絶園のテンペスト感想。悲劇的な喜劇でもあり、喜劇的な悲劇でもあり。はじまりの樹を倒すことが正義とは限らないけれど、通常は正義であることは確か
2013-04-16 00:51:05
冬アニメは楽しいものはそれなりにありましたが、感想をきちんと書こうと思うものは少なかったです。
秋冬アニメに気合を入れて見ないといけないものが多かったことから、秋冬アニメに気がいっていたのかも知れませんけれど。
ここからしばらくは、秋冬アニメで長々といろいろ書きたくなったものを。
◎「絶園のテンペスト」
○ 「琴浦さん」の感想でも書きましたが、2年位前だったか3年位前だったか、新聞だったか雑誌だったかは覚えていませんが、花澤香菜さんが出るとアニメの格が上がるという趣旨のことを書いているアニメ評論家だったか何だかの記事がありました。
どんな役でもそうだとは思いませんが、それは私も感じていたところで、花澤さんの声はアニメ全体を引き締めて引き上げる素晴らしい声だと思います。
このアニメでは出番が少なかったですが、花澤さんの声が全体の質を上げていた感じの、かつ、力の入った、なかなかいいアニメでした。
○ 血のつながらない兄の不破真広(cv豊永利行)と妹の不破愛花(cv花澤香菜)。独占欲が強い兄は妹を異性として愛していて、愛花はそれに気付いていて真広をもてあそぶというと言いすぎですが、そのような感じですが、真広は自分の気持ちが愛だとは気付いていないようで。
愛花は真広の親友の滝川吉野(cv内山昴輝)と真広にバレないように付き合っていて。
バレると兄が怒って何をし出すか分からないからですが、制服で一緒に帰ったり手をつないだりしており、誰かに見られない理由も兄にバレない理由も不明ですが、愛花の「絶園の魔法使い」としての力なのでしょうか。
それを踏まえた、「絶園の樹」と「はじまりの樹」をめぐる、樹と樹、樹と人間、人間同士の争い、「絶園の樹」と「はじまりの樹」のどちらを生かすことが正しいのか、どちらを生かすと人間が滅亡の危機に瀕するのか、確証がない中での意見の食い違いや争い。
○ 葉風は反対でしたが葉風を除く鎖部一族は「はじまりの樹」が文明をリセットすると考えて「絶園の樹」を復活させてリセットを阻止しようとするものの、途中からは葉風も同調するものの、一方、世界は「はじまりの樹」を守るのが正しいと考えるようになったので、鎖部一族と真広や吉野は結局は協力するようになり、そして死んだ愛花のかわりに急遽「絶園の魔法使い」にさせられた羽村めぐむ(cv梶裕貴)とも協力して「はじまりの樹」を倒すわけで。
最終(24)話での「はじまりの樹」との戦いでかなわないとほとんど諦めた羽村でしたが、「はじまりの樹」による偽りの楽園、閉じられた楽園を絶つのが「絶園」であって「絶園の魔法使い」の役回りであると理解した羽村は「絶園の剣」を召喚(?)して「はじまりの樹」を倒し。
何者かが人類に与えた試練らしきものとして、人類が「はじまりの樹」を選ぶのか倒すのか、結局は真広と吉野と鎖部一族らは正しい判断をしたわけですが、愛花は彼らに正しい判断をさせるために「絶園の魔法使い」としての役回りを演じるがゆえに自殺したわけですが、何者かが何者かは分かりませんし、自然の摂理のような何の実体のないものかも知れませんし。
○ それぞれが正しいと信じることを行い、その結果として争いになるのですが、どちらが正しいかなんて、フィクションの世界では決められますが、現実世界では結果が出るまで決められない場合も多いですし、結果が出ても決められない場合もありますし、決められたとしても数年、数十年、数百年もしたら当時は正しいと判断されたことが間違っていたと逆に判断される場合もありますし。
つまり、部分的や短期的には正義の絶対性は成立し得るものの、大きく見ればあるいは数百年単位で見れば正義の相対性が高まるのであって、絶対的正義が今後も絶対に成立しないとは言い切りませんが、そう簡単に成立するものではありません。
○ ただ、「はじまりの樹」を倒すことが本当に正しかったのかすら、実は分からないのです。
・ まずは「はじまりの樹」が世界をリセットするまでの数年と言う短期について言えば、「はじまりの樹」により抑えられていた犯罪とかが、「はじまりの樹」の消滅によって元通りになったためにしばらくは混乱する状態になってしまったので、どちらの世界が良い世界なのかは、考え方次第、感じ方次第とも言えるからです。
自由がなく監視されているけれど安全性の高い社会が良いのか、犯罪もそれなりに起きていていつ自分が被害者になるかは分からないけれど何事も自由に出来る社会が良いのか、これは昨秋から今冬のアニメ「サイコパス」のテーマでもあります。
自由の少ない独裁か、自由のある民主主義か、あるいは、強権的に押さえ込めるから犯罪が少ない独裁か、犯罪がそれなりに起きてしまう民主主義か、つまり、管理社会か自由な社会か、ということ。
それは、何かを手に入れるためには何かを犠牲にしなければならない、ということ。
このアニメでは、この後に真広が絶対的に良い世界に近いものを作ってくれそうな雰囲気がありますが、現実世界では、今よりある程度良い世界は望めても、絶対的に良い世界に近い世界というのは望めるものではありません。
