結果的に本人の退団という形で終了した中村紀と檻球団との契約更改交渉に関し、日本プロ野球選手会が昨日(2007年1月14日)檻球団宛に抗議の意を表す文書を提出しました。
退団という結果が決まってからこのような文書を出すことには、多くの方が違和感を感じるのではないかと思います。
また、報道では選手会が球団に謝罪を要求する旨の見出しが出ていますが、交渉の過程で中村紀には少なからぬファンが反感を持った(私も他聞に漏れずそうですが)ことを考えると、このような選手会の動きが一般の支持を受けるとは考えにくいです。
ただ、そういう表面の部分はさておき、そもそも選手会はこの交渉のどこを問題視して、何を要求しているのか?ことによっては中村紀個人を越えた問題にもなり得るだけに、検討してみる必要はありそうです。
選手会が送付した文書の内容については、選手会側のプレスリリースで詳しく見ることができます。かなり長くなるので全文の引用は避けますが、選手会は主な要求を以下の3点にまとめています。
そして、選手会は上の3つのうち1と2について見解を示しています。こちらのついて要約すると、以下の通りになります。
選手会側の主張はこのようなものです。
これに対して、私の意見を述べさせていただきたい。まず、協約に明記されている以上、減額制限を球団に順守するよう求めるのは正しい。この点では檻球団の提示は(中村紀への評価として妥当かどうかは別として)協約上疑問が生じます。
ただ、現実には檻側は中村紀が同意しないにもかかわらず年俸制限を下回る提示を続けたわけです。ところが、この場合どうするかは、協約には書いていないのです。制限幅を守るべしとはありますが、制限以下の提示しかできない(する気がない)場合どうするか、協約には何の定めもありません。
そうである以上、はじめからこの条文の空文化は避けられなかったのではないかという気がしてなりません。「罰則」(この表現が適切かどうかは分かりませんが)がない規則は、常に無意味なものとなる危険をはらんでいます。
次に制限を超える減額への選手の同意を求める時期についてですが、こちらも現在の野球協約では具体的な時期がまったく示されていません。
私は慣例的な部分については分からないのですが、少なくとも明確な文書か、あるいは申し合わせでもいいので、選手・球団側で何らかの意見の一致は必要でしょう。
その意味で、選手会の主張内容は、むしろ提案としてとらえるべきであり、これに対して(檻球団に限らず)球団側の見解がどうなるかが興味深いところです。その意味でも、檻球団がどのような回答を出すかが注目されます。
こう考えていくと、一見タイミングも内容もずれたように思えた選手会側の主張も、あながち間違ってはいないように思われます。少なくとも、檻球団側が最初の交渉の際に「大幅減俸を呑むか、自由契約になるか」という選択肢を示していれば、ここまでダラダラともめることはなかったのではないかとは思います。
ただ、現行の野球協約ではそのような措置を球団側に求める根拠が完全ではありません。一方、中村紀側も選手会側も契約更改交渉のもっと早い段階でこの点を指摘すべきだったのですが、実際にそうしなかったのは失敗と言わざるを得ません。
今回の件では、これまで私も中村紀個人の資質の問題が原因ではないかと思っていました。ですが、むしろ問題は彼個人によるものではなく、むしろ協約の不備と、それに対する双方の対応による部分が大きいのではという気がしてきました。
【参考】 2006年度版野球協約(日本プロ野球選手会公式ホームページ)
退団という結果が決まってからこのような文書を出すことには、多くの方が違和感を感じるのではないかと思います。
また、報道では選手会が球団に謝罪を要求する旨の見出しが出ていますが、交渉の過程で中村紀には少なからぬファンが反感を持った(私も他聞に漏れずそうですが)ことを考えると、このような選手会の動きが一般の支持を受けるとは考えにくいです。
ただ、そういう表面の部分はさておき、そもそも選手会はこの交渉のどこを問題視して、何を要求しているのか?ことによっては中村紀個人を越えた問題にもなり得るだけに、検討してみる必要はありそうです。
