読む、書くの雑多な日々、気まぐれな日常

好きなこと、雑多な日々、小説などを色々と書いていきます

第三話 免許ないけどマッサージ、男三人のドライブ、マスタングとキンブリーとスカー、何故、この組み合わせ

2020-09-04 12:55:22 | 日記

まさか、こんなにも恥ずかしいとは思わなかった。
 その朝、目が覚めて朝ご飯を食べようと台所に行くと先に起きて準備をしていたマルコーさんは声をかけてきたのだ、えっ、となってしまった。
 ちゃんをつけて呼ぶのは父、父さん、お父ちゃんだけだと思っていたのに。
 自分が小学生、子供ならいいのだが、この歳では、どうかと思ってしまう。
 「よ、呼び捨てでいいです、みやで」
 一瞬、奇妙な間の後、マルコーさんも慌てたように。
 「そ、そうだな、ははっ、いや、確かに、そっ、そうか」
 なんだか、場の空気を誤魔化すような笑いに多分、本人も名前を呼ぶのは悩んだのではないかと思うのだ。
 見ず知らずの他人との関係の難しさを改めて知った、朝の目覚めだ。
 
 
 「実は頼みがあるんだが」
 その日の夕方、マルコーさんに言われたのは村の老婆が畑仕事で腰を痛めているのでマッサージをしてくれないかというのだ、正直、いいのかと思ってしまった。
 素人、免許を持っていない、でも、ここは日本じゃない、臨機応変、郷に入れば郷に従えというし、先生から頼むと言われて即決で断るのは人としてどうよと思ってしまう。
 こういうところ、自分は日本人だなあと思ったが、翌日、後悔した。
 
 診療所から村まで歩いて行くのだが、距離があった、平坦なアスファルトの舗装された道路ではない、でこぼこ、石ころむき出しの道なので途中で何度か躓き、転んでしまった。
 マルコー先生に驚いた顔で大丈夫かいと声をかけられたときは情けない気持ちになってしまった、年上の先生の方が体力あるじゃないか。
 
 
 「凄いねえっ、随分と楽になった、ミヤさん」
 老婆に礼を言われて嬉しいなあと思ってしまう、ところが料金はと言われてはっとした。
 お金、ここは円、ドル、フランじゃないだろう、どうすればいいと思ったが。
 「修行中の身ですので金銭の授与は駄目なのです、師匠に怒られます」
 「えっ、でもねえ」
 ただより高い物はないというのはわかる、だが、この時、思った。
 「乗り物、ありませんか」
 老婆は少し考え込んでいたが、何かを思い出したようについておいでと言われて案内されたのは、物置というか、ゴミ捨て場のような場所だ。
 

 患者の家から出てきたマルコは先生ーと呼ばれて振り返った、凄い勢いで近づいてくるのは自転車に乗った彼女だ。
 「どうしたんだ、これ」
 「ちょっと、お借りしたんです」
 女は嬉しそうな声だが、反対にマルコは力なく言った、自転車に乗った事がないんだと。
 「大丈夫です、運手は私が、さあ、鞄を」
 後ろに乗ってくださいと言われてマルコは、きょとんとした顔になった、荷台にはクッションが縛り付けてある。
 普通なら男が運転するのではと思うが、この場合は仕方がない、しかし道の悪さと不安定さから途中で体が何度か跳ね上がりかけた、思わず降りると言いそうになったが、必死にペダルをこいている女に止めてくれというのも気が引けて、ようやく家に着いたときには、ほっとしたと同時に、ぐったりとしてしまった。
 
 自転車で帰ったまではよかったのだ、だが、翌朝、脹ら脛がパンパンで腕がだるだる、ベッドから起き上がるのも億劫になってしまい台所に行くと不思議そうな顔で見られてしまった。
 筋肉痛ですなんて恥ずかしくて言えない、一応、見栄というか、強がって何でもないですと言ってみたけど、もしかしたらばれているかもしれないと思ったら先生もだ。
 その日は往診がないという事で診療所で患者さんが来るのを待つだけらしい、ほっとした。
 
