元フロントスタッフ兼仲居頭のお宿備忘録

お宿の従業員とお客様両方の視点を得た自分の備忘として実際にうかがった【お宿の魅力】を書き残していきます。

【群馬県・嬬恋村・万座温泉】白鐵の湯 万座亭

2024-07-14 09:32:09 | 旅館

前回の投稿からはや半年…。

6月中には投稿ができそうだ、と、

あと少しのところまで書き上げたにもかかわらず、

その後、夏の大風邪を引きダウン…。

コロナやインフルエンザではなかったのが不幸中の幸いでしたが、

7月を迎えてしまいました…。

人生、思い通りにはいかないものですね。(苦笑)

本当に、本当に、細々になってしまっていますが、

これからも続けていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

 

久々のお宿ブログ、第7弾は、

ずっと行ってみたいと思いながら、

なぜかこれまで訪れる機会がなかった万座温泉のお宿。

 

群馬県の嬬恋村・万座温泉の「白鐵(はくてつ)の湯 万座亭」さん

(以下、「万座亭さん」と呼ばせていただきます。)

 

をご紹介します。

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、

万座温泉は、"日本一の硫黄濃度の良質泉"。

しかも、一日の湧出量は540万リットル!

そんな温泉がそれだけ湧き出していれば、

万座に近付いただけで、車の窓を開けていなくても、

車中いっぱいに硫黄の香りが広がるのも致し方ありません。(笑)

 

もう数十年前になりますが、

万座温泉を車で通りがかり、

その香りを体験した強烈な記憶がずっとありました。

当時は、「万座温泉って凄いな…」と、

どちらかと言えば、引き気味の印象でしたが、

温泉の仕事に携わるようになり、

「エリア一帯があれだけ硫黄臭に染まる温泉って、

一体、どんなものなのだろう…」

という興味に変わり、

「そのうち絶対にうかがってみたい!」

と思っていました。

 

万座温泉へのルートはいくつかあるようですが、

今回は最も安全に、できるだけ楽に辿り着けそうなルートを、と思い、

有料道路を使い、軽井沢から上がっていきました。

有料道路は安いとは言えない料金でしたが、

あれだけ長距離にわたり、ほぼ山頂と言えるところまで登る道を、

すべて中央線のあるゆとりの車線幅で整備してくれていれば、

むしろ、安いくらいなのかもしれません。

山道なので、もちろん急なカーブの多い道ではありますが、

標高約1,000メートルの軽井沢から、1,800メートルの万座温泉まで、

余計な恐怖心や疲労感なく、行き着くことができました。

 

ただ…雪がある季節は、話しは全く別です。

たとえ、冬タイヤの装備をしていたとしても、

よほど雪道に自信がある方でないと、

運転は非常に困難だと思います。

周辺道路は冬期通行止めの区間もあるようですし、

雪シーズンは自家用車以外の交通手段を選択したほうが

安心かもしれません。

電車で行き、お宿の送迎バスを利用することも可能だそうですので、

どうぞご無理のないご計画を。

冷たい空気のなかで、雪景色を見ながら満喫する万座温泉のお湯は、

格別であること間違いありませんので、

私もいつか冬の万座温泉を体験してみたいと思っています。

 

軽井沢から車で登り続けること約1時間半。

山頂にかなり近くなり、

「ずいぶん登ってきたなぁ…」

と思っていたら、硫黄の香りとともに、

万座温泉特有の風景「空吹(からぶき)」がお出迎え。

これは昔の噴火口跡で、地面にしみ込んだ雨水や地下水が水蒸気となって、

硫化水素ガスとともに勢いよく噴き出しているそうです。

空吹周辺はガスの影響で植物が生息できないので、

木々が生い茂る山の風景の中で、

そこだけ工事現場かのように山肌が露出しています。

違和感とともに、自然のエネルギーの大きさのようなものを感じ、

少し恐怖すら覚えました。

そして同時に、人間の力など到底及ばない大自然が作り出してくれる

絶品温泉への期待に胸が高鳴りました。(笑)

 

私がうかがった日は、東京の最高気温が27度ほどでしたが、

16時頃に万座温泉に到着すると15度ほど。

半袖の上にパーカーを1枚羽織ってちょうど良いくらいでした。

さすが、標高1,800メートル!

夏は避暑に最適です。

日中でも25度に届くことは少ないそうです。

その代わり、冬は-10度前後が普通とのこと。

夏も冬も、服装選びにはご留意を。

 

周辺情報が長くなってしまいましたが、

肝心の万座亭さんはというと、

外観の第一印象は山の立地に馴染む山小屋風。

「山に来たぁ!」という気分と、

でも、ちょっと懐かし場所に戻ってきたような別荘の趣もあり、

一方で、和風旅館のホッとする風情も醸し出していて。

「建物の中はいったい何風?」

と思いながら足を踏み入れると、

まさに外観同様、山小屋と和風旅館のいいとこ取りをしたような、

落ち着きがあり、気張らずにホッと寛げる内観と雰囲気。

山小屋過ぎず、

でも、静謐で重厚な木の温もりを感じる山小屋の良さはある。

その度合いが私にはちょうど良く、とても心地良い空間でした。

2022年秋頃から少しずつ館内を改装されたようで、

まだ新しい和モダンの内装が、

さらに気持ちの良い滞在を後押ししてくれました。

 

昨年、ライブラリや個室も併設されたカフェや

サウナも新設されたそうで、

もちろん、いずれも素敵でした!

それらについては、万座亭さんのHPに写真付きで紹介されているので、

ご興味のある方はそちらをご覧いただくとして…。

私が特筆すべきと感じたのは、館内の共用トイレ。(笑)

枠組みは明らかに年代ものであることを物語っているのですが、

新しく綺麗に、今時のデザイン・設備に改装されていて、

本当に気持ち良く利用させていただきました。

お宿は、どうしても客室の快適性向上を優先してしまい

(お宿である以上、それは当然のことではあります。)、

共用トイレの改装などは後回しになりがちなのですが、

日帰り入浴も受け入れていらっしゃるとは言え、

共用トイレの改装をきちんとされているということは、

お客様の立場に立って考え、お客様を大事にされている証だと、

深く感銘を受けました。

共用トイレは、恐らく客室のトイレ以上に多くのお客様が利用されます。

少し前から、飲食店なども、

「トイレを見れば、お客様を大事にしているお店かどうかがわかる。」

などと言われるようになりましたが、

トイレにこそ、清潔感と快適さがあって欲しいと思う方は

少なくないのではないだろうかと思うにつけ、

お宿も共用トイレの印象を大切に考えるべきだと勉強になりました。

 

今回、本館の半露天風呂付き特別室「山吹」を利用させていただきました。

こちらも山の別荘の雰囲気を取り込んだ落ち着きのある和風のお部屋で、

ご案内いただいた瞬間からスッと馴染み、

ゆったりと寛ぐことができました。

このお部屋は、万座亭さん唯一の喫煙可のお部屋でしたが、

タバコの匂いは特に気になりませんでした。

ただ、匂いの感度は人それぞれなので、

敏感な方は、もしかすると他のお部屋を選ばれたほうがいいかもしれません。

逆に、愛煙家の方にとっては、今のご時世、貴重なお部屋ですね。

 

予約をする際、HP等を見て、

「湯量豊富な万座温泉で、お部屋のお風呂が温泉ではないのはなぜだろう…」

と思っていたのですが、うかがってみて納得。

前述のとおり、硫黄濃度が高いあまり、

お部屋のお風呂にそれを注ぐのは、いろんな意味で不可能なのだと。

もしお部屋のお風呂に温泉を注いだ場合、

硫化水素が発生するので十分な換気が必要になりますが、

万一それがうまくいかなかったら、お客様の命に関わる事態が発生します。

また、お部屋のお風呂に温泉を入れていないにもかかわらず、

万座温泉一帯に流れる硫化水素の影響で、

お部屋の中の水道管や蛇口など金属類はどうしても錆びてしまいます。

従業員の方の自転車は2年、自動販売機は1年半、テレビは1年で、

金属部分が腐食して壊れてしまうそうです。

お宿が運営を続けていくには大変なご苦労があることだろうと、

頭の下がる思いでした。

ましてや、お部屋のお風呂に温泉を注ごうものなら、

いったい、お部屋自体、どれだけもつか…。

お宿側の立場で考えると…怖くて考えたくないです。(苦笑)

それと恐らく、お部屋のお風呂に万座温泉のお湯が流れていたら、

硫黄の香りが強すぎて、

なかなか、「お部屋でゆっくり」というわけにはいかないでしょうね…。

お客様の安全とできるだけお客様に快適に過ごしてもらうために、

あえて温泉を入れていないのだと理解しました。

でも、がっかりする必要はありません。

お部屋のお風呂に行くのと同じくらいの距離に大浴場があるので、

ある意味、「大浴場付き客室」と言っても過言ではないくらいです。(笑)

お部屋のお風呂に入るのと同様の気軽さで大浴場を利用でき、

「さすが、特別室!」

と大満足でした。

ゆったりとした10畳和室と独立したベッドルーム、

そして、後にご紹介するお料理の内容を考えると、

特別室とは言ってもリーズナブルな料金設定で、

これだけ快適に心地良く過ごせるのなら、

是非また利用したいと思えるお部屋でした。

 

そして、一番のお目当てだった温泉!

実は、硫黄泉が私の肌とはあまり相性が良くないので、

「どうかな…」

と不安に思うところもあったのですが…。

源泉掛け流しだからなのか、

良質泉だからなのか、

塩化物・ナトリウム・メタけい酸・メタほう酸など

肌に良い成分も多く含んでいるからなのか、

予想外なまでに優しく柔らかなお湯!

