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潮待小屋

3.11の記憶(1)

(2014年3月11日に書いた記事を再掲します。)


自分自身のために
あの日起きたことを忘れないために
これを記す



<2011年3月11日>

その時、私は都内のビルの20階の会議室にいた。

ドスンという大きな揺れを感じて、会議の参加者は全員、テーブルの下に潜り込んだ。
揺れは次第に大きくなり、長い周期で建物が大きく振れた。
私はテーブルの脚を掴んで必死に踏ん張りながら、このまま建物が「折れて」しまうのではないかと本気で恐怖した。

どのくらいの時間が経っただろうか。
ようやく揺れが収まり、私は自分の職場に戻った。
職場では全員、備品のヘルメットを被り、テレビのニュースに見入っていた。
天井板が一部落下していたが怪我人はおらず、幸い外出中の者もいなかった。
大きな余震がきたときには、全員また机の下に潜った。

家族への連絡はなかなかとれなかった。
携帯がつながらず、私は気が気ではなかった。

そして、テレビに津波のニュースが流れた。
それが現実の事とはにわかに信じられなかった。
皆、言葉もなく、ただ茫然とテレビの画面に見入っていた。

ようやく自宅にいる家族と連絡が取れたのは、夕方になってからだった。
家族にけがはなく、家財の物理的な被害もなかった。
私は取り敢えず一安心した。
後で聞いた話だが、子供は西の空に大きな火柱が上がるのを見たという。
丁度その頃、市原のコンビナートで爆発事故が発生していた。

電車も地下鉄も動いていなかったが、建物の外の通りには、長い長い車の列ができていた。
渋滞して、ほとんど流れていない。
そして歩道には、歩いて帰宅する大勢の人達があふれていた。

私の職場でも、家の近い者は順次歩いて帰宅を始めた。
私を含む長距離通勤者は居残った。
総武線も京葉線も外房線も完全に止まっていて、動き始める様子は全くなかった。
これだけの地震である。当然だろう。

私は泊まり込む覚悟を決めて、外のコンビニで飲み物や食料、雑誌などを買い込み、事務所に残っていた部下に配った。
携帯のバッテリーが心許なかったので、乾電池式の充電器も買った。
これは後々かなり役にたった。

その夜は、とても長く感じた。
テレビのニュースが伝える被災地の惨状。
次々と画面に映し出される信じられない映像。

しかし、これは現実だ。
実際に、今起きていることなのだ。

建物の管理会社は、帰宅困難者の受け入れを始めた。
館内の食堂が深夜の炊き出しを行い、館内に残っている者へ無料で配布してくれた。
私も、まだ暖かいおにぎりを二個貰った。
美味しくて、とても嬉しかった。


<2011年3月12日>

やがて朝になり、鉄道が順次運転を再開した。
私も総武線が運転を再開するという情報を知って、東京駅へ向かった。
都内で一夜を明かした大勢の帰宅困難者で溢れる電車に乗り、ようやく千葉駅に着いた頃には、既に昼近くなっていた。

しかし、外房線は依然動く気配がない。
奥さんにメールすると、車で迎えに行くから京成線でちはら台まで出ろという。
私は奥さんの言う通りにした。

駅に着いてしばらく待っていると、奥さんの運転する車がやってきた。
奥さんいわく、千葉駅周辺の道路は帰宅者を迎えに行く車で大渋滞しているらしい。
なるほど。
私は奥さんの機転に感心した。

車の中には、ここに来るまでに買ってきたというミネラルウォーターが何本も積んであった。
営業しているパン屋さんがあったので、いつもより多めに買い込んで、わが家に帰った。

親族の安否は既に確認されていた。
ご近所にも、特に被害はなかった。

テレビでは、どのチャンネルも震災のニュースを流し続けていた。
津波の映像が、繰り返し繰り返し画面に映し出された。

そして、福島第一原発一号機の水素爆発が起こった。
騒然とするニュース番組のスタジオ。
何が起きたのか、すぐにはわからなかった。
私はテレビの画面を通じて、ただじっと事の成り行きを見守るしかなかった。

私には、差し当たり悩ましい問題が一つあった。
月曜日、大阪で大事な仕事があり、日曜日に移動する予定でいたのである。

インターネットでJRのホームページを確認したところ、新幹線の運転を見合わせるという情報はなかった。
外房線も、本数は少ないながらも、運転を再開していた。
家の事は大丈夫だと奥さんが言ってくれたので、私は出張の準備をして、床に就いた。

(続く)


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