岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

自身の頭で考えず、何となく流れに沿って楽な方を選択すると、地獄を見ます

2010年10月09日 混沌の絵

2024年08月26日 14時15分09秒 | 描いた絵

2010年10月09日 混沌の絵

もう今から14年ほど前に描いた絵

 

 

これまで描いた星座シリーズの絵 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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当時この絵を描く前の心境を綴った記事

 

2010年10月02日00:03

 まずこの記事をご覧のマイミクの方々へ……

 ここ数日非常に申し訳なかったです
 ごめんなさい


 今日友人と色々話しここ数ヶ月を振り返ると、あまりにも心がズタズタに引き裂かれ、精神的に病んでいたのだと自覚したのだ

 つまり、無関係の人たちにも記事を通し、嫌な想いをさせてしまった事があったので、それについて謝りたかった

 

 話した内容は家族の件……

 どうすればいつもの自分へ戻れるのか?
 それをこの数ヶ月ずっと考えていた


 出口のない迷宮へ放り出されたような日々
 いくら自問自答をしても、光は見えない

 常にもがき、あがいて毎日を送っていた

 


 時が遡る事、幼少期……

 


 小学低学年だった頃、母親の虐待によりつけられた傷

 当時はヒステリックな母に怯え、他の家族や親戚に対し、笑顔で微笑む事さえ許されなかった


 いつも何かに怯え、顔色を伺うような日々が続く

 地獄のような毎日が終わったのが、小学二年生の寒い冬


 俺ら三兄弟を生んだ母親は、朝起きると消えていた
 この日を境に家を出て行ったのである


 もうこれで…、殺される事はないんだ
 そして自由に笑え、お腹いっぱいご飯を食べる事ができる

 母親が出て行った時、俺はそんな風に思っていた

 親父はそんな中、家の金を使い近所の人々へ酒を振舞い、毎日を陽気に過ごしている
 しかし家の中では俺やおばさんを理不尽に殴るようになり、強くなりたいと思うようになった


 ある日、父親と一緒に配達に行った俺は、名前も知らないおばさんのところへ連れて行かれた
 妙に甲高い猫撫で声を出すおばさんを見て、生理的に嫌な感じがした


 本家だった家
 近くには親戚がたくさんいる環境

 小学校では母方の従兄弟がいた
 その子は俺と同じクラスになり、担任の先生にまで「あの家はよってたかってお母さんを追い出した」、そう言い触らされた

 俺たちを育ててくれた親父の妹であるおばさんは、「何故おまえのお母さんがまだ離婚しないか分かる? 家の財産が目当てだからだよ」と言われ育ってきた

 母親は別の男性と近所で商売を始めたと言う噂を聞く
 噂は事実だった


 母親の事に関する件に対し、俺は無言を貫き通した

 何故自分にそんな事を言うのだろうか?
 そんな疑問もあったが、誰にも話さなかった

 何故なら確固たる信念があったからである


 身近な距離にいるのに誰もその問題へは触れず、時間だけが経っていった

 高校三年生になった頃、幼少期配達先で強引に連れて行かれた生理的に嫌なおばさんが、家で働いていたパートの人と、知らないおばさんを引き連れるように家の中へすごい剣幕で入ってくる
 その場に親父はいない状態で、長男の俺が捕まり、居間で話をする事になった

 原因は目の前にいる三人の人妻に親父は手を出し、それぞれの女たちが馬鹿な男に対し夢中になっての行動だった

「私が一番だって言った」
 醜い女の争いを見て、結婚というものに夢も希望も持てなくなった

 一番ショックだったのが、パートで働いていた人の真実を知った時だった
 いつも笑顔でいい人が入ってきたなあと懐いていたつもりだったから
 人間不信になった瞬間でもあった

