スポイチ編集長日誌

最近はGTAオンラインの攻略ばっかりです。
日付そのままで修正・追記したりします。

YOU!もっと上を目指しちゃいなYO!

2008年05月26日 | その他
池田信夫氏のブログで、IT業界関係者らによる激しいやりとりが起きているぞー。

人材鎖国――池田信夫 blog
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/10190e3f2f75d1e34365df52db1a3a0e

(コメント数がものすごく多いので注意)

(おそらく)上流工程に居る人と、最下流の工程に居る人が、それぞれの立場から足を止めて応酬し合うのって、池田氏の、いや普通のブログでも珍しいんじゃないだろうか。

コメント者の素性はあくまで自己申告によるものだから、本当にIT業界の関係者なのかは分からないが、あくまで「どういう立場から見た主張なのか」が重要で意味があるので、本当にそうなのかはいったん保留しておいても影響ないだろう。

上から順に読んでいったときに、まず「技術力」という言葉の定義がコメント者によってなんかずれているな、と思った。
「効率よく早く仕事を上げる能力」というほどの意味(だから技術力が上がると余計に仕事を振られることになるので時間当たり単価が下がる=収入が減る?この辺よくわからん)で使っている下流の人と、
「新しい技術について勉強して身につけた力(だからそれですぐ収入が増えるという保障はない)」という意味で使っている上流の人がいて、どちらもその結果として起こることについては理解できるんだけど、これではいずれ論点がズレて噛み合わなくなるだろうなって、最初から思ってました!って佐藤藍子か。


この論争から見えてくることがいくつかあって、

1.上流と下流との間のコミュニケーションの断絶
2.下流工程では生産性を上げても利潤は目に見えて増加しない
3.状況と立場(規模)によって打てる戦略は異なる
4.「下流の下請けは無能」「無能だから下請けをやっている」という上流から見た”常識”
5.相手を慮りつつ自分の置かれている状況を理解してもらうための工夫


等が挙げられる。
これらはIT業界以外にも言えそうなことが含まれていそうだ。

1.上流と下流との間のコミュニケーションの断絶
については、もはや「糸電話」というより、背中に文字を書いて伝達していく「伝言ゲーム」に近いレベルの、上下工程間のどうしようもないコミュニケーションの断絶というのは、程度の差はあれど、どこの業界にもあることなんじゃないかと思う。
上流に居る人が聞いたらまったく信じられない(あるいは意識もしてない)だろうけど、伝えるべき情報をギリギリまで下流工程に渡さない(あるいは最後まで渡さない)上流・中流工程の人間って、実際に居る。
おかげで仕様(要求)の変更や追加が下流まで伝わらないか、期限ギリギリになってからの伝達という状況が頻発し、そのことが下流工程の人間にとっては大きな不満とストレスの原因になっていることに上流工程は気づかないか、そもそも知らないし意識もしてない。
だから下流工程では、納期に間に合わせるには、上流工程が何を求めているかをほとんど経験とカンに頼った予想で準備しておくしかなく、下流工程のコメント者が「エスパー的に連想能力を高め」ていると言っているのはおそらくそのことかなと。「おいおい、そんなんで仕事が回るわけねーだろ!」と常識的には考えてしまうが、最下流工程だとそんな感じだったかなあ。


2.下流工程では生産性を上げても利潤は目に見えて増加しない
矛盾しているように見えるが、下流工程では生産性を上げないほうがいい、という場合がある。
なぜかというと、「あいつら(下流工程)は早く仕事を終わらせることが出来る」ということを親会社が認識してしまうと、さらに納期が短縮される、という悪循環が発生する。
「あそこは24時間あれば仕上げてくるから、じゃあ納期まできっかり24時間前になるまで渡さないで放置しといてもいいや」、みたいなことが起こる。
そういう破滅的なスパイラルを防ぐために、だらだらとある程度の時間をかけて仕事をしないと、親会社からはさらに短い時間で仕事を終わらせることを要求されたり、時間余ってるだろとさらに他で行き詰った余分な仕事も回されることになる。一方社員も残業代を稼げなくなる、などの事情があって、だから「技術力を上げたり、工夫して仕事して生産性を上げると、かえって損をする」というメチャクチャな実態がある。
この辺のことも、上流工程ではWEとか成果主義的な賃金体系だろうから、上流の人が見たらほとんど「どこの星の話だよ!?」状態で理解不能ではないかと。


