ご無沙汰の投稿になってしまいましたが、
そして、千葉県のお宿続きで恐縮ですが、
第2弾は、
千葉県鋸南町・安房温泉「安房温泉 紀伊乃国屋」さん
(以下、紀伊乃国屋さんと呼ばせていただきます。)
を紹介させていただきます。
(本屋さんやスーパーの「きのくにや」さんとは無関係です。たぶん。笑)
千葉に紀伊乃国屋さんという勢いがある素敵なお宿がある…と
数年前から気になっていたのですが、
なかなかお邪魔するタイミングに恵まれず、
ようやくご縁をいただくことができました。
ちなみに、紀伊乃国屋さんは「紀伊乃国屋グループ」さんのお宿の一つで、
紀伊乃国屋グループさんは、「お宿ひるた」さん、「さざね」さんなど、
千葉県鋸南町で現在6つのお宿とサウナカフェを展開されています。
どのお宿も魅力的だったのですが、
まず初めは、紀伊乃国屋グループさんの原点というか
ベースと思われるお宿を体験してみよう!ということと、
単純に旅行日の空き状況から(笑)、
「安房温泉 紀伊乃国屋」(本館)さんを利用させていただきました。
※今回書かせていただく内容は2023年4月時点のものとなります。
お宿のサービス内容や施設・設備は日進月歩で変化していきますので
予めご了承ください。
「こんなところに温泉旅館ある?」と思うほど、
普通の住宅街のなかにあるのですが、
その住宅街の雰囲気に馴染んだ設えの玄関の暖簾をくぐり、
格子にすりガラスで中が見えない自動扉が開くと、
小上がりに正座をし、深々とお辞儀をしたスタッフの方のお姿が。
「この日本旅館伝統のお出迎え、久々だなぁ…。
町の雰囲気に溶け込んだ外観もそうだけど、
ちょっと京都の旅館を思い出すな…。」
と、ちょっとした驚きと感慨、
と同時に、
日本旅館の文化を大切にしているお宿なのだな…
さすが、一目置かれているお宿!
と期待が膨らみました。
元は民宿を営まれていて、
20年あまり前に紀伊乃国屋さんとしてリニューアルされたとのことで、
建物のベースは年季を感じますが、古き良き日本旅館の趣は残しながら、
古くささは感じない、落ち着いた和モダンの内装にうまく改装されていて、
通路や階段の踊り場にディスプレイとして飾られた日本酒の瓶も
センスが光っていました。
こういう風に改装すると、こんなに素敵で居心地の良い空間になるのかぁ…と
とても勉強になり、あちこちキョロキョロ見回してしまいました。
客室にご案内いただき、扉を開けると、
正面に華やかに生けられたお花がお出迎え。
これもまた、最近は少なくなりましたが、
日本旅館の伝統文化の象徴ですね。
お宿側の視点で恐縮ですが、
毎日活き活きとしたお花を各客室に用意するのは、
手間もコストも結構かかります。
それよりもリーズナブルにお客様に宿をご利用いただくことを優先し、
また世の中的にもそういうことに重きを置かない風潮に
なってきていることもあり、
そこに労力とコストをかけなくなったお宿も多いと思いますが、
やはり、こういう心遣いを目にすると、
お宿がお客様を大事にしている思いが伝わってきて嬉しくもなり、
頑張ってるなぁ…、きちんとした旅館だなぁ…と感服してしまいます。
少々値が張るお宿では、お客様の到着前と翌朝の朝食時に
お花を生け直したりするところもあります。
何気なく飾ってあるお花ですが、
「当館をご利用いただき、ありがとうございます。
私達も精一杯務めさせていただきますので、
どうかごゆっくりとお寛ぎください。」
というお宿の心からのメッセージがひっそりと込められています。
日本文化は粋で素敵です。
お部屋の中も伝統的な和室のスタイルでありながら、
壁や引き戸、洗面周りなどは綺麗に改装されていて、
古さと新しさのバランスが程よく、
家にいるかのようにゆっくりとできました。
全7室のお宿ですが、最近にしては珍しく、どのお部屋も喫煙可能ですので、
愛煙家の方にとってはさらにゆっくりと寛げますね。
匂いへの敏感さは個人差があるので絶対とは言えませんが、
お部屋に入った時、たばこの匂いを感じた記憶はないので、
恐らく嫌煙家の方も問題なく寛げると思います。
そして、何よりも感心したのが、行き届いたお掃除!
