※この復元画は、下記の論文執筆者、Aldo Manzuetti氏(M.Sc)及びRinderknecht博士によって認定されています(2020 4月)。
両氏による形態チェックや助言に感謝の意を表します。当該論文(英語)のオンライン閲読へのリンクは、下記に示してあります。
野生肉食獣の狩猟の場面が写実的に描かれているので、このような表現が苦手だという人は閲覧注意してください。
長引くコロナ禍の影響で不自由で不安な日々が続いております。皆様のご無事をお祈りします。
私のイラスト記事が少しでも気晴らしに役立てるといいな、と思います。
Prehistoric Safari Smilodon 'The Devastating Big Game Hunter'
およそ1万4千年前の更新世後期
南米南部、パタゴニア・・・
南米南部、パタゴニア・・・
(オリジナルサイズの生体復元画)イラスト by ©サーベル・パンサー the Saber Panther (All rights reserved)
コピペなどしないようにしてください
© the Saber Panther (All rights reserved)
コピペなどしないようにしてください
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: Species : (向かって左から)
スミロドン最大種(ミナミアメリカサーベルタイガー)
Smilodon populator
オオナマケモノ
Megatherium americanum
Megatherium americanum
: Description :
去る2020年3月、南米ウルグアイのドローレス古地層(更新世後期)で、スミロドン属最大種(Smilodon populator)の最大級の頭骨が発見された旨の報告がありました。
(Manzuetti et al.,"An extremely large saber-tooth cat skull from Uruguay (late Pleistocene–early Holocene, Dolores Formation): body size and paleobiological implications" , 2020)
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/03115518.2019.1701080?journalCode=talc20
(Manzuetti et al.,"An extremely large saber-tooth cat skull from Uruguay (late Pleistocene–early Holocene, Dolores Formation): body size and paleobiological implications" , 2020)
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/03115518.2019.1701080?journalCode=talc20
本標本の頭骨全長は 392㎜、condylobasal長は379㎜、頬骨弓幅242㎜(各歯の寸法等はここでは省略)。私の知る限り、Smilodon populator の既知の最大の頭骨は全長400㎜ですから、これは二番目に大きな頭骨ということになるでしょうか。Smilodon populator の頭骨全長の平均は360mm程度だといいますから、かなり大型の個体だといえます。
もちろん、古代ヒョウ属や「シミター型剣歯猫」(ホモテリウム属やアンフィマカイロドゥス属など)に目を向けてみると、上記を優に超える大きさの頭骨の存在が知られています。
剣歯猫の中では、シミターネコのアンフィマカイロドゥス最大種 (Amphimachairodus horribilis)の頭骨が最も大きく、かつて復元画とともに紹介しましたが、全長415㎜に達します(詳しくは、拙『バトル・ビヨンド・エポック 其の一』を参照されたし)。
剣歯猫の中では、シミターネコのアンフィマカイロドゥス最大種 (Amphimachairodus horribilis)の頭骨が最も大きく、かつて復元画とともに紹介しましたが、全長415㎜に達します(詳しくは、拙『バトル・ビヨンド・エポック 其の一』を参照されたし)。