3.状況と立場(規模)によって打てる戦略は異なる
というのは、コメントでもあったように、下流の人に対して、気軽に

「YOU!思い切って裁判しちゃいなYO!」

ということを言うのは、上流の人にとっては現実的で有効な手段の一つであったとしても、最下流の人間にとってはそうではない、ということ。
もし最下流の下請け業者が裁判に訴え出たら、即仕事をホされる口実を与えるようなものだし、仮に勝訴したとしても、裁判の間の食い扶持の確保や、その後の仕事の保障など無い。
だから「とにかく裁判」という手段は、もはや下流の人にとってはリアリティーのある方法ではなくなってしまっている。

だけど、そういうアドバイスをくれた人に対して「そんなの青臭い書生論だ」みたいなことを言っちゃったら、余計な反発を招くだけだ。(この辺は5.に関連する)

あと、「じゃあ、そんなクズな親会社は自分から切っちゃえよ」、というアドバイスもあったけど、下請けの立場に居る会社の経営者って、酷い親会社の下請けの地位に甘んじていても、現にそれなりに会社が存続出来ちゃっているわけだし、実際に親会社を切ったとして、次の取引先か親会社を探すまでの、その間の会社の経営をどうするのか、あるいは「元の親会社が報復として業界から干す」ということを仕掛けてくるのではないかとか、そういう配慮があって、そこから踏み切れていないんではないか。
まあ、そういう優柔不断というか逡巡を指して「決断力が無い」「要は、勇気がないんでしょ」(オイ)という批判も出来るだろうけど。

いっそ、この下流のコメント者が下請けの単なる一社員だったなら、話はずーっと簡単だったかもしれない。だって、構造的に収益の上がらないような会社からはとっととトンズラして、自分の「能力」をアピールしてもっと上を目指せばいいのだから。
どちらかと言うと保守的な業界に身を置いてた俺でさえそうしたんだから、IT業界のほうが、まだまだそういう形でのクラスチェンジが全然やりやすいんじゃないのかなあ。


「鶏口となるも牛後となるなかれ」

保守的な業界の日本企業で働く限り、この諺はになる。
だって、鶏は牛のケツに潰されないように、常に右往左往しなければならないのだから。
そもそも、「鶏口」になるつもりが、いつの間にか「鶏後」になってしまっていることも多い。
特に、「鶏口」の面々に同じ姓が並んでいるような”老鶏”は避けたほうが無難だ。

特に、業界そのものが斜陽産業の場合では、全体のパイは縮小していく一方。
親会社からはコストカットと単価切り下げの要求(事実上の決定通知)ばかりで、仕事をすればするほど赤字になるという末期的状況。
もともと業界の収益構造が搾取的で、親会社は下請けの社員のことを「無能で、置き換え可・使い捨て可」の道具程度にしか見ていない。

そういう状況であるにもかかわらず、下請け会社の経営者は状況に甘んじて、現状からの思い切った転換をせずに、社員の給与水準の引き下げや、場当たり的なリストラでしのごうとする。
親会社の要求に対しても何も言えず、そういう対応策しか出来ない経営者は、悪いけどバカで無能だと思われても仕方が無い。
それはどう転んでもデッドエンドだから、権限の無い社員は逃げ出すよ。


4.「下流の下請けは能力が低い」「無能だから下請けをやっている」という上流から見た”常識”
「上流の人」の意見には、「下流の人間」をどう見ているか、が言葉の端々に表れていて興味深い。
やっぱり一般的には上流の人間からは、下請けの地位に甘んじているような人は、その下請けの経営者も社員も、「能力が無いから下請けをやっているんだ」と思われてしまう。
「それならば」と実力を証明しようにも、そもそも下請けにはそんな能力を証明できるような仕事は回ってこないことも多い。
それに、いくら自分で自分の能力を買っていても、他の人は所属や肩書きで判断するということだ。

下流のコメント者は「馬鹿社長を演じている」と書いてるけど、そもそも「演じている」なんてのは誰にも分からないから、親会社からは本当のバカだと思われてる可能性が高い。いや、親会社だけじゃなくて、周囲の同業他社や、それどころか社員からも、「まともな契約で仕事を取ることも出来ない、親会社の言いなりになっているだけの無能経営者」と見られているかもしれないし、そのおそれは強いんじゃないかな。
だいたい、「泥棒を防げないのならば、盗むものが無い状態にせねばならないのです」って、それじゃ泥棒以外の企業からも「何も無いしょうもない会社プギャー」だと思われてしまうんじゃ…。