・ 次に「はじまりの樹」が世界をリセットした場合という長期について言えば、人類が一度滅べば神が再び降臨して世界を作り直して良い世界になると信じていて、そのために核戦争が起きないかと考えているキリスト教の一派があるように、「はじまりの樹」によってリセットされた世界の方が良い世界かもしれません。
現実世界では神の存在は証明されていないように神は存在しませんが、フィクションの世界、しかも、何者かが「はじまりの樹」と「絶園の樹」の選択という試練を与えたと思われるこのアニメの世界では、神が存在するという世界観であっても不思議ではないところですし、神がいなくても、生き残ったわずかな人類、あるいは全員が滅んだとしてもやがて再び生まれてくるかもしれない新たな人類が作り直す世界は今よりも良い世界になるかもしれません。
となると、「はじまりの樹」によってほとんどの人類が滅んだ世界の後に生まれる世界の方が、「絶園の樹」が勝ったこのアニメでの世界よりも良い世界である可能性が出てくるわけです。
これは、神が居ようと居まいと、現実世界であってもこのアニメの世界であっても同じことです。
・ 但し、普通は、その良い世界というのはそのときに生きている人類にとってであり、「はじまりの樹」によって滅んでしまった人、つまり個々の人にとっては関係のないことです。
人類という地球上の「種(しゅ)」の存続にとっては良いことだというだけのことです。
それは、個々人の利益をどこまで追及して良いか、どこまでの追求を許すか、全体の利益のためには個人の利益の追求をどこから制限するのか、という、現実に起きていて意見が割れている問題と同根の問題です。
と書きつつ、「はじまりの樹」を倒した世界が独裁の世界となり(但し、この可能性は、現実世界でもこのアニメの世界でも、無視して良い位に低いですが。)、独裁によって大多数の国民が拷問と搾取により生きるか死ぬかのギリギリの状態で一生を終える状態の世界になった場合、「はじまりの樹」を倒さずに人類のほとんどが滅んだ方が良い世界になっていたかも知れないです。
いずれにせよ、一度選べば他の世界を試すことは出来ませんし、他の世界は永遠に闇の中です。途中でリセットしてやり直すことは出来ませんし、複数の世界を同時に回すことは出来ません。
・ そんなことを考えました。
○ さて、あとは余談です。
さて、クールというよりは高飛車な愛花が1話で死んで、楽しみの半分は無くなったかと思ったら、回想で結構出てきて、まあいいかな。
また兄妹の愛か、とは思いましたが、それはほんのスパイスでしかなくてホッとしましたし、話は上手い具合のどんでん返しがいくつかあり、楽しめました。
○ さて、シェークスピアは読んだことはありませんが、「テンペスト」やシェークスピアの他作品から引用する台詞がところどころにあり、こういう舞台っぽい大袈裟な感じ、そこかしこからジワジワとにじみ出る自意識過剰な感じ、こういうのは嫌いじゃないですが(こういうのばかりだと疲れますが。)、これって文学好きや演劇好きがやりそうなことで、それらがそれ程好きではない人にとってはウザイのでしょうね。
最終話の締めを「終幕」と表示するところとか、舞台を意識していますし。
○ さて、「テンペスト」は、アニメの最初の方をは始め愛花が時々言っているように喜劇に分類されるようですが、終盤までやや悲劇的なアニメでした。
途中までのエンディング曲「happy endings」は、花澤さんの明るくほのぼのとした曲で、アニメに合わず、違和感ばかり。
1月の途中から他の歌手の曲に変わりましたが、その曲も比較的明るい曲で、やはり違和感が。
最終(24)話の終わり方だけを見れば、この曲は合っていましたが、それ以外の話では違和感があったということ。
いずれの曲についても、このアニメが喜劇で終わることの暗示として理解すれば良いのでしょうけれども。
特に、最後に「s」と付けたところなんか、たくさんのhappy、少なくとも真広と吉野の2人のhappyを暗示していますし。
「最高の悲劇は最高の喜劇である。」と誰が言ったか言わなかったかは知りませんが、そんなことも感じさせるアニメでした。
最終話、愛花がいなくなった世界で、真広も吉野も恋人を見つけたようですし。
また、「はじまりの樹」がなくなって世界は滅亡からは救われましたが、「はじまりの樹」によって抑えられていた犯罪とかが元通りになってしまったので、しばらくは混乱が続くけれど、それは分かっていたことなので、真広が世界を変えると意気込むとか。
雰囲気的には、真広は成功するでしょうし。
愛花という個別のことに関しては悲劇でしたが、世界全体として見れば世界は救われたわけですから全体としては喜劇であり。
○ さて、20話で、愛花を殺した犯人を探すために過去にさかのぼった「はじまりの樹の姫宮」の鎖部葉風(cv沢城みゆき)が愛花に会い、愛花は「絶園の魔法使い」だと名乗りました。
愛花が「絶園の魔法使い」だという可能性については、視聴中、もう少し真面目に考えておくべきでしたね。無意識的に排除していたかも。
愛花が「絶園の魔法使い」というのは茶番のようですし。茶番劇=喜劇?
