)

餌をあげられなくてごめんね、と謝っておきました。

いにしえの日本人は、

現代のような文明の利器を持っていなかったにもかかわらず、

粋と風情を追求し、時に驚く技術でそれを実現してきました。

そのたくましさと信念の強さにはいつも感服します。

 

そして、天平大浴場と真逆に、

今年(2023年)のGWにオープンしたばかりというのが、

(半)露天の大浴場「折節の湯 雪花」です。

(半)を付けさせていただいたのは、

完全に露天の部分と、

天井があり、雨の日も安心してお湯を楽しめる半露天の部分が

つながっていたからです。

壁に囲まれている浴槽なので、

とてつもない解放感!というわけではありませんが、

露天部分は見上げれば、見えるのは空だけで、

心地良い空気が流れていますし、

少しこじんまりした印象が逆にプライベート感もあり、

落ち着ける気がしました。

この「雪花」には3つほどシャワー付きの洗い場があります。

 

館内4ヶ所の大浴場のなかで私が一番気に入ったのは、

野天風呂「木洩れ日の湯」です。

まさに野天というか、

日本庭園の真ん中でお湯をいただいている

という感じでした。

自然味を残しながらも手入れされた木々、

その木々を通して柔らかく射す木洩れ日、

時間がゆっくり流れるどころか、

時間が止まっているかのような、

非日常の幸せな時間を過ごさせていただきました。

恐らく、外国の方向けに脱衣小屋はありましたが、

基本的には浴槽のすぐ脇に露天の脱衣場所がある、

まさしく野天風呂のスタイルです。

こちらは完全に洗い場がなく、お湯に浸かるためだけのお風呂です。

夜もライトアップされていて綺麗だとは思いますが、

是非、「木洩れ日」を楽しめる明るい時間帯にもご利用をお勧めします。

 

貸切風呂も空いていれば自由に利用できる「翡翠」と

事前予約制の「睡蓮」

(ただし、深夜~早朝にかけてはこちらも自由利用になっています。)

の2ヶ所があります。

私は大浴場とお部屋のお風呂を楽しむだけでも十分で、

今回貸切風呂は利用しませんでしたが、

館内で湯巡りができてしまいますので、

温泉を満喫したい方は15:00にチェックインして、

思う存分、お湯に浸かってください!

私も15:30頃にはチェックインしたのですが、

滞在中は、お湯をいただくか、お食事をいただくか、寝ているか、

みたいな状態でした。(笑)

 

そして、お湯同様に楽しませていただいたのが、お食事です!

贅沢に7種ほどが盛られたお造りは、

どれも脂がのっていて、さすが伊豆!でした。

たくさん美味しいお魚料理をいただきましたが、

目を見開くほど美味しく、強烈に記憶に残ったのは、

イサキの焼き物でした。

お魚自体の味が濃く、

身もフワフワしているけど、しっかりした食べ応えがあり、

普段あまり口にしないお魚ですが、

「イサキって、こんなに美味しいんだ!?」

とビックリ。

こういう発見があると、お宿に来て良かったなぁ~と

しみじみ思います。

 

そして、炊き合わせ(=煮物)などのお出汁がしっかり、ばっちり効いていて、

京都でメジャーな真っ赤な近江こんにゃく

(でも、その名の通り、滋賀県の名産です。)

をお出しいただいたので、もしや…と思い、仲居さんにうかがったところ、

やはり京都でお勉強をされたことのある料理長さんとのことでした。

お料理は京風会席と謳っておられたので、

当然と言えば当然かもしれませんが、

京都の味をベースにしたお料理がいただけて、

本当に嬉しい、楽しい時間でした。

是非、炊き合わせはお出汁まで飲み干すことをお勧めします。

私は、お出汁の繊細な風味を味わう度に、

日本人に生まれて良かったなぁ…

とつくづく思います。

 

そして、中伊豆名産のワサビも最初に丸ごと、

おろし金と一緒に出してくれて、

おろし方や味の違いを丁寧に説明してくださり、

好みでいろんなものに使うように置いていってくれます。

おろし立ての良質な生ワサビ。

ほんのりピリッとするのですが、

主張しすぎず、甘みさえ感じるようなマイルドなお味なので、

辛いものが苦手な私もどんどんおろして味わわせていただきました。

そして、締めのご飯はワサビとお醤油、鰹節をまぶしていただきます。

間違いのない組み合わせではありますが、

たくさんのお料理をいただいた後に、

さっぱりさらっといただけて、

爽やかにお食事を締めくくることができました。

 

プランによって異なりますが、

私が予約したプランでは夕・朝食ともお部屋食で、

ベテランの仲居さんと一緒に

研修中の若い仲居さんが担当してくださいました。

新井旅館さんのように歴史があり、

日本の伝統・文化やその接客を学べるお宿には、

興味を持たれる若い方も多いようで、

仲居さんに限らず、研修中のご様子の方も含め、

ベテランスタッフさんと同じくらい若いスタッフさんを見かけました。

 

