病院やケア施設、患者の自宅など、看取りの現場で働く人に悲惨な職場環境と理想の死に方について聞いた。病棟勤務を経て6年前に訪問看護ステーションの看護師になったAさん、病院勤務を経て現在、訪問看護ステーションを経営するBさん、某大病院で緩和ケア病棟の立ち上げに携わった医師Cさん、病院系列の在宅医療支援アパートに勤務する介護福祉士のDさんの匿名座談会を公開する。
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B:残された人が不幸な思いをする死に方は、こっちも見ていてつらい。だから、患者さんと家族の気持ちにズレがある場合は、よくない結果をもたらしかねない。施設に入って最期を迎えようと決めた患者さんでも、死ぬ間際になって「本当は自宅で死にたかった」と家族に漏らしてしまうことが多いんですよね。すると、家族は気持ちを理解していなかったことを後悔することになる。在宅だと、家族と親戚の気持ちのズレから不幸な結果を招くケースもあります。患者本人の希望を受け入れて自宅で最期を看取ったのに、親戚が「こんなに頑張ってきたお父さんを何で病院に入れてもっといい治療を受けさせようと思わなかったのか?」と家族を責めるケースがあるんです。お葬式の席で言われて、「やっぱり病院がよかったのかな……」と後悔されている家族を何人も見たことがあります。
C:選択肢が増えたからこそ生まれる不幸な結果もあるでしょうね。緩和病棟に入られる患者さんでも、自分でネット情報などを収集して、免疫療法や高い薬を試されたという方は少なくありません。何かにすがりたい気持ちはわかりますけど、例えば夢のがん治療薬などと言われているオプジーボは事前に効果が予測できません。それなのに1回で300万円もかかって、3回は続けないと効果が見えてこないとされている。数年もすれば遺伝子プロファイルで効く人、効かない人の判断ができるようになると言われているのに、「すぐに試したい」と1千万円用意して病院に来られる方もいます。こういう“がん治療難民”は見ていてつらいです。
B:救急車で病院に運ばれてしまって、家族が後悔するっていうケースも非常に多いです。
──どういうことですか?
B:在宅の場合、患者さんが「延命治療はしないでほしい」と希望されるケースが多く、緩和ケアが主体になりがちですが、病状が急変すると家族が救急車を呼んでしまうことがあるんです。でも、救急隊は必ず延命治療を施し、病院に搬送しようとします。当然、病院でも患者さんの希望に関係なく延命治療が行われるので、「最後に苦しい思いをさせてごめんね」と救急車を呼んだことを後悔する家族が多いんです。病院に運ばれて24時間以内に亡くなると、事故死扱いで検死が必要になるから、二重に後悔するケースもある。
──いろんな死を間近に見てきて、精神的負担の重さを感じることはないのですか?
B:女性看護師の場合は、患者によるセクハラ被害が頻繁に起こるんですけど、私の同僚は胸を揉んできた患者さんがその翌日に亡くなって「冥土の土産になったかな」と苦笑していました。あれは、たくましいなと思いましたね(笑)。あと、独り身の高齢者だと片づけができない患者さんが非常に増えているのですが、看護師はゴミ屋敷のような自宅でも平気で看護を行います。私も強烈なところだと、布団の周りにおしっこの入ったペットボトルや大便の入ったバケツが並んでいる患者さんの自宅に通っていたことがあります……。
──終末医療の現場はトラブルが多そうですね。
B:セクハラは、男性看護師でもありますよ。私は、末期がんの旦那さんを持つ若い奥さんに言い寄られたことがあります。訪問看護の時間に行ってみると毎回、お風呂上がりのあられもない格好で奥さんが現れるというケースもありました……。
A:パワハラもあります。公務員の方や自衛隊OBの方は、特に上から目線で当たりがキツイとぼやいている看護師は多い。
D:介護福祉士の場合は、トラブルではないんですけど、安いお給料に不満を感じている人は多いですね。腰痛は、もはや職業病。体への負担が大きく、収入が少ないから、結婚を機に辞めてしまう人は後を絶ちません。
──最後に、いい死に方をするために必要な備えは?
A:早いうちから“マイナース”を見つけておくことでしょうね。
D:看護師さんは医師のこともケアマネジャーさんのこともよく知っているし、家族と接する時間も多いうえに医療の知識もある。それは大事でしょうね。
C:いい生き方をすることでしょう。いい生き方をすれば、いい家族や友人に囲まれて最期を迎えられる。そう思います。
(構成/ジャーナリスト・田茂井治)※AERA 2017年11月20日号より抜粋