新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

駆ける

2024-08-24 07:41:41 | Short Short

芝生の上に突っ伏して、僕は地球にへばりついた。
寝返りを打って仰向けになる。地球は僕を離さない。当たり前の信頼に心が躍る。ほどよい夕風が土草の匂いをかき混ぜる。

僕の真上で細くシャープに延びていく飛行機雲のお尻の方が、早くもぼんやり太くその道を消し去りながら夕焼け色に染まっていく。
行ってしまった先には追いつけないけど、そこにある軌跡がそこにあったものを見せてくれる。束の間ではあるけれど。

駆けて行くものを見たのはその時だった。
ぼんやり消えゆく飛行機雲と夕焼け空を携えて、馬が宙を駆けて行く。ペガサスでもユニコーンでもないその馬は、千代紙をたくさん張り付けたみたいにカラフルな模様で嘶いた。空の湖に映るその姿を見た青い化身がどこからか現れて、黄金色の光がふたつの影を空に写す。

即座に僕は決めた。微塵の迷いなく、ゆるぎない世界の申し出に誓いを交わす。
風に逆立つたてがみを掴み僕は馬に飛び乗った。なんて綺麗な馬だろう。覗き込んだその大きな眼には、地平線の先がはるかにあった。青い化身が先導する。僕らはいつか見るはずの場所を目指して空をゆく。さっきまで居た芝生が揺れて、そこには僕はもういない。

薄く飛行機雲が道を開け、駆けゆく僕らに白を散らした。