もちろん、どのお宿も一生懸命お掃除をしていると思いますが、
前日のお客様のチェックアウト後、
当日のお客様のチェックインに間に合わせることが至上命題のため、
どうしても毎日は清掃・メンテナンスが行き届かないところが
出てきてしまうものだと思います。
例えば、ちょっとしたサッシの隅とか、照明の傘の中とか、
欄間とか天井とか、障子や襖のちょっとした穴とか…。
定期的に、大掃除的に清掃・メンテナンスはするものの、
毎日そこまではなかなか手が回らない…というのが現実だったりします。
でも、紀伊乃国屋さんは黒い塗りの天井もピカピカ。
照明の傘の中にゴミの陰も見当たりません。
意地の悪い姑のように隅々まで見回ったわけではありませんが、
パッと目を向けた隅っこに
埃が溜まっているということはありませんでした。
もしかしたら、定期的な大掃除をしたばかりだったのかもしれませんが(笑)、
恐らく、あれだけぬかりなく清掃が行き届いているということは、
日頃から清掃とメンテナンスをしっかりとされている証だと思います。
そして、お客様に快適に寛いで滞在していただこうという気持ちを
スタッフの方一人一人にしっかりと教育され、
またスタッフの方達もそういう気持ちで丁寧にお仕事をされている。
そうでなければ、あの天井の輝きはないと思います。
布団に横になった時に見上げた天井の黒光りは圧巻でした。(笑)
お花やお掃除など細かい点ではありますが、
この価格帯でこのクオリティの高さでの運営は、
従業員を含めた企業努力の賜だと思います。
旅館業に真摯に取り組み、
何よりもお客様のことを考える企業理念が
透けて見えるような気がしました。
温泉旅館の楽しみのひとつ、お風呂はというと、
元々民宿を営まれていた名残だと思いますが、
客室内に浴室はありません。(お手洗いはあります。)
館内に男女交代制のお風呂が2ヶ所と貸切風呂が2ヶ所あり、
貸切風呂は無料で各1回利用させてもらうことができます。
男女交代制のお風呂は2~3人程度で利用可能の少し小ぶりの内湯が1ヶ所と、
ゆったりとした露天風呂が1ヶ所で、
その2ヶ所が時間で男女交代になります。
露天風呂は洗い場も露天なので、利用する季節などによって、
時間やタイミングをうまく調整すると快適だと思います。
貸切風呂も2人定員程度の小ぶりの内湯が1ヶ所と、
屋上にあり、空を見上げられる広々とした露天風呂が1ヶ所。
こちらの露天風呂も洗い場は室外です。
「温泉宿の大浴場」をイメージしてしまうと
少し狭い気がしてしまうかもしれませんが、
客室が全7室で、
各お部屋ごとに貸切風呂を40分×2回利用できることを考えると、
キャパシティとしては十分と言えるかと思います。
私が宿泊させていただいた際も、15:30頃にチェックイン、
なんだかんだしているうちに16:00過ぎくらいになってしまい、
そこから男女交代制のお風呂を利用し、夕食をいただいたり、
さらに貸切風呂を2回利用させていただいたりすると、
少し忙しいくらいでした。(苦笑)
貸切風呂2回の利用だけでも温泉を十分に楽しめると思うので、
私が宿泊した日も恐らく満室だったと思いますが、
男女交代制のお風呂で顔を合わせたのはお二方だけでした。
すれ違い、すれ違いでうまい具合に脱衣所、洗い場、浴槽の使用が
少しずつずれていたので、気を遣うことはほとんどなく、
ほぼ貸切のような状態で利用させていただくことができました。
貸切風呂は全7室に対して十分な時間枠を工夫して設定してありましたが、
そうは言っても貸切風呂、
チェックイン時に空いている時間枠のなかから選ばなければならないので、
なるべくご自身の希望の時間に利用されたい方は、
早めのチェックインをお勧めします。
4ヶ所のお風呂のなかで私が最も気に入ったのは、貸切風呂「月見の湯」。
屋上デッキのような雰囲気の広々とした空間が
高めの塀で囲まれているのですが、
見上げると360度空だけで、他に視界を遮るものがありません。
私は晴れた夜に利用させていただいたのですが、
まさに「月見の湯」。
温泉でぬくまりながら、顔に触れる空気はひんやりと気持ち良く、
虫や蛙の鳴き声しか聞こえない静寂のなかで、
暗闇に煌々と光る月と星を見上げる。
音も光も景色も無駄に邪魔するものがありません。
こういう露天風呂は、ありそうで意外とない気がします。
自然と深呼吸をしてリラックスし、
しばし幸せな無の時間に身を委ねていました。
安房温泉は、紀伊乃国屋グループさんが掘削し、
平成元年に誕生した温泉とのことですが、
海岸の温泉の特徴の一つである
塩化ナトリウム(つまりは「塩」ですね。笑)の含有量が多く、