5.相手を慮りつつ自分の置かれている状況を理解してもらうための工夫
というのは、例えばその業界の黎明期からその発展と改善に取り組んできて実績もある人が、まるで業界全体が犯罪集団で詐欺行為をやっているかのような極端な主張を目にしたとしたら、カチンと来るのは当たり前ではないだろうか、ということ。
で、その人は、そういう”主張”をする人の意見に対しては、以後心の中でバイアスをかけてしまうのではないのだろうかということ。
つまり、話を聞いてくれたかもしれない人を、”意固地な敵”に追いやってしまうという点で、よいやり方とは言えない。
もっとも、最初から開戦する気でいるなら話は別だが…。
せっかく、両者の立場からの物の見方とかが披露されてるのに、途中から「現実を分かってないおまえは学生(ひきこもり)だろ!?」みたい煽り合いになっちゃうのは実にもったいない。
でも「貴方はデスマの現場に呼ばれても弁当やジュースを買いに行くパシリとして使われていた可能性が高いです。」はワロタ。

また、「99.9%のピンハネ」という表現が一人歩きしているが、もののたとえだとしても、すぐに根拠を出せないセンセーショナルな表現を使うべきではないと思う。

あと、「いろいろ精神的に追い込まれている人」に顕著な特徴として、自分の置かれた立場と正当性を伝えようとするときに、ただ起きている事実を淡々と伝えて相手に判断を任せればいいものを、
「これは間違いありません!」
「現実なんです!」
「証拠はあります!」
みたいなことを連呼しながら、「自分がいかに正しい被害者であるか」を強調する人が居る。
だけど、こういう表現を多用する人に対しては、それを聞く側、特に権限と責任を持っていて経験豊富な人が聞き手である場合には、彼らは途端に一歩引いてしまい、しかも眉に唾を塗り塗りされてしまうおそれが強い。
つまり説得力が無くなってしまう。
「精神的に追い込まれてるんだから仕方ない」という見方もあるだろうけど、言い方一つでみすみす説得力を失うのはもったいないと思う。


…って、下流工程のコメント者が、

「私個人の脱出法をネットで公開する愚かな真似はしません」

とか書いたもんだから、みんなでヽ(冫、)ノズコーってなってるクサイぞボエー!

もしかして週末をまるまる使ったウィークエンドフィッシングだったのか?

でも、俺のNT能力がキュピーンと断ずるに、このコメント者は「具体的な脱出法は考えてない」と思う。たぶん。
考えてたらとっくに実行に移してるだろうし、また、最下流工程に居ると、日々の破滅的な業務に追われた挙句にどんどんマイナスの思念に支配されてしまい、具体的で建設的なソリューションのことになんか頭が回らなくなる場合が多い。

他の人のコメントにもあるように、少し休むか、環境を変えたほうがよいと思う。


2 コメント

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Unknown (spoichi)
2008-05-26 23:31:45
こんにちは。

日本の雇用のあり方はどんどん変わっていくと思います。
TGBさんの言われた通り、中国人インド人その他外国人が技術者として日本にやって来たり、逆に日本人が労働者として海外へ出かけていったり、それが身の回りでごくごく当たり前の光景になる、そういう時代が遅かれ早かれ必ずやって来るでしょう。
そして、その大波を最初にかぶるのは現在の下流工程に居る会社や社員になります。

そうした時代の変化を前にして、仕事を「振られる」「投げられる」という受け身の立場でいると、考え方も受け身になってしまうので、思い切って環境を変えてしまうのも一つの手です。
視点が変われば、今まで見えなかったものが見えてくることがあります。
ですが、その間とその後の保障は誰にも出来ませんから、たとえ今酷い状態であっても動けずにそのまま耐えている、そういう行動を採っている人が結果として貧乏くじを引いている…、という状況だと思います。

躊躇している間にも状況は変化していきますし、「法律」を作るとか政府が対策をするとかしようとする間にもどんどん時間は流れていきます。つまり、必ずタイムラグが発生します。
上で挙げた変化は、将来必ずやって来る大地震のようなもので、政府だのの対応を待つ前に、一企業や個人レベルでも対策できることはあるはずです。

老朽化したアパートに住みながら「政府は大地震に備えて耐震基準を強化しろ」と主張するような行動に出ること自体は否定しませんが、あまり現実的に意味のある行為ではないですし、実際に耐震基準が強化された暁には、その人は立ち退きさせられてしまう、ということもありえます。
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Unknown (TGB)
2008-05-26 18:55:27
こんにちは

あの下流工程の人が言っていた「現実に起こってること」は多分本当の事なんでしょうけど、
我々にはどうしようもないですね
IT関係の仕事をしてる人のいろんな話を聞いてると、本当にひどい状態のようです
しかしながら、さっさと転職しろとしか言い様がない

この歪みを正すには、日本の雇用のあり方を変えるしかない
そしてそれは不可能のようです

あとは中国人インド人技術者が日本のITを支えてくれる事でしょう
「上流工程」の人たちもそれを望んでるはずですよ…
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