 移動の為の足が必要だと思った、自転車ではむっこう大変だ、それにここは雪が降るらしい、それもかなり積もるらしいと聞いて驚いた。
 正直、いつまでここにいることになるのか、先生の知り合いが来て、もしここから出て行く事になったらどうなるかわからないし、そんな事を悶々としながら考えていると気が滅入ってしまった。
 
 「先生、本当に助かりました」
 その日、往診に行った先、女性から渡されたのは女物の服と下着だ、彼女が金銭は受け取らないので物資でということらしい。
 「真面目な人だね、これ、少しだけど」
 自分が受け取る診療代金が、わずかばかりだが多い。
 「うちの旦那、足が楽になったって、あの人は街へ出て開業とかしないのかい、免許を持ってないからできないと言ってたけど、そんな人間、街にはたくさんいるでしょう」
 「色々と事情があってね」
 マルコは、ははと笑って誤魔化した。
 「うちの子供達の似顔絵とか、色々な話をしてくれてね、いいところの出なんじゃないのかい、まあ、金があっても幸せとは限らないんだね」
 マルコが尋ねると、女は不思議そうに言った。
 「今が一番楽しいって笑うもんだからさ」 

 ジープには三人の男が乗っていた、運転しているのはロイ・マスタング、助手席にはゾルフ・J・キンブリー、後部席には傷の男、スカーというメンバーだ、半日近く走り続けているのに三人は無言で殆ど口を聞く事もない。
 互いに仲が良いという訳ではないから当然だ、ただ、今回は仕事、知り合いに会いに行くなどと諸事情が重なり合ってしまい、いくら役職持ちの偉い人間でも一人一台という割り当ては認められないと言われてしまった結果が今の状況を生み出していた。
 
 何故、自分の隣の助手席が男なんだとロイ・マスタングは不満に思っていたが、それを口に出さなかった、やはり一人女の部下を連れてくれば、このドライブも少しは楽しいものになっただろう。
 キンブリーはといえば、この女好きの男は自分が隣に座っていることに不満を持っているんだろう、感情がダダ漏れだと思いながらいい気味だと内心腹の中でにやにやとしていた。
 スカーに至っては考え事だ、二週間前にマルコーから会いたいと連絡を受けて、ようやく時間が取れたことにほっとしていた。
 直接会って話したいというので、もしかして何か厄介ごとでもと思ったが、時間ができたら会いに来てくれと照ったマルコーの口調から、そんな様子は感じられなかった。
 
 突然、車の速度が上がった、キンブリーとスガーは驚いた。
 「な、なんです」
 「おい」
 二人の男などマスタングは完全に無視、スルーだ、石ころだらけの道なき道をジープは猪突猛進して、突然、止まった。
 
 ジープは女の隣でピタリと止まった。
 どちらへ行かれるのですかと、マスタングの言葉に両手に買い物袋を提げた女は足議そうな顔をしたが、無理もない。
 「だ、大丈夫です、診療所まで少しですから」
 「大変な荷物だ、実は我々も診療所に用があって向かうところです、よければ乗ってください」
 マスタングの言葉に女は首を振った。
 「いきなり、ナンパですか、制服姿の軍人が、相手が驚くのも無理はありませんよ」
女の表情がわずかに固まった。
 「実は車に酔いやすくて、ここは道も悪いですし」
 女の言葉に助手席から男が降り立った。
 「実は私もです、嗚呼、私、探偵をしています、キンブリーと言います、マルコー先生にご相談したいことがあって参りました、ジープの乗り心地は確かによくありませんね、私も少し疲れていたところです、さあ、荷物を」
 女の手から荷物を受け取ると後部席に視線を向けた。
 「あなたの気持ち分かりますよ、彼は犯罪者ではありません、顔つきは怖いですが、同乗するの不安でしょう」
 「あっ、いえ」
 この時点でできあがっていた図式は、軍人と強面の男=犯罪者だ。
 