肌のダメージを回復させてくれるメタホウ酸、
保湿効果のあるメタケイ酸も含まれており、
「美肌の湯」として知られているそうです。
聞いただけで肌がつるつるしてきそうですが、
私の肌が元々このナトリウム-塩化物系温泉と相性が良いせいもあったのか、
濾過循環しているとは思えないほどの質の高さでした。
つるつるとしたお湯の肌触りを存分に堪能させていただきました。
是非またリピートしたい温泉の一つです。
そして、温泉旅館のもうひとつの楽しみであるお食事ですが、
夕食は一律で18時開始、そして最近では少なくなったお部屋食です。
私の部屋は研修中らしき外国人スタッフの方が
配膳を担当してくださいました。
敬語が少し難しい様子だったり、多少片言なところはありましたが、
よくこれだけ専門的なお料理の単語を覚えられたな…と驚くほどで、
一生懸命やってくださいました。
最近は旅館も外国人スタッフの方がだいぶ増えましたが、
「日本旅館に来たのに外国人が対応するの?」と
まだ抵抗がある方も少なからずいらっしゃいます。
その違和感、疑問はごもっともかと思います。
ただ、昨今の旅館事情としては、常に人手不足に悩まされるなかで、
日本文化、日本旅館に興味を持つ外国人スタッフの方に
支えられている一面があることは事実です。
旅館の仕事は傍目から見る以上に重労働で、
お客様の一日の生活をお預かりするようなものなので24時間営業同然、
勤務時間、実質的な拘束時間も長くなりがちです。
それなのに賃金相場が低いと言われる業界です。
賃金を上げたいと思っている経営者もいると思いますが、
旅館は人で成り立っている業界なので、
賃金を上げ過ぎると利益が出なくなってしまい、
旅館が倒れてしまっては本末転倒…。
そう簡単には実現できません。
そんなこんなで旅館の仕事は敬遠されがち、
いったん入社してくれても、
想像以上に苦労の多い仕事内容を凌駕する
モチベーションや目的のある人でなければ、
なかなか続かないことが多いのが実情です。
一方で、ここ数年、旅館で働きたいという外国の方が
本当に増えた印象があります。
もちろん、様々な思惑があったり、
問題やトラブルを含むケースも少なくはないと思いますが、
日本文化に興味があり、それを学べる日本旅館で働きたいと、
正座すらしたことのない外国の方が、
難しいと言われる日本の敬語を勉強し、
日本人でさえ今は馴染みのないような旅館用語を必死に覚え、
ときには日本人でもあまり知らない日本文化を
知るようになっていたりすることもあります。
また、外国の方を指導する側も楽ではありません。
下手をすれば、仕事に対する考え方・心構えから文化が違うので、
日本旅館の作法・マナーまで指導して、
一人でもお客様の前に出られるよう、
一人前に育てるまでには大変な労力が必要です。
日本人を育てるほうがはるかに楽な場合が多いです。
でも、そうしなければ旅館の運営が成り立たない現状があります。
そういう苦労を経て、外国人スタッフの方はお客様の対応をしています。
考え方や感じ方は人それぞれでいいと思いますし、
どの考え方が唯一正しいというものではないと思っていますが、
私は旅館で外国人スタッフの方にお会いすると、
「日本の旅館を支えてくださりありがとうございます。
是非細く長く頑張ってくださいね!」
と心の中で呟いてしまいます。
(ちなみに、紀伊乃国屋さんが人手不足かどうかは定かではありません。
ただ純粋に文化交流などのために
外国の方にお仕事をしていただいているのかもしれません。
あくまでも、上記は一般論としてご理解いただければ幸いです。)
夕食には基本プランで舟盛り、アワビの踊り焼き、金目鯛の煮付けなど、
千葉の海の恵みをいただくことができます。
私たちはグレードアップして
千葉県産ブランド牛『彩美牛』の鉄板焼き
が付いたプランにしたのですが、
「もうこれとご飯だけあれば、一食分、十分じゃない!?」
と思うほどのお肉が出てきて目が点でした。(苦笑)
他の美味しいお料理を既にたらふくいただいた後だったので、
「こんなに食べられないなぁ~」と言いながら食べ始めたにもかかわらず、
サシがふんだんに入っているのに脂っこ過ぎず、甘くて柔らかくて、
意外にもペロッと完食してしまいました。
基本プランでたいていの方にとっては十分な量の
美味しいお料理をいただけますが、
千葉の沿岸ということでお魚料理が中心になりますので、
「でもやっぱりお肉も食べたい!」という方や
「ボリューム満点のお料理をいただきたい!」という方にはお勧めです。
そしてさらに印象的だったのは朝食です!