選手会が送付した文書の内容については、選手会側のプレスリリースで詳しく見ることができます。かなり長くなるので全文の引用は避けますが、選手会は主な要求を以下の3点にまとめています。
1、 野球協約、統一契約書に定める減額制限を超える減額は、選手の同意がない限り行うことができないにもかかわらず、終始一貫してそのような減額提示を行い続けたことを中村選手に対して謝罪するとともに、中村選手と契約更新をする意思があるのであれば、上記減額制限の範囲内で、かつ、中村選手の昨季成績をふまえた合理性ある提示を行うこと
2、本来、上記のような減額は、選手の同意がない限りは、自由契約(戦力外通告)として、選手の他の球団に対する交渉権を発生させた上でない限り、行うことができないものであるにもかかわらず、戦力外通告を行うべき時期(NPBと選手会の申し合わせにより、第1回合同トライアウト(2006年は11月6日)前とされている)にこれを行わなかったことにより、中村選手の他球団との契約可能性を著しく減少させたことを中村選手に対して謝罪するとともに、そのようなオリックス球団の行為が、NPBと選手会の申し合わせ及び野球協約に反することを認め、中村選手及びその代理人が、他の球団との間で2007年シーズン以降の契約について自由に交渉することに異議を述べないこと
3、上記2点に関する対応について、2007年1月17日(水)までに、文書にて、選手会にて報告すること(選手会プレスリリースより引用)
そして、選手会は上の3つのうち1と2について見解を示しています。こちらのついて要約すると、以下の通りになります。
1、 減額制限を超える減額について
・野球協約92条及び統一契約書31条に定められた減額制限は、同条に明記されているとおり選手の同意なく行うことができない。
・野球協約に減額制限が定められている趣旨は、選手を保留選手名簿(野球協約67条)に記載して選手の保留権を確保し、選手と他の球団との交渉権を奪う(野球協約68条)以上は、年俸の減額は一定の範囲に限定されるべきであるという思想に基づいている。
・制限以上の減額をしようとする場合は、戦力外通告をして自由契約選手とし、選手に対して他球団との交渉権を自由に認めなければならない。保留選手名簿に記載して選手の他球団との交渉を禁じながら、年俸も下げ放題というのは許されない。
・米メジャーリーグの減額制限は前年度年俸の20%及び過去2年の合計年俸の30%。日本の減額制限はこれよりも緩やかであり、今回のオリックス球団による60%の減額提示は異常。
・自由契約→同一球団に再雇用という例はあるが、この場合選手はいったん自由契約となって他球団との交渉機会を与えられた上で、結果的に大幅な減額を受け入れて再契約している。これが野球協約に沿った手続であり、檻球団がそのような対応を行うことは十分可能であった。
2、 減額制限を超える減額について、選手の同意を求める時期について
・球団が減額制限を超える減額を行いたいと考え、選手の同意を求めようとする場合は、NPBと選手会の間での申し合わせ事項となっている、戦力外通告を行うべき期限(第1回合同トライアウトの前)までに行うべき。
・NPBと選手会との間で、上記のような申し合わせをしている趣旨は、自由契約選手が公平に競争するという合同トライアウトの趣旨を担保するため。通告時期という選手の実力以外の部分で有利不利が生じるのは不公平。
・今回の檻球団の中村選手への減額制限を超える減額の提示は、第1回合同トライアウト実施よりもはるか後、各球団が戦力補強をほぼ終えた時期に行われたものであり、他の自由契約選手と比べて時期的に著しく不利。(選手会プレスリリースより要約)
選手会側の主張はこのようなものです。
これに対して、私の意見を述べさせていただきたい。まず、協約に明記されている以上、減額制限を球団に順守するよう求めるのは正しい。この点では檻球団の提示は(中村紀への評価として妥当かどうかは別として)協約上疑問が生じます。
ただ、現実には檻側は中村紀が同意しないにもかかわらず年俸制限を下回る提示を続けたわけです。ところが、この場合どうするかは、協約には書いていないのです。制限幅を守るべしとはありますが、制限以下の提示しかできない(する気がない)場合どうするか、協約には何の定めもありません。
