伯父は5階建ての社宅群の一角に住んでいた。チンチン電車がその前を走り、社宅以外にもそのクラスのビルがたくさん建っていた。
ぼくの住んでいた地域には当時一つしかなかった信号機が、そこには無数に存在した。市営プールがあり、野球場や陸上競技場やテニスコートがある。近くには大きなスーパーマーケットがあり、アーケード街があり、映画館まであった。ぼくにはとっては、まさに大都会だったのだ。
さて、そこに行って何をやっていたのか。別に外に出て遊んでいたわけではない。家に籠もって本を読んでいたのだ。
そこには従兄弟がいた。3人兄弟で、歳はみなぼくより10歳近く上だった。そのためマンガなどは一切置いてなかったのだが、実に興味深い本がそこにはあった。それは『平凡』や『明星』である。
それらの本で、ぼくは加山雄三を知り、グループサウンズを知ることとなった。付録の歌本を持って、屋上に上り、歌をうたっていたこともある。
伯父の家にはだいたい3日くらい滞在した。最初は1週間の予定で行くのだが、周りが大人ばかりなのでだんだん飽きてくる。
そこで、伯父の家からそう遠くないところで働いていた母に「もう帰る」と言って電話し、夜迎えに来てもらっていた。そして翌日から、再び野球三昧の日々が始まる。ぼくの小学生時代の夏休みというのは、だいたいこんなパターンだった。
ところで、ぼくが伯父の家に行ったと言っても、誰も驚かなかった。なぜなら、そこは『いなか』ではなかったからだ。街に行くことは誰も羨まなかった。やはり『いなか』が憧れだったのだ。
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