まずは事の発端を報道で振り返っておきましょう。
■ 西武株買い増しへ 大株主のサーベラス、再上場めぐり対立(MSN産経・2013年3月6日)
■ 米サーベラス、西武HDへのTOBを正式発表(ロイター・2013年3月11日)
ここから数日の間に、サーベラスが西武ホールディングス(以下「西武HD」)に対し、西武鉄道の不採算路線の廃止、ライオンズの売却を提案したという話が出てきました。
■ 筆頭株主が突然のTOB発動で
深まる西武とサーベラスの対立(週刊ダイヤモンド・2013年3月18日)
で、この時点では私自身も球団売却の可能性はあると考えていました。この時点では。
ただ、今日になるまで、当ブログでこの件を取り上げるには至りませんでした。
その理由はいくつかあります。エントリを作成する時間的精神的余裕が足りなかったこともありますし、プロ野球ファンや鉄ヲタとして主張したいことは明白で、エントリにするにはあまりに陳腐な気もしていました。
ただ、それらに加えて、この騒動自体に私自身、どこか引っ掛かりを感じていたことがあります。いろいろ騒いでいるけれど、本当に球団売却や路線廃止があり得るのか、と。
「外資ならやりかねない」確かにそうでしょう。ただ、「やりかねない」ことと実際にやることとはまったく違う。
「やりかねない」というイメージだけで現実にサーベラスが西武HDに提案したと断ずるのは、外資相手だろうがなんだろうが、言いがかりの域を出ない話でしかないのです。
はたして先週、サーベラス側から球団売却も路線廃止も提案していないとのコメントが発表されました。
■ 路線廃止、球団売却「提案せず」=西武HDに経営改善策45項目―米サーベラス (ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版・2013年3月22日)
今日の報道でも、サーベラスは路線廃止についても球団売却についても「アイデアの一つに過ぎず、提案も要求もしていない」という形で否定しています。
■ サーベラス、球団売却や路線廃止要求を否定(MSN産経・2013年3月27日)
こうなると、なぜ不採算路線の廃止やライオンズの売却という話が出てきたのかが謎になってきます。
私が見る限り、この謎を解くカギは、TOBに対する西武HDの反対声明の中にあります。
■ サーベラス・グループによる当社株式に対する公開買付け及び同グループによる当社取締役・監査役の追加選任等の提案に関する意見表明(反対)のお知らせ(西武HD・2013年3月26日・PDFファイル)
タイトルも長ければ分量も多い資料ですが、ここでのポイントは本文10ページに記載されている、
「『その他の不要路線(英文では"Eliminate Redundant Lines"と表現)』として多摩川線、山口線、国分寺線、多摩湖線及び西武秩父線を列挙しており、また、埼玉西武ライオンズについても、『将来性・採算性並びに戦略的位置づけをしっかり精査。売却の選択肢(英文では"Most likely Sell Seibu Lions."と表現)』と言及」
という部分です。
確かに、英語の語句を読むと「冗長な路線の廃止」「西武ライオンズの売却がもっともあり得る」という内容ですから、一見すれば穏やかではありません。
ですが、ここで留意すべきポイントがあります。これらの文言がどのような文脈で出てきたのか、この文書からは分からないのです。不穏な部分のみ英語が示されていて、この語句の前後がないのです。
さらに言えば、「その他の不要路線」をどうするのか、「売却の選択肢」をどうするのかも、この文書からは抜け落ちています。サーベラスが廃止・売却を提案したという根拠としては、どうにも薄弱です。
こうなると、「外資のゴリ押しでライオンズが売られる」という、人々に受け入れられやすい噂がどこまで信憑性があるのか、疑ってかかった方が良さそうです。
それどころか、新たな可能性も浮かび上がってきます。つまり、サーベラスの要求を退けたい西武HD側が以前のレターを利用して、プロ野球ファンなど世論を焚きつけようとした、という可能性です。
はたして真相はどこにあるのか? 現時点では、というより私の調査能力では、断定的なことは何も言えません。
むしろ、私が気にかかっているのは別のことです。有り体に言えば、サーベラスによる西武HDのTOBの「腑に落ちなさ」なのです。
敵対的TOBはキナ臭い話ですし、まして外国ファンドが絡んでいるということで、ビジネス界の注目を集めるのは理解できます。
しかし、TOBと言ったところで、目標は発行済み株式の3分の1、経営方針にある程度の拒否権は行使できるのでしょうが、経営権そのものを奪えるレベルには程遠いのです。
