元フロントスタッフ兼仲居頭のお宿備忘録

お宿の従業員とお客様両方の視点を得た自分の備忘として実際にうかがった【お宿の魅力】を書き残していきます。

【群馬県・嬬恋村・万座温泉】白鐵の湯 万座亭

2024-07-14 09:32:09 | 旅館

前回の投稿からはや半年…。

6月中には投稿ができそうだ、と、

あと少しのところまで書き上げたにもかかわらず、

その後、夏の大風邪を引きダウン…。

コロナやインフルエンザではなかったのが不幸中の幸いでしたが、

7月を迎えてしまいました…。

人生、思い通りにはいかないものですね。(苦笑)

本当に、本当に、細々になってしまっていますが、

これからも続けていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

 

久々のお宿ブログ、第7弾は、

ずっと行ってみたいと思いながら、

なぜかこれまで訪れる機会がなかった万座温泉のお宿。

 

群馬県の嬬恋村・万座温泉の「白鐵(はくてつ)の湯 万座亭」さん

(以下、「万座亭さん」と呼ばせていただきます。)

 

をご紹介します。

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、

万座温泉は、"日本一の硫黄濃度の良質泉"。

しかも、一日の湧出量は540万リットル!

そんな温泉がそれだけ湧き出していれば、

万座に近付いただけで、車の窓を開けていなくても、

車中いっぱいに硫黄の香りが広がるのも致し方ありません。(笑)

 

もう数十年前になりますが、

万座温泉を車で通りがかり、

その香りを体験した強烈な記憶がずっとありました。

当時は、「万座温泉って凄いな…」と、

どちらかと言えば、引き気味の印象でしたが、

温泉の仕事に携わるようになり、

「エリア一帯があれだけ硫黄臭に染まる温泉って、

一体、どんなものなのだろう…」

という興味に変わり、

「そのうち絶対にうかがってみたい!」

と思っていました。

 

万座温泉へのルートはいくつかあるようですが、

今回は最も安全に、できるだけ楽に辿り着けそうなルートを、と思い、

有料道路を使い、軽井沢から上がっていきました。

有料道路は安いとは言えない料金でしたが、

あれだけ長距離にわたり、ほぼ山頂と言えるところまで登る道を、

すべて中央線のあるゆとりの車線幅で整備してくれていれば、

むしろ、安いくらいなのかもしれません。

山道なので、もちろん急なカーブの多い道ではありますが、

標高約1,000メートルの軽井沢から、1,800メートルの万座温泉まで、

余計な恐怖心や疲労感なく、行き着くことができました。

 

ただ…雪がある季節は、話しは全く別です。

たとえ、冬タイヤの装備をしていたとしても、

よほど雪道に自信がある方でないと、

運転は非常に困難だと思います。

周辺道路は冬期通行止めの区間もあるようですし、

雪シーズンは自家用車以外の交通手段を選択したほうが

安心かもしれません。

電車で行き、お宿の送迎バスを利用することも可能だそうですので、

どうぞご無理のないご計画を。

冷たい空気のなかで、雪景色を見ながら満喫する万座温泉のお湯は、

格別であること間違いありませんので、

私もいつか冬の万座温泉を体験してみたいと思っています。

 

軽井沢から車で登り続けること約1時間半。

山頂にかなり近くなり、

「ずいぶん登ってきたなぁ…」

と思っていたら、硫黄の香りとともに、

万座温泉特有の風景「空吹(からぶき)」がお出迎え。

これは昔の噴火口跡で、地面にしみ込んだ雨水や地下水が水蒸気となって、

硫化水素ガスとともに勢いよく噴き出しているそうです。

空吹周辺はガスの影響で植物が生息できないので、

木々が生い茂る山の風景の中で、

そこだけ工事現場かのように山肌が露出しています。

違和感とともに、自然のエネルギーの大きさのようなものを感じ、

少し恐怖すら覚えました。

そして同時に、人間の力など到底及ばない大自然が作り出してくれる

絶品温泉への期待に胸が高鳴りました。(笑)

 

私がうかがった日は、東京の最高気温が27度ほどでしたが、

16時頃に万座温泉に到着すると15度ほど。

半袖の上にパーカーを1枚羽織ってちょうど良いくらいでした。

さすが、標高1,800メートル!

