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内分泌代謝内科 備忘録

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
Allergy Asthma Immunol Res 2016; 8: 282-297

アスペルギルス属の芽胞 (Aspergillus spore) を吸入すると、呼吸器に様々な影響を及ぼす。これらの芽胞は喘息患者の粘稠な痰に捕捉され、炎症性カスケードを惹起する結果、アスペルギルス誘発性喘息 (Aspergillus-induced asthma)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis: ABPA)、アレルギー性アスペルギルス副鼻腔炎(allergic Aspergillus sinusitis: AAS)を引き起こす。

免疫介在性疾患である ABPA は、喘息および嚢胞性線維症(cystic fibrosis: CF)患者に多く発症する。診断には、まだ発展途上の一連の基準を満たす必要がある。画像診断は、この疾患の診断とモニタリングにおいて重要な役割を果たす。正常な先細り気管支を伴う中心性気管支拡張 (central bronchiectasis) は、CF を伴わない患者においては、依然として診断に有利であると考えられている。血清 IgE 値およびアスペルギルス特異的 IgE/IgG の上昇も、診断に不可欠である。

副鼻腔に粘液栓 (mucoid impaction) が生じる場合が、AAS であるが、これについても診断基準を満たす必要がある。副鼻腔材料中の真菌成分の存在は、AAS の特徴である。病理組織学的特徴が類似しているにもかかわらず、ABPA と AAS の併発はまれである。

経口コルチコステロイドは、依然としてアレルギー性アスペルギルス症の管理の主役である。抗真菌薬は真菌負荷を軽減するため、ABPA では補助的な役割を果たす。慢性空洞性 ABPA (cavitary ABPA) における腐生性コロニー形成はアスペルギローマ形成につながり、疾患の重症度を高める可能性がある。

アスペルギローマ
https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1382

同一患者に ABPA、AAS、アスペルギローマが存在することも報告されている。アスペルギルスに感作された喘息患者はすべて ABPA のスクリーニングを受けなければならず、AAS も常に調べる必要がある。

はじめに
呼吸器のアスペルギルス症 (Aspergillosis of the respiratory tract) は、過敏性障害から急速に進行する侵襲性の播種性疾患まで、多様な症状を呈する。 これらは、アレルギー性アスペルギルス症 (allergic Aspergirosis)、腐生性コロニー形成症 (saprophytic colonization)、侵襲性アスペルギルス症 (invasive Aspergillosis) という 3 つの異なる臨床カテゴリーに分類できる(表 1)。

表 1. アスペルギルス関連呼吸器疾患
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4853505/#T1

通常アトピー患者にみられるアレルギー型のさまざまな症状には、AIA、ABPA、AAS などがある。 本総説では、ABPA に焦点を当て、その他のアスペルギルス関連呼吸器疾患のいくつかを紹介する。

アスペルギルス誘発性喘息および真菌感作を伴う重症喘息
アスペルギルスに対する即時型(I 型)IgE 介在性過敏症を認める喘息患者は、AIA と分類される。世界中の喘息患者において、アスペルギルス感作については 16-38%という大きなばらつきが認められている。喘息患者 105 人を対象としたわれわれの研究では、アスペルギルス抗原に対する皮膚反応陽性が 30 人(28.5%)に認められた。これらの AIA 患者では、統計学的に有意に平均罹病期間が長く(P <0.001)、平均好酸球数が高く(P <0.0001)、平均総 IgE が高値(P<0.05)で、年間経口コルチコステロイド薬の使用量が高く(P<0.004)、より重症であった。

「真菌感作を伴う重症喘息」(sever asthma with fungal sensitization: SAFS)という用語は、真菌抗原に対する感作を示し、入院が必要なほど頻繁に喘息の増悪をきたす喘息患者のサブセットに対する造語であり、 (1) 重症の(コントロール不良の)喘息、(2) 真菌に対する皮膚プリックテスト陽性(アスペルギルス種に対するものとは限らない)、または in vitro で少なくとも 0.4 kU/L の抗真菌 IgE の証明、(3) 血清総 IgE 濃度 <1,000 kU/L を満たすものを指す。SAFS と ABPA の重要な違いは、重症喘息が SAFS の診断基準の 1 つであるのに対し、ABPA は軽度または中等度の喘息患者でも発症することである。Greenberger も SAFS と ABPA の相違点を強調している。

アレルギー性アスペルギルス症患者では気管支に真菌が持続的に定着していることから、抗真菌薬が有効である可能性が示唆されている。SAFS 患者にイトラコナゾールを投与したところ、喘息の QOL スコアが有意に改善した。しかし、Aspergillus fumigatus(Af)に感作された中等症から重症の喘息患者にボリコナゾールを 3 ヵ月間投与した最近の研究では、有効性は認められなかった。著者らは、これまでの研究におけるイトラコナゾールの有益な効果は、副腎皮質ステロイドに対する薬物動態学的効果による可能性があることを示唆した。

ABPA
ABPA はアレルギー性アスペルギルス症の最も重要な症状であり、世界中で発症しているが、その重要性はあまり認識されていない。喘息および CF 患者に最もよくみられる ABPA は、アスペルギルス抗原に対する過敏症によって引き起こされる。感受性の高い宿主では、アスペルギルス胞子の反復吸入によりアレルギー反応が誘発される。Af などの真菌抗原は、主に I 型(IgE 介在性)反応を惹起し、これが病態の原因である。III 型(IgG 介在性免疫複合体)および IV 型(細胞介在性)反応も関与しているが、組織浸潤 (tissue invation) は起こらない。アスペルギルス以外の真菌がこのような病態の原因である場合、アレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycoses: ABPM)と呼ばれる。

