漫画喫茶での一万、そしてマッサージでの三千円。もうすでにこんな無駄遣いをしてしまった。そしてこの今乗っているタクシー代も……。
それよりも目立たないよう心掛けていたのに、ここへ来てその鬱憤が一気に爆発してしまった。誰かに現場を見られた訳ではないのが幸いだ。しかし、こういった突発的な感情の出し方にはもう少し用心しないといけない。これも日頃のストレスが蓄積してきている . . . 本文を読む
翌日鈴木君のいない会議が始まる。いつも中心になって話を進める彼がここにいないという現実。目の当たりにすると何とも言えない寂しさがあった。もう二度と彼とあのようなやり取りをする事もできないのだから。
近々通夜や葬儀があるので、社員は全員出席になるだろう。
会議は酒巻君が中心になって進めだす。酒巻君自体ホラー好きというのもあって張り切っているけど、あの一件のせいかどうもみんなの気持ちの乗り具 . . . 本文を読む
~五章 因果~
いつもと同じ日常を送っていたつもりだった。池袋駅に到着する少し前に、何のアナウンスもなく自然と停車する電車。時間にして三十秒ほど経った頃、徐々に動き出し池袋の駅に到着する。
同じ時間帯に同じ車両、乗る場所も毎日一緒。何ら変化などない。だが、ちょっとした違和感を覚えた。
駅に到着してから開くドアがいつもと逆方向。そして降りる位置も微妙にズレ . . . 本文を読む
~四章 忌憚~
忌憚とは忌みはばかる事。嫌い嫌がる事。または遠慮する事。多く、否定の語を伴って用いられる。
辞書で『忌憚(きたん)』という意味を調べてみると、こんな風に説明がかかれていた。いまいち理解しづらいような内容だがワシの場合、どうも前者のほうの意味が当てはまるな。つまり忌み嫌われた男と受け取ってもいいだろう。
気付けば四十四年間も生きてきた。世間一般で言うところ . . . 本文を読む
~三章 演技~
勤めている会社の後輩である澤井知世から電話があったのは、私がちょうど駅のホームに到着した頃だった。
さっきまで一緒に飲んでいたのに、何でまたこんな時間に? 何かあったのかな。
面倒だったので、私は鳴りっ放しの携帯電話をそのまま放置して、道を歩く。本当に重要な用事なら、再度また電話が掛かってくるでしょう。
十回ほど呼び出し音が鳴ってから、携帯電話が切れ . . . 本文を読む
~二章 人間~
お喋り好きな先輩の川崎道子に誘われ、私は今、ダイニングバーでお酒を飲んでいる。今日の会社の会議で、神威さんが話した内容。あの話をすべて鵜呑みにって難しいけど、でも会社のパソコンで調べたら、本当に『新宿クレッシェンド』という本はあって、著者は同僚の神威龍一となっていた。例の先生が予言というか予測した通りの結果になっているっていう事実がすごい。
「ねえ、知世。神威 . . . 本文を読む
~プロローグ~
「今日は恒例の朝礼というよりも、みんな会議室へ集まってくれ」
普段気だるそうに話す社長が、こんな風に威勢よく言う時って、必ず嫌な予感あるんだよな……。
「おい、酒巻」
「は、はい」
ヤバ、社長に目をつけられた。朝っぱらから運が悪いなあ。
「何だ、その不満そうな顔は? 文句あるなら言ってみろ」
「も、文句なんてありませ . . . 本文を読む