 走り去るジープを見送りながらキンブリーは、にっこりと笑みを浮かべた、退屈なドライブよりも道の悪さを割合しても、こちらの方が百倍もマシだと思いながら女に声をかけた。
 「さあ、行きましょう」
 
 
   
 


第二話 マルコーさんは肩凝り、ヒロインは頑張ります、免許ないけど

2020-09-04 12:52:29 | 日記

男性の名前はティム・マルコー、黒髪で白髪混じりの小柄な男性の自宅兼診療所に住まわせてもらっているのだが、目が覚めるたびに今日で何日目だろうと思ってしまう。
 追い出される事もなく、図々しく一日、三食つきの日々を過ごしている自分に正直、呆れてしまうのだ。
 でも、何処に行けばいいのか分からないのだ、だから少しでもお礼代わりといってはなんだか、部屋の掃除や洗濯をしているのだ。
 驚いたのはマルコーさんは料理が趣味で作るのが好きらしく、スープ、サラダ、メインディッシュという、おしゃれなカフェメニューを出されたときには驚いた、しかも、この間はクッキーまで焼いてくれて、紅茶が美味しかったこと。
 奥さんは幸せ者ですねと言ったら、今までずっと一人だと言われて、余計な事を言ってしまった、失言だと思ったが、本人は気にしていないようでほっとした。
 ずっと研究職で医師を続けていると言われて、ああ、そういう人は少し前なら日本にもいたなあと思ってしまった。
 あと、顔だと言われた、顔全体が火傷でもしたみたいに皮膚が爛れているけど、そんなにひどいとも思わない、映画、アクションやホラーが好きなので顔の表面が火傷したからって、そんなに、ひどいと思ってしまうのだ。
 普通の人間が、へへへと笑って金槌やチェーンソーを持って追いかけてくる方がよっぽど怖いと思ってしまうくらいだ。
 顔のいい男が世の中、全てなんて嘘だ、今ならよくわかる。
 それに料理のできる男が、どれほど貴重な存在か、知らないのだろうか、世間の女は。

 天気のいいうちに洗濯物を干す、履き古したブリーフを見ながらゴムが伸びてるし、これ一枚、もらえないかなと思った。
 替えの下着がないのでズボンの下は○ーパン、ついでにいうと少し前に買ったスポーツブラでかぶれてしまい、ここ最近、○ーブラで裸族だ。
 海外旅行で日本人が身ぐるみ剥がされ、レ○プされて殺されたりとか悲惨なニュースを思い出すと自分は運が良いなんてもんじゃない、マルコー先生の部屋に足向けて寝られない。
 掃除と洗濯だけでは駄目だ、もっと働かないと。
 土地勘もないのに追い出されたら行き倒れて悲惨な未来が待っているのは確実だ。
 最初は体でも売ってでもと思うが、あれは若い女だから簡単で手っ取り早い方法だ、三十路のババアには需要も未来はない、美人なら少しはましかもしれないが。
 (化粧すれば少しは牛丼の中盛りぐらいにはなるかな)
 そんな事を思いながら家の中に入り時計を見ると、もうすぐ昼だ、帰って来るかもしれにない、今日は朝から往診に出かけていて留守なのだ。
 見ず知らずの人間を残して家の中の物を盗んで逃げたりするとか、考えないのだろうか。
 少しは信用してくれているということだろうか、それなら少しはほっとするというか、安心できるのだけど。
 普通なら警察に通報、連れて行かれてもおかしくはないのよねと女は思った。
 