この病気が英国で最初に報告されてから 63 年が経過したが、ABPA に罹患する喘息患者が少数である理由はいまだに解明されていない。これらの患者における ABPA の発症には、環境要因よりも宿主個人の遺伝的感受性の方が重要であるように思われる。さらに、喘息ではしばしば家族歴を認めるが、家族間で ABPA が発症することはまれである。私たちは第一親等内で ABPA を家族性に発症したケースを 4組 (4.9%) 特定した。この 4 組のうち 3 組で 1 人ずつ AAS を合併していた。

ABPA の疫学
ABPA の正確な有病率はまだわかっておらず、これはおそらく統一された診断基準や標準化された検査がないためであろう。この正常な肺組織を破壊し得る疾患は、1996 年に発表された国際疾病分類の第 9 回改訂版にはまだ含まれていない。1983 年から 1986 年にかけて、米国の Greenberger と Patterson は、531 人の喘息患者のうち、アスペルギルス抗原に即時皮膚反応性を示した 32 人(6%)に ABPA を認めた。他の研究では、Af に対する皮膚プリックテストが陽性であった喘息患者の 25%から 37%で ABPA が検出された。気管支喘息患者 105 人のうち、ABPA と診断された 8 人の患者では、ABPA を発症していないアスペルギルス感作のみの患者と比較して、罹病期間が有意に長く、喘息および鼻炎の発症年齢が早く、平均総白血球数、絶対好酸球数、血清総 IgE 値が高かった。

欧米の推計によると、ABPA は、慢性喘息全体の最大 6%に合併している。CF を基礎疾患とする患者における ABPA の有病率は、2-15%である。少なくとも 50 人の喘息患者を対象とした 5 件の前向き研究から分析した成人喘息患者における ABPA の有病率は 2.5%(範囲 0.72-3.5%)であった。これに基づいて著者らは、全世界の成 ABPA 患者は「480 万人を超える可能性がある」と推論した。

ABPA に関するコンセンサスに基づくガイドラインはこれまで存在しなかったため、2011 年 9 月、国際ヒト・動物真菌学会(the International Society for Human and Animal Mycology: ISHAM)は、喘息に合併する ABPA に関するワーキンググループを設置した。喘息患者におけるアスペルギルス感作の有病率は 5.53-38.5%であり、喘息における ABPA の有病率は 2.5-22.3%で、プールされた有病率は 8.4%であった。

免疫病理
ABPA における肺破壊の免疫介在機序は完全には解明されていない。Af 抗原はポリクローナル抗体反応を誘発し、これが総 IgE、Af-IgE、Af-IgG 抗体の上昇に大きく関与している。細胞性 Th2 免疫学的反応によるインターロイキン(interleukin: IL)-4、IL-5、IL-10、IL-13 産生の増加は、正常な免疫反応であることを示唆している。我々は、ABPA のインド人患者において、細胞傷害性リボヌクレアーゼ抗原(cytotoxic ribonuclease antigen, 18 kD)およびエラスチン分解性プロテアーゼ抗原(elastinolytic proteinase antigen, 45 kD)に対する抗体を同定している。遺伝的危険因子としては、HLA-DR2 および HLA-DR5 遺伝子型の発現がある。一方、HLA-DQ2 は ABPA を予防する。CF 患者では、cystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR) 遺伝子に変異がある場合に、気道にアスペルギルスが定着し、その後 ABPA を発症する可能性が高くなる。

cystic fibrosis transmembrane conductance regulator
https://www.cff.org/research-clinical-trials/basics-cftr-protein#:~:text=people%20with%20CF.-,The%20cystic%20fibrosis%20transmembrane%20conductance%20regulator%20(CFTR)%20protein%20helps%20to,salt%20%E2%80%94%20becomes%20trapped%20in%20cells.

Surfactant protein-A2 多型、1011A アレル (対立遺伝子) によるマンナン結合レクチン濃度の上昇、toll-like receptor 多型も、ABPA の発症に重要な役割を果たしている。イムノプロテオミクスは、皮膚テスト、血清診断、そして免疫療法に利用できる可能性がある Af の合成ペプチド抗原の同定に役立つであろう。

診断
ABPA に対する理解が深まるにつれ、診断基準も進化し続けている。1952 年、Hinson らは「以前には認識されていなかった種類の」3 人の患者を報告した。これらの患者は発熱、咳嗽、喘鳴性呼吸困難を繰り返し、時に胸痛を認めた。急性発作時には、好酸球増多、胸部 X 線写真の複数部位に肺浸潤、膿性痰の顕微鏡検査でアスペルギルス菌糸が認められた。また、2 例に弛緩性気管支拡張症がみられた。肺好酸球増加症 (pulmonary eosinophilia) では通常観察されない特異な特徴があるため、著者らはこの 3 症例を別個の疾患として分類することを提案した。肺好酸球増加症の急性症状とは異なり、これらの患者は慢性に経過した。また、痰の "栓 (plugs) "の産生は X 線写真上の浸潤影の消失と相関していた。気管支鏡検査では、閉塞性腫瘤を伴わない粘膜浮腫と気管支攣縮 (bronchial spasm) が認められた。

気管支攣縮
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22620-bronchospasm

著者らは、"...激しい好酸球浸潤と粘液の過剰産生はアレルギー反応を表している... "と述べている。真菌性の腫瘤は観察されなかったので、著者らはこれらの患者を "真菌症 "には分類しなかった。

診断基準
臨床的、X 線学的、および検査学的特徴に基づいて、1977 年に Rosenberg と Patterson によって 8 つの大基準と 3 つの小基準が提案された。この診断基準は現在でもよく参照されている (表 2)。

表 2. 提案されている ABPA の診断基準
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4853505/#T2

一連の基準は必要であるが、診断を確定する唯一の検査は、現在でも ABPA の病徴と考えられている正常な先細り気管支を伴う中心性気管支拡張症(central bronchiectasis: CB)の証明以外にはない。