夏は避暑に最適です。

日中でも25度に届くことは少ないそうです。

その代わり、冬は-10度前後が普通とのこと。

夏も冬も、服装選びにはご留意を。

 

周辺情報が長くなってしまいましたが、

肝心の万座亭さんはというと、

外観の第一印象は山の立地に馴染む山小屋風。

「山に来たぁ!」という気分と、

でも、ちょっと懐かし場所に戻ってきたような別荘の趣もあり、

一方で、和風旅館のホッとする風情も醸し出していて。

「建物の中はいったい何風?」

と思いながら足を踏み入れると、

まさに外観同様、山小屋と和風旅館のいいとこ取りをしたような、

落ち着きがあり、気張らずにホッと寛げる内観と雰囲気。

山小屋過ぎず、

でも、静謐で重厚な木の温もりを感じる山小屋の良さはある。

その度合いが私にはちょうど良く、とても心地良い空間でした。

2022年秋頃から少しずつ館内を改装されたようで、

まだ新しい和モダンの内装が、

さらに気持ちの良い滞在を後押ししてくれました。

 

昨年、ライブラリや個室も併設されたカフェや

サウナも新設されたそうで、

もちろん、いずれも素敵でした!

それらについては、万座亭さんのHPに写真付きで紹介されているので、

ご興味のある方はそちらをご覧いただくとして…。

私が特筆すべきと感じたのは、館内の共用トイレ。(笑)

枠組みは明らかに年代ものであることを物語っているのですが、

新しく綺麗に、今時のデザイン・設備に改装されていて、

本当に気持ち良く利用させていただきました。

お宿は、どうしても客室の快適性向上を優先してしまい

(お宿である以上、それは当然のことではあります。)、

共用トイレの改装などは後回しになりがちなのですが、

日帰り入浴も受け入れていらっしゃるとは言え、

共用トイレの改装をきちんとされているということは、

お客様の立場に立って考え、お客様を大事にされている証だと、

深く感銘を受けました。

共用トイレは、恐らく客室のトイレ以上に多くのお客様が利用されます。

少し前から、飲食店なども、

「トイレを見れば、お客様を大事にしているお店かどうかがわかる。」

などと言われるようになりましたが、

トイレにこそ、清潔感と快適さがあって欲しいと思う方は

少なくないのではないだろうかと思うにつけ、

お宿も共用トイレの印象を大切に考えるべきだと勉強になりました。

 

今回、本館の半露天風呂付き特別室「山吹」を利用させていただきました。

こちらも山の別荘の雰囲気を取り込んだ落ち着きのある和風のお部屋で、

ご案内いただいた瞬間からスッと馴染み、

ゆったりと寛ぐことができました。

このお部屋は、万座亭さん唯一の喫煙可のお部屋でしたが、

タバコの匂いは特に気になりませんでした。

ただ、匂いの感度は人それぞれなので、

敏感な方は、もしかすると他のお部屋を選ばれたほうがいいかもしれません。

逆に、愛煙家の方にとっては、今のご時世、貴重なお部屋ですね。

 

予約をする際、HP等を見て、

「湯量豊富な万座温泉で、お部屋のお風呂が温泉ではないのはなぜだろう…」

と思っていたのですが、うかがってみて納得。

前述のとおり、硫黄濃度が高いあまり、

お部屋のお風呂にそれを注ぐのは、いろんな意味で不可能なのだと。

もしお部屋のお風呂に温泉を注いだ場合、

硫化水素が発生するので十分な換気が必要になりますが、

万一それがうまくいかなかったら、お客様の命に関わる事態が発生します。

また、お部屋のお風呂に温泉を入れていないにもかかわらず、

万座温泉一帯に流れる硫化水素の影響で、

お部屋の中の水道管や蛇口など金属類はどうしても錆びてしまいます。

従業員の方の自転車は2年、自動販売機は1年半、テレビは1年で、

金属部分が腐食して壊れてしまうそうです。

お宿が運営を続けていくには大変なご苦労があることだろうと、

頭の下がる思いでした。

ましてや、お部屋のお風呂に温泉を注ごうものなら、

いったい、お部屋自体、どれだけもつか…。

お宿側の立場で考えると…怖くて考えたくないです。(苦笑)

それと恐らく、お部屋のお風呂に万座温泉のお湯が流れていたら、

硫黄の香りが強すぎて、

なかなか、「お部屋でゆっくり」というわけにはいかないでしょうね…。

お客様の安全とできるだけお客様に快適に過ごしてもらうために、

あえて温泉を入れていないのだと理解しました。

でも、がっかりする必要はありません。

お部屋のお風呂に行くのと同じくらいの距離に大浴場があるので、

ある意味、「大浴場付き客室」と言っても過言ではないくらいです。(笑)

お部屋のお風呂に入るのと同様の気軽さで大浴場を利用でき、

「さすが、特別室!」

と大満足でした。

ゆったりとした10畳和室と独立したベッドルーム、

そして、後にご紹介するお料理の内容を考えると、

特別室とは言ってもリーズナブルな料金設定で、

これだけ快適に心地良く過ごせるのなら、

是非また利用したいと思えるお部屋でした。

 

そして、一番のお目当てだった温泉!