 夕食の後、女が自分の背後に立ち、いきなり両肩に手を置いて、ぐっと押してきたのでマルコは驚いた。
 疲れたという自分の言葉を聞いて、肩凝りですかと聞かれても意味がわからなかった。
 「凝ってますよ、鉄板みたいに堅いです」
 女はタオルを持って台所に消えるとしばらくして戻ってきた。
 服を脱いでうつ伏せになってください、女の言葉に、えっ、えっという状態になったが、断る事ができずに言われるがままだった。
 「自覚がないんですね、外国人は肩凝りって言葉も、それはどういう状態なのか感じで分からないって聞いたことありますから、肩凝りはね、辛いんですよ、私もですが」
 辛いんですよと言われても自分の場合は歳だから普通ではないのだろうか。
 シャツを脱いで枕に顔を埋めると女は背中にタオルをかぶせてきた、湯で濡らしたタオルは暖かい、まるで風呂に入っているような感じだ。
 女の手がタオルの上から背中に触れると、体が震えたが、しばらくすると慣れてきたのかもしれない。
 これはシン国の錬丹術と関係しているのか、以前、メイから腰や首筋を指で突かれて目や腰に激しい痛みを感じた事をマルコは思い出した。
 痛かったら言ってくださいと言われて、ああと呟いたマルコだったが、何故か、声が出なかった、眠りかけていたのだ。。
 
 先生、起きてください、風邪ひきますよ、小さな声だったが、目が覚めたマルコは自分が眠っていたことに驚いた、時計を見ると真夜中だ。
 「なんだか、肩が、それに足も軽いな」
 「よかった、足裏と脹ら脛も揉んでおきましたから」
 施術師なのかと思いマルコは尋ねたが、返ってきたのは意外な返事だった。
 「実はマッサージ、て○みんで免許をと思ったんですけど、ずっとバイト生活で、この歳になるまで、先生みたいにちゃんとした勤めというか、仕事はしていなかったんです」
 水分を、たくさん取ってくださいと水入ったコップを手渡されて口をつけるとかすかな甘みがする、オレンジの匂いも、そういえば食べようと思っていたのに手をつけていなかったことを思い出した。

 「先生、その」
 何か言いにくそうに女が口ごもる口調で話しかけてきた。
 「あたし、警察とかに行った方がいいんでしょうか」
 日本という国の名前を聞いたことがないと言ったときの女の顔を思い出して、やはり悩んでいたのかと思いながらマルコは自分の考えを話したほうがいいかもしれないと考えた。
 警察、軍の施設に行けば問題解決の糸口が見えるかもしれない、だが、不安も感じていた、女の話を聞いていると、こことは全く違う世界から来たという感じがするのだ。
 

 「実は警察関係で色々と仕事をしている人、知り合いなんだか、相談してみようと思っている、信用できる人間だ、少し待ってくれんかね」
 マルコの脳裏に浮かんだのはマスタングとアームストロングの長女の顔だ、だか、二人とも忙しい立場だ、スカーから打診をしてもらおうと考えていた。
  マルコの言葉に女は無言だった、だが。
 「本当ですか」
 女が頭を下げるのを見てマルコは不安になった、ここ数日、住まわせて面倒をみたせいかもしれないが、それでもだ。
 「君の国と違ってここは犯罪も多い、あまり他人を信用しすぎてもいかん」
 自分の言葉に真面目な顔で頷くが、でもと言葉が続く。
 「先生はいい人です、マルコーさんを信用しています」
 多分、ここよりも平和な国で生きてきたのだろう、一体どこから来たのか、だが、聞いても本人にも説明ができないようなのだ。
 そろそろ寝なさいと声をかけようとすると、女は少し、がっかりとした顔になった。
 「もう少しだけ、話しませんか」
 そういえば朝から往診で帰ってきたのも遅かった事を思い出す、来客があっても出ないようにと言っていたのだ。
 「退屈だったかね、一人で」
 返事の代わりに笑う、その顔を見てマルコは、あることに気づいた。
 「そういえば、名前を聞いていなかったな」
 「ミヤ、木桜美夜っていいます」
 どんな字を書くのかと思い紙とペンを渡す、だが、書かれた文字は見たことのないものだ。
 自分が知っている国イシュヴァール、シン国のものとは違う。
 仕事柄、他国の書物を見たことのあるマルコだが、こんな文字は見たことがない。
 不安を感じずにはいられなかった。