そうである以上、はじめからこの条文の空文化は避けられなかったのではないかという気がしてなりません。「罰則」(この表現が適切かどうかは分かりませんが)がない規則は、常に無意味なものとなる危険をはらんでいます。
次に制限を超える減額への選手の同意を求める時期についてですが、こちらも現在の野球協約では具体的な時期がまったく示されていません。
私は慣例的な部分については分からないのですが、少なくとも明確な文書か、あるいは申し合わせでもいいので、選手・球団側で何らかの意見の一致は必要でしょう。
その意味で、選手会の主張内容は、むしろ提案としてとらえるべきであり、これに対して(檻球団に限らず)球団側の見解がどうなるかが興味深いところです。その意味でも、檻球団がどのような回答を出すかが注目されます。
こう考えていくと、一見タイミングも内容もずれたように思えた選手会側の主張も、あながち間違ってはいないように思われます。少なくとも、檻球団側が最初の交渉の際に「大幅減俸を呑むか、自由契約になるか」という選択肢を示していれば、ここまでダラダラともめることはなかったのではないかとは思います。
ただ、現行の野球協約ではそのような措置を球団側に求める根拠が完全ではありません。一方、中村紀側も選手会側も契約更改交渉のもっと早い段階でこの点を指摘すべきだったのですが、実際にそうしなかったのは失敗と言わざるを得ません。
今回の件では、これまで私も中村紀個人の資質の問題が原因ではないかと思っていました。ですが、むしろ問題は彼個人によるものではなく、むしろ協約の不備と、それに対する双方の対応による部分が大きいのではという気がしてきました。
【参考】 2006年度版野球協約(日本プロ野球選手会公式ホームページ)
>オリ球団の交渉下手
前川事件は関係なくとも、中村紀の他に、塩崎・日高のFA交渉もまだ決まってないと聞いてます。
なんですんなり事が進まないのか…。オリ球団が他球団に比べてビジネスライクに偏りすぎだからか…。
あくまでも推測で、自分でブログ記事にするほど頭の中でまとまっていないので、具体的には書きませんが。。。
「すごく気にしているけど、契約交渉は選手と球団の間の話なので選手会は関わることができない。石井の方から相談に来てくれれば、弁護士とかの準備はしているが…」
今回の件も遅れたんじゃなくて、言いたいことはあるけど口を出すわけにはいかない状況だったんですよ。
で、個別交渉としては終わったのでようやくコメントを発表できたと。
今回の騒動に関して、世間的にはノリだけが悪いと言ってる方が多いようですが、おいらは球団も結構悪いと思います。なんというか・・・うまく文章にできないけど。特にノリを擁護するつもりもありませんが。
でも、ルパート・ジョーンズさんの言うとおり協約上に一定の指針が、わかりやすくある方がいいと思いますね。
ご本人が直接相談に来られたのなら話は別でしょうけれど、下手に口出しして選手の不利になるような事態になったら事ですからね。
(ノリの場合最終交渉まで代理人と球団がもめていたわけですから尚更始末が悪い)
この一件を見ていて、去年の3月15日にうちで紹介させていただいた、ダン野村氏によるオリックス球団への怨みつらみエントリーを思い出しました。
今読み返してみたら、大変共通することが多いので、今回の件もノリばかりが責められるような事ではないのかな、と思っています。
遅いかもしれませんが、選手会とオリックス球団が争う事によって何らかの具体的な事実が浮かび上がってくればいいな、と思っています。
とにかく今のままではちょっとモヤモヤした事が多すぎるので。。
そもそも球団側も自由契約という選択肢は考えていなかったと思いますよ。
制限幅以上のダウンになる点については金銭的な条件で交渉の余地を残して掲示したつもりだったと思います。
ところが交渉が始まってみると怪我の扱いなどについての話ばかりで具体的な条件の話し合いができませんでした。
交渉が平行線という状態が続いてから初めて「自由契約にするのもやむなし」という流れになってきた。
