歌舞伎町の裏稼業であるゲーム屋から足を洗った僕は、母さんの残してくれたマンションを売り払い、その金で喫茶店を始める事にした。
失敗したらあとはない。それでも良かった。孤独をもう感じたくないのだ。
住居つきの店舗を不動産の紹介で借り、店の準備を開始する。この空間を気に入ってくれる人たちがたくさんできたらいいな。
幼馴染の直樹君にこの事を話すと、休みの日に来てくれ、色々な準備を手伝ってく . . . 本文を読む
いつも夜の二時ぐらいになると、店に顔を出すオーナー側の人間である浅田さん。
僕が働く一円ゲーム屋『ポッカ』は、歌舞伎町内に全部で六店舗の系列店があった。浅田さんは各店の見回り役であり、とても面倒見のいい人だ。
見掛けはパンチパーマで身長百八十五センチの大男。年齢は四十二、三であるが、貫禄というものがあり、もっと年齢を重ねているように見える。分かり易くいえばコテコテのヤクザ者にしか見えない . . . 本文を読む
知子の事を考えながら仕事へ行き、暇な時は隼人兄ちゃんと食事へ行くか、幸子のおばさんの店『加賀屋』へ行き、他愛もない話をして過ごす日々が続く。そんな感じで新年を迎える。気付けば僕は二十二歳になっていた。
行こう行こうと思っていても、なかなか行動に移せない自分。知子に会いたい。会って色々話をしたい。そして家に連れ込んで思い切り抱きたい……。
今、幸せかと言うと幸せ . . . 本文を読む
この日、内野は借りてきた猫のように大人しく、僕と目さえ合わせなかった。先ほどの異様な態度について聞こうにも、彼は完全に僕を避けているように思える。
結果、三度目の殺人にあたる内野殺害計画は、中止するしかなかった。
またいずれ何かしらの機会が来るだろう。その時まであの男の命は生かしておいてあげようじゃないか。
しかし、彼の姿をそれ以来見る事はなかった。何故なら次の日から内野は無断で仕事 . . . 本文を読む
朝五時を告げる目覚ましが鳴る。手探りで時計を探し、上についているボタンを叩く。途端に鳴り止む音。
少ししてまた目覚ましがなった。そこでようやく重いまぶたを開き、僕の一日が始まる。
いつもと違う点。横にいるはずの貴子がいない事。
つけっ放しだった電気とテレビを消す。
今日の現場は遠いから、会社へ六時半には到着するようだった。もっと近くの現場にしてほしいな。
昨夜食べ途中だった幸 . . . 本文を読む
貴子との初体験。それは僕にとって生涯忘れられないような思い出となるだろう。
知子の顔を見るのが辛かったので、僕は母さんと幼き頃一緒に過ごしたマンションへ戻る事に決めた。
数年間誰も住んでいなかったマンション。少しだけかび臭さを感じる。風呂場へ行くと、母さんが倒れていた辺りをしばらく黙ったまま見つめた。
ここで僕は初めての殺人を犯した……。
ゆっくりと手 . . . 本文を読む
日曜日という曜日のせいか、駅構内は家族連れが多い。
まだ、父さんが生きていれば、僕も家族と一緒に笑顔でどこかへ遊びに行っていただろう。見ていて、羨ましいという感情が噴き出してくる。
そういえば、小学時代の同級生だった直樹君と幸子ちゃんは、今頃どうしているだろうか。僕が施設に入れられて以来、一度も連絡をとっていない。今度、暇を見て、会いに行きたいという衝動に駆られる。
幼き頃から美しか . . . 本文を読む
廊下掃除をしていると、貴子と知子が話し掛けてくる。
「次郎君のお母さんとお父さんは、何で次郎ちゃんを捨てたの?」
「べ、別にいいじゃねえかよ……」
父さんは捨てたじゃなく、病気で亡くなったんだけどな。いちいち言い訳するのも面倒臭い。
「私のお母さんはね。学校から帰ってきたら、台所で首を吊って死んでいたの……」
貴子は悲しそうな . . . 本文を読む
擬似母
母さん……。
僕には、母さんと呼べる人間がいません。
だから、あなたの事を心の中だけでいいので、「母さん」と呼ばせてもらっていいでしょうか?
駄目だったら、しょうがないです。
だって嫌な思いなど、させたくないから……。
時田次郎。二十三歳。…と、言っても明日でも . . . 本文を読む