ハンター舌炎の症例報告
BMJ Case Reports 2022.
http://dx.doi.org/10.1136/bcr-2022-251810
80歳代の女性が貧血で当院を受診した。既往歴と服薬歴に異常はなかった。飲酒歴はなかった。バランスのとれた食事をしていた。バイタルサインは正常範囲であった。舌は高度に萎縮しており、赤く滑らかであった(図1)。
図 1: ハンター舌炎の肉眼所見
舌乳頭は萎縮し、赤く光沢がある。
https://casereports.bmj.com/content/15/8/e251810#F1
検査で神経学的所見は認められなかった。臨床検査で巨赤芽球性貧血(ヘモグロビン値 83 g/dL、平均赤血球容積 110fL)が認められた。ビタミン B12 欠乏症が疑われ、ビタミン B12 値が 50 pg/mL 未満であったことから確認された。上部消化管内視鏡検査でヘリコバクター・ピロリが検出されたため、ピロリ菌による萎縮性胃炎に続発するビタミン B12 欠乏症と診断された。ピロリ菌の治療に成功し、ビタミン B12 の筋肉内注射と経口投与を開始したところ、舌炎と貧血は1ヵ月以内に改善した(図2)。
図 2: 治療 1か月後の舌の肉眼所見
ピロリ菌を除菌し、ビタミン B12 を筋肉注射および経口で補充したところ、1か月以内に貧血と舌炎は改善した。
https://casereports.bmj.com/content/15/8/e251810#F2
ビタミン B12 欠乏症における舌炎は、最大で25%の症例にみられる。この病名は、1851 年にこの病態を報告したドイツの外科医 Julius Otto Ludwig Moeller(1819-1887)と、1900 年にこの病態を報告したスコットランドの医師 William Hunter(1861-1937)にちなんで命名された。
この舌炎には2つの病期がある。すなわち、鮮やかな紅斑を伴う炎症性病期と、舌の 50%以上に及ぶ乳頭の萎縮を特徴とする萎縮性病期である。
ビタミン B12 欠乏症の原因としては、菜食主義、悪性貧血や萎縮性胃炎、胃切除後などの胃病変、小腸病変、膵不全、特定の薬剤の使用などが挙げられる。また、ピロリ菌感染はビタミン B12 欠乏症と関連しており、ピロリ菌の除菌により血清ビタミン B12 濃度が正常化する。
以前の研究では、ビタミン B12 欠乏症患者の 56%でピロリ菌が検出され、ピロリ菌の除菌により感染患者の 40%で貧血と血清ビタミン B12 値の改善に成功したと報告されている。ビタミン B12 欠乏症の治療には、ビタミン B12 筋肉内注射製剤やビタミン B12 の大量経口投与がある。
学習のポイント
ビタミン B12 欠乏症における舌炎は、最大 25%の症例にみられる。伝統的には、舌の 50%以上を侵すびまん性で臨床的に非特異的な舌乳頭の萎縮として記述され、古典的にはハンター舌炎または Moeller-Hunter 舌炎として知られている。
ビタミン B12 欠乏症の原因としては、菜食主義、悪性貧血や萎縮性胃炎、胃切除後などの胃病変、小腸病変、膵不全、特定の薬剤の使用などが挙げられる。
また、ヘリコバクター・ピロリ菌感染はビタミン B12 欠乏症と関連しており、ピロリ菌の除菌により血清ビタミン B12 濃度は正常化する。
治療前
治療後
https://casereports.bmj.com/content/15/8/e251810