その柔らかさに身体中の緊張が解きほぐされていき、

お湯のなかに身体が溶け込んでいくような開放感。

お湯に頬ずりしたくなる程でした。

(実際に頬ずりするのは厳禁ですが。笑)

そして、源泉掛け流しならではの軽いお湯。

これまで体験した種々の温泉の中でも

トップクラスの浸かり心地の良さでした。

 

万座温泉の源泉は約80度と超高温のため、

加水せずにはとても浸かれません。

でも、加水しているとは思えないほどの良質なお湯です。

万座亭さんの大浴場は、男女それぞれ内湯1つ、露天風呂1つでしたが、

恐らく、温度調整の兼ね合いで、

内湯のほうが加水している割合が多いと思います。

露天風呂は風が通り、

標高1,800メートルの涼しい(冷たい?笑)空気が

自然にお湯の温度を下げてくれますが、

内湯は湯気もこもり、温度が下がりづらいので、

どうしても加水を増やさないと浸かれる温度にはなりません。

それでも、内湯も十分万座温泉を堪能できる質の良さでしたが、

やはり露天風呂のお湯が絶品!

できるだけ加水を少なくするためなのか、

浅めの大きなお風呂が用意されていて、

それなのに、浸かれば自分の足が見えないほどの濃厚な白濁のお湯。

お風呂の底が全く見えないので、うかつに動くのが怖いほどです。(苦笑)

そんなお湯に半ば浮かびながら、真っ青な空と向かいの山を眺め、

澄み切った山の空気を感じていたら、

「あぁ~…幸せ…」

と心の声が漏れてしまいそうでした。

 

確かに、楽に訪れることのできる場所ではありません。

山奥の割りに相当道が整備されているとは言え、

軽井沢から1時間半、車で山道を登る疲労感はゼロではありません。

でも。

その労力をかけたからこそ出会えた温泉がそこにはありました。

その労力をかけた甲斐があったと思える温泉がそこにはありました。

いつか行こうと思いながら、延ばし延ばしになってしまっていましたが、

「まだ体力があり、動けるうちに、出会えて良かった…」

心底そう思える温泉でした。

 

ただ、お風呂に関してご留意点を一つだけ。

先にも何度か書かせていただいたように、

万座温泉は硫黄濃度日本一。

その温泉を流している浴室は、

硫化水素ガスを排出する必要があるため、

おっきな換気扇で換気を行っています。

私がうかがった初夏の気候の日でさえ、

洗い場では若干寒さを感じました。

気温の低い季節に訪れる場合は、洗い場はかなり寒いと思いますが、

これもお客様に安全に利用してもらうために、

どうしても欠かせない対応なので、

なんとか入り方を工夫していただき、

「これも硫黄濃度日本一の万座温泉ならでは!」

と楽しんでいただければと思います。(笑)

 

万座温泉のお湯の良さに衝撃を受けつつ、

お夕食の席にご案内いただいて、またびっくり。

普通なら、どう見ても4人席の大きさのテーブルに、

お料理がひしめき合っていて…。

「これ、本当に2人分のお料理…?」

と一瞬ひるむほどでした。(笑)

さらに、テーブルの一角には、

とても2人用とは思えない大きなお鍋が用意されていて…。

「もしや、これはプラン内容に入っていたすき焼きのお鍋…?

小さいお鍋の用意がなかったのかな…」

と横目に見つつ、ひとまず自分を納得させて。

 

係の方がテーブルに並んでいるお料理をご説明くださり、

「この後、温かいお料理の茶碗蒸しと天ぷらをお持ちします。」

と最後に言い残して立ち去られると…。

「これだけお料理が並んでいて、さらに茶碗蒸しと天ぷら!?

ひとまず、先付け、前菜からいただいて、

次のお料理を置くスペースを作らないと!!」

お食事、よーいドン!です。(笑)

大きなテーブルを2人用で利用させていただいていたので、

実際には、次のお料理を置く場所も十分にありました。

ご安心ください。

ちょっと誇張しました。すみません。(笑)

でも、そういう気分になるほど、

たくさんのお料理が並んでいたことは事実です。

みなさん、万座亭さんを訪れる際は、

どうぞ十分にお腹を空かせて行かれてください。

 

天ぷらは、時節柄もあったのか、

鱧と山菜の天ぷらをご用意くださいました。

会席料理では、天ぷらが最後のほうに提供されることが多いですが、

お腹がいっぱいになってしまい、

天ぷらを食べられなくなってしまいがちなので、

私はできれば早い段階で天ぷらをいただきたい質です。

食事開始から程なくして天ぷらをお持ちいただいたので、

ありがたい!と思いながら、

真っ先に鱧の天ぷらを一口。

ほふほふ、と思わず言ってしまうほど温かく、

ふわっふわの鱧の天ぷら。

「やっぱり、温かいお料理は温かいうちにいただくのが一番…!」

久々の鱧を楽しませていただきました。

 

そして、お鍋の大きさがどうしても気になっていたすきやき。

具材を先に用意しておいて良いかと聞かれ、

お願いします、と答えて、

お持ちいただいたその具材にまたびっくり!!

これまたどう見ても2人分とは思えない具材の量!!

お鍋ものの具材は、お野菜がかさばるから…

という問題ではない量!!

だって、一番上にはわらじどころではない大きさの上州牛が…

これ、何枚??

という感じに重なってしました。

しかも、見事なサシが入った上州牛。

「これ、すきやきだけでお腹いっぱいになるよね…(笑)」

と本当に笑ってしまうくらいの量でした。

でも、上州牛、見た目に違わず、

口の中でとろけるように柔らかく、甘みたっぷりで、

「う~~~ん…美味しいっ!!」

と口から幸せが身体にしみ込んでいきました。

すきやき付きのプランをご利用の方は、

必ず先に具材をご用意いただいて、その量を確認し、

お腹と相談しながら、

良い頃合いですきやきを召し上がられることをお勧めします。

他のお料理でお腹いっぱいになって、すきやきを楽しめなかった、

ということのないようにご注意ください。

 

もし、お天気の良い日に万座亭さんを訪れることがあれば、

お夕食をたらふくいただいた腹ごなしに、

ちょっと駐車場へ出てみるのもいいかもしれません。

標高1,800メートルの山の頂き、

見上げれば、澄んだ空気の向こうに広がる大きな夜空に、

降り注いできそうなほどの星たちが瞬いています。

数軒のお宿以外、民家もお店もほとんどなく、

光に邪魔されない万座温泉の夜空は、

目が慣れてくると、隙間がないくらいに見える星が増えていきます。

 

こういう壮大な自然を目にする度に思います。

「人間なんて、この壮大な自然に比べたらちっぽけだなぁ…。

そんなちっぽけな私の日々の悩みなんて、

地球規模の営みで考えたら、本当に取るに足らない小さなこと。

ちっちゃなことは気にせずに、また明日から頑張ろう!!」

私、単純なんです。すみません。(笑)

でも、旅で癒やされるってこういうことなのかな、と思います。

旅の醍醐味ってこういうことなんじゃないかな、とも思います。

万座温泉の大自然、ありがとう。

万座温泉を発見してくれた先人達に感謝です。

 

星空を見に外に出られる際は、

本当に暗いので、足元には十分ご注意ください。

チラッと見た気がするだけなので、

不確かな情報で申し訳ありませんが、

万座亭さんで懐中電灯や望遠鏡の貸し出しをされているとの貼り紙が

あったような、なかったような…。

ご興味がある方は、万座亭さんに確認されてみてください。

スマホのライトなどを活用されるのもいいかもしれませんね。

どうぞお怪我のないように、星空を堪能されてください。

 

硫黄濃度日本一の良質泉が豊富に湧き出しているがゆえ、

万座温泉エリア内には、ガソリンスタンドもコンビニもありません。

恐らく、設備の維持管理が困難なのだと思います。

そんな環境下で、もちろんお宿だって維持管理をしていくのは、

相当なご苦労がおありのことと推察しますが、

それでもそのご苦労を受け入れ、

万座温泉を堪能できる場をご提供くださっているお宿に、

心から感謝しつつ、家路につきました。

 

万座温泉を訪れる際は、確かに硫黄臭には覚悟が必要です。

帰宅してからも、2日ほどは自分自身から硫黄の香りが立ち込め、

持参した衣類なども2回洗濯してもなお硫黄臭が取り切れないような

気がしたり…(笑)。

温泉に浸かる際は、アクセサリーなどの金属腐食に注意が必要です。

(必ずアクセサリー類は外されてください。)

お宿以外の施設がほとんどなく、ちょっと不便を感じるかもしれません。

いわゆる"温泉街"を期待して行かれると

少々寂しささえ覚えるかもしれません。

でも、その代わりに雄大な自然のなかで、

希少な良質泉を心ゆくまで味わうことができます。

日々の便利な生活を離れ、

心底ゆったりと大自然の恵みに浸るのも

時には良いのではないでしょうか。

 

少なくとも私は、

必ずまたうかがいたい温泉として心に刻み、

必ず再訪したいお宿リストに万座亭さんを追加させていただきました。


【島根県安来市・さぎの湯温泉】さぎの湯荘

2024-01-08 19:18:38 | 旅館

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今年は年明けから、能登半島地震、羽田空港での航空機衝突事故と、

胸の痛むことが続きました。

亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、

ご関係の皆様が一日も早く平穏な日常に戻れることを願いながら、

小さな小さな力しかありませんが、

私にできることをしていきたいと思っています。

*********************************

 

年々、一年があっという間に過ぎるようになる、

とよく言われますが、

本当に昨年も一年が早かった…。

気が付けば、前回の投稿から4ヶ月近くが経ってしまい、

2024年が明けてしまいました。

今年も細々とこのブログを続けていこうと思っています。

どうぞよろしくお願いします。

 

2024年初投稿の第6弾は、

 島根県安来市のさぎの湯温泉「さぎの湯荘」さん

をご紹介します。

 

島根県の「足立美術館」と言えば、

訪れたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、

さぎの湯荘さんは、まさに足立美術館のすぐ横!です。

足立美術館をじっくりと楽しみたい方は、

是非さぎの湯荘さんへ、

というフレーズが成り立ってしまうくらい、

もっと言えば、足立美術館と一体!?と思ってしまうくらい、

本当にすぐ隣、でした。

 

少し話しがそれますが、

足立美術館は、

美術展示と併せて日本庭園を愛でることができることで有名で、

アメリカの日本庭園専門誌が選ぶ日本庭園ランキングで

21年連続日本一に選ばれています。

このランキングは、歴史的価値、規模、知名度ではなく、

庭園の質、庭園と建物との調和、

利用者への対応といったホスピタリティ等、

「いま現在鑑賞できる日本庭園としていかに優れているか」を基準に

調査・選考されているそうです。

2023年の発表が12月7日に行われたようで、

私が訪れた際は、20年連続日本一の時でしたが、

普段、美術館には縁遠い私でさえも、

「20年連続日本一なら、その庭園は一度は拝見しておかないといけないか…」

と、思わず足を踏み入れた次第でした。(苦笑)

