1977年の夏、ぼくは仙人に憧れていた。そのせいだろうか。その頃は毎日麻で出来た白い甚兵衛を着ていたものだ。家にいる時はもちろん、たまに外出する時も、これを着て出ていた。
仙人に憧れたからといって、何も白い甚平を着る必要もないのだが、その時はなぜか白でいたかった。。もしかしたら、ピュアでありたかったからなのかもしれない。
2,
なぜ仙人に憧れたかだが、もちろんその頃老荘にかぶれていたせいもある。が、一番大きな理由は、「仙人」とあだ名されたことがあるからだ。
高校3年の夏休みに、2年時のクラス会をかねて、山にキャンプに行ったことがある。その時、ぼくがあまりに速く歩くので、ある友人から「しんた、お前は仙人か?もうちょっとゆっくり歩け」と文句を言われた。そのことがあって、キャンプ中、ぼくはずっと「仙人」と呼ばれていたのだった。
ぼくはそう呼ばれることが、なぜか嬉しかったのを覚えている。当時まだ進路を決めていなかったこともあり、「高校を卒業したら、山に籠もって、仙人にでもなろうか」などと思ったものだ。
3,
高校卒業後、大学には落ちる、就職も出来ない、アルバイトの面接すら落とされるなど、何をやってもうまくいかない。そういう時、またその思いが頭をもたげてきた。ぼくが老荘を読み出したのも、そのせいである。
「仙人になる」と言っても、ぼくは、仙人になるための方法を知らなかった。また山に籠もる勇気もなかった。その結果、家に籠もることになる。
4,
引きこもりの時期が終わり、積極的に外に出るようになってから後は、「仙人になりたい」などとは思わなくなった。おそらく、社会への恐れが払拭されたからだと思う。
結局「仙人になりたい」というのは、ぼくの現実逃避にすぎなかったのだ。今となっては、白い甚兵衛も着たいとは思わない。
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