剣歯猫の頭骨は相対的に小ぶりであり、全長400mm以下の頭骨が「極めて大型 extremely large」と表現されていることを考えると、間氷期ホラアナライオン(Panthera fossilis)の485mmという異次元の大きさの頭骨(ヒョウ属史上最大)には、改めて驚かされる次第です。
とまれ、スミロドン属のように長大な上顎剣歯を持つ「ダーク型剣歯猫」の場合、顎を大きく開く機能形態が顕在化する過程で、咬筋力に関わる矢状陵などの発達が、ヒョウ属やシミターネコ群に比べて乏しいことを考慮する必要があります。また、剣歯猫は体長に占める頭骨長の比率がヒョウ属より劣ることも指摘しておくべきでしょう。
ポストクラニアルに関して言えば、Smilodon populator の肩高は平均的なアメリカライオン(Panthera atrox)と同等の1.2mに達するとされ、何よりも四肢長骨や骨格筋の骨幅(ひいては生前の筋量)がヒョウ属やシミターネコ群を著しく凌駕していたことは、よく知られるところです。
これまでに四肢長骨(Anyonge, 1994, Christiansen, 2006, Sorkin, 2008, Sherani, 2016)や第三臼歯(Van Valkenburgh, 1993)の寸法に基づく回帰分析による複数の推定体重が、いずれも優に400kgを超えることから、Smilodon populator の大型個体が体重400kg超に達したというのは、定説化しているといえます。
本個体も、condylobasal長に基づくネコ科種の推定体重の算出で436kgという結果。
本個体も、condylobasal長に基づくネコ科種の推定体重の算出で436kgという結果。
論文の執筆者Manzuetti et al. によると、本頭骨の全長はSmilodon populator の既知の平均を大きく超えており、これは例外的な大物個体であったのか、はたまた固有の大型亜種に属する個体とみなすべきなのか、現時点では断定し難いといいます。
これまでも、Smilodon populator をネコ科史上最も大物猟に特化した種類とする見方は一般的でしたが、本標本の特大ヒョウ属種並みの大顎や上顎剣歯の長さなどから、このサイズのSmilodon populator は最大で体重3トン近い獲物を単独で襲うことができたとする仮説が述べられています。
更新世パタゴニアに分布していた数多の大型草食獣の中でも、体重3トンに達する程の大物といえば、長鼻類(ノティオマストドンとキュヴィエロ二ウス)を除けば「オオナマケモノ(Giant Ground Sloth)」ことMegatherium americanum を挙げねばなりません。
Manzuetti et al.は、実際に本標本サイズのSmilodon populator であれば、オオナマケモノをも狩っていた可能性があることを論じています。
もっとも、私見ではオオナマケモノの強大な前足と爪で武装された圧倒的な巨体に対して、真正面から襲いかかってもほぼ勝ち目はなかろうと考えざるを得ません(仮にそのような芸当が可能な食肉類が在ったとしたら、アルクトテリウム属最大種(ミナミアメリカジャイアントショートフェイスベア)くらいのものか。もっとも私見では、ジャイアントショートフェイスベアであっても、オオナマケモノを正面から組み伏すことはまず難しかろうと思います。因みに、アルクトテリウム属最大種(更新世中期)とスミロドン属最大種(同後期)とでは、分布域は重複していても生息年代が大幅にずれます。正しく、両雄並び立たず)。
もっとも、私見ではオオナマケモノの強大な前足と爪で武装された圧倒的な巨体に対して、真正面から襲いかかってもほぼ勝ち目はなかろうと考えざるを得ません(仮にそのような芸当が可能な食肉類が在ったとしたら、アルクトテリウム属最大種(ミナミアメリカジャイアントショートフェイスベア)くらいのものか。もっとも私見では、ジャイアントショートフェイスベアであっても、オオナマケモノを正面から組み伏すことはまず難しかろうと思います。因みに、アルクトテリウム属最大種(更新世中期)とスミロドン属最大種(同後期)とでは、分布域は重複していても生息年代が大幅にずれます。正しく、両雄並び立たず)。
加えて、現生のヒョウ属種のごとくに多方向から獲物の色々な部位に噛みついてダメージを与えるような攻め方は、スミロドンの長大でフラットな(半面、恐らく折損もしやすい)サーベル状の剣歯では困難そうです。