でも確かに、奥に臨む自然の山を借景として、

それと調和し、一体となった日本庭園を見ていると、

心が落ち着き、清められる思いがしました。

「庭園もまた一幅の絵画である」

というのが、当該美術館創設者の信念だったそうですが、

私は、この庭園という絵画が一番気に入りました。

(ただ単純に、芸術・美術に疎いだけ、という話しもありますが…。)

平日にもかかわらず、朝一から閉館時間間際まで

広大な駐車場に多数の車と大型観光バスが出入りしているのも

うなずけました。

 

そして、その隣に、

これまた落ち着ける和の雰囲気を醸し出すさぎの湯荘さんがあります。

さぎの湯荘さんも広大な敷地を有していらっしゃいましたが、

その1/3を庭園が占めているそうで、

館内を歩いていても、お部屋にいても、

温泉に浸かっていても、お食事をいただいていても、

常に日本庭園を眺めることができました。

私は今回、お部屋の2方向に窓があり、

露天風呂が付いている客室を利用させていただいたのですが、

やはり、いずれの場所から外を眺めても、

日本庭園や和のオブジェを望むことができ、

一貫したコンセプト、ぬかりない配慮が伝わってきました。

 

さらには、人里離れた場所で(笑)、

閉塞感のある小さな個室に閉じ込められがちの喫煙室でさえ、

一面窓の向こうに箱庭のような日本庭園を眺めることができ、

ゆったりとした椅子に腰掛け、

ちょっと贅沢な気分でゆっくりと寛ぐことができます。

喫煙室というよりは、

シガールームという言葉のほうがしっくりときそうな空間。

肩身の狭いご時世の愛煙家にも忘れない心遣いが、

旅館のゆとりを感じさせてくれました。

 

ここまで徹底した理想の眺め、空間をご用意したいと思ってはいても、

現実には様々な制約に阻まれて、

思い通りには成しえないお宿も多いと思うのですが、

それを成し遂げたさぎの湯荘さんのご努力に感服しました。

 

朝食後には、メインの日本庭園の中庭を眺められるラウンジで、

コーヒーをサービスしていただけます。

朝から日本庭園を眺め、ゆったりとコーヒーをいただく優雅な時間は、

まさしく“非日常”を味わえる、旅の醍醐味です。

 

そして、私が楽しみにしていた初めての山陰のお湯も、

ゆっくりと、じっくりと堪能させていただきました。

大浴場と2つの貸切風呂がありますが、

いずれも翌朝9時まで一晩中利用可能。

貸切風呂は、15時~21時までは予約制ですが、

22時以降は空いていれば、ご自由にどうぞ、のスタイル。

さらに、予約制の時間帯も含め、利用料無料!!

もう、温泉好きの方にはたまりませんね。(笑)

 

含放射能ナトリウム・カルシウム・塩化物・硫酸塩泉と、

聞いただけでもいいとこ取りの温泉ですが、

薬用高いラジウム泉とのことで、

肌がすべすべするのはもちろん、

私のがんこな手荒れも気付いたら綺麗になっていました。

一晩中源泉掛け流しで、お湯も軽く、柔らかく、

浸かり心地の良さに、

なかなかあがる踏ん切りがつきませんでした。(苦笑)

 

前述のとおり、大浴場でも、貸切風呂でも、露天風呂付き客室でも、

日本庭園を目の前に、時間を忘れてお湯に浸れる温泉ですが、

源泉温度が45~54度と少し高め、

そして、温泉というのは、

自分が思っている以上に身体が温まっているものですので、

くれぐれも温まり過ぎにはご注意ください。

 

建物の内装は、

恐らく改装されてからそれほど経っていないご様子でしたが、

今風のしっとりした和風の館内に、

老舗の面影を思わせる卓球台を発見しました!

若い方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、

昭和の温泉旅館の楽しみの一つと言えば、

“温泉卓球”でした。(笑)

最近は、卓球台を置いている旅館もかなり少なくなりましたが、

私が以前勤めていた旅館に常備していたミニ卓球台も、

意外と、お子様から大人の方にまで親しまれ、

深夜まで熱中しているお客様もいらっしゃいました。

なぜ、温泉に行くと卓球をやりたくなってしまうのかは謎ですが…。(苦笑)

 

私も、卓球台の傍に置かれていたオセロを、

数十年振りくらいに楽しませていただきました。

シンプルが故にムキになってしまって、

真剣に頭を使いすぎ、終わった後少しクラクラしました。

 

オセロなどやることすら思い付かないほど

目まぐるしく過ぎていく日常を離れ、

どこか懐かしい日本家屋の雰囲気を味わいながら、

浴衣姿で久々のオセロに勤しむ。

「あぁ~、旅館に来たなぁ~…。」

と、一番実感した瞬間だったかもしれません。(笑)

 

そして、楽しみにしていた日本海育ちの山陰の魚介料理も、

存分にいただきました。

欲張って、島根の魚介もお肉もいただけるプランでお願いしたのですが、

お造りは、舟盛りならぬ、まさに“山盛り”!!(笑)

スタッフの方のご説明を真面目に聞いていたのに、

覚えきれないくらいたくさんの種類の旬魚が盛られていました。

改めて、日本海の幸の種類の豊富さに感嘆するとともに、

どれも脂がのり、それぞれの魚介の味がしっかりとしていて、

そんな魚介達をいつも召し上がっている山陰の方々に、

軽く嫉妬すら覚えました。(笑)

 

名物ののど黒、しまね牛、大山鶏ももちろん美味しくいただきましたが、

たくさんお出しいただいたお料理一品一品、丁寧な優しい味がして、

いただくこちらも心がほっこり優しくなるようでした。

私の一番のお気に入りは炊き合わせ。

濃すぎず、薄すぎず、

しっかりと味は染み込んでいるけど、さらっと平らげてしまい、

最後に出汁の効いた煮汁を飲み干し、

「(あ)はぁ~…。」

と満足感に浸りました。

 

翌朝には、

“これ、あさり!?”

と思うほど、大きなしじみの入ったお味噌汁をいただき、

再び、

「(あ)はぁ~…、しあわせ…。」

本当に、舌や味覚だけでなく、心も満たされるお食事でした。

 

客室や館内も、私にとってはとても居心地が良く、

「どうして、こんなに居心地が良いのだろう…。」

と、キョロキョロ観察してしまうくらいでした。

古の日本家屋の雰囲気は残しながら、

今時の和モダンのデザインを取り入れ、

そのバランスが絶妙でちょうど良い。

現代の居心地良い居住性を兼ね備えながらも、

和の落ち着きに包まれる心地良さ。

 

さらには、高級旅館の佇まい、贅沢な造りではありながら、

なんだか心がすっと馴染み、

気取り・気張りの必要を感じず、

臆することもなく、ゆったりと身を置ける雰囲気。

これは恐らく、ハードのみならず、

スタッフの皆さんのお人柄も関係しているのだろうと思います。

私がお会いしたスタッフの方々は、

皆さん、明るく気さくで、

程よい距離感の心配りができる親切な方々でした。

「高級旅館なら、もっとビシッとかしこまってないと!」

という方もいらっしゃるかもしれませんが、

私には、スタッフの方々の

”ちゃんとしているけど、肩肘張らない自然体度合い”

がとても心地良く、心の底から寛がせていただきました。

 

「やはり、お宿というのは、

そこに働く人たちの雰囲気を否が応でも反映するものなのだなぁ…。」

と、改めて実感しつつ、

さぎの湯荘さんと、

さぎの湯荘さんを作り上げているスタッフの皆さんと出会えたご縁に

感謝した次第です。

 

気に入ったお宿が見つかると、

帰りたくなくなってしまうのが私の悪い癖。

本当に、「もうここに住みたい!!」と、

かなり帰り難かったですが、

「いつかまたお邪魔しよう!」

と強く心に誓い、やっとの思いでお宿を後にしました。

 

さぎの湯荘の皆さん、必ずまたうかがいます!

再びお目にかかれるその日まで、お互い、頑張りましょう♪


【静岡県伊豆市・修善寺温泉】新井旅館

2023-05-29 17:21:13 | 旅館

お宿好きな自分の備忘のために書き始め、

お客様の立場に立てば、

「宿側の勝手な都合」

と思われても致し方ないことも書かせていただき、

果たして誰かのお役に立つものなのか、

今時、写真の1枚もないような記事を読んでくださる方がいるのだろうか、

と半信半疑で始めてみましたが、

「いいね」や「役立った」を押してくださる方がいらっしゃると

とてもありがたく思います。

「応援」や「続き希望」を押してくださる方がいらっしゃると

書く勇気が湧いてきます。

リアクションをいただいた皆様、ありがとうございました。

高齢の親と寄り添いながらの生活のため、

投稿ペースがかなりゆっくりになってしまっていますが、

細々と続けていきたいと思いますので、

よろしければ、気の向く際にお立ち寄りいただければ幸いです。

 

また、お時間の許す際に、私のお宿の見方のベースを書かせていただいた

番外編「はじめに」

も併せてご覧いただけると、

誤解が生じる可能性も低くなるのではないかと思っています。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

前置きが長くなってしまいましたが、

第三弾は、「源泉掛け流しのお宿でのんびりしたい!」と思い、うかがった

 

静岡県伊豆市・修善寺温泉「新井旅館」さん

 

をご紹介します。

 

新井旅館さんは、数々の映画・ドラマ・CM等々のロケ地になってきたので、

ご存知の方も多いかもしれません。

創業は明治5年、150年余りの歴史を持ち、

横山大観や芥川龍之介をはじめとする著名な文人・墨客に愛され、

15棟の建物が国の登録有形文化財になっているという、

聞いただけで日本文化の香りに包まれそうなお宿です。

(新井旅館さんの公式HPに詳しい情報がたくさん掲載されています。)