ご担当いただいた仲居さんは夕・朝食とも同じ方々でしたが、

横に広く、エレベータのない2階建ての昔ながらの建物でのお部屋食は、

配膳も本当に重労働です。

恐らく、階段を上り下りするからだと思うのですが、

仲居さんたちは大きな重い木のお盆に大量の食器を積み、

それを片方の手のひらに載せ、さらに肩に担ぐスタイルで、

厨房と客室を行ったり来たりしていました。

お宿や飲食店でお仕事をされたことがある方はおわかりだと思いますが、

食器をたくさん積んだお盆というのは、見た目以上の重さになります。

お盆自体もしっかりとした重いものとなると、

それを片手で安定させて肩に担ぐというのは、もう職人技の領域です。

私は、力はあるのですが(笑)、手が小さいこともあり、

とてもではありませんが、怖くて真似ができません。

若くて華奢な女性の仲居さんでさえ、

そのスタイルで食器を運んでいる姿を拝見し、

修行の賜だなぁ…と見入ってしまいました。

 

お宿の仕事は決して楽な仕事ではないのですが、

若い方が興味を持ってお宿の世界へ飛び込み、

頑張っておられる姿を拝見するとありがたく、

また嬉しくなってしまいます。

世界からも注目される、貴重な日本の旅館文化を、

是非とも末永く受け継いでいっていただけたらと、

心の中でエールを送らせていただきました。

 

最期に、ご留意点を一つだけ。

ご存知のとおり、修善寺温泉は中伊豆の山の中に位置し、

温泉街というよりも別荘地に来たかのように自然豊かなところです。

山の中、自然豊かとなれば、当然、虫たちも豊かです。(笑)

どんなに窓を閉め、ドアを閉めていても、

虫の中には自分の身体の形を変えて、

窓のサッシやドアの隙間から室内に入ってきてしまうものもいます。

それこそ小さな小さな虫たちは、ほんの少しの隙間があれば、

自由自在に室内にお目見えします。

私も虫は好きではないので、

山間の温泉地で仕事をし、山間の街に住んでいた頃、

自宅はなるべく虫が入ってこないようにあれこれ策を講じていましたが、

それでも家の中で虫たちに遭遇してしまい、

慌てふためくことが何度となくありました。

お宿もお客様に快適に過ごしていただくために、

できる限りの対策を施していますが、

それでも自然豊かな場所で虫たちを完全にシャットアウトすることは、

ほぼ不可能です。

 

でも、だからこそ、お部屋から青々とした木々を眺め、

川のせせらぎに耳を傾け、癒やしの時間を過ごすことができるのです。

虫嫌いの私も、山間のお宿や立派な庭園を有するお宿を利用する際は、

自然豊か=虫たちも豊か

と覚悟をして臨み、お部屋で虫たちに会ってしまった時は、

「こんにちは。ここに入ってきちゃったんだね。ごめんね。」

と思いながら、退治させてもらっています。

もちろん、自分の手に負えないサイズの虫の訪問時には、

無理をせず、申し訳ないですが、フロントに駆除を依頼します。

大抵、お宿の方は慣れていて、技も持っているので、

あっという間に対処してくれます。

虫嫌いの私でも、山間のお宿で仕事をしていたおかげで、

お客様の前でも慌てず騒がず、カメムシを異臭を発生させずに、

ガムテープで一瞬で捕獲できるようになりましたので。(笑)

(ご存知の方も多いと思いますが、

カメムシは攻撃されるととんでもない異臭を放ち、反撃してきますので、

くれぐれも殺虫剤等は使用されないようにご注意ください。

反撃されたら最後、

その日、そのお部屋で過ごすことは恐らく不可能です。)

 

新井旅館さんも、客室に殺虫剤を常備したり、

屋外につながるドアには必ず閉めるよう注意書きを貼ったり、

仲居さんも夜は光に虫が寄ってきてしまうので、

日が暮れたらカーテン等を閉めるよう助言してくださったり、

方々気を遣っていらっしゃいましたが、

みなさんもその点については覚悟のうえでご宿泊ください。(笑)

ただ、新井旅館さんは、それだけ気を遣っていらっしゃるわりに、

私が利用した際は、思ったほど虫たちには出会いませんでした。

 

このブログでは、各お宿の”魅力”を書き残すことを目的にしているので、

ネガティブ・キャンペーンは絶対にしない、と決めているのですが、

このような、お宿の努力だけではどうにもならない部分で

印象が悪くなってしまうのは悲しいので、

あわせて書き添えさせていただきました。

ご理解いただけるとありがたいです。

 

同業での経験を踏まえて再訪した新井旅館さんは、

以前うかがった際よりも数段魅力的に感じられました。

修善寺温泉は、温泉や立地も良く、風情もあるせいか、

新規参入企業も多く、

良いお宿が次々と増えた時期があったと記憶しています。

現代の技術をもってすれば、

日本なら、ほぼどこでも温泉が出るような今の時代、

温泉地が生き残っていくには、

ブランド化や活気も必要不可欠だと思うので、

新規参入企業の進出は決して悪いことではないでしょう。

ただ一方で、旅館として始まり、古き良き日本の姿を大切に守り続け、

今に伝える新井旅館さんのようなお宿も、

共生し、必ずや残っていって欲しい、

そう祈りながら、お宿を後にしました。