 その三人の馬鹿な女の中でも、生理的に昔から嫌悪感を覚えたおばさんは一番酷く、心の醜さを知る


 しかし親父は何も変わらず、子供の養育費も出さず、毎日遊び呆けて飲み歩き、浮気を繰り返していた


 やがて高校を卒業した俺は、初めて自分の意思で母親の下へ向かう
 ずっと憎悪の対象だった母

 俺は冷静にそして丁重な敬語を使い、話した

「母さんが家を出て行ってから、もう十年ほどの月日が流れます。確か法律で七年以上経てば、そのような場合片方の申請で離婚は成立します。お願いします…。親父と離婚をしてもらえませんか?」


 母親はしばらく俺を見つめていたが、静かに口を開き、「分かったわ…。こちらのほうで全部やっておくから」そう言ってくれた

 幼少時代の記憶からか、ヒステリックに怒鳴られるとばかり思っていた俺は、そこで初めて母親の言い分も聞いてあげようと感じた


 しかし母親は昔と変わっていなかった

 企画書を作る為、四日間缶詰で会社にいた俺を興信所を使って調べ、勝手に社長へ電話される
 怒った俺は母親の店に向かい怒った

 母親は呆れた顔をしながら「何でこんな馬鹿に育ったんだろ。私が育てていたら」と言い出す

 

「もう…、二度と俺の人生に関わらないで下さい……」
 そう言って、俺は本当の意味で母親と決別をした

 

 何度か母親の下へ行く俺に対し、家では悪者扱いされるようになる

「そんなおまえは母親が恋しいのか?」と親父は憎しみを込めた目で言った


 気づけば食卓に俺の食事が用意される事はなくなり、自分で料理をするようになった


 強くなりたかった

 気づけば俺は、全日本プロレスのレスラーを目指し、65kgしかなかった体重を上げる事とトレーニングのみに没頭するようになった


 とんとん拍子にプロテストへ受かり、自分で切り開いた未来へ希望を持てた頃、祝賀会をしてくれた友人が酒乱で暴れ、ヤクザ十数名と乱闘になる
 酷い殴られ方をしていた友人を止めに入った俺は、警察に捕まってしまう

 警察から連絡の入った馬場社長は、俺に「もう来なくていい」と切り捨てられる


 絶望の中、強引にたまプラーザの合宿所へ押し掛け、門前払いを食らいそうになった時、中へ入れてくれたのはあのジャンボ鶴田さんだった
 特例としての一日だけの体験入門として、小橋健太さんや秋山準さんらと共に練習を行う

 鶴田さんはそんな俺に対し、マンツーマンで体が動かなくなるまでずっと付き合ってくれた

 体験入門は終わり、帰ろうとした俺に鶴田さんは声を掛けてくれた

「まだ体の線が細いから、体重をあと十キロから十五キロ上げて、また来年プロテストを受けろ。センスがある。もったいない」と……


 その言葉だけが希望だった
 茨の一年間を過ごし、再び全日本へ行った俺

 しかしスパーリングで左肘の骨を突き出してしまう


 用済みとなり、家に帰っても用意されない食事
 俺は残飯を食べ、それでもまだ生きる決意をした


 時は流れ、新宿歌舞伎町である程度の地位を築くようになった俺

 左肘が問題ないのを確認すると、再び鍛錬を始め、総合格闘技で復帰をしようと思った


 鶴田師匠がその間に亡くなってしまい、戦う目的を失いつつあった俺に、同じ店で働く従業員から総合格闘技のトーナメント戦を教えてもらう

 出場が決まった俺は、燃えに燃えた
 自身の強さを世間に見せ、そして「俺がジャンボ鶴田最後のDNAを受け継ぐ男だ!」そう叫びたいが為に……


 試合前日…、しっかり休んで寝ようとした時、生理的に嫌いなおばさんが勝手に家へ上がり込み、突然ノックもせず、俺の部屋のドアを開けた

「智ちゃんのお父さんはね…、埼玉医大の看護婦をこれから家に連れてくるって…。それでその子と結婚するって…。私、捨てられちゃう、どうしたらいいの?」と、泣き喚きながら錯乱していた