8 大基準のすべてが常に認められるとは限らない。急性期(1 期)または増悪期(3 期)にのみ認められるものもある。さらに、中心性気管支拡張とアスペルギルス-1 型過敏症を除けば、他の項目はプレドニゾロンによる治療に影響される。このため、ABPA 患者において常にすべての基準を満たすことは困難である。2002 年、Greenberger は、(1) 喘息、(2) Af に対する即時皮膚反応性、(3) 血清総 IgE >1,000 ng/mL(417 kU/L)、(4) 特異的 IgE-Af/IgG-Af の上昇、(5) 遠位気管支拡張を伴わない中心性気管支拡張を含む、最低限必要な基準を提唱した。2013 年の Greenberger はさらに、前述の最低限必要な基準の (1)、(2)、(3)、(5) の項目からなる「真に最低限」の診断基準を提唱した。

末梢気管支が正常な中心性気管支拡張症 (central bronchiectasis with normal periferal bronchi) は、ABPA の診断のための必須条件であると考えられている。しかし、軽症の患者には中心性気管支拡張が存在しない場合もある。このような血清学的に陽性の患者は、ABPA の残りの診断基準を満たし、ABPA-S と分類される。その後、中心性気管支拡張を認めた場合、患者は ABPA-CB に分類される。

現在でも、ABPA の診断に必要な最小限の基準(大基準、小基準とも)の数についての合意は得られていない。ISHAM 作業部会は、項目を「必須基準」と「その他の基準」に大別した改訂基準セットを提案している(表 2)。気管支喘息と CF は、この新しく提案された基準の中で、ABPA の素因となる疾患とされている。必須基準の 2 つの特徴は以下の通りである。 (1) アスペルギルス抗原に対する即時型(I 型)皮膚過敏症陽性、または Af に対する IgE 値の上昇、(2) 総 IgE 値の 1,000 IU/mL を超える上昇。ABPA の診断を確定するには、これらの所見が両方とも存在しなければならない。その他、(1) 血清中の Af に対する沈降抗体 (precipitating antibody) または IgG 抗体の存在、(2) ABPA に一致する X 線写真上の肺混濁、(3) ステロイド未投与患者における好酸球総数 500 個/μL 以上、の 3 つの基準のうち少なくとも 2 つを満たす必要がある。

アスペルギルス沈降抗体
https://www.kameda.com/pr/pulmonary_medicine/post_32.html

しかし、作業部会は、この新しく提案された基準について、"検証とさらなる改良 "が必要であることを示唆している。

CF における ABPA
嚢胞性線維症の疫学研究 (Epidemiologic Study of Cystic Fibrosis: ESCF) データベース に基づき、CF 患者における急性 ABPA の診断基準が定められている。ESCF の基準では、(1) Af 抗原に対する即時皮膚反応性、(2) Af 抗原に対する沈降抗体、(3) 血清総 IgE >1,000 IU/mL の 3 つのうち 2 つが存在すること、および以下の 6つのうち少なくとも 2 つが存在することが採用されている。 すなわち、(1) 気管支攣縮、(2) 末梢血好酸球増多 >1,000 /μL、(3) 肺浸潤の既往、(4) 特異的 IgE-Af/IgG-Af の上昇、(5) 塗抹または培養による喀痰中の Af、(6) ステロイドに対する反応の 6項目である。

喘息を伴わない ABPA
ABPA は主に喘息患者の疾患であるが、喘息のない患者でも診断されている。1981 年にこのような病態が初めて報告されて以来、56 人の患者が報告されている。この患者群の注目すべき点は、半数以上が当初気管支原性癌が疑われていたことである。さらに、ABPA の画像所見が肺結核 (pulmonary tuberculosis) に似ることは肺結核の有病率が高い地域では重要な知見である。というのも、著者らのもとにも「多剤耐性の肺結核」の症例として ABPA 患者が紹介されることもあるからである。さらに、喘息を伴わない ABPA における気管支結石症 (broncholithiasis) の存在も報告されている。

臨床的特徴
通常、ABPA の進行は緩徐で、経過は長期にわたる。症状は、ほとんど症状のない軽症の喘息から、呼吸不全までと様々である。患者は急性増悪を繰り返し、治療後は寛解期に入る。未治療のまま放置すると、結核後の線維化後遺症と似た慢性線維化肺疾患に至ることが多い。

喘息とは別に、ABPA は他の臨床的アレルギー疾患を伴うこともある。これらのアトピー性疾患は若年で発症することがあるが、ABPAは通常 20-30 歳代で発症するが、小児や乳幼児でも発症することが報告されている。コントロール不良の喘息と末梢の好酸球増多を認める患者で、喀痰に金茶色の栓がみられる場合は、ABPA の可能性が考えられる。

患者の 3 分の 1 は、広範な X 線病変があるにもかかわらず、症状がほとんどないか、まったくないことがある。したがって、疾患の重症度や慢性度と症状は相関しないようである。

著者らは ABPA 患者 113
人の臨床プロファイルを検討した。そのうち70人は男性であり、平均年齢は32歳、平均喘息発症年齢は21歳であった。呼吸器症状は、咳嗽(99%)、息苦しさ(99%)、痰(98%)、喘鳴(97%)、喀血(41%)であった。上気道アレルギーを示唆する鼻症状は 45%にみられた。痰栓 (sputum plugs) の喀出は 37%、鼻栓 (nasal plugs) は 6%であった。患者の約半数にアトピーの既往歴があった。韓国の研究では、ABPA は結核による破壊的な肺疾患を有する患者でも発症する可能性があることが強調されている。

無症状の患者では身体所見から得られるものは少ないかもしれない。肺疾患の程度によっては、ローンカイ (rhonchi)、捻髪音 (crepitation)、気管支呼吸音 (bronchial breathing) が聴取される。鎮咳薬や糖質コステロイド療法を行っても消失しない持続性の断続性ラ音 (crackles) は、広範な線維化を示唆している。これらの患者は、チアノーゼ (cyanosis)、ばち指 (digital clabbing)、および肺性心 (cor pulmonale) の特徴を示すこともある。肥大性骨関節症 (hypertrophic osteoarthropathy) も報告されている。