あるいは、サーベラスが他の大株主と共同戦線を組む可能性もあり得ます。ただ、仮にそうするとして、現時点でどういう株主と共闘するのかについての報道は、私が知る限りありません。
それに、現経営陣もまた大株主に呼びかけて、サーベラス包囲網を作ることだってできるのです。そう考えると、3分の1が目標というのはあまりにも中途半端です。
そもそも、サーベラスは西武HDに出資してから既に数年、現経営陣とも強調して西武HDの価値向上に努めてきたはずです。それがなぜ再上場が見えてきたこの時期に対立することになったのか。これまた不思議な話です。
ただし、この点に関してはJcastニュースのこの記事が参考になるかも知れません。
■ 西武に秩父線廃止・球団売却を提案か ファンド側は否定、真意は?地元に戸惑いの声(Jcastニュース・2013年3月27日)
あくまでも経営陣にプレッシャーをかけるのが目的であれば、今回のTOBについての説明はつきます。
またそうなった場合、ライオンズの今後についても、TOB後の経営陣が細かく検討することになるでしょうが、売却という結論ありきで動くと決めつけるだけの根拠はありません。
などと考えていくと、ライオンズの将来は完全に安泰とまではいかないものの、今騒がれているような売却だの移転だのという話がすぐさま具体化するとも言い難い、と考えるのが正確なようです。
しかし、そうだとすると、日本のメディア報道、そのすべてとは言いませんが、少なからぬものについては、いかにも軽薄に見えて仕方がありません。
球団売却の可能性について検証もせず、ただ騒動を煽るだけでも罪は小さくないですが、中にはライオンズ存続のためには巨人に勝って日本一などと愚にもつかない妄想に走るものまで出てくる始末。
おそらくは、それらを報道ではなく娯楽として楽しむのが健全なあり方なのでしょうが、このTOB騒動は西武HDの経営陣よりも、メディアの資質の低さを暴いたとも言えそうな気がします。
■ 西武株買い増しへ 大株主のサーベラス、再上場めぐり対立(MSN産経・2013年3月6日)
■ 米サーベラス、西武HDへのTOBを正式発表(ロイター・2013年3月11日)
ここから数日の間に、サーベラスが西武ホールディングス(以下「西武HD」)に対し、西武鉄道の不採算路線の廃止、ライオンズの売却を提案したという話が出てきました。
■ 筆頭株主が突然のTOB発動で
深まる西武とサーベラスの対立(週刊ダイヤモンド・2013年3月18日)
で、この時点では私自身も球団売却の可能性はあると考えていました。この時点では。
ただ、今日になるまで、当ブログでこの件を取り上げるには至りませんでした。
その理由はいくつかあります。エントリを作成する時間的精神的余裕が足りなかったこともありますし、プロ野球ファンや鉄ヲタとして主張したいことは明白で、エントリにするにはあまりに陳腐な気もしていました。
ただ、それらに加えて、この騒動自体に私自身、どこか引っ掛かりを感じていたことがあります。いろいろ騒いでいるけれど、本当に球団売却や路線廃止があり得るのか、と。
「外資ならやりかねない」確かにそうでしょう。ただ、「やりかねない」ことと実際にやることとはまったく違う。
「やりかねない」というイメージだけで現実にサーベラスが西武HDに提案したと断ずるのは、外資相手だろうがなんだろうが、言いがかりの域を出ない話でしかないのです。
はたして先週、サーベラス側から球団売却も路線廃止も提案していないとのコメントが発表されました。
■ 路線廃止、球団売却「提案せず」=西武HDに経営改善策45項目―米サーベラス (ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版・2013年3月22日)
今日の報道でも、サーベラスは路線廃止についても球団売却についても「アイデアの一つに過ぎず、提案も要求もしていない」という形で否定しています。
■ サーベラス、球団売却や路線廃止要求を否定(MSN産経・2013年3月27日)
こうなると、なぜ不採算路線の廃止やライオンズの売却という話が出てきたのかが謎になってきます。
私が見る限り、この謎を解くカギは、TOBに対する西武HDの反対声明の中にあります。
■ サーベラス・グループによる当社株式に対する公開買付け及び同グループによる当社取締役・監査役の追加選任等の提案に関する意見表明(反対)のお知らせ(西武HD・2013年3月26日・PDFファイル)
タイトルも長ければ分量も多い資料ですが、ここでのポイントは本文10ページに記載されている、
