ある年の五月なかばのころ、大和町に行っての帰り、郡境になっている峠をバスで越える時、前方に見える山並の更に向うに、ひときわ高い山があることに気づいた。青い空を背景に、濃い藍色の山容にまだらのように残雪を見せていた。それは、突然に出現したように思われ、いかにも幽遠で、神秘的であった。
その日は殊に晴れわたり、大気も澄み、ちょうど私の視線もその方向にあり、初めて目にとびこんで来たのである。あとでその山が 「大東岳」 という名であることを知ったが、これほど感動的に山を見たことはなかった。所用の疲れと、バスのクッションの快さとで、私はかなり感傷的な状態でもあった。
その日は殊に晴れわたり、大気も澄み、ちょうど私の視線もその方向にあり、初めて目にとびこんで来たのである。あとでその山が 「大東岳」 という名であることを知ったが、これほど感動的に山を見たことはなかった。所用の疲れと、バスのクッションの快さとで、私はかなり感傷的な状態でもあった。
それから何日かして、ある明け方に、大東岳らしき山の夢を見た。その山はとても玲瓏 (れいろう) としていた。夢というものはいつも空しいものばかりが残るのに、この時は目がさめてからもその印象を弱めないで、私の内に快いものをとどめていた。
(2002・春)
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