梨園ともご関係が深いそうで、

2代目松本白鸚さん(9代目幸四郎さん)と一緒に作られたという

新井旅館さん謹製の「幸四郎」というお茶菓子が

客室に用意されていました。

 

門に立ち、お宿を目の前にした瞬間に、

「ザ・日本のお屋敷」という印象の建物、

垣間見える癒やしのお庭の雰囲気、

ロケ地に選ばれるのもうなずける出で立ちです。

ロビーに一歩入ると、歴史を重ね、貫禄が備わった空間に、

ちょっと気後れするくらいでした。

でも、スタッフのみなさんがにこやかに、気さくにご案内くださるので、

そんな緊張もすぐにほぐれます。

 

15年ほど前にも一度うかがったことがあるのですが、

その際も感動した見事なお庭は健在で、

今回は前回よりもじっくりとお庭を堪能してきました。

山間の立地でありながら、新井旅館さんは広大な敷地を所有しておられ、

鯉が泳ぐ大きな池を囲むように客室が並んでいたり、

山の斜面を登る渡り廊下の途中に離れがあったり、

館内通路からは大きな窓越しに川が流れる庭園が見えたり…。

どこもかしこも本当に古き良き日本家屋のたたずまいです。

 

私が一番気に入っているのは、ロビーから出てすぐの池の脇の渡り廊下です。

お庭の川が流れ込むこの池にもたくさんの鯉が泳いでおり、

右手にはそのお庭の川にかかる太鼓橋が視界に入ります。

そんな絵画のような風景の渡り廊下で

コーヒーやジュースをいただくことができます。

晴れた春の朝、心地良いそよ風を受けて、

日本庭園の木漏れ日を眺めながらいただくコーヒーは最高でした。

修善寺温泉は、”伊豆の小京都”とも言われているそうですが、

まさに京都の別荘にお邪魔したような、ゆったりとした優雅な気分でした。

 

お恥ずかしながら、修善寺温泉が”伊豆の小京都”と言われていることを

全く知らずに今回もうかがったのですが、

実は一時、京都の旅館でお仕事をいただき、住んでいたことがあり、

修善寺はずいぶん京都に似ているなぁ~…

とずっと思いながら滞在していました。

帰宅後に調べてみて納得。

それは京都に似ているはずですよね。

”小京都”と言われているくらいですから。(笑)

 

修善寺温泉を流れている川の正式名称は修善寺川だそうなのですが、

桂川という通称のほうが今はメジャーになっているようで、

京都の嵐山を流れるあの桂川と同じです。

修善寺の桂川にも渡月橋がかかっていて、竹林もあります。

”小京都”なので、規模は京都に比べるとすべてコンパクトで、

きっと観光のために後付けされたものもあると思いますが、

源氏や北条家ゆかりの地でもあるので、

昔から京都をイメージして施されてきたものもあるのかもしれません。

 

私が一番嬉しかったのは、

京都同様、修善寺の青紅葉も素晴らしかったことでした。

京都の桜、紅葉はもちろん見事で、

その時期の京都が大混雑してしまう理由は良く分かります。

ただ、実際に京都に住んでみたら、

静まりかえった広大な寺社仏閣で、

半端なく蒸し暑い京都の夏に涼を運んでくれ、

青い空に活き活きと映えて生命力を感じる

鮮やかな緑の青紅葉が一番好きになりました。

クーラーがない場所では屋内外問わず、

じっとしていても汗が噴き出し、流れてきて、

何事にも気力が失せる京都の夏ですが、

青紅葉を見ていると清々しさを感じ、少し気力が湧いてきます。

 

今回、新井旅館さんでご案内いただいたお部屋が桂川に面していて、

川に覆い被さるように美しく生い繁る青紅葉を窓から眺めたとき、

京都で感じたのと同じ清涼感と力強さに、

癒やされ、元気をもらい、嬉しくなりました。

 

以前うかがった際は、

和のアンティークといった雰囲気のお部屋だったと記憶していますが、

新井旅館さんも残すべきところは残しつつ、

少しずつ改装をされているようで、

館内通路の壁なども綺麗にされてからそれほど経っていないようでしたし、

ご案内いただいたお部屋も古さを感じず、

居心地の良い、綺麗な和室でした。

洗面やお手洗いなども和でありながら、現代風で新しく、

気持ち良く使わせていただきました。

 

今回、内風呂温泉付きのお部屋を予約したのですが、

そのお風呂も恐らく改装されたようで、

内風呂というには贅沢な広さのスタイリッシュな和風浴室でした。

木桶を大きくした形の浴槽で、窓は太い格子を2枚組み合わせてあり、

1枚をずらして開けると格子越しにお庭が見えて半露天のようになります。

(建築に詳しくなく、うまく説明ができずにすみません。)

雰囲気だけでも十分贅沢な浴室でしたが、

お部屋のお風呂もすべて源泉掛け流しとうかがい、

その贅沢さに驚きました。

ネットをよく見れば、あちらこちらに記載されていたのですが、

細かいところまでは見ていませんでした。

ただ”源泉掛け流しのお宿”をピックアップして予約したので、

大浴場は源泉掛け流しだろうと思っていたのですが、

お部屋の浴室まで源泉掛け流しだとは思っていませんでした。

大浴場と貸切風呂だけでも館内に6ヶ所、

さらにお風呂付きのお部屋もすべて源泉掛け流しとのことで、

思わず、お忙しい仲居さんを引き留めて、

「修善寺はそんなに湯量が豊富なんですか!?」

と詰め寄ってしまいました。(笑)

 

修善寺温泉は湯量が豊富なことに加え、

山間という立地もあり、

大規模旅館・ホテルが建ち並ぶ、というわけでもないため、

一軒一軒のお宿が十分な源泉を提供できているということのようです。

お部屋のお風呂は、浴槽の蛇口をひねると源泉が出てくるという、

温泉好きにとってはなんともワクワクする造りになっていました。

源泉温度が60度~70度ほどあるそうで、

加水により、ちょうど入りやすい41度に調整しているとのことでした。

 

源泉は大概、そのままでは浸かれない高温か低温か、の場合が多く、

源泉のままちょうど良い温度という温泉には、

私はあまりお目にかかったことがありません。

低温の場合は加温をすれば良いですが、高温の場合は悩ましいです。

源泉から浴槽に注ぐまでの間に、

ちょうど良い温度になってくれるような湯温、工程であれば良いですが、

それでも日本には四季があるので、自然任せでは、

冬は必要以上に温度が下がってしまい、逆に夏はほとんど温度が下がらず、

通年でちょうど良い湯温に保つというのは至難の業です。

もっと言うと、源泉そのままでは、

その”日”の気温、湿度、風の強弱、天気によって日々湯温が異なり、

さらにもっと言うと、朝・晩と日中でも湯温が変わってしまいます。

以前、仕事をしていた源泉掛け流しの旅館では、

高性能な文明の利器に頼らず、

湯守りの経験知に基づく職人技で湯温を調整していましたが、

湯守りは、毎日、毎時、”今日の気候、今の気候”と格闘していました。(笑)

湯守りに言わせると、「温泉は生き物」だそうです。

また、人によっても、「ちょうど良い」と感じる湯温は異なるので、

すべてのお客様に大満足していただけるように調整するというのは、

本当に難しいです。

 

源泉を生かそうとすればするほど、湯温を一定に保つのは難しくなります。

浸かるたびに湯温が異なるお風呂のお宿にご宿泊の際は、

時に浸かり心地が良くないこともあるかもしれませんが、

源泉を生かそうと努力しているお宿なのだな~

と、大きな心で受け止めていただけると幸いです。

 

高温の源泉をお客様が心地良く楽しめるようにするには、

浴槽に注ぐ湯量を調整する方法や加水をする方法が代表的だと思いますが、

どちらのほうが温泉として良いかというと、

正直、どちらも一長一短ではないかと思います。

温泉は地中から湧き出したその瞬間から、空気に触れることによって、

既に刻一刻と泉質が変化していくと言われており、

本当に繊細なものなので、

完全にフレッシュな源泉に触れるというのは

そもそも難しいものなのだと思います。

でも、例え、源泉からは多少変化していたとしても、

それでもなお様々な効能をもたらしてくれるのが温泉なのだろうと

私は思っています。

 

少し話しがずれてしまいました。(汗)

湯温の調整方法は、それぞれお宿のやり方によりますが、

中伊豆はワサビが名産になるくらいお水も良いそうですので、

加水方式の新井旅館さんのお湯は、

源泉と名水で相乗効果があるかもしれませんね。

柔らかくて軽く、つるつるとした肌触りの入り心地の良いお湯でした。

 

そして、新井旅館さんの大浴場と言えば、

なんと言っても「天平大浴場」が有名です。

昭和9年に建築されたものをそのまま使用しているとのことで、

これからもその姿を維持していくために、

あえて新たにシャワーを設置することもせず、

頭や身体を洗いたい方は

蛇口からのお湯をかけ湯で浴びることになっています。

他の大浴場などにはシャワーもちゃんとあり、

頭や身体も洗いやすいので、

私は天平大浴場ではお湯に浸かるだけにして、

貴重な建造物の保存・維持に微力ながら協力させていただきました。(笑)

 

天平大浴場は脱衣所に足を踏み入れた瞬間、

厳かとも言えるような歴史ある雰囲気に少し圧倒されました。

天井がはるばる高い総檜の木造で、

パーティション程度にも感じる脱衣所の壁の向こうに

広々とした空間の気配がし、

お寺の本堂や道場に身を置いた時のような神聖な気持ちになりました。

実際、内風呂でありながら、

浴槽の縁は、そこに元々存在していたという巨大な伊豆石を削ったもので、

屋根を支える柱や梁も迫力すら感じる立派な太さ。

静まり返った広い空間で、それらに囲まれながら、

湯口から落ちるお湯の音だけが響くのを聴いていると、

秘境の河原でお湯に浸かっているかのような気分になりました。

しかも、隣接するロビー脇の池よりも浴室が低くなっており、

浴室の窓から水中を泳ぐ鯉と同じ目線で水中を見ることができます。

人が来ると餌をもらえると思っている鯉たちが窓際に集まってきて、

超過密状態。(笑)