実は、硫黄泉が私の肌とはあまり相性が良くないので、

「どうかな…」

と不安に思うところもあったのですが…。

源泉掛け流しだからなのか、

良質泉だからなのか、

塩化物・ナトリウム・メタけい酸・メタほう酸など

肌に良い成分も多く含んでいるからなのか、

予想外なまでに優しく柔らかなお湯!

その柔らかさに身体中の緊張が解きほぐされていき、

お湯のなかに身体が溶け込んでいくような開放感。

お湯に頬ずりしたくなる程でした。

(実際に頬ずりするのは厳禁ですが。笑)

そして、源泉掛け流しならではの軽いお湯。

これまで体験した種々の温泉の中でも

トップクラスの浸かり心地の良さでした。

 

万座温泉の源泉は約80度と超高温のため、

加水せずにはとても浸かれません。

でも、加水しているとは思えないほどの良質なお湯です。

万座亭さんの大浴場は、男女それぞれ内湯1つ、露天風呂1つでしたが、

恐らく、温度調整の兼ね合いで、

内湯のほうが加水している割合が多いと思います。

露天風呂は風が通り、

標高1,800メートルの涼しい(冷たい?笑)空気が

自然にお湯の温度を下げてくれますが、

内湯は湯気もこもり、温度が下がりづらいので、

どうしても加水を増やさないと浸かれる温度にはなりません。

それでも、内湯も十分万座温泉を堪能できる質の良さでしたが、

やはり露天風呂のお湯が絶品!

できるだけ加水を少なくするためなのか、

浅めの大きなお風呂が用意されていて、

それなのに、浸かれば自分の足が見えないほどの濃厚な白濁のお湯。

お風呂の底が全く見えないので、うかつに動くのが怖いほどです。(苦笑)

そんなお湯に半ば浮かびながら、真っ青な空と向かいの山を眺め、

澄み切った山の空気を感じていたら、

「あぁ~…幸せ…」

と心の声が漏れてしまいそうでした。

 

確かに、楽に訪れることのできる場所ではありません。

山奥の割りに相当道が整備されているとは言え、

軽井沢から1時間半、車で山道を登る疲労感はゼロではありません。

でも。

その労力をかけたからこそ出会えた温泉がそこにはありました。

その労力をかけた甲斐があったと思える温泉がそこにはありました。

いつか行こうと思いながら、延ばし延ばしになってしまっていましたが、

「まだ体力があり、動けるうちに、出会えて良かった…」

心底そう思える温泉でした。

 

ただ、お風呂に関してご留意点を一つだけ。

先にも何度か書かせていただいたように、

万座温泉は硫黄濃度日本一。

その温泉を流している浴室は、

硫化水素ガスを排出する必要があるため、

おっきな換気扇で換気を行っています。

私がうかがった初夏の気候の日でさえ、

洗い場では若干寒さを感じました。

気温の低い季節に訪れる場合は、洗い場はかなり寒いと思いますが、

これもお客様に安全に利用してもらうために、

どうしても欠かせない対応なので、

なんとか入り方を工夫していただき、

「これも硫黄濃度日本一の万座温泉ならでは!」

と楽しんでいただければと思います。(笑)

 

万座温泉のお湯の良さに衝撃を受けつつ、

お夕食の席にご案内いただいて、またびっくり。

普通なら、どう見ても4人席の大きさのテーブルに、

お料理がひしめき合っていて…。

「これ、本当に2人分のお料理…?」

と一瞬ひるむほどでした。(笑)

さらに、テーブルの一角には、

とても2人用とは思えない大きなお鍋が用意されていて…。

「もしや、これはプラン内容に入っていたすき焼きのお鍋…?

小さいお鍋の用意がなかったのかな…」

と横目に見つつ、ひとまず自分を納得させて。

 

係の方がテーブルに並んでいるお料理をご説明くださり、

「この後、温かいお料理の茶碗蒸しと天ぷらをお持ちします。」

と最後に言い残して立ち去られると…。

「これだけお料理が並んでいて、さらに茶碗蒸しと天ぷら!?

ひとまず、先付け、前菜からいただいて、

次のお料理を置くスペースを作らないと!!」

お食事、よーいドン!です。(笑)

大きなテーブルを2人用で利用させていただいていたので、

実際には、次のお料理を置く場所も十分にありました。

ご安心ください。

ちょっと誇張しました。すみません。(笑)

でも、そういう気分になるほど、

たくさんのお料理が並んでいたことは事実です。

みなさん、万座亭さんを訪れる際は、

どうぞ十分にお腹を空かせて行かれてください。

 

天ぷらは、時節柄もあったのか、

鱧と山菜の天ぷらをご用意くださいました。

会席料理では、天ぷらが最後のほうに提供されることが多いですが、

お腹がいっぱいになってしまい、

天ぷらを食べられなくなってしまいがちなので、

私はできれば早い段階で天ぷらをいただきたい質です。

食事開始から程なくして天ぷらをお持ちいただいたので、

ありがたい!と思いながら、

真っ先に鱧の天ぷらを一口。

ほふほふ、と思わず言ってしまうほど温かく、

ふわっふわの鱧の天ぷら。

「やっぱり、温かいお料理は温かいうちにいただくのが一番…!」

久々の鱧を楽しませていただきました。

 

そして、お鍋の大きさがどうしても気になっていたすきやき。

具材を先に用意しておいて良いかと聞かれ、

お願いします、と答えて、

お持ちいただいたその具材にまたびっくり!!

