【ネタバレ】
◎「箱男」
「それは、人間が望む最終形態」
2024年8月23日(金)公開、監督は石井岳龍、脚本はいながききよたか、石井岳龍、原作は安部公房、PG12、120分。
総合評価点は、上中下で上くらい。
◯箱男になりたい人の気持ち、あるいは、箱男に自分がなった場合の気持ちを、ある程度でも想像できないなら、それは幸せなことかもしれません。
ある程度以上に想像できるなら、本作を楽しめます。
あと、箱が丈夫すぎでは。市販の洗濯機が入っていた大きな段ボールですが、どんな段ボールだよ、って感じです。炭素繊維入りの強化段ボールなんじゃないか、って感じです(笑)。
なお、PG12なのは、主に葉子の裸があるからだと思います。
永瀬正敏(わたし(箱男(本物ではない))役)、浅野忠信(ニセ医者(ニセ箱男)役)、白本彩奈(戸山葉子(ニセ(?)看護師)役)、佐藤浩市(軍医(ニセ箱男)役)のほか、渋川清彦(ワッペン乞食役)、中村優子(刑事役)、川瀬陽太(上司刑事役)など。
○「箱男を意識する者は、箱男になる」と冒頭で何度か台詞があり、「完全な孤立 完全な匿名性 一方的にお前たちを覗く わたしは、箱男だ」というのも冒頭であったと思います。
わたしの箱男がいて、ニセ箱男が2人、3人とも変態です。
ニセ箱男2人にもてあそばれる面や翻弄される面もありつつ、最終的には3人の箱男を手のひらの上で転がしている面もある葉子というのが、一番まともであり、バカな3人の男たちを俯瞰している女でもあります。
○箱男が入っている箱には外を覗く穴があり、わたしは通りすがりの女性の足を見てばかりというのは、まだまだ俗世にまみれています。そもそも、「完全な孤立 完全な匿名性」という箱男になることで存在を消しているはずなのに箱の中で手帳にびっしりと日記を書いていたりというのも俗世への未練というか、そんなものが残っていることを伺わせます(この手帳は、先代の箱男が書いていたものにわたしが追記しているようです)。
○箱男同士のどっちが本物の箱男かのケンカ、箱に入ったままぶつかり合ったりというおバカさだけでなく、理屈でどっちが本物かを表明し合うというおバカさ。その格好でその理屈を言うのは、おバカです。
○覗き穴の縦横の比率は映画の画面と同じです。冒頭でそれが示されます。
ということは、本作を見ている客自身が箱男として本作を見ている、という転換が生じることは想像できましたが、ここか、と思った後半のところでそれはありませんでした。ほぼ最後でわたしが「箱男とは、すなわち……、あなた、だ」と。その方が効果的でした。
○公式HPから。
「『箱男』――それは人間が望む最終形態。
ヒーローか、アンチヒーローか
完全な孤立、完全な孤独を得て、社会の螺旋から外れた「本物」の存在。ダンボールを頭からすっぽりと被り、街中に存在し、一方的に世界を覗き見る『箱男』。カメラマンである"わたし"(永瀬正敏)は、偶然目にした箱男に心を奪われ、自らもダンボールをかぶり、遂に箱男としての一歩を踏み出すことに。しかし、本物の『箱男』になる道は険しく、数々の試練と危険が襲いかかる。存在を乗っ取ろうとするニセ箱男(浅野忠信)、完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤浩市)、"わたし"を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)……。果たして"わたし"は本物の『箱男』になれるのか。そして、犯罪を目論むニセモノたちとの戦いの行方はー!?
小さな箱の中で王国を作り、守られた状態で世界を一方的に覗く姿は、不確実性の中で揺らぎながら、小さな端末(スマホ)を手に持ち、匿名の存在としてSNSで一方的に他者を眼差し、時に攻撃さえもする現代の私たちと「無関係」と言えるだろうか…。
そして最も驚くのは、著書が発表された50年前に安部公房はすでに現代社会を予見していたということだ。」
【shin】