餌をあげられなくてごめんね、と謝っておきました。

いにしえの日本人は、

現代のような文明の利器を持っていなかったにもかかわらず、

粋と風情を追求し、時に驚く技術でそれを実現してきました。

そのたくましさと信念の強さにはいつも感服します。

 

そして、天平大浴場と真逆に、

今年(2023年)のGWにオープンしたばかりというのが、

(半)露天の大浴場「折節の湯 雪花」です。

(半)を付けさせていただいたのは、

完全に露天の部分と、

天井があり、雨の日も安心してお湯を楽しめる半露天の部分が

つながっていたからです。

壁に囲まれている浴槽なので、

とてつもない解放感!というわけではありませんが、

露天部分は見上げれば、見えるのは空だけで、

心地良い空気が流れていますし、

少しこじんまりした印象が逆にプライベート感もあり、

落ち着ける気がしました。

この「雪花」には3つほどシャワー付きの洗い場があります。

 

館内4ヶ所の大浴場のなかで私が一番気に入ったのは、

野天風呂「木洩れ日の湯」です。

まさに野天というか、

日本庭園の真ん中でお湯をいただいている

という感じでした。

自然味を残しながらも手入れされた木々、

その木々を通して柔らかく射す木洩れ日、

時間がゆっくり流れるどころか、

時間が止まっているかのような、

非日常の幸せな時間を過ごさせていただきました。

恐らく、外国の方向けに脱衣小屋はありましたが、

基本的には浴槽のすぐ脇に露天の脱衣場所がある、

まさしく野天風呂のスタイルです。

こちらは完全に洗い場がなく、お湯に浸かるためだけのお風呂です。

夜もライトアップされていて綺麗だとは思いますが、

是非、「木洩れ日」を楽しめる明るい時間帯にもご利用をお勧めします。

 

貸切風呂も空いていれば自由に利用できる「翡翠」と

事前予約制の「睡蓮」

(ただし、深夜~早朝にかけてはこちらも自由利用になっています。)

の2ヶ所があります。

私は大浴場とお部屋のお風呂を楽しむだけでも十分で、

今回貸切風呂は利用しませんでしたが、

館内で湯巡りができてしまいますので、

温泉を満喫したい方は15:00にチェックインして、

思う存分、お湯に浸かってください!

私も15:30頃にはチェックインしたのですが、

滞在中は、お湯をいただくか、お食事をいただくか、寝ているか、

みたいな状態でした。(笑)

 

そして、お湯同様に楽しませていただいたのが、お食事です!

贅沢に7種ほどが盛られたお造りは、

どれも脂がのっていて、さすが伊豆!でした。

たくさん美味しいお魚料理をいただきましたが、

目を見開くほど美味しく、強烈に記憶に残ったのは、

イサキの焼き物でした。

お魚自体の味が濃く、

身もフワフワしているけど、しっかりした食べ応えがあり、

普段あまり口にしないお魚ですが、

「イサキって、こんなに美味しいんだ!?」

とビックリ。

こういう発見があると、お宿に来て良かったなぁ~と

しみじみ思います。

 

そして、炊き合わせ(=煮物)などのお出汁がしっかり、ばっちり効いていて、

京都でメジャーな真っ赤な近江こんにゃく

(でも、その名の通り、滋賀県の名産です。)

をお出しいただいたので、もしや…と思い、仲居さんにうかがったところ、

やはり京都でお勉強をされたことのある料理長さんとのことでした。

お料理は京風会席と謳っておられたので、

当然と言えば当然かもしれませんが、

京都の味をベースにしたお料理がいただけて、

本当に嬉しい、楽しい時間でした。

是非、炊き合わせはお出汁まで飲み干すことをお勧めします。

私は、お出汁の繊細な風味を味わう度に、

日本人に生まれて良かったなぁ…

とつくづく思います。

 

そして、中伊豆名産のワサビも最初に丸ごと、

おろし金と一緒に出してくれて、

おろし方や味の違いを丁寧に説明してくださり、

好みでいろんなものに使うように置いていってくれます。

おろし立ての良質な生ワサビ。

ほんのりピリッとするのですが、

主張しすぎず、甘みさえ感じるようなマイルドなお味なので、

辛いものが苦手な私もどんどんおろして味わわせていただきました。

そして、締めのご飯はワサビとお醤油、鰹節をまぶしていただきます。

間違いのない組み合わせではありますが、

たくさんのお料理をいただいた後に、

さっぱりさらっといただけて、

爽やかにお食事を締めくくることができました。

 

プランによって異なりますが、

私が予約したプランでは夕・朝食ともお部屋食で、

ベテランの仲居さんと一緒に

研修中の若い仲居さんが担当してくださいました。

新井旅館さんのように歴史があり、

日本の伝統・文化やその接客を学べるお宿には、

興味を持たれる若い方も多いようで、

仲居さんに限らず、研修中のご様子の方も含め、

ベテランスタッフさんと同じくらい若いスタッフさんを見かけました。

 

ご担当いただいた仲居さんは夕・朝食とも同じ方々でしたが、

横に広く、エレベータのない2階建ての昔ながらの建物でのお部屋食は、

配膳も本当に重労働です。

恐らく、階段を上り下りするからだと思うのですが、

仲居さんたちは大きな重い木のお盆に大量の食器を積み、

それを片方の手のひらに載せ、さらに肩に担ぐスタイルで、

厨房と客室を行ったり来たりしていました。

お宿や飲食店でお仕事をされたことがある方はおわかりだと思いますが、

食器をたくさん積んだお盆というのは、見た目以上の重さになります。

お盆自体もしっかりとした重いものとなると、

それを片手で安定させて肩に担ぐというのは、もう職人技の領域です。

私は、力はあるのですが(笑)、手が小さいこともあり、

とてもではありませんが、怖くて真似ができません。

若くて華奢な女性の仲居さんでさえ、

そのスタイルで食器を運んでいる姿を拝見し、

修行の賜だなぁ…と見入ってしまいました。

 

お宿の仕事は決して楽な仕事ではないのですが、

若い方が興味を持ってお宿の世界へ飛び込み、

頑張っておられる姿を拝見するとありがたく、

また嬉しくなってしまいます。

世界からも注目される、貴重な日本の旅館文化を、

是非とも末永く受け継いでいっていただけたらと、

心の中でエールを送らせていただきました。

 

最期に、ご留意点を一つだけ。

ご存知のとおり、修善寺温泉は中伊豆の山の中に位置し、

温泉街というよりも別荘地に来たかのように自然豊かなところです。

山の中、自然豊かとなれば、当然、虫たちも豊かです。(笑)

どんなに窓を閉め、ドアを閉めていても、

虫の中には自分の身体の形を変えて、

窓のサッシやドアの隙間から室内に入ってきてしまうものもいます。

それこそ小さな小さな虫たちは、ほんの少しの隙間があれば、

自由自在に室内にお目見えします。

私も虫は好きではないので、

山間の温泉地で仕事をし、山間の街に住んでいた頃、

自宅はなるべく虫が入ってこないようにあれこれ策を講じていましたが、

それでも家の中で虫たちに遭遇してしまい、

慌てふためくことが何度となくありました。

お宿もお客様に快適に過ごしていただくために、

できる限りの対策を施していますが、

それでも自然豊かな場所で虫たちを完全にシャットアウトすることは、

ほぼ不可能です。

 

でも、だからこそ、お部屋から青々とした木々を眺め、

川のせせらぎに耳を傾け、癒やしの時間を過ごすことができるのです。

虫嫌いの私も、山間のお宿や立派な庭園を有するお宿を利用する際は、

自然豊か=虫たちも豊か

と覚悟をして臨み、お部屋で虫たちに会ってしまった時は、

「こんにちは。ここに入ってきちゃったんだね。ごめんね。」

と思いながら、退治させてもらっています。

もちろん、自分の手に負えないサイズの虫の訪問時には、

無理をせず、申し訳ないですが、フロントに駆除を依頼します。

大抵、お宿の方は慣れていて、技も持っているので、

あっという間に対処してくれます。

虫嫌いの私でも、山間のお宿で仕事をしていたおかげで、

お客様の前でも慌てず騒がず、カメムシを異臭を発生させずに、

ガムテープで一瞬で捕獲できるようになりましたので。(笑)

(ご存知の方も多いと思いますが、

カメムシは攻撃されるととんでもない異臭を放ち、反撃してきますので、

くれぐれも殺虫剤等は使用されないようにご注意ください。

反撃されたら最後、

その日、そのお部屋で過ごすことは恐らく不可能です。)

 

新井旅館さんも、客室に殺虫剤を常備したり、

屋外につながるドアには必ず閉めるよう注意書きを貼ったり、

仲居さんも夜は光に虫が寄ってきてしまうので、

日が暮れたらカーテン等を閉めるよう助言してくださったり、

方々気を遣っていらっしゃいましたが、

みなさんもその点については覚悟のうえでご宿泊ください。(笑)

ただ、新井旅館さんは、それだけ気を遣っていらっしゃるわりに、

私が利用した際は、思ったほど虫たちには出会いませんでした。

 

このブログでは、各お宿の”魅力”を書き残すことを目的にしているので、

ネガティブ・キャンペーンは絶対にしない、と決めているのですが、

このような、お宿の努力だけではどうにもならない部分で

印象が悪くなってしまうのは悲しいので、

あわせて書き添えさせていただきました。

ご理解いただけるとありがたいです。

 

同業での経験を踏まえて再訪した新井旅館さんは、

以前うかがった際よりも数段魅力的に感じられました。

修善寺温泉は、温泉や立地も良く、風情もあるせいか、

新規参入企業も多く、

良いお宿が次々と増えた時期があったと記憶しています。

現代の技術をもってすれば、

日本なら、ほぼどこでも温泉が出るような今の時代、

温泉地が生き残っていくには、

ブランド化や活気も必要不可欠だと思うので、

新規参入企業の進出は決して悪いことではないでしょう。

ただ一方で、旅館として始まり、古き良き日本の姿を大切に守り続け、

今に伝える新井旅館さんのようなお宿も、

共生し、必ずや残っていって欲しい、

そう祈りながら、お宿を後にしました。


【千葉県鋸南町・安房温泉】安房温泉 紀伊乃国屋

2023-04-15 15:59:43 | 旅館

ご無沙汰の投稿になってしまいましたが、

そして、千葉県のお宿続きで恐縮ですが、

第2弾は、

 