画像所見
ABPA が初めて報告されて以来、さまざまな放射線検査は ABPA の診断だけでなく、疾患の経過を観察する上でも重要な役割を果たしてきた。胸部単純 X 線撮影、気管支造影、コンピュータ断層撮影(computed tomography: CT)など、長期にわたって採用されてきたさまざまな画像診断法がある。

胸部単純 X 線写真
一過性のものから永続的なものまで、胸部 X 線写真にはさまざまな特徴がある(表 3)。

表 3. ABPA の画像所見
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4853505/#T3

X 線写真における胸部陰影は ABPA 患者の多くで認められ、Rosenberg と Patterson によって発表された 8 つの主要な基準の 1 つに組み込まれた。ABPA 患者 113 人の胸部レントゲン写真 1,340 枚を評価したところ、89%に一過性の陰影が認められた。これらの一過性の肺浸潤(図 1 および 2)は疾患活動性を反映しており、通常、急性期または増悪期のいずれかで観察される。

図 1. ABPA 患者の胸部 X 線写真。左側肺門周囲に浸潤影を認め、両肺野の全区域に非均一な浸潤影を認める。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4853505/#F1

図 2. 同一患者で 4ヶ月後に撮影した胸部 X 線写真。左肺の浸潤影は消退している。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4853505/#F2

障害されている気管支内の粘液栓が、一過性の肺浸潤の原因は障害されている気管支内の粘液栓である。結核の有病率が高い国では、これらの X 線混濁は肺結核と間違われやすいが、患者の X 線写真を経時的に評価すると、陰影が一過性のものであることから結核と区別することができることがある。当然ではあるが、同じ部位に再発した場合は、同じ部位に陰影が出現する。

よく見られる一過性のパターンは浸潤影または不均一な混濁で、ABPA 患者の最大 91 %にみられる。浸潤影は多くの場合、治療後、あるいは時には自然に消失し、ABPA に特異的なものではない。肺門周囲または「偽肺門 (pseudohilar) 」浸潤は患者の 40-77%にみられる。これは分泌物で満たされた拡張した中心気管支の周囲にみられる。このような混濁は、肺門リンパ節腫脹と似ることがある。しかし、真の肺門リンパ節腫脹でも治療後に消失することがあることは、小児および成人の ABPA で報告されている。

その他の一過性の X 線学的特徴、すなわち「tramline (路面電車の軌道)」徴候、「toothpaste (歯みがき粉)」陰影、「gloved fingers (手袋をはめた指)」陰影、「V-Y」型または「wine glass (ワイングラス)」陰影も ABPA を強く示唆する。気管支壁の浮腫は、肥厚によるものであるが、直径の増大はなく、「tramline」徴候を生じる。喘息、CF、急性左心不全患者でも認められるため、この徴候は ABPA に特異的ではない。「toothpaste」または 「bandlike (帯状の)」の陰影は、患者の 24-65%にみられる。これは粘液栓により形成される。「gloved fingers」陰影は、閉塞した遠位気管支の末端が拡張して丸くなることで生じる。このような影は ABPA 患者の 11-23%にみられ、咳の後や治療により消失することがある。上葉の気管支に粘液が詰まると、「V 字型」または「wineglass」 型の陰影が生じることがある。患者の最大 20%にみられる、拡張した中心気管支内の分泌物やデブリによるニボー形成も ABPA の徴候である。ABPA では肺葉や肺区域の無気肺も珍しくない。我々は以前、ABPA と AAS を合併し、中葉症候群 (middle lobe syndrome) を呈した患者を報告したことがある。最近、われわれは、中葉症候群を呈した別の患者を報告した。2 週間後に症状の著明な改善がみられたものの、X 線写真の異常陰影は 4 ヵ月間持続した。プレドニゾロンによる治療を 6 ヵ月継続すると、中葉の無気肺は自然に軽快した。

気管支壁や実質の不可逆的な線維性変化は、様々な永久的な陰影をもたらし、これらは寛解期に至っても生涯持続する傾向がある。これらは、胸部 X 線写真上では、網目状また蜂巣状の線維化、上葉の収縮、空洞および限局性肺気腫として描出される。しかし、最も特徴的な永続的変化は、正常な末梢気管支を伴う中心性気管支拡張の出現である。

中心性気管支拡張の証明
気管支拡張症は、以前に浸潤影が存在した部位に生じると考えられている。胸部 X 写真では、気管支の拡がりを示す平行線状 (parallel-line shadow) の陰影として、または気管支の拡張を示す直径 1-2 cm のリング状の陰影 (ring shadow) として描出される。気管支造影 (bronchlgraphy) は、かつては気管支拡張症を証明するゴールドスタンダードとみなされていたが、一度に 1 つの気管気管支樹 (tracheobranchial tree) しか観察できないため、現在では時代遅れと考えられている。

現在では、特に高解像度の胸部 CT が中心性気管支拡張の診断に選択されている。気管支造影と比較した場合、CT は ABPA 患者の中心性気管支拡張の検出において感度 83%、特異度 92%を示した。重症の喘息を持つ小児では、CT スキャンは ABPA の診断を迅速かつ安全に確定するのに役立った。CT 上の気管支拡張症は、「string of pearl (真珠の糸)」と「signet ring (印環)」のような外観で特徴づけられる(図 3)。

図 3. ABPA 患者の胸部 CT 所見。中心性気管支拡張症を示唆する 'signet ring' 徴候 (太く短い矢印) と 'string of pearl' 徴候 (細く長い矢印) を認める。粘液栓と拡張した気管支も描出されている。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4853505/#F3

signet ring
https://www.laserengravingservice.co.uk/articles/choosing-the-right-metal-for-your-signet-ring