まあ、花澤さんの出番が少し増えたということで、前向きに考えることにしましたけれど。
○ さて、21話で愛花が、「はじまりの樹」を残すと10年以内に人類のほとんどが死に(人はごくわずか残る。)、世界の文明がリセットされるので「絶園の樹」が勝たないといけない、正しく扱えば「絶園の魔法使い」の方が強く作られているから勝つ、世界の命運は本当はどうでも良いけれど世界の命運以上に真広と吉野を守ることが大事、だから「絶園の魔法使い」としてシナリオに従ってそういう役回りを演じる旨を言い、葉風などの鎖部の一族がそうするように仕向けるように歴史を動かすために他殺に見せかけて自殺する愛花。
とても理屈に合った正しい判断を笑顔で冷静に葉風に語り、理屈に合っているから良いというわけではないからとして止めようとする葉風と戦って勝ち、自殺を実行する愛花がとても凛々しくてとても美しく、それを花澤さんの素晴らしい声が増幅しています。
真広と吉野も、愛花が期待したとおり、理屈に合っているからとして愛花の判断を理解し、概ね納得しました。少なくとも頭では。
ただ、視聴する側としては、理屈に合い過ぎていて感動とかとは異なる感情が。
この、理屈に合っているけれども釈然としない感覚、これは人間の「感情」というやっかいだけれども大事なものです。
こういう「感情」というものは、個人や一部の者の個別利益や局所的な利益には合っているとしても全体利益として見ればたいていは間違っているわけで、全体利益のためには個別利益をどこまで制限すべきか・切り捨てるべきか、とか、テロリストが人質をとって立てこもった場合に、より多数を助けるためにどこまでの人質の犠牲を可とするかとか、そして、それらの場合に世論はどう反応するかという、そんなことと関係する話です。
○ さて、最終(24)話、真広は愛花の墓前で、愛花の間違いは決められた役回りを演じたことだと言い、自分は誰かのシナリオはなぞらないと誓います。
そして、吉野を一発殴るところが良かったです。
悲しみや怒りを乗り越えるためには、理屈に合わなくても感情の発露というのは大事です。
(22話で、愛花の死の真相を聞いても冷静な真広と吉野を見て、羽村が怒りますが、それを機に2人の感情が少し発露されました。)
(それ以前に最終話で、愛花が自殺前に2人に残した映像メッセージの、3発だけなら真広は吉野を殴ってよいと言うところとか、凛々しく、淡々と、時に明るくメッセージを残す愛花と、
「(略)舞台上の役者はシナリを無視して勝手に動くわけには行きません。美しく退場してこそ、役目を果たせたと言えます。だから2人とも、いつまでも私の死にとらわれないで、愉快に日々を過ごしてください。「絶園の魔法使い」として、とても得られなかった時間を、2人のおかげで得られました。それだけで私は、この後の死を快く迎えられます。
では、最後に特典映像として、私の全裸をお見せしましょう。(愛花の笑い。)冗談ですよ、冗談。期待しました?。
では今度こそ、お元気で。」
の「お元気で。」と言ってビデオの電源を切る動作をするときに一瞬だけ素に戻ったのか、わずかに悲しげな、わずかに寂しげな表情をする愛花なんてのも良かったです。)
恋人候補も見つかったようで、真広は愛花の死を乗り越えた感じ。
その後のシーンで、吉野が葉風と付き合うに違いない描写があったので、吉野も愛花の死を乗り越えたようです。
理屈っぽい2人も感情の方向に少し動き、成長したということでしょう。
○ さて、漫画の絵の真広と吉野。アニメの絵の方が格好いいですが。
近寄りがたい凛々しさの愛花と、可愛い系美人の葉風。2013年のACEにて。
サインとか。ひらがなですし謎の生物がいるので花澤さんのは分かりやすいです。2013年のACEにて。
○ アニメのラストで愛花が、優しい声で語る台詞。
いい未来が訪れそうな台詞と語り口です。
「始まりは終わり。終わりは始まり。では、あらためて始めましょう。
それぞれがつくる、それぞれの物語を。」
終幕
【shin】
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