ぼくは同世代の人たちに比べると、恋愛の経験が少ない方だと思っている。
その原因は、ずっとひとりの人を思っていたということにある。
もちろんその間、他の人に目移りをしたことはある。しかし、いつもそのひとりの人に目が戻ってしまう。かといって、別にそのひとりの人と付き合っていたわけではなかったから、いつしか精神はまた旅をすることになる。そしてまた元通り。若い頃は、ずっとこんなことの繰り返しだった。
何がぼくを、その人に縛りつけていたのか?
容姿ではない、生き方でもない、価値観でもない、友だちの延長というものでもない。それは、ある種のインスピレーション、それしか考えられない。
彼女とは、高校1年の時を除いては、会話もほとんどしたことがない。高校2年と3年の時に交わした会話は、「ちょっと退いてくれん?」だけだった。卒業後は、一度電話をしたことがあるくらいだ。そんな中で、彼女一人を思い続けるのだから、よほど強いインスピレーションだったのだろう。
彼女とはそういう仲だった。
だから、手を触ったことすらない。それが良かったのか悪かったのかはわからないが、ぼくの恋というものはプラトニックなものになってしまった。
そのおかげで、ぼくは精神世界で遊ぶことを知ることになり、それが歌や詩という形で表現されていった。その当時の作品というのは、実にインスピレーションに満ちたものだった。全身で音や言葉を受け止めていた。
彼女の結婚を知り、ようやくその呪縛から冷めてから後は、そういうインスピレーションを感じるようなことはなくなった。
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朝の詩