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「少女は卒業しない」感想

【ネタバレ】

◎「少女は卒業しない」

 「あの頃、ここが世界のすべてだった」

 2023年2月23日(木・祝)公開、監督と脚本は中川駿、原作は朝井リョウ、120分。
 河合優実(山城まなみの役。3年B組、料理部部長)、小野莉奈(後藤由貴。3年B組、バスケ部部長)、小宮山莉渚(神田杏子。3年B組、軽音部部長)、中井友望(作田詩織。3年B組、クラスに馴染めず図書室に通う)、窪塚愛流(佐藤駿。3年C組、まなみの彼氏)、佐藤緋美(森崎剛士。3年A組、軽音部員でヘブンズドアのボーカル)、宇佐卓真(寺田賢介。3年B組、バスケ部員で後藤の彼氏)、藤原季節(坂口優斗。現代文の教員で図書室の管理をしている。既婚者)など。
 総合評価は、上中下で上くらい。






○4人の女子高生は、それぞれの理由で、高校を卒業したくないという気持ちが結構ありますが、私はどうだったかというと、進学するとは言えいわゆる社会へ一歩近づくのですから不安も少しはあったかもしれませんが、どちらかと言うと早く経済的に自立したいと思っていたので(但し、そもそも働きたくはないので、宝くじにでも当たって仕事をせずにいられたら一番いいと思っていました。)、卒業したくないとは思っていませんでした。
 卒業したくなかったという気持ちが強い人の方が、本作は響くものが多いのではと思います。

○冒頭で卒業式前日であることが示され、予行練習などをして、卒業式当日までの2日間の出来事。メイン4人の女子の恋愛、成長、卒業などの群像劇。
 卒業式前日であると示されたので、限られた時間を描いた名作映画「櫻の園」(1990年、中原俊監督)を思い出しました。「櫻の園」は、創立記念日での舞台上演に向けての2時間に様々なことが起きる中での女子高生達の瑞々しい青春のきらめきを見事に描いています。
 一方本作は、中盤まではモヤモヤした雰囲気が漂っていて、それはメインの4人の女子高生のモヤモヤでもありました。ところどころで桜がうつされるのに、画面も明るくはなく、光が少なめというか、それもあってモヤモヤ。ここは少し我慢が必要かもしれません。このモヤモヤの要因は少しずつ明かされ、終盤で一気に明かされます
 それはそれ、これはこれ、として2作を楽しめばいいと思います。

○3人の女子は、まなみが答辞を読むと知って、自分ももう少し頑張ろうと思います。ということは、まなみが物語の中心にいるということでもあり、まなみの事情を知っているということでもあります。客には、その事情は終盤まで明かされません。で、そういう事情なら、まなみがそうなることも、3人がそう思うことにも不思議はありません。
 余談ですが、女子4人中3人が部長で同じクラスというのは出来過ぎです。杏子は部長でないと役が成立しにくいですし、まなみは部長の方が役が成立しやすいですが部長でなければというほどではありませんし、由貴は部長でなくてもいいのでは。

○心理学の勉強をしたいから東京の大学に進学する由貴、地元の小学校の教師になりたいから地元の大学に進学する彼氏の賢介。心理学の勉強なら地元でも出来るのにと思う賢介、自分の夢を叶えたい2人、それが主因でケンカして数ヶ月、気まずいまま卒業式当日。由貴が前日夜に電話して卒業式後に会うことになりましたが、由貴は花火を用意して2人でやりましたが、それから2人で帰宅し、涙をこらえる感じもある微笑みで別れました。
 ヨリを戻したのか、別れたのか、ちょっと分かり難いシーンでした。明確にヨリを戻したといえるシーンはありませんでしたが、やはり別れようと言うシーンもありませんでした。とは言え、ちょっとした表情からして、きちんと区切りが付けられ気持ちがある程度はスッキリしたということなのでしょう。

 ところで、住んでいるのは山梨県ですから、週末に会うのは難しくありませんし、大学生なら何とかなる電車賃なので、遠距離恋愛も可能なのにと思いながら見ていました。遠距離恋愛は話題に上がりませんでしたが、遠距離恋愛は無理だと思い込んでいたのか、単に思い至らなかっただけなのか。友達にもどうしたらいいかを話すでしょうから(由貴は、たいていの事は話していると思われる仲の良い女友達がいる。)、友達が遠距離恋愛はどうかと言うでしょうから、後者はないと思います。

