私がそこにいなくても、きっと風は吹いたのだろう。
はらはらと降る薄紅色の花びらを風がザッとあおった。
舞い乱れた花片は風の形を不規則になぞってから、脹らむカーテンみたいに平らに並び、光が射すその先へちらちらと降りてゆく。
そこに私が居なくても、風は吹き花も降ったのだ。
きっと私が居なくても、世界はそこにあるのだろう。
けれどまぎれもなく私はその世界で同じ風の中に居た。
そこに私が居なくとも世界がちゃんと在るように、
きっと私も、どこにいても、一人きりでも、
ちゃんとそこに在るのだと、そう、聞こえた。
そのときの私は、ただただ心の内から溢れてくるものを、ああ、綺麗だな、ああ、綺麗だな、と、
世界が美しく呼吸をするその在りように委ねることしか、やりようを知らなかった。
どうしようもない喪失感。
どうしようもない喪失感。
どうしようもない、美しさ。