やはりオオナマケモノが樹葉などを食んでいて油断しているところに忍び寄り、背後から電光石火の跳躍で襲いかかり、後ろから頸部の側面に噛みついて、一撃必殺のスラッシュバイト(サーベル剣歯は一噛みで頸動脈の大部分を切断することが可能なため、このように表現される)を決めるという方法くらいしか、有効打はなかったのではないか(あくまでも私個人の意見ですが)。
この復元画では、まさにその場面を描いているわけです。
Manzuetti et al. の説では、スミロドンは恐らく「致命的ダメージを与えた後でいったん退き、獲物が出血で衰弱するのを待ってから、追撃を加える」というシナリオを想定しています。獲物が窒息するまで「咬み続ける」ヒョウ属種のクランプ・ホールドバイトとは、明らかに異なった殺傷法であろうというわけ。
果たしてSmilodon populator が本当にオオナマケモノを獲物とし得たのか私には分からないし、このような殺傷法が有効であったかも定かではありません(加えて言えば、この復元画では狩りの成功の如何までは意図していないので、この刹那後、スミロドンはオオナマケモノに振りほどかれ撃退されたやもしれないし、あるいは、狩りを成功裏に収めたのかもしれない。それは想像にお任せします)。
が、可能性として捨て去ることはできないでしょう。なんとなれば食肉目史上でも恐らく大物猟への特化という観点からいえば究極の存在が、ダーク型剣歯猫(ネコ科のスミロドン属やメガンテレオン属のほか、バルボウロフェリス科のバルボウロフェリス属、ニムラヴス科のホプロフォネウス属など)であり、ここではその中でも無双の最大種を論じているのであるから。
皆さんはどう思われるでしょうか。
スミロドンの剣歯機能について付記
「スミロドンを典型とするダーク型剣歯猫の長大な上顎犬歯(剣歯)は、骨に接触する際の折損リスクが大きい」
「剣歯」の高い殺傷力と、それとは裏腹に折損リスクが高いということ。剣歯猫を語るときに、上顎犬歯の相反する二面性については、当たり前のように指摘されます。
このブログでも度々紹介してきたように、剣歯猫(少なくとも、スミロドンなどダーク型剣歯猫)の狩猟や種間闘争において、剣歯が骨との接触を回避し得るような殺傷法、例えば「スラッシュバイト(シアーバイト)」の有効性については、古くから議論対象となってきました。
このブログでも度々紹介してきたように、剣歯猫(少なくとも、スミロドンなどダーク型剣歯猫)の狩猟や種間闘争において、剣歯が骨との接触を回避し得るような殺傷法、例えば「スラッシュバイト(シアーバイト)」の有効性については、古くから議論対象となってきました。
しかし、2019年にアルゼンチン・ブエノスアイレスの更新世ルジャニアン期地層で見つかったスミロドン・ポプラトールの二つの成体頭骨
(Chimento et al., 'Evidence of intraspecific agonistic interactions in Smilodon populator', 2019)は、「剣歯の脆さ」に関する定説を、根底から覆してしまうかもしれません。
既にご存知の方もいるかもしれませんが、以下に、二次資料ではなく、当の論文内容に基づき、簡単に紹介してみましょう。
(Chimento et al., 'Evidence of intraspecific agonistic interactions in Smilodon populator', 2019)は、「剣歯の脆さ」に関する定説を、根底から覆してしまうかもしれません。
既にご存知の方もいるかもしれませんが、以下に、二次資料ではなく、当の論文内容に基づき、簡単に紹介してみましょう。
件の二標本、MCA 2046 と MRFA-PV-0564 は、どちらも鼻骨と前額の縫合部位に穴が穿たれています。この穿孔の形状と大きさは後述のように、スミロドンの上顎犬歯と合致するものです。
実は、他のマカイロドゥス亜科の種類の頭骨についても、剣歯猫の上顎犬歯が穿ったと思しき孔がある例は、複数報告されています(Moodie, 1923 ; Miller, 1969, 1983 ; Geraads, 2004)。
剣歯猫同士の「種間闘争」の例以外にも、グリプトドンの頭骨に穿たれたスミロドンの剣歯による穿孔の例(Gillette & Ray 1981)は、有名でしょう。
実は、他のマカイロドゥス亜科の種類の頭骨についても、剣歯猫の上顎犬歯が穿ったと思しき孔がある例は、複数報告されています(Moodie, 1923 ; Miller, 1969, 1983 ; Geraads, 2004)。