末梢気管支は正常な中心性気管支拡張の証明は、 CF のない患者における ABPA 診断の必須条件とみなされるべきであるが、末梢の気管支拡張をともなう場合も、肺葉の 30%、肺区域の 21%に認められた。

その他の CT 所見
気管支拡張症以外に CT で観察される気管支の異常としては、拡張した気管支や完全に閉塞した気管支、拡張した気管支内のニボー、気管支壁の肥厚などがある。肺実質の異常として多いのは、非均一な斑状浸潤影と様々な範囲の肺実質の瘢痕化、分葉または小葉の無気肺、空洞および気腫性嚢胞 (emphysematous bullae) である。

高分解能 CT では、ABPA 患者の 28%に高吸収粘液栓(high-attenuation mucous: HAM)(図 4)が報告されている。ISHAM 作業部会はこの所見を強調し、HAM を ABPA の予後不良な特徴とみなしている。ABPA 患者 155 人の分析では、HAM の存在は診断時の好酸球、総 IgE、および IgE-Af の有意な高値と関連していた。我々はまた、ABPA、AAS、および手術したアスペルギローマの患者において、無気肺に続発した同側の胸水貯留が、ステロイド治療後の肺葉の再拡張により消失したことも報告している。自然気胸、気管支肺瘻、胸膜肥厚、胸膜線維症も報告されている。

検査所見
ABPA の診断や経過観察に有用な検査所見としては、 画像検査以外に、アスペルギルス抗原による皮膚テスト、末梢好酸球数、血清総 IgE、Af 特異的 IgE および IgG、Af に対する沈降抗体などがある。Rosenberg と Patterson が示した 3 つの小基準の 1 つである黄褐色調 (golden brownish) の痰の喀出が、喘息と CF 患者の最初の手がかりとなることが多い。アスペルギルス属の喀痰培養が陽性であった症例は、約 58%であった。

好酸球数
末梢血好酸球数は、主要評価項目の 1 つであ り、しばしば認められる。増悪時には、ほとんどの患者で好酸球の絶対数が 1,000-3,000 /mm3 である。しかし、好酸球増多は他の多くの肺疾患でもみられる。一方、副腎皮質ステロイド治療中の患者では好酸球数が正常であることもある。この検査はあまり特異的ではないので、ISHAM 作業部会は好酸球数については「その他」の基準に含めている。喀痰好酸球増多は、湿性咳嗽 (productive cough) のある患者に認められることがある。

アスペルギルス抗原による皮膚テスト
ABPA 患者では、複数のアスペルギルス抗原に対する I 型(即時型)と III 型(遅延型)の皮膚過敏症が認められることがある。III 型反応はステロイド療法によって完全に抑制されるが、I 型反応には無効である。多くの研究者によって ABPA の診断に、皮内テスト (intradermal test) とプリックテスト (prick test) の両方が用いられている。現在、ABPA の初期スクリーニングにはプリックテストが用いられている。プリックテストが陰性であれば、プリックテストよりも感度の高い皮内テストを行うことを検討する。しかし、皮内反応では高い偽陽性が観察される。

即時型皮膚過敏症 (immediate skin hypersensitivity) は、ABPA に対する特異性は高くない。このことは、全喘息患者の約 40%と CF 患者の 56%が Af に感作されているという事実からも明らかである。この問題を解決するために、現在では組み換え Af アレルゲンがクローン化され、精製され、試験用に標準化されている。Af に感作された CF 患者を対象とした初期の研究の 1 つでは、ABPA 患者 6 人中 3 人が組換え Af アレルゲン I/a(recombinant Af allergen I/a: rAsp f I/a)で過敏症を示さなかった。 CF 患者 50 名(ABPA 12 名、ABPA を伴わないアスペルギルス感作 17 名、Af 非感作 21 名)を対象に、rAsp f 1、rAsp f 3、rAsp f 4、rAsp f 6を用いた皮膚テストを行ったところ、ABPA を伴わない 38 名の患者では、rAsp f 4 と rAsp f 6 に対しては 1:100 またはそれ以上の希釈液に対する反応性は認められなかった。著者らは、これら 2 つの組み換えアレルゲンは、CF における ABPA の信頼できるマーカーであることを示唆した。

血清総 IgE
血清総 IgE の上昇は、最低限の診断基準を構成する項目のひとつであり、Greenberger によって提唱された「真に最低限」の診断基準の項目のひとつである。ABPA を診断するための重要な基準として認識されているにもかかわらず、IgE のカットオフ値については、研究グループ間で意見の相違が残っている。Rosenberg-Paterson 基準では、ABPA と診断するための IgE 値は 1,000 IU/mL(-2,500 ng/mL)以上であった。しかし、Greenberger はこれよりも低い IgE 値(>417 IU/mL または 1,000 ng/mL)を必要最小限の基準における IgE 値としてあげている。ISHAM 作業部会は、Rosenberg と Patterson が当初提唱した 1,000 IU/mL というカットオフ値を採用した。IgE のカットオフ値は、民族性やアスペルギルス抗原への曝露リスクの影響を受ける可能性があるため、すべての集団で検証する必要がある。Greenberger らが米国アレルギー・喘息・免疫学会(American Academy of Allergy, Asthma and Immunology: AAAAI)の会員を対象に行った電子調査では、ABPA の診断基準や管理方法に関する情報が求められた。 著者らは、アレルギー専門医/免疫専門医の 44.9%が ABPA の診断に 417 IU/mL 以上の総 IgE 濃度を用いているのに対し、42%の回答者は 1,000 IU/mL 以上の IgE 濃度をカットオフ値としていることを見出だした。