第一話 知らない場所と世界に来ていた、イシュヴァールの診療所

2020-09-04 12:50:47 | 二次小説

 確か、昨日は久しぶりに飲んで電車に乗ったところまでは覚えている。
 それなのに目をが覚めたら見覚えのない景色が目の前に広がってる、しかも、広い草原が一面だ、いや、周りには山も見える、自分の家、近所ではない。
 寝ぼけている、それとも頭がおかしくなったのだろうか。
 ここは死後の世界、あの世に行く途中ではないかと思ってしまった。
 しばらく呆然としていたが、だが、ここで、いつまで突っ立っていても仕方がない。
 歩き始めて気づいたのは足の裏の感触だ、夢にしてはリアル過ぎる、感覚もある。
 怖くなってきた、それに随分と歩いたが、周りは山と草原が続いている、時計がないので正確な時間は分からないが、段々と足が疲れてきた。
 どれくらい歩いていたのか、あれは街だろうか、建物を見つけてほっとした。
 人がいる、あそこまて行ければと思って歩き出したが、雨が降ってきた。
 ゆるい雨が、少しずつ激しくなってくる。
 
 こんな時に雨なんて、シャツもジーパンもユニ○ロ、スニーカーなのが幸いだ。
 (あれ、家かな)
 家というよりは物置のようにも見える、せめて軒下で雨宿りができれば少しはましだろうと歩き続けた。
 着ている服も靴の中もびしょ濡れで気分がだんだんと滅入ってしまう、立っているのも疲れて壁にもたれて雨がやんでくれと思いながら、ただぼんやりと見泣けない景色を見ていた。
 そのとき、すぐそばの窓が開いて、女は慌てたように振り返った。
 窓から自噴を見ているのは中年の男性だ。
 「あ、あの、雨が降ってきて、雨宿りというか、怪しい者じゃありません」
 男は少し驚いた顔をして見ていたが、静かな声で言った、入りなさいと。
 
 子供のころに知らない人についていってはいけませんとか言われたけど、自分は大人だ、それに、ずっと外に立っているのは辛い、勇気を出して女は小屋の中へ入って行った。
 
 出されたお茶を前にして恐縮しながらも口にすると、ほっとした気分になった。
 白髪の混じった中年の男性は顔つきも優しそうな人だ、よし聞いてみようと思って女は疑問を口にした、ここは、どこですかと。
 「・・・の北部だが」
 女はがっくりとした、それはどこ、知らない国の名前だ、もしかして時間とか空間のひずみ、いや、神隠しとかにあって、知らない土地に来てしまったのだろうかと思ってしまった。
 「この土地の者ではないようだが」
 不審者というよりも不思議なものでも見る様な目で男が自分を見ている事に気づいた。
 「異国、外国の人かな」
 「日本人です」
 この言葉に男は一瞬、おやという顔をした、会話は、それ以上、続かなかった。
 「お代わりは、どうかね」
 女は俯きながら、はいと小さく頷いた。 


 「先生、怪我人を見てくれ」
 「うちの子供が」
 夕方になって雨が緩くなってきた頃、お客さんかと思ったら怪我をした病気の人がやってきた、この男の人は医者なんだと女は驚いた。
 きっと、いい人なんだろうと思うのは治療代は金があるときでいいからと言うのを聞いたからだ。
 患者は踏み倒しとかしないのだろうか、患者の服装は作業着というか、かなり汚れている、日雇い労働者みたいだと女は思った。
 会話の中にスラムという言葉が出てきたので、ここは日本ではない、不安な気持ちになったのはいうまでもない。
 