○卒業式後に軽音部がライブをするのが通例になているようですが、剛士のヘブンズドア(エアバンドで、楽器も歌もCDを流して、演奏や歌っているフリをするバンド。中二病全開でデスメタル系の音楽な事もあってバカにされている。)の衣装や化粧道具が当日朝になって盗まれた事が判明。
 そのバンドを嫌っていた3年の男子部員の桜川智(俳優は林裕太)が犯人ではと疑われましたが、違うと言って部室を出て行きました。杏子が呼び止めますが、俺はやっていないと言い、「わかってる」と杏子。「信じている」とか「そう思っている」とかなら通常の言い方ですが、「わかってる」ということは犯人が分かっていると同義です。私はここではそこまでは考えず、2人が付き合っているのかな、だからかな、と思って見ていました。杏子は中学の時から親しい剛士が好きだということは既に映像から分かっていましたが、付き合っていないのは明らかでしたし、半ば諦めて別の人と付き合っていると私は想像したのです。そんなことはなく、杏子は剛士に一途でした。

 そのやり取りを聞いていて、杏子の言い方から犯人が杏子だと見抜いた後輩部員の小西真由美(俳優は田畑志真)、優秀でもあり、杏子を尊敬しているだけによく見ています。中学の時は普通に歌っていた、高校でも皆が帰ったあとに部室で1人で普通に歌っている、競争率が高くなるから格好いいところを皆に教えたくなかった、とか言う杏子。複雑な乙女心です。

○友達がいない詩織が図書室で借りていた本を坂口優斗に返し(返却期限はとうに過ぎていて、坂口優斗もそれを知っているが督促をしたことはない。)、代わりに昨日買ったという同じ本を見せました。すると坂口優斗は2冊の本を交換しました。
 坂口優斗のアドバイスによってクラスメイトに話しかけたもののうまくいかなかったのですが、帰ろうとする詩織を呼び止めて卒業アルバムにメッセージを書いてくれたことからいくらかの好感は持たれたということでしょうから、それが少し嬉しい詩織。坂口優斗はそれを聞いたのに、少しでも前に歩み出した詩織を後押しするためなら却ってマイナスになりますから、ここはちょっと驚きました。まだ支えが必要と判断したので、本を返すことを口実にいつでも会いに来られるようにしたということなのでしょう。その後で詩織はまだ卒業したくないと泣いて言ったことから、そう考えれば理解はできます。
 ただ、きちんと失恋しないと引きずるので、坂口優斗がきちんとふらずにいることが詩織にとって良かったのかは分かりません。

○彼氏の駿に話しかけられたり、一緒にまなみが作った弁当を食べたりしていても今一つ浮かない顔のまなみ。卒業式前日と当日という今のシーンだとすると細かいところでおかしいので回想かな、でもなんで回想で入れるのかと不思議に思いながら見ていました。実は夏に駿が死んでいたことが後で判明。一緒に屋上(か部屋)にいたのでしょう、駿が落ちて、慌てて階段を降りて外に出てきたまなみ。一緒にいたということは自殺ではないのでしょうから、ふざけて柵に登っていたら落ちたといったところでしょうか(2人は2年付き合っていて、事故があったのは夏なので、3年の夏ということになる。)。原因は明かされません。

 先生から勧められ、まなみが卒業式で答辞を読むことになりました。通常は生徒会長とかなのに、と生徒間で話題になっていましたから、先生なりの配慮なのでしょう。卒業式前日の練習では読めましたが、本番では駿の母が遺影を持っているのを見た時点で泣きそうになっていましたが、そのせいなのか、それとは関係ないのか、壇上に登って言葉に詰まったままで答辞を読む前に画面が変わりました。読めたか読めなかったのかは最後まで不明確です。卒業式とライブの片付けが終わった体育館で、最後で想像上の駿に答辞を読むシーンがあるので、本番では読めなかったと考える方が妥当です。本番でも駿が遺影という形で、あるいはまなみの心の中にいたのですから、本番で読んでいたのなら最後のシーンで読む必要はないと考える方が妥当だからです。なお、パンフからしても、まなみは答辞を読むと駿の思い出とも別れることになると思っているようで、卒業したくない、読みたくないという気持ちがあるようです。

 最後で、まなみが答辞を涙ながらに読む声を背景に、少しだけ前に進んでいく3人の少女達がうつされます。
 見ようによっては、無理矢理卒業させられただけで(4人とも、卒業したくない気持ちが結構ある。)、前には進んでいないとも取れますが、それでも一歩を踏み出さざるを得ない状況を理解しています。

○公式HPから。
「今日、私はさよならする。
世界のすべてだったこの“学校”と、“恋”と。
廃校が決まり、校舎の取り壊しを目前に控えたとある地方高校、“最後の卒業式”までの2日間。
別れの匂いに満ちた校舎で、世界のすべてだった“恋”にさよならを告げようとする4人の少女たち。
抗うことのできない別れを受け入れ、それぞれが秘めた想いを形にする。
ある少女は進路の違いで離れ離れになる彼氏に。
ある少女は中学から片思いの同級生に。
ある少女は密かに想いを寄せる先生に。
しかし、卒業生代表の答辞を担当するまなみは、どうしても伝えられない彼への“想い”を抱えていたー。」


【shin】


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