 そこへ本当にその女性を連れて帰ってきた親父
 一気に部屋の目の前は修羅場と化し、俺はまったく眠れず試合に臨み、そして負けた……


 それから一年経ち、生理的に嫌いな女は「お父さんと結婚してもいいかな?」と俺に聞いてきた

「俺ら三兄弟の母親と思わない。そして家に入って来ないなら、結婚するのは構わない。どうぞ、親父を連れ、勝手に外で暮らしてくれ」
 そう答えた俺


 数ヵ月後、週に一度ほどのペースで、その女は家で寝泊りするようになった
 時間が経つにつれ、その頻度が多くなり、五年後になって親父とその女は籍を入れていたのを知る


 俺たちを育ててくれたおばさんからは「おまえがあの時独断で勝手な事をしたからこうなったんだ」と常に責められた

 

 一番下の弟が怪我をして仕事もせずに部屋で引き篭もっていると聞いた俺は、月に十数万の金を渡し、それで兄らしい行動をしていたと思い込んでいた
 しかし弟は金を受け取るも、まるで感謝などせず、「兄貴は金持ってっけど金の使い方を知らねえ」と笑いながら友人に目の前で何度も話していた

 数ヶ月間金を無償で上げ続けた俺は怒ったが、「何で兄貴はいつもそうやって自分の見返りばかり求めるんだよ」と言われ、それ以来金をやる事は病めた


 歌舞伎町で働き、毎日を遊び呆けている俺に、真ん中の弟が怒って怒鳴りつけてきた

「兄貴っ! 自分の事ばっかじゃなくて、たまには家の問題にも振り返ってくれよ」

 

 その言葉で目が覚めた俺は、家の問題を聞く


 親父の戸籍上嫁となった女は勝手に家へ住み着き、朝五時頃おじいちゃんの部屋へ押し掛け、「長男なんですから、ぜひあの人を社長に」と毎日言い続けていたのだ

 そしておじいちゃんの代を受け継いだ従兄弟のおじさんに、馬鹿な夫婦は嫌がらせを繰り返し、とうとう家の仕事を放棄させてしまう


 親父が強引に社長となる展開についていけない従業員たちは不満を訴え、「あの人が社長になるなら辞める」とまで言った

 長年働き続けた従業員たちに止めを刺したのはあの女だった

「社長が気に入らないって言うのなら、勝手に辞めればいい。このご時勢金を出せばいくらでも働く人はいる」


 昔から慣れ親しんだ人たちは、それで離れてしまった
 そして支店も次々と独立すると言い出す始末

 約七年ほど家業を継いでいた一番下の弟は、失意のあまり仕事を辞め、家を出た

 

 歌舞伎町での裏稼業から足を洗い、家族会議にも参加し、役員会議には委任状をもらって出席するようにした俺
 そこにはあの女の娘婿も会議に参加し、それまでの家の会計士をクビにして会計士として参加していた


 親父が社長になるのだけは決定していたので、支店側の要望を聞く
 関わりを持ちたくないから、土地を買い取りたいとの希望

 しかしその娘婿が分厚い書類を見せながら「家賃収入として…」と言い出す

 俺はそれを阻止し、法務局で土地の登記などを済ませ、無事相手が納得させるように動いた
 そうして会社に転がり込んだ4千万の金

 親父は「この手先め、二束三文の金で土地を売りやがって」と激怒していた


 本当は新宿で整体をしようと思っていたが、おじいちゃんが心配だったので地元で開業する事にした俺
 そんな最中、取った小説の受賞

 自分の幼少時代の虐待を主人公にプレゼントした処女作が、全国書店で売られる
 もし、これをお袋が読んだら、どう思うのだろうか……

 ずっとこれまで憎悪を抱いていた
 しかし、この仕返しは少しやり過ぎたのではないだろうか……

 そう初めて思った自分がいた

 

