「あはは、トモヤとクッキーって、ほんとになかよしなんだね!」
クッキーにベロベロに舐められた顔と目に溢れた涙を、服の袖で擦るように拭きながら、私は再度疑問を口にする。
「あ、あのさ、君は俺のことを、何で知ってるんだい?」
女の子は目をくりくりさせて、私を見ていった。
「そんなの、なんとなくだよ」
「何となく、かあ〜…。えーと、じゃあさ、どこから来たの?」
今度は片手を挙げ、うえを指差して言った。
「あっちのほう」
女の子の指は、玄関の天井を差していた。
「あっち…かあ〜…」
さすがに、これは埒があかない感じだ…。
やっぱり、これってあれなのか?見えない世界みたいな?ずっと前に亡くなったはずの、クッキーと一緒に…???
ヒカルと電話していたことを思い出し、いつのまにか床に落としてしまっていたスマートフォンを手に取った。
画面はもう消えていて、通話が切れてしまったようだ。
急いでリダイヤルをかけようとしたが、ヒカルの番号も、通話の履歴も見当たらない。
「あれ?ヒカルの名前も出てこないな…」
スマートフォンを手に不思議そうにしている私の様子を見ていた女の子は言った。
「あー、ヒカルちゃんは今とってもエネルギー弱くなってるから、電話切れちゃったんだよ」
「…エネルギー?」
「うん。そのかわり、わたしは今、とってもエネルギーいっぱいなんだ!」
そう言いながら、女の子は両手をいっぱいに広げて見せた。
「だから、来たの。ねえ、もう行こうよ、アサダさんち」
女の子は私の袖をつかんで引っ張った。
「ちょ、ちょっと待って、だからさアサダさんちを俺は知らないんだ、行きたくてもすぐに行けないんだよ」
「大丈夫!だからクッキー連れてきたんだよ。トモヤの巡りの糸をたどってさ、縁のあるワンチャンじゃないとダメだからさ、探すの大変だったんだよ」
「は、はい?」
私には女の子が何を言っているのか、さっぱりわからなかった。
「もー、にぶいなートモヤは。いいから、アサダさんの写真とかないの?」
「写真?…あ、あるかもなあ」
アサダさんの写真といえば、あのピクニックに行って撮られた写真が、棚のフォトディスプレイにあったはずだ。写真を撮った時の記憶ほ、私にはまだ無いのだけども…。
「あった!」
私はアサダさんの写真が映されたフォトディスプレイを持って戻り、女の子の前に差し出した。
女の子はそれをひょいと手に取り、クッキーの鼻の前に近づけた。
「おいおい、それ写真だよ。匂い嗅がせてどうするのさ。まさか、これでクッキーに匂いを追わせるなんて、言わないよね?」
私は、この女の子もやっぱ子どもだな、かわいい間違いをするもんだと、微笑ましく思った。
「ちがうよ!磁気を嗅いでるの!匂いなわけないでしょ、おバカなこといわないでよね、あははは!」
思いがけずバカにされて、少しだけ傷ついた…。
そんなことより、磁気を嗅いでいる?何のこっちゃと思いつつ、熱心に写真をクンクンするクッキーの様子を見ていると、すぐに「ワン!」と鳴いて顔を女の子に向けた。
「オッケーだって、さあ、レッツゴー!」
女の子はそそくさと玄関の扉を開けてクッキーといっしょに家から出てしまった。
「あ、ちょっと待って!俺も行くんだよね?」
私はまだパジャマ姿だったことに気が付き、慌てて部屋に戻り適当なズボンに履き替え、上はパジャマのままで上着だけ羽織り、家を飛び出した。
つづく