宇気比は幾通りかの案を紙切れに書き置いて何れに従うべきかを占うものである。彼は決起すべきか否かを伺う為に、この儀式を行おうとしていた。決起に関しては何度かこの宇気比を実践しているが、ことごとく不可とされ終わっている。
この度の宇気比はまさに彼ら敬神党にとって期待の集まる所であった。挙兵の可否を記した紙切れが置かれ静かに拝するとその一つを錫で拾い出し、恭しく手に取って中を拝み見ると震える手でそれを握り締めた。彼は神慮を伺うと再び深く神前に伏し冷やかな本殿を後にした。
隣接する一室では一党の幹部達が詰めており、彼の姿を静かに待ち続けていた。皆本殿の奥からゆっくりと歩いてくる太田黒の姿を認めると視線を落として彼の言葉を待った。彼は幹部達を見回すと一つ息吐いて静かに言い放った。
「此れより我等は神兵となった」
太田黒の声は低く落ち着き払ったものだった。
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