元フロントスタッフ兼仲居頭のお宿備忘録

お宿の従業員とお客様両方の視点を得た自分の備忘として実際にうかがった【お宿の魅力】を書き残していきます。

【東京都・奥多摩町】奥多摩の風 はとのす荘

2023-09-24 18:28:47 | ホテル

前回の投稿から、思いがけず3ヶ月半が経ってしまいましたが、

ようやくの第5弾は、

 

東京都・奥多摩町「奥多摩の風 はとのす荘」さん

(以下、「はとのす荘さん」と呼ばせていただきます。)

 

をご紹介します。

 

キャンプやバーベキュー、登山などが得意でない私は、

西東京方面に何かとご縁がありながら、

奥多摩に行ったことは、あるような、ないような…、

といった具合で、記憶の中では今回がほぼ初めてでした。

 

奥多摩=深い山の中

という個人的なイメージがあったので、

若い頃のように怖いもの知らずで運転できなくなってきた私としては、

道中が少し不安でしたが、

高速のインターチェンジからホテルまで、

中央線がないような狭い箇所もなく、

物凄い山道というほど蛇行しているわけでもなく、

時々対向車とのすれ違いに気を遣う箇所はあったものの、

安心して運転していくことができました。

 

はとのす荘さんは、

1960年に国民宿舎「鳩ノ巣荘」さんとして建てられたものを、

2015年に完全建て替えリニューアルして、現在の姿となったそうです。

恐らく、国民宿舎時代のファンの方も多くいらっしゃったことと思います。

 

宿側としては、

ほんの些細なサービスを変更する時や新たに始める時ですら、

それにより逆にがっかりされるお客様がいらっしゃるのではないかと

頭を悩ませます。

ましてや、完全建て替えリニューアルともなれば、

様々な反応やご意見が多数出てくることは、

容易に想像できたことと思います。

 

ただ、それでも、時代の変化や環境・状況の変化に応じて、

宿側も変わらなければならない時があります。

それまでのファンの皆様には不満が生じる可能性があることを覚悟の上で、

それでも、これからも宿を長く続けていくため、

さらに一人でも多くのお客様にご利用いただき、

少しでもより高い満足感を提供できるようにするために、

今後、自分達は何を大切にし、何をどのように提供していくのか。

真剣に考え、悩み、

時には社内でも意見が対立することもありますが、

議論を尽くして自分達の方向性を定め、

それに向かって設備やサービスを作り上げていきます。

 

番外編「はじめに」の記事にも書かせていただいたとおり、

できることなら、お客様に喜んでいただける全てのものを揃えたいと、

もちろん宿側も望みます。

しかし、現実には様々な制約があり、

その望みを叶えることは難しく、

取捨選択をしなければならないことがほとんどです。

 

また、一つのサービスを取ってみても、

それを喜んでくださるお客様もいらっしゃれば、

不満・不快に感じるお客様もいらっしゃる。

全てのお客様に100%ご満足いただけるサービスというものは、

現実的には存在しないのだと、

多くのお客様に接しているとつくづく思います。

残念なことではありますが、

お客様それぞれに感じ方、考え方が異なるので、

それがどうしようもない現実なのです。

 

それでも自分達が自信を持ってお客様に接していくために必要になるのが、

お客様のことを十分に考えたうえでの確固たるポリシーです。

「お客様の望みに届かない部分があることを重々承知のうえで、

それでも、お客様にご満足いただき、喜んでいただくために、

自分達はこういうモットーで、こんなサービスを提供していこう!」

というポリシー。

それがあることで、

お客様の不満を素直に受け入れ、心からお詫びをすることができ、

代わりに、自分達ができるサービスなどを提案し、

自分達らしく、自分達ならではのサービスで

お客様に少しでも喜んでいただく、

ということが可能になります。

 

きっと、はとのす荘さんの完全リニューアルの際にも、

お客様のことを考えながら、

相当な検討が様々なされたことと思います。

変化による結果の責任を負うことになるのは当然宿側なので、

入念な検討をしないはずがないのです。

安易な考えやお客様のことを置き去りにした考えで

大きな変化を敢行してしまえば、

宿の存続すら危うくなるリスクが大きくなります。

特に最近は、お客様の目も洗練されていて、

まやかしはすぐに見抜かれてしまう時代であることは、

誰の目にも明らかです。

 

以前の鳩ノ巣荘さんのファンの方々が、

現在のはとのす荘さんを残念に思う部分もあるかとは思いますが、

もしかしたら、以前より魅力的になったところもあるかもしれない、

という視点で改めて見てみてくださるといいな…、と、

勝手ながら、個人的に思っています。

(私ははとのす荘さんとは何の関わりもないですが、

元同業者の一人として、

関係者の皆さんの努力が報われることを祈りつつ…。)