千葉県鋸南町・安房温泉「安房温泉 紀伊乃国屋」さん

(以下、紀伊乃国屋さんと呼ばせていただきます。)

 

を紹介させていただきます。

(本屋さんやスーパーの「きのくにや」さんとは無関係です。たぶん。笑)

 

千葉に紀伊乃国屋さんという勢いがある素敵なお宿がある…と

数年前から気になっていたのですが、

なかなかお邪魔するタイミングに恵まれず、

ようやくご縁をいただくことができました。

 

ちなみに、紀伊乃国屋さんは「紀伊乃国屋グループ」さんのお宿の一つで、

紀伊乃国屋グループさんは、「お宿ひるた」さん、「さざね」さんなど、

千葉県鋸南町で現在6つのお宿とサウナカフェを展開されています。

どのお宿も魅力的だったのですが、

まず初めは、紀伊乃国屋グループさんの原点というか

ベースと思われるお宿を体験してみよう!ということと、

単純に旅行日の空き状況から(笑)、

「安房温泉 紀伊乃国屋」(本館)さんを利用させていただきました。

 

※今回書かせていただく内容は2023年4月時点のものとなります。

 お宿のサービス内容や施設・設備は日進月歩で変化していきますので

 予めご了承ください。

 

「こんなところに温泉旅館ある?」と思うほど、

普通の住宅街のなかにあるのですが、

その住宅街の雰囲気に馴染んだ設えの玄関の暖簾をくぐり、

格子にすりガラスで中が見えない自動扉が開くと、

小上がりに正座をし、深々とお辞儀をしたスタッフの方のお姿が。

「この日本旅館伝統のお出迎え、久々だなぁ…。

町の雰囲気に溶け込んだ外観もそうだけど、

ちょっと京都の旅館を思い出すな…。」

と、ちょっとした驚きと感慨、

と同時に、

 

日本旅館の文化を大切にしているお宿なのだな…

さすが、一目置かれているお宿!

 

と期待が膨らみました。

 

元は民宿を営まれていて、

20年あまり前に紀伊乃国屋さんとしてリニューアルされたとのことで、

建物のベースは年季を感じますが、古き良き日本旅館の趣は残しながら、

古くささは感じない、落ち着いた和モダンの内装にうまく改装されていて、

通路や階段の踊り場にディスプレイとして飾られた日本酒の瓶も

センスが光っていました。

こういう風に改装すると、こんなに素敵で居心地の良い空間になるのかぁ…と

とても勉強になり、あちこちキョロキョロ見回してしまいました。

 

客室にご案内いただき、扉を開けると、

正面に華やかに生けられたお花がお出迎え。

これもまた、最近は少なくなりましたが、

日本旅館の伝統文化の象徴ですね。

お宿側の視点で恐縮ですが、

毎日活き活きとしたお花を各客室に用意するのは、

手間もコストも結構かかります。

それよりもリーズナブルにお客様に宿をご利用いただくことを優先し、

また世の中的にもそういうことに重きを置かない風潮に

なってきていることもあり、

そこに労力とコストをかけなくなったお宿も多いと思いますが、

やはり、こういう心遣いを目にすると、

お宿がお客様を大事にしている思いが伝わってきて嬉しくもなり、

頑張ってるなぁ…、きちんとした旅館だなぁ…と感服してしまいます。

少々値が張るお宿では、お客様の到着前と翌朝の朝食時に

お花を生け直したりするところもあります。

何気なく飾ってあるお花ですが、

「当館をご利用いただき、ありがとうございます。

私達も精一杯務めさせていただきますので、

どうかごゆっくりとお寛ぎください。」

というお宿の心からのメッセージがひっそりと込められています。

日本文化は粋で素敵です。

 

お部屋の中も伝統的な和室のスタイルでありながら、

壁や引き戸、洗面周りなどは綺麗に改装されていて、

古さと新しさのバランスが程よく、

家にいるかのようにゆっくりとできました。

全7室のお宿ですが、最近にしては珍しく、どのお部屋も喫煙可能ですので、

愛煙家の方にとってはさらにゆっくりと寛げますね。

匂いへの敏感さは個人差があるので絶対とは言えませんが、

お部屋に入った時、たばこの匂いを感じた記憶はないので、

恐らく嫌煙家の方も問題なく寛げると思います。

 

そして、何よりも感心したのが、行き届いたお掃除!

もちろん、どのお宿も一生懸命お掃除をしていると思いますが、

前日のお客様のチェックアウト後、

当日のお客様のチェックインに間に合わせることが至上命題のため、

どうしても毎日は清掃・メンテナンスが行き届かないところが

出てきてしまうものだと思います。

例えば、ちょっとしたサッシの隅とか、照明の傘の中とか、

欄間とか天井とか、障子や襖のちょっとした穴とか…。

定期的に、大掃除的に清掃・メンテナンスはするものの、

毎日そこまではなかなか手が回らない…というのが現実だったりします。

でも、紀伊乃国屋さんは黒い塗りの天井もピカピカ。

照明の傘の中にゴミの陰も見当たりません。

意地の悪い姑のように隅々まで見回ったわけではありませんが、

パッと目を向けた隅っこに

埃が溜まっているということはありませんでした。

 

もしかしたら、定期的な大掃除をしたばかりだったのかもしれませんが(笑)、

恐らく、あれだけぬかりなく清掃が行き届いているということは、

日頃から清掃とメンテナンスをしっかりとされている証だと思います。

そして、お客様に快適に寛いで滞在していただこうという気持ちを

スタッフの方一人一人にしっかりと教育され、

またスタッフの方達もそういう気持ちで丁寧にお仕事をされている。

そうでなければ、あの天井の輝きはないと思います。

布団に横になった時に見上げた天井の黒光りは圧巻でした。(笑)

 

お花やお掃除など細かい点ではありますが、

この価格帯でこのクオリティの高さでの運営は、

従業員を含めた企業努力の賜だと思います。

旅館業に真摯に取り組み、

何よりもお客様のことを考える企業理念が

透けて見えるような気がしました。

 

温泉旅館の楽しみのひとつ、お風呂はというと、

元々民宿を営まれていた名残だと思いますが、

客室内に浴室はありません。(お手洗いはあります。)

館内に男女交代制のお風呂が2ヶ所と貸切風呂が2ヶ所あり、

貸切風呂は無料で各1回利用させてもらうことができます。

 

男女交代制のお風呂は2~3人程度で利用可能の少し小ぶりの内湯が1ヶ所と、

ゆったりとした露天風呂が1ヶ所で、

その2ヶ所が時間で男女交代になります。

露天風呂は洗い場も露天なので、利用する季節などによって、

時間やタイミングをうまく調整すると快適だと思います。

 

貸切風呂も2人定員程度の小ぶりの内湯が1ヶ所と、

屋上にあり、空を見上げられる広々とした露天風呂が1ヶ所。

こちらの露天風呂も洗い場は室外です。

 

「温泉宿の大浴場」をイメージしてしまうと

少し狭い気がしてしまうかもしれませんが、

客室が全7室で、

各お部屋ごとに貸切風呂を40分×2回利用できることを考えると、

キャパシティとしては十分と言えるかと思います。

私が宿泊させていただいた際も、15:30頃にチェックイン、

なんだかんだしているうちに16:00過ぎくらいになってしまい、

そこから男女交代制のお風呂を利用し、夕食をいただいたり、

さらに貸切風呂を2回利用させていただいたりすると、

少し忙しいくらいでした。(苦笑)

貸切風呂2回の利用だけでも温泉を十分に楽しめると思うので、

私が宿泊した日も恐らく満室だったと思いますが、

男女交代制のお風呂で顔を合わせたのはお二方だけでした。

すれ違い、すれ違いでうまい具合に脱衣所、洗い場、浴槽の使用が

少しずつずれていたので、気を遣うことはほとんどなく、

ほぼ貸切のような状態で利用させていただくことができました。

 

貸切風呂は全7室に対して十分な時間枠を工夫して設定してありましたが、

そうは言っても貸切風呂、

チェックイン時に空いている時間枠のなかから選ばなければならないので、

なるべくご自身の希望の時間に利用されたい方は、

早めのチェックインをお勧めします。

 

4ヶ所のお風呂のなかで私が最も気に入ったのは、貸切風呂「月見の湯」。

屋上デッキのような雰囲気の広々とした空間が

高めの塀で囲まれているのですが、

見上げると360度空だけで、他に視界を遮るものがありません。

私は晴れた夜に利用させていただいたのですが、

 

まさに「月見の湯」。

 

温泉でぬくまりながら、顔に触れる空気はひんやりと気持ち良く、

虫や蛙の鳴き声しか聞こえない静寂のなかで、

暗闇に煌々と光る月と星を見上げる。

音も光も景色も無駄に邪魔するものがありません。

こういう露天風呂は、ありそうで意外とない気がします。

自然と深呼吸をしてリラックスし、

しばし幸せな無の時間に身を委ねていました。

 

安房温泉は、紀伊乃国屋グループさんが掘削し、

平成元年に誕生した温泉とのことですが、

海岸の温泉の特徴の一つである

塩化ナトリウム(つまりは「塩」ですね。笑)の含有量が多く、

肌のダメージを回復させてくれるメタホウ酸、

保湿効果のあるメタケイ酸も含まれており、

「美肌の湯」として知られているそうです。

聞いただけで肌がつるつるしてきそうですが、

私の肌が元々このナトリウム-塩化物系温泉と相性が良いせいもあったのか、

濾過循環しているとは思えないほどの質の高さでした。

つるつるとしたお湯の肌触りを存分に堪能させていただきました。

是非またリピートしたい温泉の一つです。

 

そして、温泉旅館のもうひとつの楽しみであるお食事ですが、

夕食は一律で18時開始、そして最近では少なくなったお部屋食です。

私の部屋は研修中らしき外国人スタッフの方が

配膳を担当してくださいました。

敬語が少し難しい様子だったり、多少片言なところはありましたが、

よくこれだけ専門的なお料理の単語を覚えられたな…と驚くほどで、

一生懸命やってくださいました。

 