「『その他の不要路線(英文では"Eliminate Redundant Lines"と表現)』として多摩川線、山口線、国分寺線、多摩湖線及び西武秩父線を列挙しており、また、埼玉西武ライオンズについても、『将来性・採算性並びに戦略的位置づけをしっかり精査。売却の選択肢(英文では"Most likely Sell Seibu Lions."と表現)』と言及」
という部分です。
確かに、英語の語句を読むと「冗長な路線の廃止」「西武ライオンズの売却がもっともあり得る」という内容ですから、一見すれば穏やかではありません。
ですが、ここで留意すべきポイントがあります。これらの文言がどのような文脈で出てきたのか、この文書からは分からないのです。不穏な部分のみ英語が示されていて、この語句の前後がないのです。
さらに言えば、「その他の不要路線」をどうするのか、「売却の選択肢」をどうするのかも、この文書からは抜け落ちています。サーベラスが廃止・売却を提案したという根拠としては、どうにも薄弱です。
こうなると、「外資のゴリ押しでライオンズが売られる」という、人々に受け入れられやすい噂がどこまで信憑性があるのか、疑ってかかった方が良さそうです。
それどころか、新たな可能性も浮かび上がってきます。つまり、サーベラスの要求を退けたい西武HD側が以前のレターを利用して、プロ野球ファンなど世論を焚きつけようとした、という可能性です。
はたして真相はどこにあるのか? 現時点では、というより私の調査能力では、断定的なことは何も言えません。
むしろ、私が気にかかっているのは別のことです。有り体に言えば、サーベラスによる西武HDのTOBの「腑に落ちなさ」なのです。
敵対的TOBはキナ臭い話ですし、まして外国ファンドが絡んでいるということで、ビジネス界の注目を集めるのは理解できます。
しかし、TOBと言ったところで、目標は発行済み株式の3分の1、経営方針にある程度の拒否権は行使できるのでしょうが、経営権そのものを奪えるレベルには程遠いのです。
あるいは、サーベラスが他の大株主と共同戦線を組む可能性もあり得ます。ただ、仮にそうするとして、現時点でどういう株主と共闘するのかについての報道は、私が知る限りありません。
それに、現経営陣もまた大株主に呼びかけて、サーベラス包囲網を作ることだってできるのです。そう考えると、3分の1が目標というのはあまりにも中途半端です。
そもそも、サーベラスは西武HDに出資してから既に数年、現経営陣とも強調して西武HDの価値向上に努めてきたはずです。それがなぜ再上場が見えてきたこの時期に対立することになったのか。これまた不思議な話です。
ただし、この点に関してはJcastニュースのこの記事が参考になるかも知れません。
■ 西武に秩父線廃止・球団売却を提案か ファンド側は否定、真意は?地元に戸惑いの声(Jcastニュース・2013年3月27日)
あくまでも経営陣にプレッシャーをかけるのが目的であれば、今回のTOBについての説明はつきます。
またそうなった場合、ライオンズの今後についても、TOB後の経営陣が細かく検討することになるでしょうが、売却という結論ありきで動くと決めつけるだけの根拠はありません。
などと考えていくと、ライオンズの将来は完全に安泰とまではいかないものの、今騒がれているような売却だの移転だのという話がすぐさま具体化するとも言い難い、と考えるのが正確なようです。
しかし、そうだとすると、日本のメディア報道、そのすべてとは言いませんが、少なからぬものについては、いかにも軽薄に見えて仕方がありません。
球団売却の可能性について検証もせず、ただ騒動を煽るだけでも罪は小さくないですが、中にはライオンズ存続のためには巨人に勝って日本一などと愚にもつかない妄想に走るものまで出てくる始末。
おそらくは、それらを報道ではなく娯楽として楽しむのが健全なあり方なのでしょうが、このTOB騒動は西武HDの経営陣よりも、メディアの資質の低さを暴いたとも言えそうな気がします。
少々疲れ気味でしたので、めまいを覚えました。
この効果は球団&秩父線に出るでしょうか。
以前JRの湘南新宿ライナーが高崎まで延びた際には鎌倉への観光客が増えたというニュースがありました。
どこで読んだかは忘れたのですが、難波線の場合は土曜休日の乗客数が伸びたそうです。
なんでも、近鉄沿線から神戸方面への買い物客が増えたのだとか。
その要領で、秩父線沿線から渋谷への需要は出てくるかも知れませんね。
「売却騒動ショック!?」といった見出しが躍らなくてよかったなと。(苦笑)
西武沿線は「花さんぽ」と名付けられる企画で
秩父線の羊山公園の芝桜をはじめとして、
たまらないものがたくさんあるだけに、
そうそう簡単に廃止されるのは困ります。
そう言えば、もうすぐ芝桜のシーズンですね。
この問題を奇貨として、観光客が増えるといいのですが。