A. fumigatus に対する特異的 IgE/IgG
IgE-Af および IgG-Af の上昇も、ABPA の診断に最低限必要な基準の 1 つである。一般に、ABPA 患者ではアスペルギルス誘発性喘息と比較して IgE-Af および IgG-Af の血清値は 2 倍になる。比較のための対照値が得られない場合、適切な臨床環境においては IgE-Af または IgG-Af の血清値が非常に高いことが ABPA の診断につながる可能性がある。ISHAM 作業部会は、IgE-Af 値が >0.35 kUA/L で ABPA と診断することを提案している。

酵素結合免疫吸着測定 (enzyme-linked immunosorbent assay: ELISA) 法では低レベルの IgE-Af は検出できなかったため、従来用いられていた ELISA に代わってラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay: RIA)法が用いられた。しかし、RIA 法は放射性同位元素の保存期間が短く、被曝のリスクがあることが問題だった。その後、ABPA 患者 13 人、アスペルギルス誘発性喘息患者9人、アスペルギローマ患者12人、および喘息のない対照者 9 人を対象に、ビオチン-アビジン結合免疫吸着測定法 (biotin-avidin-linked immunosorbent assay method) が採用され、その結果、1:1,000 という非常に高い希釈率であっても、ABPA 患者で IgE-Af 濃度が有意に高値を示した。著者らはこの所見は、ABPA 患者ではアスペルギルス抗原に対するポリクローナル抗体応答が見られるのに対し、アスペルギルス誘発性喘息患者では見られないことに起因するとしている。組換え Af アレルゲンに対する特異的 IgE 高値は、CF を基礎疾患とする患者における ABPA の検出にも有用であった。

A. fumigatus に対する沈降抗体
Outcherlony の二重免疫拡散法では、患者の 70%の非濃縮血清から Af に対する沈降抗体が検出された。濃縮血清を用いると、この検出率は画像検査で浸潤影を認める患者において 92%に向上した。Denning らは、ABPA 患者における線維症や空洞などの合併症の存在と血清沈降抗体の高力価が相関すると報告している。

肺機能検査
肺機能検査は ABPA の診断確定には役立たない。気流閉塞に加え、急性期または増悪期の患者では、全肺活量(total lung capacity: TLC)、肺活量(vital capacity: VC)、強制呼気第 1 秒量(forced expiratory volume in the first second: FEV1)、一酸化炭素拡散能(diffusion capacity for carbon monoxide: DLCO)の低下を伴う拘束性パターンが観察されることがある。平均罹病期間が 10 年以上の ABPA 患者では、罹病期間が 10 年未満の患者と比較して、FEV1、FEV1/VC 比、FEF25-75 の有意な(P <0.05)低下が観察された。

病期分類
ABPA の病期は、(1) 急性期、(2) 寛解期、(3) 増悪期、(4) コルチコステロイド依存性喘息、(5) 線維化肺疾患の 5 段階に分類されている(表 4)。

表 4. ABPA の病期分類
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4853505/#T4

病期分類は診断を確定する際に行う必要があり、患者が改善または悪化するたびに経過観察中に再評価する必要がある。通常はプレドニゾロン療法あるいは自然な経過で、症状の改善、画像検査の異常所見の消失、総 IgE および血中好酸球増加の減少を認める。一方、増悪していても約 3 分の 1 の症例で完全に無症状であり、IgE 値の寛解期からの 2 倍以上の増加または X 線写真に広範な異常陰影を認めることによって発見される。長期にわたって寛解を維持することは多くはないが、我々は ABPA とアスペルギローマを合併した患者において、長期寛解後の増悪を報告した。プレドニゾロンによる治療は本疾患の特徴的な特徴を覆い隠す可能性があるため、ステージ 4 の ABPA は臨床的には ABPA を伴わないコルチコステロイド依存性喘息と区別できない。

これらの病期分類を改良するために、ISHAM 作業部会は喘息における ABPA の新しい臨床病期分類を提案した(表 4)。これは、急性症状(ステージ 1)が現れる前であっても適切な治療を開始することで、末期線維症への進展を予防できる可能性があるためである。ステージ 2(治療に反応)は、臨床的、放射線学的、血清学的な改善がみられた状態である。しかし、この新しく提案された病期分類は、前向きの検証が必要である。

放射線学的病期分類
胸部 CT 所見に基づく ABPA の放射線学的分類が ISHAM 作業部会によって新たに提案された。放射線学的分類では以下のように軽症から重症まで分類される。 (1)血清学的 ABPA(ABPA-S)、(2)気管支拡張症を伴う ABPA(ABPA-B)、(3)HAM を伴うABPA(ABPA-HAM)、(4)慢性胸膜肺線維症を伴う ABPA(ABPA-CPF)。

ABPA-CPF 群に含めるには、気管支拡張症と HAM 以外に少なくとも 2 つの X 線学的特徴、すなわち肺線維症、肺実質瘢痕、線維空洞性病変、アスペルギローマ、胸膜肥厚がなければならない。

治療
ABPA に関する最近の AAAAI 委員会報告に記載されているように、ABPA の治療目標は以下の通りである: (i) 喘息や CF の症状のコントロール、(ii) ABPA の肺増悪の予防や治療、(iii) 肺炎症の軽減や寛解、(iv) 末期の線維性疾患や空洞性疾患への進行の抑制である。ABPA 患者を管理する際には、家族内の ABPA を除外し、原因となる真菌の潜在的な環境感染源を特定することも重要である。本疾患の進行または軽快に関する明確な予後指標は同定されていない。これらの目標を達成するためには、初期の段階で積極的に治療することが重要である。経口コルチコステロイドは依然として ABPA の管理の要である。ABPA の治療について適切にデザインされた臨床試験は不足している。これまでのところ、抗真菌薬の役割はせいぜい補助的なものである。

