新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」

2024-11-13 09:39:09 | weblog

前回の「景色の中で」は、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』第三話を見ながら、浮かぶに任せて書き留めたもの。ショートに仕立てる前のただの素材メモなのだけれど、たまにはいいか、と書き留めたそのままを載せてみた。

『海に眠るダイヤモンド』は、出演陣に好きな顔ぶれが多かったので見始めた。
見てみると一話一話の物語としての影と光の対比やグラデーションが心地よく濃密で、まだ三話目だとは思えない。
映像にも叙情的な美しさと閑散と裏びれたものが同居していて云々カンヌンと書きかけて、コレってもう使い古された評だよね、と手が止まる。でも見終わると不思議な感覚が芽生えているのは本当。何かが心に触れる。昭和あるあるかもしれない。醸し出されるものがただ懐かしいだけなのかな。
面白いか、と訊かれれば答えに瀕するが、観たくなる。

物語を乗せた大きな揺りかごの底にある暗いものが、明るい場面や騒々しい賑わいの隙間をスルスルと流れていて、抜け出したい場所、逃げ込みたい場所、諦めた場所、当たり前の場所、離れられない場所、と各々の思いが交錯する様が妙という印象。ドラマというより関連づいたオムニバスの短編映画を観ているよう、とは言い過ぎだろうか。
閉ざされた炭鉱の島での、在りし日の暮らしに思いを馳せつつ、世間的には成功した今の自分の在りようにジレンマを抱える老いゆく女の思惑。女の過去を呼び起こす若い男。
過去と現在を呼応させながら、少しずつ開いていく物語。
第三話の一番最後の過去シーン、神木くんと杉咲花ちゃんが可愛くてほっこり。
今のところ過去の物語に主軸がありいい感じだけれど、現在の展開の如何次第ですべてが決まるんだろうな。期待していいのかどうか迷うところ。

気に入ったドラマや映画は、何度も何度も観返してしまうが、このドラマはそういうのとも少し違う。今のところ。
二度目を見るまでに、少し時間が欲しいと思ってしまう。時間をかけないと、自分の中に芽生えたものが育たない。そんな気がする。
「そんな気がする」ままの展開で物語が進めばいいのにな、と思う。



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景色の中で

2024-11-11 14:41:00 | 随想

山桜がひっそりと葉を色づかせ、誰の目にも触れることなくその葉を風に落としていく。
それはさみしいことだろうか。
そんなことはきっと考えない。知っているから。

山桜の周りにはシダや楓や樫の木や草花が同じようにひっそりと集まり、そのすべてが誰かの心の深い場所と繋がっている。
見ようとすればその場所はすぐ目の前に、枯れ葉の揺れる風音と共に現れる。
それはとても美しい。

どちらが幻だと言うのだろう。
瓶に手紙を詰め、人知れず海に流す。その気持ちと散り行く山桜と、どちらもがシンとした景色の一部に違いはない。
さみしいのは寧ろ、波に瓶を託したその手に残ったものではないか。

山の奥深くでまたひとひらが土に還る。その声に目を閉じる。
手のひらに浮かんだ青き星をそっと握る。



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懐中時計

2024-11-07 11:07:00 | Short Short

懐中時計の表面を指でなぞり胸ポケットにしまう。彼はその指で帽子のツバを深く下げて顔を伏せた。
悔しい時、いつもそうする。ツバで隠した唇はぎゅっと固く結ばれているんだろう。
だから私もいつものように彼に背を向け歩き出した。目の端で彼がとぼとぼと ついて来るのを確かめて声をかける。


思いがけず押し寄せるあの頃の思い。
戸棚の奥に仕舞いこんでいた古い箱を開けると、あの懐中時計が目に飛び込んできて、私は潮風に吹かれた。
人はなんてたくさんの瞬間を、無造作に置き去りにしていくのだろう。

あの時、自分がなんと言ったのか、もう忘れてしまった。
でも私たちはあの後、並んで歩いた。
港を遠目に橋の上から行き交う船の灯りと色走る水面の揺らぎを交互に見ながら、ふたりで一緒に彼の悔しさを月白のしじまに流していった。
それからまた歩いて歩いて、駅近く踏切がカンカン鳴りだすと、私たちは顔を見合わせ走り出しくぐり抜けた後ろを列車が突風みたいに過ぎて行く風圧に、なんだか可笑しくなって笑っていた。

ひそやかに時を蓄えた懐中時計が映す可惜夜の風の匂いがいくつもそこに、ただそこにある。


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ふたつめ

2024-11-04 11:00:00 | Short Short

大きな翼の影が地上を走る。

薄暮れの中、石の灯篭が続く道にぼくは居た。
そこは真新しいふたつめのステージ。ひとつめの奥に潜んでいた真実が現れたふたつめの世界。これまでやりくりしてきた全ては崩れ去った。

石畳の回廊を守り人たちが、まるでふたつめの歩き方を示すように、道の両側に並んだ灯篭に順番に明かりを灯し始め、照らされた道の先へとぼくを誘う。

やり方なんてわからない。始まったばかりのこの道を、どうやって進めばいいのか、未だ混乱の中にいる。
水晶の夜にぼくの過去は知らないものになった。見えていたものは外側の張りぼてに過ぎず、けれど透き通った灯の道を、一歩、また一歩、足を前に踏み出し、ただただ歩いて行く。石畳に揺れているのが光なのか影なのか、陰陽の思惑も異質な揺らぎを放つこの道を。

翼の影が辿り着く場所は、ぼくの行く道と同じだっただろうか。
響く靴音に、語りかけるのは、誰。



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青い夜

2024-11-01 14:41:00 | Short Short

青い夜だった。
いつもよりも滲んだように青が広がる夜で、だから、いつもよりも月が黄色く見えていた。
星はなくて、そういう煌めいたものは滲んだ青の中に溶け込んでいて、だから、滲んだ黄色もいつもより輝いて見えたんだ。

今夜の空は閉じている。向こうへと続く道が閉じられている。
そのことが、何故かやけに僕には心地よくて、窓から背伸びをするように体を乗り出しても、今夜は怖くない。

湖も、その向こうの山も、みんな青く滲んできれいだった。
ぼんやりと輪郭のない僕と、夜の青が混ざって、僕も夜の一部になった。湖面の移ろいが僕の中に、森の雫が僕の中に。

まどろむ青に、パンを焼く匂いが朝のさえずりに運ばれてくる。
まだ手つかずの光がパンの匂いにほだされて、やわらかに笑った。

香ばしい匂いが夜の青を塗り替えていく。僕の滲んだ輪郭が、少しずつ光に晒され、やがて白い朝の中に立っていた。
行ってしまった夜の青を、僕は僕の胸に滲ませた。もう、あの夜は僕の一部だから。誰も知らない、僕の大切な青。

空の道が開く。景色が輪郭を取り戻していく。
僕はコーヒーを淹れに、窓を閉めた。



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