 親父には当たり前だが報告などしなかった

 本をおばさんへプレゼントすると、「おまえの小説は暗いから読んでいて非常に嫌な気分になる。こんな本に980円も出すのは勿体ない」と言われた

 一番下の弟からは「小説を獲ったのはすごいよ。でも兄貴はね……」とまた偉そうに何かを言っていた


 家族で喜んでくれたのは真ん中の弟と、おじいちゃんだけだった

 


 去年になり、妊娠してしまったという一番下の弟は途方に暮れて、家に戻ってきた
 おばさんやおじいちゃんは金を出し、新居を敷地内に建て、弟が経営する為の店の場所まで用意をする

 結婚した一番下の弟は、子供を生み、その場所でレストランを始め出した


 今年の頭になり、突然馬鹿な女は家を辞めると言い出す
 そして「お母さんが辞めるのなら私も」とその娘婿まで急に辞めた

 その頃KDDIを辞め、失業保険をもらいながら執筆に専念していた俺に、「長男なんだから家を継げ」と意味不明の事を言い出した

「何故、そんな事を俺に言うんです?」

「もうね…、あなたとあの子しかいないのよ、お父さんの息子は……」と意味不明の事を抜かす女
 続けて「一番下の子は、あなたのおばさんの養子縁組を3年前にしているのよ」と言った

 まるで初耳の出来事に「何故それを知った?」と聞くと、「ちょっと調べものをしていてね」とだけ答える
 大方家の財産を狙い、戸籍でも調べていたのだろう
 まったくもって目ざとい女だ

 もうあいつとは兄弟でもない事実をあんな女に知らされた俺は、また一つ心に傷がつく
 その事を一番下の弟も、おばさんも、おじいちゃんも…、みんな、俺に黙っていたのだ……

 

 パートには陰で「あの子…、最近家の中にいるけど、もしかしてこの家の座でも狙っているのかしら」と言っていた馬鹿女
 そういった情報を聞いていた俺は不審に思、娘婿を呼び出し、家の決算書を出すよう命じる


 調べて分かった事……
 たった3年で馬鹿な夫婦は、その金を使い果たしていたのだ


 散々飲み歩き遊んでいた俺は、親父の飲み代ぐらいで4千万が溶ける事がないのを知っている
 つまりあの女は、様々な手を使って使途不明金を作り、自分の懐へ移していたのだ

 親父の実印まで管理し、すでにこの家にはない状況
 馬鹿な親父はそれでも自分の妻を庇い、やりたい放題の日々を送っていた

 あの女が家を出て行くと、親父はおじいちゃんに八つ当たりし、「親父が優しくしないから家を出て行った」と責めた

 それを見ていたパートのおばさんは黙っていられず、親父へ意見をする
 親父はその人を理不尽にもクビにした

 俺の整体開業時にも協力してくれたパートのおばさん
 3年働いたその人は、60歳を過ぎてから急にクビとなったのだ


 会社都合で失業保険がすぐ出るよう手続きをし、暇な時間を利用してよく食事へ誘った


 夜中酔って帰ってきた親父は、俺に八つ当たりをしてきたので押し倒し、これまでの行為を責めた

「会社にいくら金があるか、把握してんのかよ、親父っ!」
「貴様が安く売った」
「あんな女にいいようにされやがって」
「おまえが向こうの手先になって、あの土地を安く売りがったからだろうが」

 何度言っても会話にならない親父

 その騒ぎで起きてきたおじいちゃんに対し、蹴ろうとした親父を見て、俺は生まれて初めて親の頬を平手で叩いていた

 本当に嫌な気分だった
 一発叩く度に心の中がズタズタに引き裂かれるような想いだった

 部屋に戻ると俺は静かに泣き、執筆中の作品をそれでも書き始めた

 

 少しして一番下の弟が俺のところに来て、冷めた視線をしながら「兄弟だから言うけどさ……」と声を掛けてくる

 黙ったままいると、「兄貴、働かないで何をしてんの?」と責めてくる
 現在失業保険をもらいながら執筆をし、誰の迷惑にもなっていない事を伝えると、「小説はただの趣味でしょ? そんな事よりもさ、働きなよ」と偉そうに説教をしてきた