コルチコステロイド
経口コルチコステロイドは、現在に至るまで ABPA の治療に最も有効な薬剤である。ステージ 1(急性期)と ステージ 3(増悪期)については、プレドニゾロン 0.5 mg/kg/日を最初 の 2 週間は朝 1 回投与し、その後 6-8 週間は隔日投与に切り替えるというプロトコールが最も広く受け入れられている。プレドニゾロン中止後は、寛解が維持されていることを確認するため、6-8 週間ごとに患者の経過を観察する。再発を示唆する特徴があれば、できるだけ早期に治療を再開すべきである。ステージ 4 の ABPA(ステロイド依存性喘息)の患者は、通常、症状コントロールを維持するために、長期にわたってプレドニゾロン 10-40 mg を隔日内服 (alternate day therapy) する必要がある。末期の肺疾患(ステージ 5)の患者には、肺性心と動脈性低酸素血症の管理のための他の介入とともに、毎日のプレドニゾロン内服が必要である。

長期のステロイド療法による副作用を最小限に抑えるため、私たちは ABPA 患者 (AAS の有無は問わない) 26 人を対象に、週 2 回 (biweekly) でステロイドを投与した場合の治療効果を評価した。プレドニゾロン 0.5 mg/kg/日を 2 週間投与した後、従来の隔日投与または週 2 回投与を継続した。週 2 回投与を受けた患者では、FEV1、総 IgE 値、好酸球数にも有意な改善がみられた。メチルプレドニゾロン 10-20 mg/kg/day を連続 3 日間静脈内投与するパルス療法は、ABPA や CF の小児の重篤な増悪、時には生命を脅かす増悪の管理 に有用であることが示されている。コルチコステロイドの吸入は、喘息コントロールには有効であるが、ABPA の症候性増悪を予防したり、肺障害の進行を遅らせることはできない。

抗真菌薬
ABPA の治療における抗真菌薬の治療効果についてはまだ議論がある。抗真菌薬は真菌の負荷を減らすことで抗原性刺激を抑制し、炎症反応を低下させる。ナタマイシン (natamycin)、ハマイシン (hamycin)、アムホテリシン B (amphotericin B)、ミコナゾール (miconazole)、クロトリマゾール (clotrimazole)、ケトコナゾール (ketoconazole) といった昔からある抗真菌分子を用いた初期の研究では、あまり有望な結果は得られなかった。その後、イトラコナゾール (itraconazole) を用いた研究で、臨床的悪化なしに 1 日あたりの副腎皮質ステロイド投与量が減少することが示された。ABPA に対するアゾール系抗菌薬に関する Cochrane Database review では、イトラコナゾールが臨床転帰を改善すると結論づけている。イトラコナゾールの推奨用量は 1 回 200 mg を 1 日 2 回、4-6ヵ月間投与し、その後 4-6 ヵ月かけて漸減する。ステロイド代謝を阻害することにより副腎抑制を悪化させるため、イトラコナゾールを長期間使用するとクッシング様症状を引き起こす可能性がある。

薬剤耐性や治療レベルが最適でないことによる臨床的失敗を避けるために、イトラコナゾールの血中濃度を定期的にモニタリングすることが推奨される。ABPA では、新しいアゾール系薬剤であるボリコナゾール (voriconazole) とポサコナゾール (posaconazole) は、それぞれ 70%と 78%の患者で喘息の重症度を改善している。しかし、ボリコナゾールの長期使用には皮膚がんが関連している。イトラコナゾールや他の新しいアゾール系薬剤が、ABPA の第一選択療法として経口ステロイドに取って代わるかどうかはまだわかっていない。ABPA におけるイトラコナゾール単剤療法とプレドニゾロン単剤療法を比較した無作為化試験(MIPA 試験)の結果が待たれる(clinical trials.gov; NCT01321827)。

オマリズマブ
IgE に対するモノクローナル抗体であるオマリズマブ (omalizumab)も、 ABPA の治療に使用されている。CF を基礎疾患とする患者を対象とした初期研究では、入院や増悪が減少し、臨床的に有意な改善がみられた。これらの患者では、経口コルチコステロイドの使用量も減少した。ステロイド依存性の 4 期の患者において、経口ステロイド薬を減量または回避できる可能性を検討する必要がある。ABPA における日常的な使用法を評価するためには、オマリズマブや、おそらく他の IL-4Ra 抗体(dupilumab, デュピルマブ)、IL 5 抗体(mepolizumab, メポリズマブ)、IL 13 抗体(lebrikizumab, レブリキズマブ)を用いた無作為化試験が必要である。

ABPA と他の肺疾患
稀だが、ABPA は慢性閉塞性肺疾患患者においても認められている。hyper-IgE syndrome、慢性肉芽腫性疾患 (chronic glanulomatous disease)、およびカルタゲナー症候群 (Kartagener's syndrome) の患者では、ABPA または ABPA に類似した病態との関連が報告されている。これらの先天性免疫不全好中球疾患 (congenital immunodeficiency neutrophic condition) では、ABPA と侵襲性アスペルギルス症を鑑別することが極めて重要である。なぜなら、全身性ステロイドによる誤った治療が侵襲性プロセスを早め、侵襲性アスペルギルス症の合併率を上昇させる可能性があるからである。

アスペルギルス関連呼吸器疾患の臨床分類は、通常、相互に排他的であるが、類似した免疫病理学的反応により、異なる呼吸器アスペルギルス症が共存する可能性がある。ABPA と AAS の併発は、それほど珍しいことではないかもしれない。アスペルギローマの形成は、ABPA 患者においても報告されている。

アレルギー性アスペルギルス副鼻腔炎
ABPA と同様に、アスペルギルス抗原は副鼻腔で免疫学的反応を誘発し、AAS を引き起こす。AAS の診断基準の主な構成要素としては、(1) 1 つ以上の副鼻腔の副鼻腔炎を示唆する X 線写真の所見、(2) 副鼻腔からの検体の病理組織学的評価において、好酸球が浸潤した浮腫性ポリープをともなう壊死した無定形組織、 (3) 鼻汁中または手術時に採取した検体から真菌成分が染色または培養によって証明されること、(4) 糖尿病、免疫不全疾患の合併または既往、および免疫抑制剤による治療がないこと、 (5) 診断時または診断後に侵襲性真菌症を認めていないことの 5 点が挙げられる。