これまたどう見ても2人分とは思えない具材の量!!

お鍋ものの具材は、お野菜がかさばるから…

という問題ではない量!!

だって、一番上にはわらじどころではない大きさの上州牛が…

これ、何枚??

という感じに重なってしました。

しかも、見事なサシが入った上州牛。

「これ、すきやきだけでお腹いっぱいになるよね…(笑)」

と本当に笑ってしまうくらいの量でした。

でも、上州牛、見た目に違わず、

口の中でとろけるように柔らかく、甘みたっぷりで、

「う~~~ん…美味しいっ!!」

と口から幸せが身体にしみ込んでいきました。

すきやき付きのプランをご利用の方は、

必ず先に具材をご用意いただいて、その量を確認し、

お腹と相談しながら、

良い頃合いですきやきを召し上がられることをお勧めします。

他のお料理でお腹いっぱいになって、すきやきを楽しめなかった、

ということのないようにご注意ください。

 

もし、お天気の良い日に万座亭さんを訪れることがあれば、

お夕食をたらふくいただいた腹ごなしに、

ちょっと駐車場へ出てみるのもいいかもしれません。

標高1,800メートルの山の頂き、

見上げれば、澄んだ空気の向こうに広がる大きな夜空に、

降り注いできそうなほどの星たちが瞬いています。

数軒のお宿以外、民家もお店もほとんどなく、

光に邪魔されない万座温泉の夜空は、

目が慣れてくると、隙間がないくらいに見える星が増えていきます。

 

こういう壮大な自然を目にする度に思います。

「人間なんて、この壮大な自然に比べたらちっぽけだなぁ…。

そんなちっぽけな私の日々の悩みなんて、

地球規模の営みで考えたら、本当に取るに足らない小さなこと。

ちっちゃなことは気にせずに、また明日から頑張ろう!!」

私、単純なんです。すみません。(笑)

でも、旅で癒やされるってこういうことなのかな、と思います。

旅の醍醐味ってこういうことなんじゃないかな、とも思います。

万座温泉の大自然、ありがとう。

万座温泉を発見してくれた先人達に感謝です。

 

星空を見に外に出られる際は、

本当に暗いので、足元には十分ご注意ください。

チラッと見た気がするだけなので、

不確かな情報で申し訳ありませんが、

万座亭さんで懐中電灯や望遠鏡の貸し出しをされているとの貼り紙が

あったような、なかったような…。

ご興味がある方は、万座亭さんに確認されてみてください。

スマホのライトなどを活用されるのもいいかもしれませんね。

どうぞお怪我のないように、星空を堪能されてください。

 

硫黄濃度日本一の良質泉が豊富に湧き出しているがゆえ、

万座温泉エリア内には、ガソリンスタンドもコンビニもありません。

恐らく、設備の維持管理が困難なのだと思います。

そんな環境下で、もちろんお宿だって維持管理をしていくのは、

相当なご苦労がおありのことと推察しますが、

それでもそのご苦労を受け入れ、

万座温泉を堪能できる場をご提供くださっているお宿に、

心から感謝しつつ、家路につきました。

 

万座温泉を訪れる際は、確かに硫黄臭には覚悟が必要です。

帰宅してからも、2日ほどは自分自身から硫黄の香りが立ち込め、

持参した衣類なども2回洗濯してもなお硫黄臭が取り切れないような

気がしたり…(笑)。

温泉に浸かる際は、アクセサリーなどの金属腐食に注意が必要です。

(必ずアクセサリー類は外されてください。)

お宿以外の施設がほとんどなく、ちょっと不便を感じるかもしれません。

いわゆる"温泉街"を期待して行かれると

少々寂しささえ覚えるかもしれません。

でも、その代わりに雄大な自然のなかで、

希少な良質泉を心ゆくまで味わうことができます。

日々の便利な生活を離れ、

心底ゆったりと大自然の恵みに浸るのも

時には良いのではないでしょうか。

 

少なくとも私は、

必ずまたうかがいたい温泉として心に刻み、

必ず再訪したいお宿リストに万座亭さんを追加させていただきました。



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