 

私は、申し訳ないことに国民宿舎時代の鳩ノ巣荘さんを存じ上げないので、

あくまでもビギナーとして、

現在のはとのす荘さんだけを利用させていただいた備忘となります。

”鳩ノ巣荘さん”のファンだった方には、

ご満足いただける内容にはならないかと思いますが、

なにとぞご容赦ください。

 

奥多摩湖から流れる多摩川に面し、

四方八方を山に抱かれた渓谷に佇むはとのす荘さんは、

東京都でありながら、山のリゾートのいで立ち。

都心から車で2時間前後でありながら、

山深い奥多摩湖まで20分、山梨県までは30分の距離とのこと。

それなら、この山の風景も納得、とも思いましたが、

やはり、長野の山の中と同様の景色が東京にも広がっているというのは、

なんだかちょっと嬉しい違和感でした。

 

玄関から山荘を感じる、

優雅でありながら、柔らかい、ほっとする雰囲気のデザイン。

そして、入口のドアを抜けると、

正面の全面窓一面に青々とした山の木立が迎えてくれます。

ロビーの中にもかかわらず、思わず深呼吸をしたくなりました。

華美ではなく、清潔感のある白を基調として、

木目調やブラウン系でまとめられたロビーは、

窓の外の緑に馴染み、落ち着きと寛ぎが優しく演出されていました。

 

3階の洋室を使わせていただきましたが、

客室内も、山の景色を邪魔しない木目・ブラウン系・淡い緑。

清潔感ももちろんですが、

完成から8年、客室を綺麗に保たれている努力に感服しました。

気持ち良く、ゆったりとリラックスして、滞在することができました。

 

もし、最近同じ客室を利用された方がいらっしゃったら、

HPの写真と実際が異なっていた点に気付かれたでしょうか?

HPの写真ではお部屋の奥にあるソファーが壁に沿って置かれているのですが、

現在、実際は窓に向けて置かれていませんでしたか?

元々はHPの写真のように壁を背にし、

反対の壁に向けて置かれていたそうですが、

お客様にもっと山の滞在を楽しんで欲しいとの思いから、

現在の山を望める窓へ向きを変えられたようです。

 

本当にちょっとしたことではありますが、

そこにはお客様への大切な思いが込められています。

そのちょっとした気付き、気遣いが、

お客様の満足を高められる可能性がある。

接客業の冥利、醍醐味です。

そして、常にそういう思いで自分達の業務や宿を見ていくことが、

いつかお客様の大きな満足につながっていく。

「もっとお客様のためにできることはないだろうか。」と、

日頃から自分に問い続け、

小さな努力を積み重ねていくことの大切さを、

改めて勉強させていただきました。

日々の業務に追われていると、

どうしても忘れがちになってしまったりするのですが、

そういう努力を怠らないはとのす荘さんには脱帽でした。

 

客室内の浴室も正面の山を眺められるビューバス。

しかもゆったりとした作りで、

のんびりとバスタイムを楽しめるようになっていました。

客室のバルコニーからは、

山間を流れくる多摩川を見下ろすことができます。

用意されているチェアに座り、

朝にはコーヒーなどをいただきながら、

大自然の澄んだ空気に包まれている間は、

そこが東京だということを忘れていました。

多摩川も、

川面からせり立った山の斜面に建つはとのす荘さんの3階からでも

川底が透けて見えるほど澄んでいます。

車でたった2時間の距離なのに、

都心とはこんなにも川の表情が違うのか、

と不思議なくらいでした。

 

東京にいながらにして、この大自然を満喫できることは、

はとのす荘さんの最大の魅力であり、

それをお客様に存分に楽しんでもらうために、

多くの工夫と準備をしているはとのす荘さん。

奥多摩に豊かに残る自然にも、

はとのす荘さんにも感謝です。

 

そして、スタッフの方々にも感謝。

フロントでは、的確でありながら、

親切、丁寧、かつ穏やかで、かしこまり過ぎず親近感もあり、

リゾートホテルのフロントに相応しい方々にご対応いただきました。

レストランでも、

恐らく地元の主婦の方々もお仕事をされていたと思うのですが、

皆さん、お料理や飲み物のことはもちろん、

配膳の仕方、接客など、よく勉強されている様子が垣間見えました。

そして、忙しい最中でも、優しい笑顔を絶やさずに、

何よりも、お客様に楽しんでもらおうと

一生懸命対応してくださる姿に好感が持てました。

建物はリニューアルにより近代的で新しいものでしたが、

恐らく、いつの時代も変わらないのであろう

地元の方たちの穏やかで優しい人間性に触れた気がしました。

 

お食事は、ホテルらしく洋食、

夕食は”お箸で食べるイタリアンのコース料理”。

失礼ながら、想像以上に本格的なイタリアンでした。

近所にあったら、

「今日はちょっと優雅なイタリアンを食べに行こうか?

