【ネタバレ】
◎「大いなる不在」
「あなたは誰だ」
2024年7月12日（金）公開（2023年製作）、監督は近浦啓、脚本は近浦啓、熊野桂太、133分。
総合評価点は、上中下で上くらい。
どの役者も良い演技でした。現在と過去が入り組んでいるので、要注意。
森山未來（卓（たかし）の役）、藤竜也（陽二の役。卓の実父）、原日出子（直美の役。陽二の再婚相手）、真木よう子（夕希の役。卓の妻）のほか、三浦誠己、神野三鈴、利重剛、塚原大助、市原佐都子など。![]()
○直美がどうして、陽二に言わず、書き置きもせず、陽二を捨てて妹がいる故郷らしき地に戻ったのかが不明です（陽二の家は福岡県の北九州市で、直美の行った先も九州）。
画面から見る限りでは、ボケた陽二から妻と認識されなかったことがショックだったということしか思いつきません。そこに、直美の妹と実の息子が、陽二にかかわるべきでないと直美に強く言った様子ですから、それも一因でしょう（互いに再婚で、前の配偶者との間に子はいるが、陽二と直美の間には子はいない）。
認知症になったら家族のことを家族と認識できず、親切な他人と思うことがあるというのは珍しいこととは思えません（私の認知症の家族はそうでした）。それがショックだったということは尤もなことですが、それで介護をせずに、何も言わずに去っても問題ないと言うのなら、そんなケースは現実社会でも山ほど出てくるでしょう。
理屈で相手を追い詰めるタイプの陽二ですから、家族も他人も疲れることは容易に想像できます。陽二を愛していたから一緒にいたとか、愛していたから家事をしていたとか、最初はそうであっても年とともに愛という要素はかなりなくなってきていたということかもしれないとも思ったのですが、よく分かりません。
直美が故郷で1人や妹といるシーンとかを見ると、陽二を放って出てきたことを気にしているのか、自分は愛していたのに自分を忘れた陽二というショックを引きずっているだけなのか、すぐには判断が付きかねます。なんとなくですが、後者が強めな気はしています。
そもそも、直美は、認知症への理解がなさ過ぎです。
○直美の実の息子が、母を家政婦のようにこき使っていた、自分をあまり母に会わせてくれなかった、と陽二のことを卓に怒っていましたが、どこまで本当なのかは不明です。
直美が出て行って、直美の妹が明らかにボケている陽二の世話をしばらくしていましたが、そのときに強姦されそうになって大怪我をした、入院をした、と息子は卓に言いました。後でそのシーンが出てきましたが、出て行った直美のものがある2階から直美のものを持っていこうと階段を上ろうとしたときに陽二が服をつかんで引き留めたら階段から落ちて、妹が足に怪我をしたというものでした。捻挫くらいはした様子です（もしかしたら骨折をしたのかも知れません）。妹が息子に嘘をついたのか、息子が卓に嘘をついたのかは不明です。
直美だったか妹だったが入院したものの既に退院しているのに、卓に入院中としか聞こえない言い方をして治療費を出せと言う息子ですから、治療費や慰謝料といったお金ほしさに息子が嘘を言った可能性もあります（そこには、母である直美を奪った陽二への恨みもありそうですが、それは卓にとってもお互い様かもしれないことを思いもしない息子です）。
○陽二との再会で自分自身を見つめ直す卓。なお、陽二が卓の母と離婚して30年くらい、その間に卓が陽二と会ったのは1回だけ。卓は5年前に実父である陽二（直美もいた。陽二は認知症にはなっていない。）に会いに来ていて、何か言いたそうでしたが何も言わなかったようです。卓の母、つまり陽二の前妻が死んだことを伝えに来たつもりが言い出せなかった、ということのようです。
認知症でホームに入っている陽二が卓に、「許して欲しい」と言いましたが、ごめんとかの謝罪に類する言葉はありませんでした。卓は許すのか、許さないのか、どう答えるのか注目しましたが、しばらくして、やや笑みを浮かべながらに見えましたが、許すという意味のことを言いました。ここは、老いた陽二への親孝行みたいな気持ちだったからなのか、卓が本当に許す気になったからなのか。あの笑みからして前者のように感じましたが、さてどうでしょう。
○公式HPから。
「小さい頃に自分と母を捨てた父が、警察に捕まった。
連絡を受けた卓（たかし）が、妻の夕希と共に久々に九州の父の元を訪ねると、父は認知症で別人のようであり、父が再婚した義母は行方不明になっていた。
卓は、父と義母の生活を調べ始めるが――。
父と義母の間に何があったのか？すべての謎が紐解かれた時、大海のような人生の深みに心が揺さぶられる、サスペンス・ヒューマンドラマ。」
【shin】