最近は旅館も外国人スタッフの方がだいぶ増えましたが、

「日本旅館に来たのに外国人が対応するの?」と

まだ抵抗がある方も少なからずいらっしゃいます。

その違和感、疑問はごもっともかと思います。

ただ、昨今の旅館事情としては、常に人手不足に悩まされるなかで、

日本文化、日本旅館に興味を持つ外国人スタッフの方に

支えられている一面があることは事実です。

 

旅館の仕事は傍目から見る以上に重労働で、

お客様の一日の生活をお預かりするようなものなので24時間営業同然、

勤務時間、実質的な拘束時間も長くなりがちです。

それなのに賃金相場が低いと言われる業界です。

賃金を上げたいと思っている経営者もいると思いますが、

旅館は人で成り立っている業界なので、

賃金を上げ過ぎると利益が出なくなってしまい、

旅館が倒れてしまっては本末転倒…。

そう簡単には実現できません。

そんなこんなで旅館の仕事は敬遠されがち、

いったん入社してくれても、

想像以上に苦労の多い仕事内容を凌駕する

モチベーションや目的のある人でなければ、

なかなか続かないことが多いのが実情です。

 

一方で、ここ数年、旅館で働きたいという外国の方が

本当に増えた印象があります。

もちろん、様々な思惑があったり、

問題やトラブルを含むケースも少なくはないと思いますが、

日本文化に興味があり、それを学べる日本旅館で働きたいと、

正座すらしたことのない外国の方が、

難しいと言われる日本の敬語を勉強し、

日本人でさえ今は馴染みのないような旅館用語を必死に覚え、

ときには日本人でもあまり知らない日本文化を

知るようになっていたりすることもあります。

また、外国の方を指導する側も楽ではありません。

下手をすれば、仕事に対する考え方・心構えから文化が違うので、

日本旅館の作法・マナーまで指導して、

一人でもお客様の前に出られるよう、

一人前に育てるまでには大変な労力が必要です。

日本人を育てるほうがはるかに楽な場合が多いです。

でも、そうしなければ旅館の運営が成り立たない現状があります。

そういう苦労を経て、外国人スタッフの方はお客様の対応をしています。

 

考え方や感じ方は人それぞれでいいと思いますし、

どの考え方が唯一正しいというものではないと思っていますが、

私は旅館で外国人スタッフの方にお会いすると、

「日本の旅館を支えてくださりありがとうございます。

是非細く長く頑張ってくださいね!」

と心の中で呟いてしまいます。

 

(ちなみに、紀伊乃国屋さんが人手不足かどうかは定かではありません。

ただ純粋に文化交流などのために

外国の方にお仕事をしていただいているのかもしれません。

あくまでも、上記は一般論としてご理解いただければ幸いです。)

 

夕食には基本プランで舟盛り、アワビの踊り焼き、金目鯛の煮付けなど、

千葉の海の恵みをいただくことができます。

私たちはグレードアップして

千葉県産ブランド牛『彩美牛』の鉄板焼き

が付いたプランにしたのですが、

「もうこれとご飯だけあれば、一食分、十分じゃない!?」

と思うほどのお肉が出てきて目が点でした。(苦笑)

他の美味しいお料理を既にたらふくいただいた後だったので、

「こんなに食べられないなぁ~」と言いながら食べ始めたにもかかわらず、

サシがふんだんに入っているのに脂っこ過ぎず、甘くて柔らかくて、

意外にもペロッと完食してしまいました。

基本プランでたいていの方にとっては十分な量の

美味しいお料理をいただけますが、

千葉の沿岸ということでお魚料理が中心になりますので、

「でもやっぱりお肉も食べたい!」という方や

「ボリューム満点のお料理をいただきたい!」という方にはお勧めです。

 

そしてさらに印象的だったのは朝食です!

席についてから出してくださる湯気の立った出来たてふわふわの卵焼きと

肉厚で味の濃い立派なアジの開きが絶品でした!!

 

卵焼きはお箸で割るとじゅわ~っと出汁が溢れ出し、

お醤油を垂らした大根おろしと一緒にいただくと、

バランスの良い甘みと塩味、大根おろしのさっぱり感が口の中に広がり、

朝から思わず笑顔になってしまいました。

 

アジは千葉の海の名産の一つですが、

紀伊乃国屋さんは毎朝館主の方が

漁港で直接お魚を仕入れていらっしゃるそうで、

さすがの鮮度、さすがの味わい、さすがの食べ応えでした。

朝食は大広間で7:30~8:00の間に席につくというスタイルでしたが、

あちこちの席から、

「このアジ、立派だね~」、

「このアジ、身が厚くてふわふわだね」、

「このアジ、味がしっかりしてるね~」

という声が聞こえてきて、

会場全体がアジにざわついていました。(笑)

 

みなさんも紀伊乃国屋さんをご利用の際は、

是非少し早起きをして、お腹を空かせて朝食会場へ行かれてください!

 

どこか懐かしいような、でも洗練された快適な客室は、

一晩過ごすとすっかり自分の家にいるかのように馴染んできて、

「あ、家に『帰る』んだっけ?」と

ちょっと不思議な気持ちでチェックアウトしました。

 

玄関へ向かうと、夕食をご担当くださった外国人スタッフの方がいらして、

到着時同様、小上がりに正座をし、丁寧なお辞儀で見送ってくださいました。

 

商売というのは、

基本を忘れず忠実にやっていくのが一番だなぁ~…と

つくづく思いました。

お客様を大事にし、お客様の立場に立って考え、

食料品店さんは新鮮で美味しい食材を売り、

衣料品店さんは丁寧にしっかりと造られた服を売り、

車屋さんは性能が良く、故障の少ない車を造って売り、

飲食店は美味しい料理を提供し、

旅館は快適な滞在を提供する。

それを忘れなければ、たとえ他のお店より多少価格が高くても、

お客様は集まり、商売は発展していく。

様々なお店を見ていて、いつもそう思います。

今は個性的なサービスやオリジナリティが話題を呼ぶ時代ですが、

それはあくまでもしっかりとした基本の上に成り立っていなければならず、

確固たる土台のないオリジナリティはあっという間に見透かされ、

飽きられて、お客様はすぐに離れていってしまいます。

 

紀伊乃国屋さんは若いスタッフの方がほとんどでしたが、

どこで顔を合わせてもしっかりとお客様と向き合い、

丁寧に穏やかな笑顔で挨拶をし、

温かく柔らかい口調で説明をしてくれ、

こちらも自然にゆったりとした心持ちになり、

寛いで滞在を楽しむことができました。

サービス、清潔感、お料理、温泉、そして日本文化という

温泉旅館の基本をなに一つないがしろにせず、

当たり前のことを当たり前にやり、あるべき姿をしっかりと守られている。

それがとても心地良く、何か奇抜な体験をしたわけではなかったのですが、

非常に満足して滞在を終え、また是非うかがいたいと思いました。

 

どんなお仕事も同じだと思いますが、

当たり前のことを当たり前にやるのは、

毎日のこととなると意外と難しい。

もしかしたら、一番難しい…?(苦笑)

「当たり前」のことなのに、

「当たり前」だからこそ慣れてしまって、

適当になってしまったり、手を抜いてしまったり…。

 

紀伊乃国屋さんには快適に滞在させていただいたうえに、

とても大切なことを改めて勉強させていただきました。

どうもありがとうございました。


【千葉県鴨川市・小湊温泉】魚彩和みの宿 三水

2023-03-05 17:55:26 | 旅館

最初のご挨拶から時間が経ってしまいましたが、

本題の第一弾は、

「関東で美味しい魚料理が食べたいね~」

という話しから利用させていただいた

 

千葉県鴨川市の小湊温泉「魚彩和みの宿 三水」さん

(以下、「三水さん」と呼ばせていただきます。)

 

を紹介させていただきます。

 

みなさんのご記憶にもまだ新しいかと思いますが、

千葉県の特に沿岸部は2019年(令和元年)9月に台風15号が猛威を振るい、

甚大な被害を受けた地域です。

残念ながら、その損害により廃業を決断したお宿もあったことと思いますが、

その苦難を乗り越え、

改修・改装を経て新しく生まれ変わった良いお宿が増えている地域でもある、

という話しを聞いていました。

 

三水さんは、2017年から少しずつリニューアルを進めていたそうなので、

台風の影響による改装の話しとは無関係かもしれませんが、

リニューアルによりグレードアップを果たされた(現在も進行中なのかも?)

お宿の一つだと思います。

 

国の天然記念物「鯛の浦」遊覧船の船着き場に隣接し、

「誕生寺」さん総門の本当に目の前なのですが、

派手な看板などは出されていないので、

のどかな漁港の風景にすっかり馴染んでいて、

一見、どこにお宿があるのかわからないくらいでした。

 

ところが、入り口の暖簾をくぐると、

洗練された落ち着く和モダンの家に帰ってきたかのような、

安心感にも似た居心地の良さに一瞬で包まれました。

 

三水さんがHPで謳っていらっしゃる

 

「田舎の我が家へ、おかえりなさい」

 

が入り口から既に始まっていました。

 

そして、敷地が潤沢とは言えない場所でありながら、

あえて設けられている入り口からフロントまでの和の通路を進むうち、

お宿に到着した実感とともに、

日常から非日常の世界へ向かっているような高揚感も生まれ、

良く考えられた空間使いだなぁ…と

通ったばかりの通路を思わず振り返り、まじまじと眺めてしまいました。

(※あくまでも個人の感想であり、建築には疎いので、

デザイナーさんの意図は全然違うかもしれませんが。笑)

 

フロントデスクもコンパクトながら古民家のような落ち着いた設えで、

その脇にはまさに美術館のように商品をディスプレイした

おしゃれなギャラリーショップが広がっています。

 

そして、なんといってもおススメなのが、

そのショップの奥に構えられた

 

フリードリンクを備えたスタイリッシュなラウンジ

「三水茶房 ippuku」

 

です!

