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誘拐、覗き、でも最後は見つかったのでよしとする、ヒロインの受難

2020-09-15 19:13:23 | 二次小説

 今日は先生がシチューを作ってくれるって言ってたから、早く帰ろうと思っていた。
 村を出て、診療所までの帰り道、声をかけられた、だが、そこで途切れてしまった。
 
 目を開けると知らない部屋だ、起き上がろうとしたが全身がだるい、背中だけではない、全身が痛む事に気づいて、何故と思い、思い出そうとして視線を感じた。
 視線を向けると白いスーツの男が立っていた、見たことがある人物だ、診療所にやってきた男だ、確か名前は金曜日じゃない、そうだ、ブ、ブリトーは、メキシコ料理じゃなくて。
 「キ、キンブリーさん」
 名前を呼ばれて男は驚いた顔になったが、女は言葉を続けた。
 「美夜です、以前、マルコー先生のところで会った」
 知っている人間に会えたというだけでほっとしてしまう、だが、落ち着いてくださいねと言われ、サイドテーブルの引き出しから取り出した手鏡を渡された。
 見てください、そう言われて鏡を見る、そこに映っているのは白髪、真っ白な髪をした自分だ、否変わっているのは髪だけでは。
 思わず、漫画、ベルサイユの○ラ、牢獄に入れられて一晩で白髪になったフランス女王を思い出してた、しかも髪が伸びているって、普通は、反対ではないか。
 男が説明する、誘拐されたんですよと、その誘拐という言葉がすぐには理解できなかった。
 部屋の中は壁もカーテンも白くて病室のようだ、誘拐と言われて思い出そうとした、マッサージが終わって家に帰ろうとしたとき、声をかけられ、道を聞かれた。
 自分は村の中しか、外、余所のことは、あまり知らないと、その後、どうなった。
 「よく、思い出せないんですけど」
  「薬で眠らされていたようです、髪の色が変わったのも、そのせいかもしれません」
 話を聞いていても、そうですかと頷くしかない。
 「あなたが、ここへ運ばれてきて一週間がたちますから」
 いっ、一週間って、えっ、冗談では、だが、本当らしかった。
 
 「先生、お久しぶりです」
 電話の向こうから聞こえてくるキンブリーの声にマルコーは驚いた。
 「何の用だね」
 「おや、声に元気がありませんね、何かありましたか、医者が、そんな様子では患者も不安を感じませんか」
 この数日よく眠れていないのは確かだ、それというのも彼女、美夜が帰ってこないからだ。
 行方不明ということで届けも出した、だが、それを電話の相手に説明するつもりはなかった。
 「用がないなら切る、こっちも暇ではないんでね」
 人を苛つかせる事に関して、この男はどうして、こうもたけているんだろうとマルコーは、内心、むっとした。
 「ところで、見つかりましたか、美夜さんでしたか、助手の彼女は」
 思わず受話器を落としそうになった。
 「しばらく前に軍の医療室に運ばれてきましてね、昏睡状態というか、ずっと眠り続けていたんですが、今は目が覚めて」
 キンブリーの話を、マルコーはじっと聞いていた、よかった、無事だった。
 「こちらに来てくださいますよね、食事も殆ど取らないんです、今日の昼には着くはずです、大佐が迎えに行きますよ」
 
 受話器を置いたキンブリーは、これで一つ片付いたと、ほっとした。
 それにしてもと思う、人間恐怖やショックがあれば髪の色が変わるというのは聞いた事がある、だが顔を変えるなどは。
 イシュヴアールの再建は簡単ではないようで、最近になって誘拐、人身売買という事件も起きている、中には憂さ晴らしなのか、女を犯してなぶり殺すという連中もいるらしい。
 彼女は運が良かった、本当に。
 
 自分が一週間も眠っていたなんて、先生は心配して、もしかして居候がいなくなってせいせいしているとか、いや、マルコーさんは、そんな薄情な人じゃない、というか、思いたい。
 頼れる人がいないというのは、こんなにも心細いだなんて、もし、ここが日本なら、自分のアパートなら、困ったり、何かあれば連絡する事ができた、自分の母親、祐子さんに、だが、ここでは頼れる人間はいない、いたとしても一人だ。