 数年前金をやり助けてやった恩も感じず、よくもそんな台詞を俺に吐けたものだ
 俺は睨みつけながら、静かに言った

「兄弟だと? 兄弟でない奴にそんな台詞を言われる覚えはない。あんな女にその事実を知らされた俺の心境が、おまえに分かるのか?」

「何だよ、兄貴はあんな奴の話を間に受けるのかよ? それに何を言いたいのか分からない」
 あくまでも惚ける弟

「もういい…、おまえとは二度と話したくない」
「何だよ、都合悪くなると逃げるのかよ?」

「好きに取っていい…。一つだけ言っておく。もう…、おまえとは兄弟でも何でもない」

 これ以上話を続けると、多分俺は弟をこの手で殺してしまうだろう
 そんな自覚だけはあったのだ


 失業保険も切れ、ようやく働き出した会社は給料未払いをした

 何の気力もなくなってきた

 

 家ではおばさんから顔を合わせる度、嫌味を言われる日々
 精神状態が自分でもおかしくなっていくのを感じた

 もう生きているのが嫌になり、死のうと思った
『自殺しよう』と言う作品を誰にも言わず、こっそり書き始め、それでも生に執着する自分に気づき、泣いた


 おじいちゃんだけは、俺を人として見てくれているじゃないか

 これまでの恩義を感じた俺は、朝の5時に起き、掃除やゴミ捨て、新聞を取りに行ったり、お茶を淹れたりとできる事をしようと思った


 綺麗になった床を見て、おじいちゃんは喜んでいた
 昼間にならないと起きてこないおばさんに「綺麗になったでしょ?」と言うと、「むらがあそこにある。ちゃんとそういうところまでやらないと意味がない」とだけ言った


 執筆をしながら疲れ、昼間寝ていると突然ドアが開き、「おじいちゃんを病院まで迎えに行け」といきなり言われる
 何度も言い方ってものを注意するも「言い方なんて関係ない。そんなのを気にするのはおまえぐらいだ」と分かってもらえないおばさん

 苛立つも、おじいちゃんが診察を終え病院で待っている事を考えるとすぐ家を出る

 車を運転し、家の前を通り過ぎようとすると、おばさんが外に出てくる
 窓を開け「何?」と聞くと、蝿を払うような素振りをして「早く行け」と言われる

 

「おじいちゃん…、何だか俺、生きる事に疲れちゃった……」
 運転しながら呟く俺

「おまえは努力が足りないからだ」

「おじいちゃんまでそう言うのはやめてくれ…。一つ聞きたい。俺が高校を卒業して、お袋と親父を離婚させた事についてどう思う?」

「あれは駄目だ。あれがあったから、家はこうなってしまった」


「おじいちゃん…、俺さ、小さい頃から虐待を受けてきてさ、ずっと母親を追い出されたって学校でも言われ、先生にも呼び出され…。おばさんには財産目当てだから離婚しないんだと言われ続けてこられた…。だから独断だったけど、離婚させなきゃ…。だって誰一人動こうとしなかったじゃないか。そんなに俺が憎いのか? そんなに俺が悪いのか……」

「いや、それは間違ってない」

「そうでしょ? 本当に悪いのはそれをうまく利用した、親父と加藤じゃないか……」

「そうだ」

「いつだってうちは、誰かを悪者にする事でみんながまとまってきた。俺が幼い頃はお袋…。もちろんお袋が悪いのは百も承知だよ。でもさ、旦那である親父のフォローがあればもっと違ったかもしれない…。お袋が出て行くと、次の悪者は親父だった。あの女が家に入るまでは……」

 おじいちゃんは黙って俺の話を聞いていた


「それからは常に俺が何故か悪者扱いされるようになっていた。そりゃあ俺だって自慢できるような生き方なんてしてないさ。でもさ…、最近になって思ったけど、みんなあんまりだよ……」