 お茶と食事、その日は泊めてもらうことになった、見ず知らずの人にいいのかと思ったけど甘えることにした。
 その夜、患者用のベッドを借りることになったのだが、女はなかなか眠ることができなかった。
 
 何か訳があるのだろうと医者は思った。
 病人の為のベッドは寝心地がよくないだろうが、我慢して貰うことにしたのだが、寝る前に水差しを持って行こうとしてドアの向こうから聞こえてくる声に思わず手が止まった。
 ドアの向こうから聞こえてくる声は啜り泣くような声だったからだ。


  「再婚しようと思うの、今更だけどね」
 自分を見る母親の目が、どこか後ろめたく感じるのは気のせいだろうか、気を遣う事はない、幸せになるんだから自分は賛成だと言うと安心したような笑顔が返ってくる、だが、次の言葉には賛成できなかった。
 一緒に暮らしましょうと言われて、すぐには返事ができなかった。
 「いい年した、三十路を過ぎたコブつきの娘がいたら相手も気を遣うから今まで通り、自分はアパートで暮らすというと、母親は首を振った。
 「あちらにもね、息子や娘がいるのよ」
 「だったら、尚更、気まずくなったら新生活にも支障がでるでしょ」
 「でも、仕事を辞めたんでしょう、それに家族なんだから一緒に暮らしても」
 「祐子さんには感謝してる、母親だと思ってる、本当の」
  友人の娘というだけで、血の繋がりのない自分を今まで何度でも助けてくれたのだ、感謝しても足りない、なのに自分の母親ときたら、最低だ。
 「そっくりね、そういうときの顔、でも困った事があったら」
 「家族だよ、離れて暮らしていてもメールや携帯で連絡取れるでしょ」
 「スマホにすればいいのに、ガラゲーなんて」
 「あのね、使用料は祐子さんが払っているんだよ」
 学校を卒業して、社会人になってもだ、今、住んでいるのは祐子さんが経営しているアパートなので家賃なんて、ただ同然だ。
 たまに、祐子さんはモーニングコールをかけてくる、起きたばかりの寝ぼけた声を聞くのが楽しいらしい。
 
 目が覚めたとき、優しい声を思い出した、朝だよ、起きて、今日の仕事はどう、時間があるなら朝ご飯一緒に食べない、近くのマックでホットケーキはどう。
 優しい声を思い出した、もう、あの声を聞く事はできないのかもしれない。
 ここは一体何処なのかわからない、不安でたまらなくなった。
 だが、何故か、涙は出なかった。
 
 
 「大丈夫かね、少し横になって休みなさい」
 その言葉に驚いた、朝になったら出て行かないといけないと思っていたのだ。
 それなのに心配してくれている、怪しい不審者って思われいたら警察、もしくは、どこかに通報されたりされてもおかしくないのに。
 「病室のベッドは患者が来るかもしれん、悪いが、奥の部屋で」
 女は返事をしようとした、だが、声が出ない。
 
 「あら、風邪をひいたの、仕方ないわね、ご飯作りに行くから」
 優しい声を思い出した。
 「起きてたら駄目じゃない、ほら、寝てなさい」
  
  「さあ、寝ていなさい」
   男の声に背中を押されて、はいと女は頷いた。
 
 


イシュヴァールの療養所

2020-09-04 12:38:45 | 二次小説

pixiv、ハーメルンでもオリジナル、二次小説を書いているのですが、こちらで今書いているハガレンの小説をアップしていこうと考えていこうと考えています、主人公は大人女性のトリップヒロインです。

オリジナルヒロイン✕オヤジキャラ、逆ハーという感じですが、ヒロインが大人ですので18禁要素もあると思います、駄目かなあと思ったら、そちらは投稿サイト、もしくは、このサイトもしくは移動、閉鎖するかもしれません。

ティム・マルコー先生推しですが、スカー、キンブリー、ホムンクルスも出てくるかもしれません。