席についてから出してくださる湯気の立った出来たてふわふわの卵焼きと
肉厚で味の濃い立派なアジの開きが絶品でした!!
卵焼きはお箸で割るとじゅわ~っと出汁が溢れ出し、
お醤油を垂らした大根おろしと一緒にいただくと、
バランスの良い甘みと塩味、大根おろしのさっぱり感が口の中に広がり、
朝から思わず笑顔になってしまいました。
アジは千葉の海の名産の一つですが、
紀伊乃国屋さんは毎朝館主の方が
漁港で直接お魚を仕入れていらっしゃるそうで、
さすがの鮮度、さすがの味わい、さすがの食べ応えでした。
朝食は大広間で7:30~8:00の間に席につくというスタイルでしたが、
あちこちの席から、
「このアジ、立派だね~」、
「このアジ、身が厚くてふわふわだね」、
「このアジ、味がしっかりしてるね~」
という声が聞こえてきて、
会場全体がアジにざわついていました。(笑)
みなさんも紀伊乃国屋さんをご利用の際は、
是非少し早起きをして、お腹を空かせて朝食会場へ行かれてください!
どこか懐かしいような、でも洗練された快適な客室は、
一晩過ごすとすっかり自分の家にいるかのように馴染んできて、
「あ、家に『帰る』んだっけ?」と
ちょっと不思議な気持ちでチェックアウトしました。
玄関へ向かうと、夕食をご担当くださった外国人スタッフの方がいらして、
到着時同様、小上がりに正座をし、丁寧なお辞儀で見送ってくださいました。
商売というのは、
基本を忘れず忠実にやっていくのが一番だなぁ~…と
つくづく思いました。
お客様を大事にし、お客様の立場に立って考え、
食料品店さんは新鮮で美味しい食材を売り、
衣料品店さんは丁寧にしっかりと造られた服を売り、
車屋さんは性能が良く、故障の少ない車を造って売り、
飲食店は美味しい料理を提供し、
旅館は快適な滞在を提供する。
それを忘れなければ、たとえ他のお店より多少価格が高くても、
お客様は集まり、商売は発展していく。
様々なお店を見ていて、いつもそう思います。
今は個性的なサービスやオリジナリティが話題を呼ぶ時代ですが、
それはあくまでもしっかりとした基本の上に成り立っていなければならず、
確固たる土台のないオリジナリティはあっという間に見透かされ、
飽きられて、お客様はすぐに離れていってしまいます。
紀伊乃国屋さんは若いスタッフの方がほとんどでしたが、
どこで顔を合わせてもしっかりとお客様と向き合い、
丁寧に穏やかな笑顔で挨拶をし、
温かく柔らかい口調で説明をしてくれ、
こちらも自然にゆったりとした心持ちになり、
寛いで滞在を楽しむことができました。
サービス、清潔感、お料理、温泉、そして日本文化という
温泉旅館の基本をなに一つないがしろにせず、
当たり前のことを当たり前にやり、あるべき姿をしっかりと守られている。
それがとても心地良く、何か奇抜な体験をしたわけではなかったのですが、
非常に満足して滞在を終え、また是非うかがいたいと思いました。
どんなお仕事も同じだと思いますが、
当たり前のことを当たり前にやるのは、
毎日のこととなると意外と難しい。
もしかしたら、一番難しい…?(苦笑)
「当たり前」のことなのに、
「当たり前」だからこそ慣れてしまって、
適当になってしまったり、手を抜いてしまったり…。
紀伊乃国屋さんには快適に滞在させていただいたうえに、
とても大切なことを改めて勉強させていただきました。
どうもありがとうございました。