職業なんですか？その２

職業は＿＿“漫画家です”とどうしてもいえなかった私。
その場に応じて適当に使い分けてた。
“デザイナー” “ライター” “自由業” “主婦”
今回は、
“主婦”と言ってしまったばっかりに……のお話です。





昔はよく、アイディアに詰まると、
家ではつい他のことに目がいってしまうので、
ホテルに泊まりこんでお話を考えてたんですけどね。
当時は…、女性が一人でホテルに宿泊は、
今ほどポピュラーではなかったのよ。
今は“淑女の休日”とか、“レディース・パック”とか、
女性が日ごろの疲れを癒すためにホテルに一人でお泊まりは
珍しくなくなったけどね。



―で、まあ、ホテルで仕事することになって、
家の前にちょうど都合よく通りかかったタクシーに乗り込んで、
ホテルの名を告げたら、
なにやら人のよさそうな運転手さんが一生懸命話しかけてきたのよね。
（私は黙って運転してくれる人の方が好き。話しかけられるのは苦手）




「ホテルでお食事ですか？いいですねえ」
愛想よくニコニコと話しかける運転手さん。
「いえ…、そうじゃなくて…、泊まるんです」
と、つい正直に答える私。
「え？東京に家があるのに、わざわざ東京のホテルに泊まるんですか？」
運転手さん、不信顔になる。
「ええ…、ちょっと…、仕事で…、」口を濁す私。
運転手さん、ちょっと問いかけに間があく。



「…………、お仕事、何なさってるんですか？」


（でたよ。……苦手な質問が…）



めんどくさいから、つい、いつもの調子で、
あんまり考えずに、いくつかある候補の中から無難で
めんどくさくならない（相手が追求してこない）受け答えをした。



「え～～～と、主婦です」



すると、答えたとたん…、
なぜか、急に無口になる運転手さん。




そして、突然、訪れた車内の静寂…。




ん？なんか私、変なこと言った？
自分の言ったキーワードが…頭の中を…駆け巡る。




（主婦が…、真昼間から…、ホテルで…、仕事…）




前を見て、押し黙ったまま運転を続ける
運ちゃんの後頭部に向かって、




（違うんです！違うんです！
　あたし別に変なことしにホテルに行くんじゃありません!
　ほんとにほんとにちゃんとした仕事なんです!）




と、心の中で、
車がホテルに着くまで叫んでおりました。


　　　　　　　（その３に続く）




☆写真は10月初旬、見上げた秋の空がとても綺麗だったので。
　近年は”春”と”秋”がなんだかとっても短くなった気がします。







※秋の夜長に。




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