中村本人が「怪我は自分の責任ではない、完治してない状態で出場していたことを考慮して欲しい」という点を譲るつもりがない以上、代理人が勝手に譲歩するわけにはいきません。
球団側にしてみれば条件面の交渉は代理人でもかまわないけど、最大の対立点である故障の扱いについては本人と直接話し合っておきたかったでしょう。
球団と代理人との話し合いでは埒が明かずに平行線という状況は、本人が出てこない限りたぶん解消しなかった。
でもようやく本人が顔を出したのは「自由契約」という双方が望んでいなかった選択肢が浮上してからで、遅すぎました。
じゃあ中村に明らかな非があるのかとなると…なんとも言えません。
中村自身、自分の知らないうちに退団という話が出てきて、どちらが言い出したことなのかという点で代理人と球団の主張が正反対なのでかなり混乱していたし。(これについては代理人が本人に確認を取らないうちに合意とも取れるようなことを言ってしまった可能性が高い)
選手会の抗議については球団にしてみれば「うちだってこんなに長引かせるつもりも退団させるつもりもなかったのに、悪いのはこっちだけかよ!」と言いたいところでしょう。
でも結果的に中村の方が大きな不利益を被ることになったので、選手会としては「このまま放置していたら今後も選手側が不利な立場での交渉を強いられることになる」ので黙っているわけにもいかない。
こういう面はなにも今オフの契約更改交渉に限った話ではなくて、オリックス球団の持病のような気がします。当の本人たちが自覚しているかは分かりませんが……
うーん、素朴な疑問として、商圏が遠く離れた球団に手を出すかなぁというのはあるんですよね。
親会社はあくまでも東京の企業ですから、関西を見切って移るという可能性がゼロとはいいませんが……
ともあれ、この企業には最低限球界からとっととご退出願いたいところです。
選手会が個別交渉に口を出せないというのは、言われてみればその通りですよね。今回の件も、中村紀から選手会への働きかけはなかったようですし。
>制限幅以上のダウンになる点については金銭的な条件で交渉の余地を残して掲示したつもりだったと思います。
要は交渉過程で上積みしていくのと、出来高を付けていくのとということですね。
ただ、そもそも減俸制限以上の提示なわけですから、選手側がそのような交渉に乗っかる義務はないわけですよね。
なので、交渉に乗らない場合はどうするのかという選択肢も示すべきだったのではというのが私の考えです。
>交渉が平行線という状態が続いてから初めて「自由契約にするのもやむなし」という流れになってきた
エントリではうまく書けなかったので外したんですが、ここは重要ですね。自由契約にする時期が遅いという選手会側の主張は分かるとして、球団側にも言い分はあると思います。
ただし、これも先程の話の繰り返しになってしまうんですが、例外的な提示をする以上、当初から決裂の可能性も念頭に置くべきではなかったかと思います。
でなければ、減俸制限ってなんなの、ということになるでしょうし。
>球団と代理人との話し合いでは埒が明かずに平行線という状況は、本人が出てこない限りたぶん解消しなかった。
ここは禿同です。代理人の側で本人の出席を嫌がったのかも知れませんが(交渉能力の評価にかかわる)、直接腹を割って話しておけば、こうはならなかったと思うんですけどねぇ……
ともあれ、代理人が中村紀に対してどのような報告をしていたのかが気になります。確かに、球団と本人の正確な意思を伝えていたかどうかは疑問です。
>選手会の抗議
中村紀という選手の個別ケースとしてはさておき、一般的に考えて減俸制限や自由契約という問題が絡む以上、無視することはできませんよね。
選手会側の主張も契約一般にかかわるものとして傾聴すべきだと思いますし、これに対して球団側がどう対応するかに注目しています。
ただ選手会からの抗議を機会に改めて考えてみたところ、どうも彼一人の問題だとは思えなくなってきたんですよね。
確かに交渉過程で失敗があったのは間違いないと思います。アルビレオさんへのコメントにも書きましたが、本人が直接出ていれば、こうはならなかったはずです。
ただ、そもそも彼がどれだけ正確な情報を持っていたかは疑問です。そう思うと、問題の根源は別のところにありそうに思えてならないんですよね。