米国における恐怖と呪術的思考への対応
BMJ 2025; 388 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.r311
「私は連邦制度の研究者であり、なぜ匿名でこの文章を発表するのか、お許しいただき、ご理解いただきたい。言論の自由が憲法に明記されているこの国で、私が匿名でこの文章を発表しなければならないという事実そのものが、起きていることの告発なのです。」
トランプ政権が米国の連邦研究システムに与える影響について BMJ 誌が発表したオピニオン・ピース(doi:10.1136/bmj.r294)には、このような冷ややかな文章が掲載されている。この記事では、大統領や政党にではなく「憲法」に誓いを立てた米国の研究者が、突然日常的に経験するようになった検閲、いじめ、恐怖について述べられている。研究者は、脆弱なコミュニティに関連するデータの削除を 「デジタル・ジェノサイド digital genocide」と表現し、病気に関する情報を共有する公式出版物が没にされ、疫学的監視システムが機能しなくなり、感染症が監視もチェックもされずに繁栄するディストピア世界、あるいは全体主義体制を描いている。
なぜもっと多くの科学者が声を上げないのか?その答えは悲痛なものだ。
「私たちの家、給料、家族、そして命さえも危険にさらされているのです。」
BMJ は、特別な場合にのみ匿名論文を掲載する。臨床シナリオを共有し、そこから学ぶことが特に重要である場合、あるいは著者の安全を守るため、例えば内部告発者である場合などには、匿名性を考慮する。このような状況ではすべて、著者と論文がともに本物であることを確認する。
この情報戦争の目的は、健康と労働力の不平等に取り組むという「危険なイデオロギー」を一掃することにある、とチョーは言う。『世界不平等報告書2022』は、アメリカにおける富の不平等が、第二次世界大戦後、平均所得が増加するにつれて縮小していったが、1980 年代から拡大し始め、再び「20 世紀初頭に観察された、上位 10%の富のシェアが 70%を超える」状態に近づいていることを説明している。これと歩調を合わせるように、健康格差も拡大しており、英連邦基金はアメリカの医療を「支出の加速、アウトカムの悪化」と見事に表現している。豊かな国の中では、米国の医療費と健康アウトカムは異常である。
困難なのは、健康とウェルビーイングを軽視し(doi:10.1136/bmj.r304)、悪い健康結果における不平等の中心的役割を無視し、科学と学問を進歩の敵と考える体制にどう対応するかである。キャスリーン・バチンスキーとマーティン・マッキーは、米国の突然の研究費削減が世界中で進行中の研究に及ぼす憂慮すべき影響について詳述し(doi:10.1136/bmj.r289)、これがいかにヘルシンキ宣言の基本原則を裏切っているか、そして「トランプは世界中の何千人もの人々を、研究参加者としての基本的権利の最も重大な侵害の危険にさらしている」と述べている。
バチンスキーとマッキーは、研究倫理委員会の指導を仰ぐこと、科学的・専門的機関が声を上げること、理性的な議論が成功しないことを認識し、否定主義に関する文献を利用して対応策を示すこと、米国の 22 州が行ったように法律に頼り、国立衛生研究所の資金削減に対する差し止め命令を勝ち取ること(doi:10.1136/bmj.r303)、倫理基準を維持しつつ、自己検閲などによる「予期的遵守」を避けること、の 5 点を提案している。
例えば、マスクが英国王立協会のフェローであり続けることに疑問を抱くべきだ。それでも十分でないなら、米国の医療を率いることになるロバート・F・ケネディ・ジュニア(doi:10.1136/bmj.r267)を見てみると良い (トランプ政権の福祉保健省長官。反ワクチン団体を設立し、牛乳の殺菌反対を主張している)。彼らが医療制度に組み込まれた問題を解決してくれるという考えは、魔法のようなハイリスクな思考である。
元記事
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