その他の特徴としては、以下が挙げられる。すなわち、 (1) 末梢血好酸球増加、(2) アスペルギルスに対する I 型および III 型皮膚過敏症、(3)アスペルギルス抗原に対する沈降抗体、(4) 総 IgE 値およびアスペルギルス特異的 IgE 値の上昇、および (5) 特徴的な CT 所見の 5 点である。

アトピーの背景を持つ患者では、鼻栓の通過 (passage of nasal plugs)、再発性の鼻ポリープ (recurrent nasal polyps)、副鼻腔炎の X 線所見などの特徴から、上気道のアレルギー性真菌現象 (allergic fungul phenomenon) を認める。「アレルギー性ムチン (allergic mucin)」は、好酸球、シャルコー-ライデン結晶 (Charcot-Leyden crystals)、細胞デブリ、散在する真菌菌糸からなる特徴的な鼻腔の病理学的物質であり、この疾患の特徴である。特徴的な CT 所見は、単純 CT で高吸収な蛇紋状領域を伴う不均一な陰影の存在である(図 5)。

図 5. 両側の篩骨洞と上顎洞に高吸収病変を認める副鼻腔のコンピュータ断層撮影
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4853505/#F5

喀出粘液から病理組織学的に確認することは、AAS の診断には不可欠 (sine qua non) である。現在行われている治療は、まず外科的デブリードマンを行い、術後に副腎皮質ステロイドの内服と支持療法を行うというものである。

アスペルギローマ
ABPA において慢性肺障害、特に空洞性病変が存在することは、アスペルギローマ形成に好都合な環境を提供する可能性がある。その逆もまた然りで、既存のアスペルギローマが、感受性の高い人の抗原刺激のための nidus (ラテン語、英語の niche に相当) として機能することで、その後に ABPA を発症させる可能性があることが分かっている。私たちは、アスペルギローマの共存は、基礎疾患である ABPA の重症度を高める可能性が高いと推測している。

CPA
CPA という病態は、2003年 に Denning らが、慢性的にアスペルギルスに侵されているが、真菌の菌糸による脈管侵襲や組織侵襲を認めない、既存の構造的肺疾患を有する患者のサブセットを同定したときに初めて注目された。これらの患者は免疫不全であるか、肺局所の免疫抑制であった。放射線学的パターンに基づいて、(1) 慢性空洞性肺アスペルギルス症 (chronic cavitary pulmonary aspergillosis: CCPA)、(2) 慢性線維化性肺アスペルギルス症(chronic fibrosing pulmonary aspergillosis: CFPA)、(3) 慢性壊死性肺アスペルギルス症 (chronic necrotizing pulmonary aspergillosis: CNPA) に分類した。CCPA では、進行性の空洞化または既存の空洞の拡大が認められ、治療せずに放置すると、慢性瘢痕化および顕著な肺線維症が時間の経過とともに発生し、CFPA に至った。アルコール中毒、喫煙、AIDS、糖尿病、コルチコステロイド治療など、軽度から中等度の免疫機能障害を引き起こす基礎的な交絡因子が存在する場合、通常、壁の薄い空洞が拡大した後に壊死状態が発症した。この病態は数週間以内に急速に、あるいは数ヵ月かけて徐々に発症し、CNPA と分類された。これらの 3 つの病型を臨床的に区別するのは容易でないため、CPA の新しい簡易分類が提案されている。すなわち、(1) 単純アスペルギローマ、(2) CCPA(複雑アスペルギローマ)または緩徐進行性 CNPA(3 ヵ月以上持続)、(3) 亜急性侵襲性肺アスペルギローシスまたは急速侵襲性肺アスペルギローシスの 3 病型に分類することが提案されている。

診断基準
CPA 患者は通常、少なくとも 3 ヵ月間の慢性の呼吸器症状および全身症状、肺空洞性病変の進行性の拡大および新規空洞の形成、血清アスペルギルス沈降抗体陽性または空洞病変からのアスペルギルス属菌の分離、炎症マーカー(C 反応性蛋白、血漿粘度または赤血球沈降速度)の上昇を認める。CPA の診断基準には、症状に類似した活動性結核や悪性腫瘍のような他の肺疾患の除外、および免疫不全状態を示唆する明らかな疾患の除外も含まれる。

ABPA、SAFS、および CPA
ABPA 患者に空洞、線維化、胸膜肥厚、およびアスペルギローマが発生すると、CPA を発症する。CPA 患者 126 人を対象とした研究では、主な基礎疾患として ABPA は 15 人 (11.9%) であったのに対し、SAFS は 2 人(1.6%) であった。スコーピングレビューでは、ABPA 患者における CPA の世界的な負担を推定することも試みられている。

スコーピングレビュー
https://genepro.org/2021/09/06/rmehub04_scopingreview/

5 年間の CPA の有病期間を計算する際に、年間 15%の減少率を適用したところ、ABPA に合併した CPA の世界的な症例負担は約 10%(範囲:7-20%)であった。

結論
喘息患者におけるカビへの感作は、疾患の重症度を高めることが知られている。喘息、好酸球増多、および「肺炎」を繰り返した既往のある患者は、ABPA を積極的に評価すべきである。そうすることで、診断の遅れを防ぎ、末期の線維症につながる肺の持続的な損傷を防ぐことができる。結核の罹患率が高い地域では、X 線写真の所見がよく似ているため、抗結核薬による誤った治療が行われることが多い。さらに、低所得国では、CT スキャンや培養検査のような高価で高度な診断手段を利用しにくいことが、診断の確立を妨げている可能性がある。ABPA の全患者において、他のアスペルギルス関連過敏性呼吸器疾患の合併の有無を確認する必要がある。

元論文
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4853505/
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