 

 家に帰ってから、92歳になるおじいちゃんにあんな事を言ってしまった事を悔やんだ

 生きている価値なんて俺にはないな……
 うん、今日を持って死のうじゃないか

 ロープを探し、首を絞めてみる
 その体勢で自分の姿を鏡で見た


 馬鹿だな、俺って。書いている作品をギネスに載せるんじゃなかったのかよ?
 自分で過去を振り返り、それを思い出しておかしくなる

 愚の骨頂もいいところだ


 もう本なんて売れない時代になった
 例えギネス記録を更新したって、金にならないかもしれない

 金が入るから書くのか?

 違う……
 書きたいからやり始めたんだ、俺が勝手に


 思った事、実際に経験した事を文字に表せる自分は幸せ者だってあの時思っていたじゃないか

 なのに何でこう苦しむ?


 充分好きな事をしているんだろ?
 書きたい小説を書くってさ

 なら、もうブレるな

 いい加減腹を括れって


 追いつきたいんだろ、鶴田師匠に……

 じゃあ、まだまだチャレンジしなきゃ
 全然努力が足りない


 いいじゃないか、評価なんかなくたって
 好きな事をしているんだからさ


 迷うなよ

 何でおばさんや弟、そして親父にイライラする?
 何かをどこかでずっと求めていたからだろ


 何十年同じ事を繰り返せば気が済む?

 おばさんからは母性愛が欲しかったのか?
 そうだ、欲しかったんだ

 でも、無理な現実を知った


 親父には?

 別にさ、昔の親父はちゃらんぽらんだったけどさ、まだそんな嫌いじゃなかった
 本当に嫌いになり許せなくなったのは、あの女を家に入れてから

 


 もういいよ、どうだってさ

 馬鹿にされようが、俺は作家だ

 

 よくもまあ、これだけネタになるような出来事をもらえた

 おかげでいつ、執筆する時スランプになった?
 まったくなく、最速のスピードでガンガン書けているじゃないかよ

 

 

 去る者追わず、来る者拒まず

 

 もうとっくの昔に去った人たちじゃないか
 何をまだ求める?

 もういいだろ


 あのことわざの本当の意味を知った

 人に求めるな
 そしてこの孤独を実感し、受け入れろ

 

 すっげえ何だか楽になった

 分厚いステーキが食いてえ


 元々肉食なんだ
 だから最近元気がなかった


 うん、まず働いて金を得よう

 そしてうまいものを仲のいい奴と食おうじゃないか

 

 仕事へ行くと、いい人たちばかりで、「岩上さんって全日本にいたんすか?」と色々な人が聞いてきた

 上司で腰の悪そうな人がいたから、昼休みを使って腰の施術をしてあげた
 左足裏まで痛みが走っている完全な坐骨神経痛

 ふふ、得意だろ、こんな症状なんて腐るほど治してきてる


 上司は仕事初日の俺に対し、三回もジュースをご馳走してくれた
 何故かみんな、年上の人まで俺に敬語を使ってくる


 いい職場だなあ

 何だよ、ちょっと外に出ればまだまだいくらだって楽しい事はあるじゃないか

 

 気分のいいまま帰り、俺は一番腐れ縁の友人へ連絡をした


「ああ、俺だ…。今、非常に気分がいい。飯でも行かないか?」

 

 

 うん、そうだ

 俺はこんな自然体でいるのが一番気分がいい

 


 この記事を書いている最中、二回涙が出た

 初めは鶴田師匠が声を俺に掛けてくれた時
 嬉しかったからだ

 二度目は親父を殴った時の事
 多分悲しかったんだろう

 言い方を代えれば、俺は決別の涙を流したのである

 


 自分で嬉しがり、悲しがった文章

 さて、これを読んだ人ってどう思ってくれんだろうな^^


※何だか『鬼畜道~天使の羽を持つ子~』現時点での最終章みたい(笑)


 

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