 夕食が運ばれてきたが食べることができない、というか食欲が沸かない、せめて喉だけは潤しておこうと思ってお茶だけは口にする。
 キンブリーさんに頼んでマルコーさんに来て貰えないだろうか、でも診療所の仕事がある。
 ここから診療所は離れているような事を言っていた、数日かかると。
 
 もう寝よう、時計を見ると真夜中を過ぎている、朝になったら先生に電話を、そんな事を考えたが、大事な事に気づいた。
 番号を、電話番号を知らないのだ、いや、医者という仕事をしているんだから電話帳に載っているだろうと思い、寝ようと思って、ふと窓の外を見た。
 窓を何かがよぎった、見間違いかと思ったが、気配とかすかな音が聞こえた。

 大声を出すべきなのか、だが、もし、入ってきたら、そろりそろり、ゆっくりとベッドから出ようとしたが、足が強ばって、つまずき、膝か、かっくんとなってしまった。
 ドアに向かって、ゆっくりと歩くとドアノブに手をかけて音を立てないように静かにドアを開けた。

 廊下に出て人を呼ぼうと思ったとき、足音がした、こわごわと振り返ると、そこにはキンブリーがいだ。
 「ま、窓から、何か、誰か、覗いてっ」
 緊張と驚き、安堵したせいか、言葉が切れ切れになってしまう。
 「医務室ですな、ここで待っていてください」
 「で、でも」
 「すぐに戻ってきますから」

 医務室に入り、窓を開けて外を見る、彼女の見間違い、気のせいということもある、勿論、誰かがいたとしても、とっくに立ち去っているだろう、だが。
 窓の下で何かが光っている、小さな、確かめようと外に出て拾い上げた彼は思わず、にやりとした笑みを浮かべた。
 
 「こんな時間までお仕事ですか、大佐」
 深夜過ぎ、部屋に入ってきたキンブリーをマスタングは睨みつけた。
 「忘れ物ですよ」
 キンブリーは机の上に、それを置いた、窓の下で拾ったのはボタンだ。
 「おや、これをどこで、いや、探していたんだよ」
 マスタングは手を伸ばした、すると、待ってくださいとキンブリーは止めた。
 「あなた、何やってんです、変質者ですか」
 「なっ、何のことだか」
 軽蔑のまなざしでキンブリーは相手を見た。
 「い、いや、誤解だ」
 「ここは一階ですよ」
 揚げ足を取るなとマスタングは、顰め面になった。
 「どんな女性かと気になって、ただ顔を見ようと」
 「先生の助手ですよ」
 マスタングは、えっという顔になった、別人のような、容姿だったぞと言葉を続けるが、キンブリーの視線、マスタングを呆れたように見る目は変わらなかった。。
 
 「見つかったのか」
 受話器を置いたマルコーは頷いた、軍の施設に保護されているらしいと聞いてスカーは何故という顔になった。
 「詳しい事は大佐が話してくれるそうだ、こちらに向かっているらしい」
 スカーは疑問だらけの顔になったか、詳しい事は分からないとマルコーは首を振り台所に向かった、もうすぐ昼になる、準備だけはしておかなければと思ったのだ。
 
 「ドクター・マルコー先生、迎えに来ました、さあ、乗ってください」
 「大丈夫かね、ここまで、運転は大変だったろう、少し休んで」
 「何をいうんです、彼女が待っています、一刻も早く」
 そんな大声で叫ぶように言わなくてもと思いながら、マルコーとカスカーが乗り込むと、走り出したジープは規定速度は完全無視だ。

 ジープに乗り込んだマスタングは事情を説明し始めた、最近は田舎でも泥棒、盗人が出ていると、臓器やキメラ、人体実験の為に、家族や身内のいない人間はターゲットになるらしい。
 写真を渡されたマルコーとスカーは、びっくりしたというよりは驚いて言葉が出なかった。
 「薬で髪の色を変えられた可能性があります、よくある手ですから」