という時に行きたくなるような。

でも、あまり気張らず、

気軽にうかがえる心地良いコース料理レストラン。

最初から最後まで一皿一皿丁寧に作り上げられたお料理を、

温かいお料理は温かい器で、

大切に一皿ずつ運んでくださいました。

旬の地元食材を美しいイタリア料理に仕立てておられ、

どのお料理も目にも口にも美味しいものばかりでした。

お箸でいただけるせいか、

変な緊張感もなく、普段どおりリラックスして食事を楽しみ、

純粋にお料理を味わうことができました。

 

朝食も色鮮やかに盛り付けられた華やかな洋食。

その彩りに寝ぼけた目も覚め、

朝からいただける美味しいお料理に刺激を受けて、

頭も身体も快調に一日の活動を始めました。

ビュッフェではありませんが、

身体にしみ込む野菜やフルーツのジュース数種や、

牛乳・お水は、お願いすると何度でも席へ運んでくださいます。

朝食にはなるべく手間をかけなくなったお宿も多いなかで、

はとのす荘さんの献身的なポリシーが見えた気がしました。

 

私が何より嬉しかったのは、夕食も朝食も、パンが美味しい!!

食べること自体大好きなのですが、

特に、美味しいパンに出会うと、この上ない幸せを感じ、

フランス料理やイタリアンではパンのロケットスタートが勢い良すぎ、

メイン料理の頃にはおなか一杯になってしまって、

メインのお料理なのに楽しめない…という失敗を何度繰り返したことか…。

そういえば最近、パンを楽しむ機会にあまり恵まれていなかったのですが、

久々に、好みの食感、好みの味わいの感動的に美味しいパンをいただけて、

久々の幸福感に浸りました。

パンは人によって好みがかなり異なるので、

軽々しく、”皆さんにおススメ!”とは言えませんが、

今回5名で利用させていただいて、

5名全員が、「パンが美味しい」という意見で一致しました。

 

はとのす荘さんには、日帰り入浴もできる大浴場があります。

面積が広大というわけではありませんが、

ゆったりとした作りになっています。

私が利用した日も恐らく満室だったと思うのですが、

お夕食を召し上がっている方もいた時間帯だったせいもあるのか、

同じタイミングで入っていた方は3~4人ほどで、

窮屈な印象はありませんでした。

内風呂も浴槽から天井まで一枚窓で山の風景が広がり、開放感があるのも、

ゆったりとした雰囲気に一役買っているのかもしれません。

 

その内風呂は、2017年から自家源泉の「鳩ノ巣温泉」を

かけ流しされているそうです。

湯量が多くないとのことなので、

こじんまりに見える浴槽も温泉のためには良いかもしれません。

温泉は限りある貴重な資源なので、

長い期間、できるだけ多くの方に楽しんでもらうためには、

一気に使い過ぎないことも大切です。

場所柄、本当に貴重な温泉だと思うので、

東京の貴重な大自然のなかで、

貴重な温泉に浸かれる贅沢を、

ありがたく堪能させていただきました。

 

そして、眼前に迫りくるように山が広がる露天風呂。

こちらは運び湯の温泉だそうです。

極上の癒しを追求するために、

手間を惜しまず運んでくださったお湯に浸かり、

濁りのない空気に包まれていたら、

自分の中の日頃の淀みも、ふわ~っと抜けていくようでした。

 

はとのす荘さんの駐車場から多摩川へ降りる小道があり、

多摩川沿いをハイキング・散策できる道につながっています。

はとのす荘さんのお客様に限らず、

早朝から多くの方が気持ち良さそうに歩いていらっしゃいました。

そんなふうに、実際に自分の足で歩いて、

奥多摩の大自然に触れるも良し、

私のようにアウトドアが得意でない方は、

ただひたすらのんびりと大自然の空気を感じるも良し。

それぞれの楽しみ方で東京の貴重な自然を満喫できるお宿でした。

遠出して、日常の喧騒から離れたかのようなリフレッシュぶりで、

はとのす荘さんの玄関を出発しました。

 

日本って、東京って、

狭いようで、

なかなか広いです。

ほんの少し足を延ばすだけで、

まったく異なる景色が広がっていたりします。

侮れません、日本。

 

それを教えてくださり、

ありがとうございます、

はとのす荘さん。