 

大きな窓から遊覧船の船着き場越しに見る海の景色、

お天気の良い日は

その海に沈んでいく夕陽(夕日百選に選ばれたそうです。)を見ながら、

フリードリンクのビールをきゅーっといけば、

贅沢な至福の休日気分を味わえます。

 

海もただ広々としているのではなく、

手前に小湊漁港や遊覧船の船着き場、

両脇に小高い崖が見えて湾岸の景色になっているのが

なんだか旅情を誘うのだと思います。

 

その景色を眼前にできるカウンター席、

幅広のソファー、大人数で談笑できるテーブル席など、

それぞれの楽しみ方で

ゆったりと時間を過ごせるスペースとなっていました。

 

フリードリンクのビールは、

隅田川沿いに本社を構えるビール会社さんのクラフトビールでしたが、

クラフトビールなのに癖がなく、柔らかいけど味がある。

ビールは乾杯の一口だけが美味しいと感じる私ですが、

なんとも美味しく、飲みやすくて、

ついつい二口、三口とちょっと飲み過ぎてしまうほどでした。

ただし、ビールのフリードリンクは15:00~17:00限定なので、

ビール好きの方は是非チェックイン開始の15:00に

到着されることをお勧めします!

 

もちろん、アルコールが苦手な方もご安心ください。

ビール以外にも、コーヒー各種、

季節替わりのオリジナルブレンドのお茶やハーブティー、

アイスキャンディがフリーで提供されています。

しかもこれらは15:00~23:00及び翌朝6:00~9:30まで利用可能だそうです。

オリジナルブレンドのお茶関係は

一つ間違えると癖が強くなってしまったりしますが、

こちらもとても飲みやすく、ホッとする味わいのものばかり。

私も癖の強いものは苦手ですが、美味しくて何杯もいただいてしまいました。

 

フリードリンクの提供は、維持・管理のオペレーションやコスト、

ドリンクの検討・選択決定など悩ましい点も多く、

「無料であれば、多少のことはお客様も許してくださるはず」

という甘えから、少々雑な内容になってしまうことも少なくありません。

でも、三水さんはお宿の売りとなるロケーションに、

おしゃれなサーバーやカップ類を備え、

オリジナル、かつ、なんと言っても「美味しい!」ドリンクを

バランス良く揃えられていて、

かなり力の入った質の高いフリードリンクでした。

お客様の満足度もさぞ高いことと思います。

どちらかというと観光をするよりも、

お宿でゆったりとする旅が好きな私としては、

このラウンジ目的で三水さんにまたうかがいたいとさえ思いました。

 

そして、お部屋も快適な滞在のための気配りが行き届いていました。

恐らく建物のベースは年季の入ったものだと思うので、

館内通路やエレベータが少し狭く感じたり、

館内階段もレトロな印象はありましたが、

客室内は旅館のぬくもりとホテルの快適な居住性の両方を兼ね備えた

新しい造りです。

 

今回はお料理目的で、温泉には重きを置いていなかったので、

別邸の温泉付き客室ではなく、

本館海側のシャワーブース付き和洋室を利用させていただきました。

幅広でゆったりと休めるベッドが2台あり、

鯛ノ浦を臨む窓側のスペースは6畳程の畳敷きですが、

そこにソファーや椅子が置かれています。

ソファーもあえてシンプルだからこそ、

ゴロンと横になってもしっくりときて、

いつまでもゴロゴロしていられました。

デザイン性と機能性の両方を併せ持った椅子も座り心地が良く、

一度腰を据えてしまうともう立ちたくありません。

 

でも何より、ソファーや椅子に座っても、

素足の足下に感じる畳が心地いい!

若い時は畳の良さがわからず、自宅にも和室はいらないと思っていましたが、

40歳を超えてたまたま和室のある家に住んでみて、畳の良さを痛感しました。

フローリングに直接ゴロンとなろうとは思わないですが、

畳はなんだかゴロンとなりたくなり、

そして寝転んだ時の安堵感と解放感。

夏は涼しく、冬は温かい感触。

やっぱり私、日本人だなぁ~と思うとともに、

畳という知恵・文化を生み出した先人に畏敬の念すら覚えます。

 

ベッドやソファーという現代に合わせた機能性・居住性を取り入れつつ、

旅館や日本の伝統文化である畳は残している設計がとても気に入りました。

 

また、照明も心地よい空間づくりに貢献していました。

メインは程よい間接照明で、暗すぎず、明るすぎず、

ストレスなく、ゆったりとした気分で過ごすことができました。

もちろん、ベッドサイドには手元用の照明もあり、

椅子の傍には読書用と思われる背の高いスタンドも備えられていたので、

必要に応じて明るさをプラスできます。

デザイン性と快適性、実用性を兼ね備えた照明づくりは、

簡単なようで意外と難しいのですが、

ここでもまた三水さんの「お客様満足の追求」が見えた気がしました。

 

そして、特に女性の方は、

何気なくチェックしてしまうお部屋のアメニティですが、

今回のお部屋にはMARKS&WEBさんの化粧水等が置かれていました!

個人的にMARKS&WEBさんの商品が好きなのと、

お宿側の立場に立つと、

どうしても業務用アメニティのほうがコスト・手間的に都合が良いので、

MARKS&WEBさん(恐らく業務用商品はないと思うのですが…)を

置いているとは!!と驚きと喜びで、

それだけでもテンションが上がってしまいました。

 

その他にも、

  大浴場・貸切風呂等に持って行ける荷物用カゴバックもおしゃれ。

  浴衣と作務衣の両方がお部屋にあり、好きな方を利用できる。

  大浴場もお部屋もドライヤーは

  パナソニックさんの大風量のナノイーを採用。

  お客様の視界に入らないよう、

  テレビ等の配線や恐らくWifiのモデム等も棚の中に格納されている。

などなど、あげ始めると切りがないですが、

一つ一つ丁寧に張り巡らされた気遣い。

そうありたいとは思っても、それを実現するのは容易でないことも多いです。

三水さんの努力に頭が下がる思いでした。

 

お料理目的でうかがったのに、特筆したいことが多すぎて、

既にだいぶ長くなってしまいました。(苦笑)

 

お夕食では、千葉県の名産・アワビや伊勢エビを含むお造りの盛り合わせ、

金目鯛の煮付けなど、お魚の甘さや脂など素材の味わいも

もちろん堪能させていただきましたが、

印象的だったのは「ブリしゃぶ」でした。

しゃぶしゃぶするお鍋のつゆにオリーブオイルが加えられていて、

「ん?これはどんな感じになるの??」と思いながらいただいてみると、

和のだしと洋のオリーブオイルの見事なマリアージュ。

そして、それらとブリやお野菜とのさらに見事なマリアージュ。

 

温かいのだけれど、お魚やお野菜がオリーブオイルをまとって

カルパッチョ的な…。

でも、鍋つゆのだしのちょっと香ばしいような風味も加わって…。

結論は…美味しい!!

お鍋にオイルは初めての体験で、

「へぇ~…こんなふうになるんだ!?」と

ちょっと目を見開いてしまいました。

 

お魚は種類が多いので、素材が良ければ、

生・焼く・蒸す・煮るなどシンプルなお料理で

十分様々な味を楽しむことができますが、

それに甘んじることなく、さらにお客様の記憶に残るよう、

工夫・研究されている料理長さん、厨房のみなさんの思いが

垣間見える一品でした。

 

そして最近は、デザートは口直し程度に力作の一品を!、

というお宿も多いですが、

三水さんのデザートは、力作の三品を!と言わんばかりに、

スイーツ好きな方には嬉し楽しいボリュームで

お食事を締めくくってくれました。

私もご飯は、満腹で少しだけギブアップさせていただいたにもかかわらず、

俗に言う、「甘い物は別腹」でデザートはしっかり完食いたしました!(笑)

ごちそうさまでした。

 

前述のとおり、今回、温泉に重きを置いていなかったので、

ご参考になることはあまりお伝えできないかもしれませんが、

温泉・お風呂は気になる方も多いと思うので、

最後にわかる範囲で触れさせていただきます。

 

別邸は全室温泉付き、本館には貸切風呂が2ヶ所あるので、

大浴場はそれほど広くはないですが、

私が夜と朝各1回利用した際は貸切り状態でした。

(平日だったこともあるかもしれませんが。)

 

最近はみなさん、旅行に行ったら、多少高額でも、

プライベート空間で贅沢にお風呂もゆっくり楽しみたい、

という方が多いようで、

温泉や露天風呂付き客室とそうでない客室があるお宿では、

むしろ前者から予約が埋まっていく傾向にあるようです。

私が以前働いていた旅館もまさにその状態で、

特にコロナの影響が大きかった時期は、

露天風呂付き客室「しか」予約が入らないという日々が続きました。

(その旅館は温泉ではなかったにもかかわらず、です。)

 

三水さんもほとんどの方が別邸を利用されているようでしたので、

その傾向があるのかもしれません。

もしかして、本館に宿泊しているのは私達だけ?と思うほどでしたので、

おかげで大浴場を貸切ることができました。

 

大浴場は2ヶ所あり、朝夕で男女交代制でしたが、

いずれも脱衣所や半露天風呂はリニューアルされているようで、

コンパクトながらモダンで落ち着くデザインでした。

ただ、配置上、海を眺めたりはできませんので、

海を見ながらお風呂を楽しみたい方は、

別邸に宿泊されるか、貸切風呂を利用されることをお勧めします。

 

私もマニアの間では名湯と囁かれる温泉旅館での仕事が長かったので、

温泉の難しさ、大変さはそれなりにわかっているつもりですが、

湯量が豊富とは言えない千葉で温泉を提供されるのは

大変なご苦労があることと思います。

それでもお客様に喜んでもらえるようにと、

温泉を提供されている心意気に感謝しながら、

ぐだ~っと手足を伸ばし、のんびり浸からせていただきました。

 

泉質は日本の中でも希少で良質な温泉なので、

湯量が増える奇跡が起きるといいのですが…。

こればっかりは、自然のものなので祈るほかないのが悔しいですね…。

 

 

翌朝、また一つ、再訪したいと思えるお宿に出会えた喜びとともに、

離れがたい気持ちでお部屋を後にしました。

 

最後に玄関の暖簾を上げて見送ってくださった

若い女性スタッフさんの笑顔が、

お寺の門前にふさわしく穏やかな温かさに溢れていて、

後光がさしているかのように素敵でした。