剣歯猫同士の「種間闘争」の例以外にも、グリプトドンの頭骨に穿たれたスミロドンの剣歯による穿孔の例(Gillette & Ray 1981)は、有名でしょう。
Chimento et al.(2019)によると、MCA 2046 と MRFA-PV-0564の穿孔はどちらも単独で楕円形状であることから、三指の滑距類や四指のトクソドン類、二指の偶蹄類、あるいは馬の横幅の大きな蹄が、狩猟時の反撃の際もたらした傷とは、考えられません。地上性ナマケモノの前脚の大爪も横幅があり、キールの形状からしても、全く異なる孔の形状となるはずです。
剣歯猫の上顎犬歯は、側腹圧縮型、いわゆるナイフ形状をしており、クマ科やイヌ科など食肉類の一般的な円錐型犬歯とは、全く異なります。後者の場合、楕円ではなく円形の孔を穿つはずであり、やはり除外されます。
剣歯猫の上顎犬歯は、側腹圧縮型、いわゆるナイフ形状をしており、クマ科やイヌ科など食肉類の一般的な円錐型犬歯とは、全く異なります。後者の場合、楕円ではなく円形の孔を穿つはずであり、やはり除外されます。
取捨選択的に、どちらの標本の孔もスミロドン・ポプラトールの上顎犬歯由来と考えられ、実際に剣歯をこの穴に通してみると、ピタリ合致します(Fig. 3)。
(after Chimento et al.(2019) ©copyright Chimento et al.(2019) )
以上のことから、「縄張り争いや獲物争奪といったスミロドンの種間闘争の過程で、剣歯によって穿たれた致命傷」だと、結論付けざるを得ないといいます。
(after Chimento et al.(2019) ©copyright Chimento et al.(2019) )
以上のことから、「縄張り争いや獲物争奪といったスミロドンの種間闘争の過程で、剣歯によって穿たれた致命傷」だと、結論付けざるを得ないといいます。
先にも触れたように、他の剣歯猫にも同様の例は知られていて、例えば Geraads et al.(2004)が報告したマカイロドゥス(アンフィマカイロドゥス)属種の頭骨に穿たれた傷跡も、同属の剣歯の形状、サイズと合致するものだといいます。つまり、ダーク型、シミター型に関わらず、剣歯猫は種間闘争において相手の頭部にダメージを与える形で上顎犬歯を用いていたことが窺え、彼らの剣歯が骨を突き通すに十分な強度を有していたことも、示しているわけです。
(中新世後期・中国北西部産の巨大剣歯猫、(アンフィ)マカイロドゥス・ホリビリス (左)と、更新世パタゴニア産の大型剣歯猫、スミロドン・ポプラトール(右)。
この二種の異なるタイプの剣歯猫は共に、種間闘争で剣歯が頭骨を穿つ例が知られていることになります)
イラスト by ©サーベル・パンサー the Saber Panther (All rights reserved)
(ネコ科ではありませんが、スミロドン属と並ぶダーク型剣歯猫(キャットフォルム)の典型とされる、バルボウロフェリス科のバルボウロフェリス属種。
スミロドンに優るとも劣らぬ長大な上顎犬歯の持ち主です)
イラスト by ©サーベル・パンサー the Saber Panther (All rights reserved)
そういえば、カリフォルニアのラ・ブレアにて夥しい量の骨格が得られているスミロドン・ファタリスを例にとると、上顎犬歯が欠損している例は皆無とされます。
剣歯猫の上顎犬歯の「脆さ」ということについて、そもそもの初めから裏付けが乏しかったことも、事実でしょう。
今回の発見により、これまでの剣歯猫の狩猟や種間闘争における上顎犬歯の用い方の仮説が、見直されるべき段階に来たのかもしれません。
こうした新しい仮説や発見については、今後も随時アップデートしていきたいものです。皆さんはどう思われるでしょうか。
こうした新しい仮説や発見については、今後も随時アップデートしていきたいものです。皆さんはどう思われるでしょうか。
『プレヒストリック・サファリ27 (更新世後期 南米パタゴニア) 'The Devastator' 特大スミロドンの発見』
イラスト & 文責:by © the Saber Panther (All rights reserved)
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☆次回作は恐竜です。諸事情により更新が遅れていることをお詫びします。ほんの少しお待ちいただき、ぜひチェックしてください。
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